日々の生活の中で、「こんな商品あったらなあ」とか「このサービスいまいちだなあ」なんて思うこと、たまにありますよね。そうした思いは、いつの間にか忘れられてしまったり、SNSで投稿されたり、ときにはクレームになったりして消えてしまいがちです。
ひょっとしたら社会を変える動きにつながるかもしれない小さな心の声を、アイデアとして生かしたい。そんな思いでつくられたのが、共創プラットフォーム「Blabo!(ブラボ)」です。
生活者の声を聞かないモノが、生活者を幸せにできるのか?
「Blabo!」のサイトやアプリをのぞいてみると、さまざまな商品やサービスについてのワクワクする「お題」がたくさん並んでいます。ログインして気になるお題をクリックすると、そこではいろんな人が思い思いに発言しています。実はこのやりとりはネット上の「企画会議」のようなもので、ここで出たアイデアや感想は、実際に新しい商品やサービスが生まれるときに役立てられるのです。
いまBlabo!のユーザー(参加者)は、なんと25,000人を超えます。生活者が「本当にほしい」と思う商品やサービスを生み出す日本最大の共創プラットフォーム「Blabo!」のCEO・坂田直樹さんにお話をうかがいました。
坂田さんの前職は、ユニリーバのマーケティング担当。刺激的な仕事でしたが、いつしかモヤモヤが募るようになっていったそうです。暮らしに身近な商品を扱っているのに、会社にいると普通の生活者に会う機会ほとんどない。お客さんが何を思っているのか分からないまま調査をして、商品をつくって、CMを流して…そんな一方通行のような仕事をずっと繰り返す日々。そのうちに、自分たちが世に送り出している商品は、生活者が望むこととズレているんじゃないか、という気持ちが大きくなっていったのです。
人間関係といっしょで、普通に直接話せば解決するようなことが、企業と生活者では難しくなっているんですよね。インターネットが身近になって、日本全国の人が好きなときに好きなように話せるようになったじゃないですか。その感覚を、商品やサービスの開発に生かせるんじゃないかと思ったんです。
そんな思いで生まれた「Blabo!」は、いわばドアが開かれた企画会議。普通の人がふらっとテーブルについてつぶやいた一言で、「新しい商品の生みの親」になってしまうのです。しかも、ただアイデアを出し合う場であるだけではありません。「Blabo!」が大事にしているのは「アイデアを最後までカタチにする」こと。
Blabo!はよくあるアイデア募集サイトではなくて、本物の企画会議なんです。必ず商品やサービスのつくり手がいて、願いや悩みを持った生活者がいるというところからプロジェクトが始まっています。ちゃんとカタチになって、経済的なインパクトをもたらす。そうした循環を大切にしています。
こうした仕組みがあることで、企業や行政としては生活者のニーズに合った商品やサービスを世に送り出すことができ、生活者としては自分たちが本当にほしかった暮らしを実現することができるのです。
「モヤモヤ」が「あるある」になり、カタチになった!
ここで実例として、ハウス食品のケースをご紹介します。ハウス食品は、シチューの売り上げ低迷という課題を抱えていました。カレーや鍋の素の市場は好調なのに、どうしてシチューは伸び悩んでいるのか。会社や業界内ではいろいろな要因が上がってはいたものの、どうも納得がいく理由が見つかりません。そんな悩みを受け、「Blabo!」ではこんなお題を投げかけました。
シチューにまつわるモヤモヤを大募集! いったいどんなモヤモヤで、どうすれば解決できる?
