「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」

greenz people ロゴ

DIYでオフグリッド、どこからはじめたらいい? オフグリッド初心者から「すごすぎて参考にならない」レベルまで4軒の家を詳しくレポート

「オフグリッド生活を送りたい」という気持ちはあっても、電気の知識はないし、DIYのスキルもない。正直わからないことだらけで、いったい何から手をつければ? なんて状態の人、意外と多いのではないでしょうか。

震災以降、オフグリッド生活にチャレンジする人は増えていますが、そこまでやるのはやっぱり“すごい人”というイメージもまだまだ強いですよね。

「でもまぁ、興味があるなら、まずはちょっとやってみましょうよ」と、気軽に背中を押してくれる講座が「グリーンズの学校」で始まりました。「賃貸でもできる!おひさま長者な暮らしを体感してみよう。オフグリッドDIYクラス2016」です。2015年に第1期が開催されて好評を博し、2016年に第2期目の開催となりました。

今回は、講座の2回目、2016年11月5日に実施されたフィールドワークの様子を覗きに行ってきました。この日は、実際にオフグリッド生活を送るお宅を何軒か訪問するとのこと。

最初の1歩を踏み出すためには、オフグリッド生活が本当のところどういうものなのか、体感してみるのがいちばんです。果たしてオフグリッド生活を送る人たちは、本当に“すごい人たち”ばかりなのでしょうか。

オフグリッド生活のエントリーモデル「吉岡さんち」

朝10時15分、JR中央本線藤野駅に、受講生が集合しました。すでに事前の講座でお会いしているらしく、みなさんリラックスして打ち解けた様子です。今回のフィールドワークでは、DIYクラスの講師を務める藤野電力の鈴木俊太郎さん、吉岡直樹さんの地元である藤野・相模湖周辺のお宅を巡ります。

まず向かったのは、講師の吉岡さんのお宅です。南向きの高台にある吉岡さん宅では、2階のベランダにパネルが2枚並んで設置されています。

吉岡さん うちは、今日のツアーの中ではいちばんコンパクトなシステムですね。いわゆるエントリーモデルです。

最初はベランダ右下の1階リビングの上に設置しようとしましたが、隣家の影が早い時間からかかってしまうので、考えた末、ベランダのサッシに直接設置することに

100Wの大きなパネルは、直流のままリビングの照明に、50Wパネルにはインバーターもつないで、300W程度の家電が使えるようになっています。こちらは、主にスマホを充電したりしています。地域のイベントにコーヒー屋を出店する際には、電動ミルを使うためにこのバッテリーを取り外して持って行きます。

当日は気持ちの良い秋晴れの1日でしたが、こんな日はすぐにバッテリーが満タンになり、使いきれないほどになるのだそう。太陽から生まれた(もちろん無料の)電気を「何に使おうか」と頭を悩ませるという、まさに“おひさま長者”な1日になります。

コーヒー屋台の出店時に持ち運びしやすいよう、収納ケースもDIY!

やってみると、やれないことがわかる

講師の吉岡直樹さん

吉岡さんの本業はデザイナーです。環境、地域活性、教育・福祉、子育て、社会貢献など、グリーンズとも関わりの深い分野で、さまざまなデザインを手がけています。何を隠そう、本連載「わたしたちエネルギー」のロゴ・デザインも、吉岡さん!

「デザインの力を社会の力に」をコンセプトに活動する吉岡さんは、藤野電力のコアメンバーとして、デザインワークはもちろんのこと、ワークショップの講師なども務めてきました。

吉岡さん じつは講師をやるようになったときには、まだ自分のキットは持っていませんでした。でも「どの家電が何時間使えるか」とか「天気が悪いときはどうか」とか、そういうことも含めてちゃんと実践してわかっておかないとダメだなぁと思って。それにやっぱり、堂々と「オフグリッドやってます」って言いたいじゃないですか(笑)。

実際に導入してからは、ケーブルを燃やしてしまうなどの失敗もしました。その都度、技術的な部分に詳しい鈴木俊太郎さんや同じく藤野電力メンバーの小田嶋哲也さんらに聞きながら、知識と技術を身につけていきました。

より本格的に暮らしに取り入れたのは、2年前。当時住んでいた借家を出なければいけなくなり、中古の古い家を購入することにしたのです。改修の必要がありましたが、予算はそれほどなく、できるところは必然的に自分でリノベーションすることになりました。その際に、オフグリッド・システムもきちんと配線することにしたのです。

