つくっては いけなかったのかな」
きみは「かみさま」って
つくれるとおもう?
え? そんなの つくれっこないって?
そうだよね。でも にんげんは
かみさまみたいな ちからがほしくて
あるものを つくりあげたんだ。
あのひのことは よくおぼえてる。
ぼくのすむ ちいさなむらに
とおくのまちから おうさまが
ぎょうれつ したがえ やってきた。
ながい れつの さいごには
みたこともない おおきないきもの。
あるくたんびに じめんがゆれる。
からだを ぶるんっと ふるわせて
いきものは ぼくを みおろした。
なんって きれいなんだろう!
おうさまは えへんとひとつ せきばらい。
「しょくん! この『ひかりのりゅう』は がいこくの すごいはかせが はつめいした まほうのいきもの。
とくべつないしを たべると
なないろのひかりを はきだす。
そのひかりが あれば
くらいよるは ひるのように あかるく
さむいふゆも はるのように あたたかく
こうじょうは たくさんのものを
うみだすじゃろう。
このくには もっと ゆたかに なるぞ。 しょくん! このりゅうこそ かみさまじゃ!」
さっそく むらのはずれのおかに
りゅうのこやが たてられた。
まいにち まいにち たくさんのひとが
ひかりを もらいにやってきた。
まいにち まいにち たくさんのトロッコが
りゅうのはきだす なないろのひかりを
まちへ はこんでいった。
むらは たちまち にぎやかになった。
「なないろのひかりの おかげで
むらは あかるく なったねえ。
よるでも はりしごとが はかどるよ」
ぼくの おばあちゃんは にっこにこ。
「ああ いそがしい いそがしい。 りゅうのおかげで しごとが ふえたぞ!」
パパも はずんだこえで いう。
「うちじゅう いつも ポカポカで まきわりしなくても こりゃ ええのう」
きんじょの おじいさんも うれしそう。
ぼくは りゅうが だいすきで
まいにち おかに はしったよ。
なないろにかがやく りゅうのこやで
せなかに よじのぼって うたをうたうと
じかんがたつのも わすれちゃう。
きみは ほんとうに かみさまなの?
すごいや!
りゅうは ぼくをみて
たしかに わらった。
あるひ むらに うわさがながれた。
はるかにとおい がいこくで
ひかりのりゅうが あばれだし
たくさんのひとが にげだしたって。
「ほんとうは おそろしい いきものなんだ!
いますぐ りゅうを むらから おいだせ!」
「なにをいう。りゅうを おいだしたら くらくてさむいくらしに ぎゃくもど りだぞ!」
いる! いらない!
いる! いらない!
むらびとたちは ケンカばかり。
パパ ぼくわからないよ。
りゅうは かみさまじゃないの?
パパは いった。
「ひとがつくるものに かんぺきなものなんて ないのかな」
ぼくは だんだん
りゅうのこやに いかなくなった。
あるひ くるしそうな うなりごえが
りゅうのおかから きこえてきた。
ぼくは あわてて こやに はしった。
「おうさまの めいれいだ。
もっと えさを くわせろ」
だいじんが さけんでる。
「もっと もっと ひかりを はくんだ!」
しょうにんが おなかをけった。
おうさまは ごきげんだ。
「いいぞ いいぞ。 もっと ゆたかに もっともっと つよく。
これなら よそのくににも まけないぞ」
ぼくは こわくなって おかを かけおりた。
そのよる
むらに おおきなあらしが やってきた。
バリバリバリバリ どーん!
ものすごいおとで じめんが ゆれる。
かみなりが りゅうのこやに おちたんだ!
いえからとびだした ぼくが みたのは
くるしがって あばれる りゅうのすがた。
りゅうのおなかが はれつして
あふれるどくが むらを のみこんでいく。
ひかりのりゅうは みっかみばん あばれつづけ
やがて うなりごえをあげると うごかなくなった。
りゅうのどくは だいちに ひろがり
ぼくたちは べつのむらに
ひっこさなくちゃ ならなくなった。
「りゅうが あんなにきけんな いきものだったなんて!」
「われわれを だましたな!」
「もとのくらしを かえして!」
まちのひとたちは おこっている。
いままでの ゆたかなくらしを わすれて。
いままでの ゆたかなくらしが わすれられなくて。
ひかりで いっぱいだった このくには
かなしみで いっぱいの くにになった。
どうして こんなことに なったんだろう?
