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「サーキュラー・バイオ・エコノミー」って何?“wild”へといざなうオンラインイベントに参加してサーキュラーとはなにか考えた。

新型コロナウイルスの影響もあり、多くのイベントがオンラインに移行している昨今ですが、ちょっと興味を引く、そしてgreenz.jpの読者にもきっとためになるイベントがあったので参加してみました。

イベントの名前は「into the Wild, turn to Life ~ 暮らしとつながる生態系 ~」で、そのテーマは「サーキュラー・バイオ・エコノミー」です。

「サーキュラー・エコノミー」なら最近耳にすることが多いという方も多いかもしれませんが、「バイオ」が入るとはどういうことでしょうか。イベントを主催する「めぐりわ」のきらさんの説明によると、

きらさん 持続可能な経済という意味の「サーキュラー・エコノミー」に生物圏に負担をかけないという意味の「バイオ」を加えたもので、日本語では「循環型共生経済」です。

とのことです。簡単に言えば経済からこぼれ落ちがちな自然も持続可能にしていこうということでしょうか。これだけではわかりませんが、イベントは今回限りではなく、月に1回のペースで行っていく予定だそうなので、それを通して理解が深まっていくということだと思います。

実践者の葛藤に焦点を当てる

さて、10月29日に開催された第1回目のゲストは旅する料理人の三上奈緒さんと食器ソムリエの山本美代さん。どんな方なのか、ご自身の自己紹介を抜粋させていただきます。

三上さん 生産者さんを訪ねて歩いて、食材を集めて現地で食事会を開催するという活動をしています。なぜやっているかというと、地元の人ほどよさに気づいていなくて、よそ者である私が入ることで気づきを与え、誇らしいと思ってくれる場をつくりたいんです。

山本さん 「食器ソムリエ」として、ホテルやレストランに食器をスタイリングしたり納品する仕事をしています。また、サステイナブルなライフスタイルブランド「MiYO-organic-」を立ち上げ、竹歯ブラシ、竹綿棒など日用品に環境負荷の少ない選択肢をご提供できるような取り組みをしています。

今回のイベントに興味を持ったのは、企画者の一人でイベントの聞き手の一人でもあるアーヤ藍さんから「何かアクションを起こそうと思った時にぶつかりやすいモヤモヤについてや、実践を重ねてきた人が、今まさに直面している葛藤の部分にもスポットを当てたい」と聞いたところからでした。

サーキュラーやサステナブルと名のつくイベントは多くありますが、活動が軌道にのっている成功事例を紹介するものが多いです。もちろん挫折を経験しどう乗り越えたのかのエピソードはありますが、現状での葛藤を共有するというのはあまりないかもしれません。

その「葛藤」の話を聞くことで参加者が自分と結びつけて考えることができ、学びを得られるのではないかと思ったのです。実際に参加してみて、学びを得ることができたので、それをみなさんとぜひ共有していきます。

あなたにとっての「サーキュラー」とは?

ようやくイベントの内容の紹介に入りますが、イベントの最初に「あなたのことばで『サーキュラー』とは何でしょうか?」というお題が出され、考える時間が1分間与えられたのが印象的でした。

私がここで思ったのは、自然の循環であり、その中にいる人間のことでした。言葉にすると「自然の一部である人間の役割」でしょうか。

参加者の考えは特に共有されることはなく、果たしてこれが1時間半後に変わっているのかどうなのか、それぞれが楽しみにしながらイベントに参加することができました。

最初のお題は、イベントのタイトルにもある「Into the Wild」、自然やサーキュラーの活動に向き合い始めたきっかけは? というもの。

三上さんはファーマーズマーケットにボランティアとして参加したことをきっかけに、自分が心からいいと思える農家さんのことを多くの人に知ってもらいたいと思うようになったこと。山本さんはお母様が始めた店舗プロデュースという家業を通じて素材やものづくりに関心を持つようになったこと。

おふたりとも自身の感覚を起点に自然との新しい関係を結ぼうとする活動を始めたという共通点があるように感じました。

そうしたきっかけで、それぞれ料理と食器という切り口から、自然への愛情を思い出してもらったり、より地球に優しい選択をしてもらう活動をしているわけですが、活動を広げていくには、届けようとする相手に、それまで選んでいたものや価値観から、新しいものへ「常識」を転換してもらうことが必要になります。お二人はどのように、意識の変化を引き出しているのでしょうか。