リビングの照明は奥のふたつが藤野電力。手前のひとつは電力会社のもの。家を購入した際に点検のために天井を抜き、雰囲気が良かったのでそのままにして、梁を補強。配線も行ないました

じつは、同じ藤野で暮らす私は、吉岡さんががっつりDIYする人というイメージが、まったくありませんでした。なので、中古住宅を極力セルフ・リノベーションすると聞いたときは本当に驚きました。

吉岡さん イメージないでしょ(笑)。だって最初は、みんなに言われてやらされた感じなんですよ。藤野はスキルのある人が多いから、みんな気軽に言うんです。「こうしたらいいんじゃない? 道具貸してあげるよ」って(笑)。

「でも技術力はともかく、ものをつくるのは好きですよ」と吉岡さん。実際にやってみて、わかってきたこともあると言います。

吉岡さん やっぱり経験値が上がる。前は絶対つくれなかったものがつくれるようになりました。あとはやってみると、やれないことがわかります。それがわかってないと、やれることも人に頼むことになるんですよね。

じつはオフグリッド・システムも、当初は小田嶋さんに施工をお願いしていました。ところがたまたまその時期、小田嶋さんが足を怪我したため、やむをえず指示をもらいながら、自分で一部施工を手がけたのだそう。しかし、実際にやってみたら、自分でもできないことはないと気づきました。これは、やらなければわからなかったことです。

そしてDIY初心者だった吉岡さんは、今ではつくれると思ったものは、当たり前にDIYする人に。「これからDIYに挑戦しようとしている人に、何かアドバイスをするとしたら?」と聞いてみました。

吉岡さん 教えてもらおうと思うと、どうしてもお客さん感覚が抜けません。でも、自分で引き受けようって気持ちになるとできるようになります。そう思えるようになるには、本当にわからなくなったときに、なんでも聞ける人が近くにいるのがいいですね。僕もそうでした。

浮き輪につかまってても泳ぎ方は覚えられない。でも、いざとなったら助けてくれる人がプールサイドにいるってわかっていれば、多少溺れかけても頑張って練習できるっていうか。

手っ取り早くプロセスをショートカットしたものでは、結局何も得られないっていうこともあるんじゃないかなと思います。5つあったら、少なくとも3つぐらいはもがいてやらないと、「もうそれDIYじゃないよね?」っていうことになっちゃう。

クラスの人たちにも、今言ったようなことが伝わるといいなと思っています。

自ら「エントリーモデル」と称した吉岡さんのオフグリッドDIY体験。導入する際のイメージに近かった人が多いようで、みなさん熱心にお話を聞いていました。

持ち家のため、配線は壁に穴を開けて行ないましたが、パネルは2枚の板でサッシを挟んで固定しているだけ。どこにも傷はつけていないので、賃貸でも真似できるやり方です。みなさん「これならうちでもできる!」と興味津々

暮らしの中にオフグリッドがある「早川さんち」

地元の新鮮な野菜をふんだんに使ったベジランチ。たわいない会話に花が咲きます

ランチは、古家をリノベーションした相模湖のカフェ「たねまめ」さんでいただき、向かったのは「内郷の里プロジェクト」の2軒の家。以前にグリーンズでも紹介した創和建設が建てたお家で、藤野電力のオフグリッド・システムを導入しています。まずは早川和男さん宅を拝見しました。

家主の早川和男さん。薪風呂の煙突の前で。「薪で沸かすと体が芯まであったまるんです」

早川さんは、東日本大震災がきっかけで、千葉県から神奈川県の藤野地域に引っ越してきました。奥様が料理教室を開いているなど、もともと食への関心が高く、農が近い自然の中での暮らしに憧れもあったそう。

早川さん 理想の生活の仕方が先にあったんですけど、なかなかイメージと合う土地が見つかりませんでした。ここを見つけて、ようやくビビッときたんです。そして、先々何かあったときのために、薪風呂や自家発電の電気など、ライフラインがある程度確保できればいいなと思っていろいろ導入しました。

早川さん宅では、キッチンとリビング、トイレとお風呂場の照明はオフグリッドで賄っています。コンセントも2ヶ所つくってあり、天気の良い日であればオフグリッドで発電した電気だけで、洗濯機も充分回せます。5人家族ですが、今の家で暮らすようになって、月々の電気代は1500円まで下がりました。

広々して明るいリビングキッチン。奥様の料理教室もここで開催しています

風通しがよい自然住宅は、エアコンはなくても大丈夫。暖房は薪ストーブ1台ですが、2階は半袖で過ごせるほどの暖かさだそう。さらに、お風呂は薪とガスのハイブリッド。薪風呂は早川さんの長年の夢だったそうで、仕事のある平日はガスで、週末は薪でと、無理なく楽しみながら使い分けています。