ひかりに めがくらんだ おうさまのせい?
めいれいにしたがった だいじんと しょうにん?
それとも もっともっとと ひかりをほしがった みんなのせい?
パパが いった。
「ひとが あつかいきれないものなんて
つくっては いけなかったのかな」
そのとき おばあちゃんが ぽつりといったんだ。
「ひかりのりゅうには かわいそうなことをしたねえ」
ぼくは たのしかった あのひを おもいだした。
やさしく ぼくをみた りゅうのめを おもいだした。
「そうだ りゅうのために おはかをつくろう」
ぼくは りゅうのおかが みえる やまのうえに ちいさなおはかを つくった。
そこで うたったよ おわかれのうたを。
「いままで ありがとう さようなら」
りゅうが てんごくで やすめるように。
もう もどってこなくても いいように。
ぼくのうたごえ とどいてる?
それから しばらくたって
また おうさまが やってきた。
こんどは ちいさな あかいりゅうを つれて。
「しょくん! あたらしいのを つくったぞ!
あかいひかりを はきだす まほうのりゅうじゃ。
こんどこそ ぜったいあんぜん。
なあに まんがいち あばれるとしても
このまえよりも がんじょうなおりを つくればいい。
こんどこそ ぜったいに つよいくにになる。
ぜったいに ぜったいにじゃ」
ほんとうかな? ほんとうに そうなのかな? ぜったいなんて あるのかな?
あれから なんねん たったろう。
ぼくは いまでも りゅうのおかが みえるばしょに すんでいる。
ここからは まちのあかりも とってもよく みえる。
かみさまは もう どこにも いないから
ぼくは かわりに うたを うたうんだ。
じぶんで つくった あたらしいうた。
あとがき
東日本大震災に続いて起きた福島の原発事故は、私たちにたいへんな不安と混乱をまねきました。この国の未来を考えるとき、大人は「原発推進」か「脱原発」か、あるいは「判断保留」や「無関心」か、というそれぞれの考え方や立場を、多少なりとも意識せずにはいられなくなっています。
一方、未来を託される子どもたちは、どうでしょう。このとても難しい問題を、私たちは時間をかけて子どもたちと考えていかなくてはなりません。この絵本が、ともに考えるきっかけのひとつとなれば幸いです。
これからの日本へ、希望をこめて。
この絵本の印税の一部を、被災地の子どもたちの健康を願って「東日本大震災復興支援財団」に寄付いたします。
1981年神奈川生まれ。イラストレーター・絵本作家。2011年「鎌倉・文具と雑貨の店コトリ」をオープン。オリジナル商品のデザインなどを手がける。主な作品は、2012年、電子絵本「マルコとちいさな兄弟」、2014年「ひかりのりゅう」(絵本塾出版)、2016年「かめんやさん」(文芸社)
作家。1985年東京生まれ。慶応義塾大学文学部フランス文学専攻卒。学生時代、留学、世界一周に旅立ち22カ国を巡る。卒業後、無職の期間を経て13年春からWebや雑誌を中心にフリーライターとして活動開始。徐々にコラムやエッセイに執筆の域を広げる。2011年、福島の事故をきっかけに原発の歴史と科学技術の未来を考える絵本を出したいと「原発絵本プロジェクト」を立ち上げ、クラウドファンディングを開始。電子版を出版後、大幅に加筆・修正した本作『ひかりのりゅう』を絵本塾出版より出版した。
著書に『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのがおもしろくなった』(幻冬舎)、『人生に疲れたらスペイン巡礼~飲み、食べ、歩く800キロの旅~』(光文社)、銭湯を舞台にした青春群像劇『メゾン刻の湯』(ポプラ社)月に1回、創作文章ワークショップ「身体を使って書くクリエイティブ・ライティング講座」を開催している。
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