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もしがんになったらどう生きる? 闘病経験を価値に変える「ダカラコソクリエイト」谷島雄一郎さんに、後悔しないがんとの向き合い方を聞きました

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もしもあなたが、あなたの大切な人ががんになったとしたら、あなたはどう生き、どう支えたいと思いますか?

現在、国民のふたりにひとりががんにかかり、働き盛りの世代の死因の4割ががんであると言われています。(国立がん研究センターの資料による)

医学の進歩とともに、働きながら闘病生活を続ける「がんサバイバー」は増えていますが、テレビや雑誌などのメディアが伝える膨大な情報と格闘しながら、治療にともなってさまざまな選択を迫られること、その先にある将来に、不安を感じている「がんサバイバー」も少なくありません。

そんな不安と向き合う働く世代の「がんサバイバー」が集まり、“自分たちだからこそできること”を模索し、闘病やその後の社会生活の中での経験を価値に変えていこうと活動しているのが今回紹介する「ダカラコソクリエイト」です。

「がんサバイバー」の視点で社会の課題に取り組む

2015年に設立された「ダカラコソクリエイト」では、「がんサバイバー」の視点を切り口に、がん患者等心理的問題を抱えた人に対して用いられる「問題解決療法」とイノベーションを生み出すマネジメント手法である「デザイン思考」をベースにしたワークショップを重ね、プロダクトを生み出そうと試みています。

2016年10月には、LINEスタンプ「癒し忍法 ニャ助とパ次郎」をリリース。これは、がんサバイバー自身が日頃かけてもらってうれしかった言葉や支えられた言葉を形にしたものです。
 
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LINEスタンプ「癒し忍法 ニャ助とパ次郎」

例えば「がんばって」と言う言葉。「がんサバイバー」にとっては、「これ以上何をがんばればいいの」と傷つくこともあります。大切な人に寄り添いたくても、うまく言葉が見つからないという時に利用してもらいやすいスタンプです。
 
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カラクリ トーキングBar

2016年11月には、毎日放送の本社1階にある「ちゃやまちプラザ」にて、「カラクリ トーキングBar」と題し、会場参加型のトークセッションとワークショップを開催しました。

トークセッションでは「上手な”がん”の泳ぎ方」というテーマで、医師や企業で働くサバイバーのゲストによるトークが展開。ちまたに溢れる「トンデモながん知識を見分ける方法」などが話されました。

がんになったことで生まれた“怒り”と求めた“救い”

「ダカラコソクリエイト」の発起人である谷島雄一郎さんが活動をはじめたきっかけは、ご自身のがんとの闘病生活にあります。
 
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谷島雄一郎さん39歳。一児のパパ

がんになったのは34歳ですが、すごく理不尽でやり場のない怒りと悔しさを感じたんです。

働き盛りで子どもは生まれたばかり。なのに仕事もプライベートも、もう思い描いていたようにはならない。自分の価値と居場所を失っていくような感覚にとらわれ、理不尽な運命を呪い、孤独にさいなまれ、社会に対して妬み嫉みを抱くようになりました。

登壇させていただいた講演などでは「自分が助からないと分かったときに、社会のために何かをしたいと思った」ときれいなことを語っていますが、発端には“怒り”がありました。

谷島さんは、「勝手に自分が卑屈になってやり場のない怒りにとらわれた」と当時を振り返りますが、会社内にあるパネルで覆われた雑談ブース前を通りかかったときに、「谷島は、もうあかんからな」という、心ない声が聞こえてきたこともあるそうです。

みんながそう思うのは当たり前のことで、今までのように働けず仕事の生産性が落ちるのは事実です。そんな中、「なんで俺がこんな目に会わなあかんねん」と自分で勝手に卑屈になっていました。

しかし谷島さんの視界は4年の闘病生活の間に少しずつ変わっていきます。

小児がんの子どもたちや、自分よりはるかにたいへんな状況で懸命に生きる人たちに出会う中で、がんに限らず、さまざまな“社会の課題”が自分ごとに思えるようになってきて、そうしたら余計に社会に対してやり場のない怒りがどんどん溜まってきて。なんて理不尽な世の中なんだろう、と思いました。