早川さん ここに住んでいて楽しいのは、便利なものが多すぎないっていうこと。便利すぎると地に足がつかない感じがあるんですが、ここでは「暮らしてるな」っていう“暮らし感”が感じられる。それがいちばん嬉しいなと。

便利じゃないから、地に足が着く。暮らしは、不便だからこそ工夫をして楽しくなるのだと、早川さんは実際に暮らして、実感しています。

早川さん宅は、新築のため、配線のしやすさなども設計の時点で考慮してもらっています。パネルは100Wが2枚。バッテリーは床下に置き、インバーターやチャージコントローラーは壁にきちんと収納スペースが

電気代は基本料金のみ!「神尾さんち」

続いて、すぐお隣の神尾知巳さん宅へ伺いました。神尾さん宅は、藤野電力の手がけてきたオフグリッド・システムとしては、現時点で最高スペックをもつお家。なんと電力会社の電気代は基本料金の177円のみ。ほぼ100%をオフグリッド・システムで賄って暮らしています。

家主の神尾知巳さん。平日は都内まで勤めに通っているサラリーマンです

神尾さん宅では、藤野電力としても初の試みがされていました。箱に傷がついたり、ちょっとした汚れがついて廃棄処分となったシャープの売電用パネルを、藤野電力が安価で譲ってもらえることになり、はじめてそのパネルを使用したのです。

ところがいざ設置してみると、なぜか電気が貯まりにくかったそう。じつは売電用のパネルは最大電圧が低く、通常、藤野電力で使用しているコントローラーでは電圧が上がらないことがあとでわかりました。そこで「ボーナスをはたいてもらって(笑)」入力ではなく出力で12Vか24Vにするかの切り替えができるアメリカ製のコントローラーを買ってもらいました。

俊太郎さん 最初は原因がわからなくて、パネルが足りないのかもしれないという話になって2枚追加してもらったんですよね。…でもそういう問題じゃなかった(笑)

これって本当だったら大クレームものですが(笑)、そこは地域の仲間同士、笑い話として当時を振り返ります。今後、アンペア数をあげる予定が出てきたので「結果、パネルを増やしておいてよかったかな(笑)」と、神尾さんはとてもポジティブ。さらに、2016年9月に天候不順が続いたときにも、パネルを増やしたおかげか、オフグリッドのエネルギーだけでなんとか乗り切れたそうです。

神尾さん この家で暮らすようになって、とにかく天気が気になるようになりました。会社にいても、雨が降り出すと家は大丈夫かなって心配になります。

みんなで屋根に登って説明を聞きました。奥の6枚が話題になった売電用のシャープのパネル。手前右端には、太陽熱温水器も見えますね。オフグリッド率半端ないです

新築時、本当にオフグリッドだけで大丈夫なのかという不安はあったため、念のため電力会社も契約しましたが、結果的にはほとんど使っていません。でも神尾さんには、送電網につないでおきたい大事な理由がありました。

神尾さん 僕、静岡県の富士宮市出身で、ときどき焼きそばを焼くんですよ。そのときにホットプレートを使いたいんですよね。でもホットプレートって1500Wだから、オフグリッドで使うのはギリギリ。だから今はコンセントをひとつだけ東京電力にしてあって、焼きそばをつくるときはそれを使っています。

神尾さん宅ではドライヤーも冷蔵庫も、趣味の大型の木工機材も、問題なくオフグリッドで使っています。しかし一定時間、1500Wの消費電力を必要とするホットプレートだけはどうしても心配です。だって、途中で電気が切れてしまったら、焼きそばが食べられません。

これには、全員大笑い。現在、ホットプレート以外には電力会社の電気はまったく使っていないそうですが、契約アンペア数はしっかり15A。

神尾さん だって、15Aにしておかないとホットプレート使えませんから(笑)

オフグリッド生活を始めると、どうしてもオフグリッド率を高めたくなってしまうものですが、電力会社の電気を使うのも、こんなふうにちゃんと理由があるとなんだかすてきです。その人にとっての必然性、そして心地よい暮らしのバランスをとることが、無理なくオフグリッド生活を楽しむコツなのかもしれません。

バッテリー類は外のボックスの中に。木工用の作業部屋があり、大きな機材も揃えているほど木工が趣味の神尾さん。このボックスも自分でつくりました


神尾さん宅では、ドライヤーや木工用機材も使っていますが、それでも問題なくオフグリッドで生活できています。かかった費用は、施工費や追加した設備を含めても100万円ほど。晴れていると電気は余るほど充電できるので、草刈機もチェーンソーもあえて充電式のものを使うようにしているのだとか