三上さん 感動したり心が動くのが一番人を変えます。私の場合は「食べて美味しい」というのが一番。私のつくった料理を「美味しい」と思ってもらえたら、そこから、こういう農家さんがつくっているからとか、すぐそこで取れたものを食べているからとか、みんなで楽しく食卓を囲んでいるからとか、どうして美味しいかを伝えます。そうすると五感で感じたことから気づきを得ることができるんです。

山本さん 1つはマーケットの視点を入れること、2つ目はプロダクトとしていいということ、そして3つ目は日常の中の当たり前のことを視点を変えてみてもらうキッカケを作る事かと思います。例えば、歯ブラシは毎日使う生活の中での当たり前の存在ですが、年間約36億本ゴミになっているという事実を知る事で、その歯ブラシが地球とつながっているということを感じてもらえたらと。

という感じでした。

ここでのお二人の共通点は「自分」が起点になって、周りの人たちに気づいてもらおうとしていることではないでしょうか。これはある意味で、自分の目指す「サーキュラー」を実現するために周囲を巻き込むことでもあるのかもしれません。

私はここで「巻き込む」ということに「サーキュラーとはなにか」という問いのヒントが有るように思いました。

価値観の衝突からやるべきことに気づく

周囲に気づいてもらって巻き込むことが大事とはいえ、もちろん他人のことですから、思うようにならないことのほうが多いものです。だからこその「モヤモヤ」は誰もが感じることではないでしょうか。

三上さんと山本さんのお二人も活動する中でモヤモヤを抱え、葛藤しながら活動をしています。

三上さん ファーマーズマーケットでお手伝いしていたとき、これはオーガニックですかと聞いてくるお客さんがいて、「減農薬です」と答えるとぱっと去っていってしまう、ということが結構ありました。

もちろん農薬を使わないに越したことはないですが、使わざるを得ない場合もある。なぜその方法を取らざるを得なかったのかというところまで見ずに、表面だけで仕分けしてしまうのはもったいないと思うんです。

例えば私が大好きな宇和島のみかん農家さんがいるのですが、彼の家は代々農薬を使ってきました。でも彼はそれに疑問をもって、無農薬で育てることにも挑戦しはじめたり、ビニールハウス栽培が2〜3年で全部ビニールがごみになるため、やめようともしていますし、地域を盛り上げる活動にも取り組んでいます。

ものを買うときに無農薬だとかオーガニックといった言葉だけで判断しないで、その人のストーリーを知ってほしい、有機栽培だからといって、有機肥料をたくさん入れすぎていたら、それはそれで問題ですし。だから私はストーリーをちゃんと伝えられる人になりたいんです。

山本さん 私は奈緒さんと逆に生産者、工場とのやり取りでモヤモヤを感じることもあります。例えば、竹の歯ブラシは自然素材なので不良率が高いし、パッケージも紙なので機械で包装できないんです。でもそれもとても理解できます。

その上で、それでもやる意義があるんだということを理解してもらうには「これだけ売れるはず」という話をしないと通じなかったりして、モヤモヤしますね。

三上さん 農業や漁業の現場でも、従来の価値観や柔軟性に乏しい考え方が壁になることがあります。上の世代でも理解のある素晴らしい方もたくさんいらっしゃるので、どうしたら理解者を増やしていけるのかはいつも考えているところではあります。

三上さんがモヤモヤしている、「表面的な言葉だけで判断されてしまうこと」と、山本さんのモヤモヤポイントである、「従来の価値観や柔軟性に乏しい考え方」の壁…。そこに存在するのは「価値観の衝突」です。

そして、サーキュラー・バイオ・エコノミーを目指すというときにその従来の価値観が障害になるのは確かです。しかし、異なる価値観の人たちとも共存していかなければ本当にサステナブルな社会とは言えないのもまた事実です。そこで必要となってくるのが、前に進むために必要な「妥協」ではないでしょうか。

お二人は、どこまでは妥協し、どこからは“譲らない”のか。お二人の判断基準を聞いてみると、

三上さん 農薬の話でいえば使わないに越したことはないですが、私の判断基準は私利私欲だけを考えていない人、農薬を使うことで環境に負荷をかけることをわかってる人、かつ生活や営みが自然に寄り添っている人や、地域のコミュニティのことや食の未来までちゃんと見据えている人。自分たちも自然環境の一員であって地球に住む仲間であるという広い視点、謙虚な視点がある人は尊重します。