そうすると、女性ユーザーから思いがけない意見が次々と…。
「夫が言うには、シチューはスープみたいでおかずとして物足りないと。シチューはカレーと同じくらいつくる時間がかかるのに、もう一品つくることになり…。」
「夫にガッツリ食べてほしいから、ご飯が進むカレーについつい手が伸びる。」
などなど。ここで出てきたのは、シチューは子どものことを考えてつくる料理というイメージがありますが、奥様としては夫の反応や食べっぷりも気になる、というインサイトでした。なるほど、シチューは白いご飯と合わせるには物足りない感じがしますよね。
こうした声を受けて生まれたのが、白いご飯に合う、食欲をそそるシチュー「シチューオンライス」。カレーのようにご飯にかけておしいく食べられるシチューという、これまでのシチューの既成概念からは考えられないこの新商品は大ヒットを記録。シチューの市場を広げる成功を収めたのです。
存在意義を問い直し、みんなの声でつくり直す
もうひとつの例として坂田さんが教えてくれたのは、旭食品の「しょうが日和」。旭食品は高知県でもっとも大きい食品卸の会社。いわゆる問屋です。最近はメーカーが直接流通まで手掛けたり、スーパーやコンビニといった流通企業と取引をしたりすることが注目されており、問屋は時代遅れの存在のように思われがちです。
そんな状況を受け、「Blabo!」に食品卸の存在意義を改めて考え、社員が自信を持てるようなブランドをつくることを依頼されました。「Blabo!」は問屋の“目利き”としての役割に注目。地方の優れた素材を都市部に商品として紹介するキュレーターのような存在として「にっぽん問屋」というブランドを企画しました。それは、対象となる地域を毎年決めて、そこにあるとっておきの素材を使った商品を届けるというブランドです。
日本問屋ブランドの展開は、旭食品の本社がある高知県からスタート。商品第一弾の素材として白羽の矢が立ったのが、生姜でした。生姜は香ばしくて体をポカポカと温めてくれる食材として、女性を中心に注目されている素材。ところが、生姜そのものはそれほど消費が伸びていませんでした。それはなぜか。生姜の秘めた可能性をあぶり出すべく「Blabo!」の企画会議で出されたお題は、
こんな生姜(ショウガ)の商品だったら食べたい、飲みたい! 生姜のおいしさが詰まった商品って?
というものでした。
そこでまず参加者から出てきたのが、「皮をむいてすりおろすのが手間」「ネイルごとすりおろしたりしちゃったらヤダ」といった、食べるまでの手間についての話でした。さらに、「チューブ状の生姜は風味が飛んでしまっているしカラダにいいかもわからない」という素材感へのこだわりも感じられました。
そうした声を汲んでつくられたのが、刻み生姜がゴロッと入っていてそのままかけられる「しょうが日和」シリーズです。このシリーズは、「しょうがポン酢」「万能きざみ生姜」「しょうが茶」というラインナップで販売。問屋、そして生姜の新しい価値が、おいしくカタチになりました。
「普通の人は案外面白い」という信念
ハウス食品や旭食品の例を通して、「Blabo!」が企業の悩みに答えながら生活者のモヤモヤを解消する参加型・解決型のコミュニティだということがわかっていただけたのではないでしょうか。そんな「Blabo!」を坂田さんがつくろうと思った原点は、企業のマーケティング担当者としてのキャリアだけではなく、実は子ども時代のほろ苦い体験にもありました。
小さい頃、ニューヨークに住んでたんですよ。そのときはモンテッソーリ教育とか受けさせてもらえて、絵を描くことも大好きで。それが7歳のときに家庭の事情で日本に帰ってきたときはショックでしたね。学校も社会もなんだか画一的で、思うように創造性を発揮できない。環境でチャンスを奪われることとか、思うままに表現できない苛立ちが心の底にあったんでしょうね。
「Blabo!」のように誰もが自由にアイデアを出せて、カタチにできるコミュニティというのは、ひょっとしたら辛い思いをした坂田少年の創造性を回復させるためにできたのかもしれません(笑)
「Blabo!」には、公務員の方や、子育て中で仕事ができない主婦の方なども熱心に参加されています。普段の仕事や生活で創造性を発揮する機会のない人も、問いかけ次第でワクワクするようなアイデアを生み出したりします。どんな立場の人でも、アイデアひとつでヒット商品を開発したり、社会課題を解決できる。そんな流れをつくっていきたいと坂田さんは熱く語ります。
僕の信念として、「普通の人は、案外おもしろい」というのがあるんです。「Blabo!」のコミュニティに有名なクリエイターが入ってきてアイデアを実現する、という姿はあまり求めてなくて。普通の人の何気ない一言からビッグアイデアが生まれるとか、普通の人がここに来たらアイデアマンになれる、みたいなプラットフォームってところが、やっていて面白いし、意義を感じるんですよ。