オフグリッドDIYマスター!「俊太郎さんち」

講師の鈴木俊太郎さん。なんでもつくってしまう俊太郎さんですが、なるべくオフグリッドの電気で生活できるよう、節電の工夫も欠かしません。冷蔵庫には24時間タイマーをつけていて、ドアの開け閉めのない夜間は自動的に電気が切れるようにしているそう

最後に訪れたのは、講師の鈴木俊太郎さんのお宅です。年々、少しずつバージョンアップしている鈴木家のオフグリッド・システム。現在、照明は7ヶ所がオフグリッド。インバーターのモニターを室内に置いていて、電力使用量をいつでも確認することができます。それによってオフグリッドの電力と電力会社の電力とを切り替えて使っています。

俊太郎さん 藤野電力のワークショップでいろいろな人に教えたり、最近ではいろいろなお宅を施工させてもらうようになったので、自分の家でも実験を兼ねていろいろやるようになりました。最初はあまりよくわからなかったので配線がむき出しになっている部分もありますね。だんだんわかってきて、スイッチをつけてみたり、床下を通して配線したり、やれることも増えてきました。

倉庫スペースにあるインバーターやバッテリーについて説明


モニターでは現在の消費電力量や、一定期間のトータルの電力使用量などもわかります。これを見て、消費電力が増えているときは節電したり、電力会社の電気に切り替えるなど、工夫ができます

よくわからないけどとりあえず考えてやってみようと、行動に移してしまうのが俊太郎さんのすごいところ。そうすることで、いつの間にかできることがどんどん増えているのです。

今では、本業の整体師に加え、オフグリッドシステムの施工やグリーンズの学校の講師、樹木の伐採や薪ストーブの煙突掃除、コーヒー屋台の出店と、さまざまな小商いをもち、二足どころか十足近いわらじを履くようになっています。

「俊太郎さんはすごすぎるから参考にならない」と吉岡さん。でもじつは、私が最初に取材した6年前には、俊太郎さんの家も、小さなパネルが2枚ついているだけでした。そこから徐々にバージョンアップしてきたのだから、誰にでも、同じようなチャンスはあるのだと、思わせられます。

改めて、暮らしを考える

みんなで薪ストーブを囲んで振り返りの時間

最後に、ひとりひとり、この日の感想を言ってフィールドワークは終了しました。どの感想もとてもすてきだったので、いくつかご紹介します。

「みなさん本当に暮らしを楽しんでいるんだなというのがわかりました。エネルギーに対する使命感というよりも、どう生きていくのが楽しいかっていうことを、子どもみたいな気持ちでやられている。暮らしってこうあるべきだよなと思いました。」

「初めてオフグリッド発電の設備を見て、自分だったら100Wのパネル1枚かな、2枚かなっていうふうに具体的なイメージが湧いて、将来像を具体的に描けるようになりました。それと、ここに棚がほしいと思ったら買うのではなくて自分でつくるとか、みなさんが工夫しながら暮らしていたのが印象的でした。手元にある課題や問題を自分で手を動かして解決していく。そこに生活の活力、喜びがあるんじゃないかと思いました。」

「極めれば極められるし、軽くやろうと思えばできる。4つの家を見て、4者4様でその人に合ったやり方でオフグリッドを楽しんでいて、自分のレベルに合わせてやりようがあるんだと思えたのがすごくよかったです。」

この日のみなさんの感想に共通していたのは「どのお宅でも、楽しんでオフグリッド生活をしていた」と感じたこと。そして、エネルギーというよりも「暮らしとは何か」ということを改めて考えさせられたということでした。

神尾さん宅の屋根から。この日は汗ばむほどの快晴で、バッテリーも常に満充電!

オフグリッド生活を始めることは、暮らしのありようを見直すだけでなく、「暮らしを楽しむための手段のひとつ」でした。フィールドワークの参加者は、そのことをしっかり体感したのではないかと思います。

オフグリッド生活、やっぱりなんだか楽しそう!と興味をもったら、小さなソーラーライトからでもいい。まずはできることから始めてみませんか? そして、まだ勇気が出ないからもう少し学んでからにしたい、仲間がほしい、という人は、ぜひ3期目のオフグリッドDIYクラスの開講を楽しみにお待ちください!

(写真:星野耕史)

わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクト。経済産業省資源エネルギー庁GREEN POWER プロジェクトの一環で進めています。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。