山本さん 私は現状から見てマッチベターな選択肢ならいいと思っています。竹の歯ブラシも毛はナイロンなんです。それは価格を抑えるため。生活者の選択肢になる価格にするためにナイロンを使いました。でも、すべてがプラスチックの現状からしたら大きな一歩ですよね。

三上さん 100%を求めようとすると自分で首を絞めてそれが苦しくなってやりたくなくなってしまいますからね。自分が今日からでもできるいいことを少しずつやっていけば良くて、毎日ペットボトル飲んでいた人がマイボトルを持つだけでもいい。本当に小さなことかもしれないけれど、自分ができるところからやるっていうのは大切ですよね。

人との関わり方と自然との関わり方

お二人がいちばんもやもやを感じるのは「話が通じない」コミュニケーションの部分、特に上の世代に対してそれを感じているようです。そこを歩み寄り、妥協もするけれど、やはり最後までわかりあえないこともあるのです。

三上さんはその時に「子どもたちにエネルギーを使う」と言っていました。同じエネルギーを使うなら将来を担う子どもたちのために使うほうがいい。それもうなずける考え方です。

さらに、サーキュラー・バイオ・エコノミーを考える上では自然という要素も重要で、お二人が自然と人間の関係について話した中にも価値観の衝突を乗り越えるヒントがあると感じました。

お二人とも、「日本の場合は人がある程度、山に入って自然に手を入れることで災害を防ぐことができるから、介入しなさすぎるのも良くない」という話をしていました。三上さんは「食べるという行為からもわかるように、生きるためにはどんな生き物もある程度自然を傷つけないと生きていけない。だからトータルでのバランスを見ることが共生につながるんじゃないか」と言っていました。

大きな自然であれ、人間社会という小さなものであれ、その中ではそれぞれがお互いを少しずつ犠牲にしながら、それでも自分がやるべきことをやる、それが重要なのです。

このあと、今回のイベントを経て、サーキュラーについての認識が変わったか考える時間が1分間与えられました。

私はここで、人間が自然の一部であるというだけでなく、自然の循環を回す役目を負ってもいるのだということを思いました。人間一人一人がどのように振る舞うかで自然の循環の有り様が変わる。だからサーキュラーとは「循環する」ことではなく「循環させる」ことだと考えたのです。

だからよりバランスの取れた循環が実現できるようにまずは自分ができることをして、次に周りの人たちを巻き込んで行く、それがやるべきことなのだろうと思ったのです。

そんなことを思っていたら、最後に三上さんがこんな発言をしました。

三上さん 私の考えは体験から出てくるもの。私は、体験こそすべてだと思っていて、今の人たちに圧倒的に足りないのが体験。オンラインで話を聞くのも大事ですが、自分を野に放ってほしい。本当にInto the Wildして、体験として身を持って感じてもらえたらいいなと思いました。

本当に体験を増やしていくことで想像力の及ぶ範囲も広がりますし、自然の調和とはどのようなものなのかも五感で感じることができます。体験して、想像して、巻き込んで、進んでいく。それが大事なのだとこのイベントを通して実感しました。

はたして何をやるかはこれからの課題ですが、とりあえず何でもいいんだという気づきも得たので、よかったです。

サーキュラーやサステナブルにモヤモヤを抱えている方はぜひ、モヤモヤを共有できる場を探して飛び込んでみてください。きっと何かヒントが得られるはずです。

– INFORMATION –

特別トークライブ 「 Into the Wild ~ 暮らしとつながる生態系 ~ vol.2 “生き物”と”食べ物”の境界とは」 | Meguriwa(めぐりわ)


▼日時
2021年1月19日(火) 18:30-20:00
▼スピーカー
話し手—– 内澤旬子 さん (文筆家、イラストレーター)
話し手—– 大森圭 さん (株式会社ダイスイ 代表 )
聞き手—– アーヤ藍 さん
聞き手—– kira ryo さん (JCBE 共同代表理事)
ファシリテーター —– 古澤 恵太さん(株式会社仕立屋と職人 参謀)
▼参加費
オンライン参加-無料 (出演者への質問や交流もできます)
オンライン参加-ご支援(¥1,000)

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▼詳細・申し込み
http://ptix.at/MMo48Y