今後は、企業の商品開発だけではなく、全国の地域で活動する農家やパン屋といったローカルの人のお悩みを、みんなのアイデアで解決する取り組みも始めるそうです。全国の町が「Blabo!」を通じてアイデアで盛り上がっていくと楽しいですね。
ひとつの答えを求めるのではなく、
いろんな声に耳を傾ける仕事
そんな「Blabo!」では、今いっしょにスタッフとして働く仲間を募集しています。募集している職種は「編集者」と「クエスチョン・ライター」、そして「ファシリテーター」です。
「Blabo!」が求める編集者は、いわゆる紙やウェブのメディアの編集者とは異なります。企業や行政と生活者の間をとりもつ“仲人”のような仕事です。例えば企業のマーケターはマーケティング用語で、行政の人はお役所的な言葉使いをしがちです。そのままの言葉で課題をぶつけても、生活者のリアルな言葉を引き出すことはできません。課題を持ち、商品やサービスをつくる側とアイデアを出す生活者が同じ目線で話し合えるような企画会議をつくる。そこが、「Blabo!」編集者の腕の見せ所になります。
次に、クエスチョンライター。その役目は、思わず参加したくなる、アイデアを出したくなるような「お題」をライティングすること。企業や行政が抱える課題を的確にとらえるインタビュー力と、調査のように堅苦しい感じではなく、思わず参加したくなる、本音で語りたくなるお題をつくる着眼点が求められます。
そして、ファシリテーター。問いがあるだけでは、斬新なアイデアは出てきません。コミュニティに入り込んでユーザーを刺激し、インサイトを掘り出す「鍼灸師」のような役割です。アイデアが生まれやすいような余白をつくり、臨機応変に場をデザインしていく柔軟性が大切になってきます。
ひとつの答えを求めるのではなく、いろんな声に耳を傾けて新しいものをいっしょにつくっていこう。そういうマインドを持つ人なら「Blabo!」での仕事は相当楽しめるし、やりがいがあると思います。あとは、変わっていくことにワクワクできる人にも向いていると思います。課題もいろいろ、参加者もいろいろ、答えはわからない。そこに面白さを感じる人といっしょに仕事したいですね。
ルールやルーティンはない。あるのは、課題とコミュニケーション
こうして記事として紹介していても、その全貌を的確に伝えきれているのだろうかと不安になるほどユニークな「Blabo!」という会社なのですが(汗)、実際に働いている和田 圭さんにもお話をうかがいました。
もともとは半導体メーカーでマーケティングをしていた和田さん。あるときオープンイノベーションをテーマとした講演があり、そこに登壇されていたのが坂田さんでした。ほとんどの登壇者が企業同士の資産をどう組み合わせるかというB to B的なオープンイノベーションの話をする中、ユーザーとともにつくるかたちのオープンイノベーションについて熱く語っていた坂田さん。その考え方に感銘を受け、まずはユーザーとしていくつかの企画会議に参加したあと「Blabo!」に転職されました。
和田さんは現在主に、プラットフォームを運営する立場としてユーザーとのコミュニケーションを担当。オンラインでの企画会議のファシリテーションも務めています。そんな和田さんに「Blabo!」で働いてみてのやりがいを聞いてみました。
和田さん 企画会議に参加してくださるユーザーさんを見ながら、「この人すごいハマってる、輝いている」ってわかるときがあるんです。そういうときはすごくうれしくなりますね。企画会議での「お題」は、遊園地のアトラクションみたいなものなんです。いつ誰が来ても楽しい!って思ってもらえるようなお題を生み出し続けるのが、産みの苦しみでもあり喜びでもありますね。
和田さんが一番印象に残っているのが、鳥取県のパン屋さん「BAKERY MARKET」の事例。パン屋さんの課題は、もっと地元の子どもたちにパン屋さんに来てもらうことでした。全国から寄せられたたくさんのアイデアから生まれたのが、お店に来る子どもたちから「食べたいパン」の絵を募集し、その中から選ばれたパンを本当に焼いて販売するというもの。
和田さん 地方の小さなパン屋さんのお題にも全国から知恵が集まって、それがちゃんと形になってお店の人やお客さんが喜ぶ姿が見られるっていうところが「Blabo!」らしいと思いましたね。
「Blabo!」の仕事には、決まったルールやルーティンがあるわけではありません。課題や状況に応じてベストな方法を自分でつくっていけるような人が向いているようですね。そして何より、さまざまな個性のユーザーさんたちとのコミュニケーションを楽しめる人。
普通の人たちが日常からどんどん発想し、発言し、社会の課題を楽しく解決していく。そんな世の中の空気をつくるのが「Blabo!」の仕事です。アイデアを生み出す人たちを育てる動きにいっしょに参加したい!そんな思いを持つ方に、ぜひエントリーしていただければと思います。面接も、きっと楽しいセッションになるはずですよ!
(写真:秋山まどか)