そして谷島さんは、手術の1年後にがんを再発。肺にがんが転移したのです。

お医者さんに冗談っぽく「僕、末期がん患者を名乗っていいですか」と聞いてみたところ、主治医は深刻な顔で「残念ながら名乗っていただいて結構です」と言いました。

今までは治療に全力を注いできたけど、あとは生き方の部分で何かをやっていきたい、理不尽にさらされた人間が世の中を幸せにしてやろうじゃないかと思ったんです。

この“怒り”が、谷島さんが思いをポジティブな行動に移していこうと決意したきっかけでした。そしてもう一つ、“救い”もキーワードだと話します。

患者会で知り合いが増えていく中で感じたのは、自分も含め、救われない人がたくさんいて、その人たちの救いってなんだろうということ。それは、未来に対して関わりをもつことなのではないかと思いました。

この“怒り”と“救い”を求める感情が合わさって、谷島さんの活動はその後につながっていきました。

つながりから生まれるアイデアたち

闘病生活を送りながら谷島さんは、意識して自分と似た境遇の患者に出会うために行動を起こしました。

特に若年性がん患者団体の「STAND UP!!」という患者会で出会った方々は、講演をされていたり、オストメイト用のトイレがすぐに探せるようにケータイアプリを開発していたりと、すでにポジティブに活動している人が多く刺激を受けたと言います。

そういったさまざまな患者会やイベントに顔を出していく中で、谷島さんには気づいたことがあるそうです。

がん関連の活動に参加される方の多くは、同じ患者や患者家族、医療関係者でした。でも、僕はその医療の枠を超えて、世の中を変えていきたい。

がん患者以外の方からもうまく共感が得られるよう、自分たちの視点や経験を、楽しさとワクワク感があるデザインにして、社会に活かすことができないかと思いました。

「がん経験を価値に変えていきたい」と、思いを周囲に伝えまわっていると会社の先輩から、がんの研究をしている大学の先生を紹介してもらうことになります。そして出会ったのが、現在「ダカラコソクリエイト」のファシリテーターを務める大阪大学准教授の平井啓さんでした。

「ちょっと試しにやってみましょう」と、2015年9月から、谷島さんは患者会などで出会った活動的な方たち10数名とともに、平井先生とワークショップを重ねていくことになります。
 
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「がんサバイバー」が、闘病やその後の社会経験から得た視点を切り口に、がん患者など心理的問題を抱えた人に対して用いられる問題解決療法とデザイン思考をベースにしたワークショップを開催

そのワークショップで生まれたのが前述のLINEスタンプです。「がんサバイバー」の周囲の人は悪気なく、励ましたい思いがあるものの何と伝えてよいのかわからないという課題の中から生まれたアイデアでした。

さらに、このワークショップの存在を聞いて「参加したい」と手をあげてくれたのが、greenz.jpでもご紹介したことのある「チャイルド・ケモ・ハウス」の楠木重範さん。「チャイルド・ケモ・ハウス」主催の「チャリティーウォーク2016」にて「ミライの種」というプログラムも生まれました。
 
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イベント申込時にあらかじめ参加者それぞれの願いを募集し、それをマグネットカード化。チャリティーウォークのゴール時に、そのマグネットカードを一枚剥がして他の参加者の願いを受け取り、応援するという“願いのシェア”と“小さなアクション”により、素敵な未来をつくっていこうというプログラムです。

この企画は、誰かのために何かしたい、そして自らの願いを未来に託していきたい。そんな死と日々向き合う「がんサバイバー」だからこその思いを形にしたものです。

今メンバーの中で話題にのぼっているのは、電車に乗っているときのことです。

「がんサバイバー」は見た目は普通の方と変わらないので、席を譲ってもらうのが難しいという問題があります。「妊婦さんとわかるマタニティマークのように、社会が誰かの見えない生きづらさに気づこうとするデザインができないか?」といった意見がメンバーの中から出てきています。

また今後は、学校の道徳の授業で使える教材や、病院内のコミュニティスペースといったアイデアが生まれており、谷島さんたちはそれらをどんどん実現させていきたいと考えています。発足当初10名程度だった仲間も、現在は30名を超えるようになりました。

治療ではなく、人生にフォーカスできるように

大阪大学の平井さんがメンバーからとったアンケートには、感覚を共有できる仲間ができた、心に余裕を持つことができるようになった、という感想がありました。谷島さんは「ダカラコソクリエイト」の活動に参加している仲間に対し、気をつけていることがあると言います。

この活動に参加することで、彼らの本業や人生に何かしらいい影響がある、そういう場になればと思っています。

ゲームに例えると、僕らがいるのはがんになったからこそ参加できるボーナスステージです。そして活動しながらいろんな人と出会うことで未来への関わりが生まれ、治療ではなく、人生にフォーカスできるようになってくると思うんです。

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治療より人生にフォーカスすることが大切。谷島さんがそう考える背景には、がんになったことで自分を愛せなくなる人が多いという現実があります。

でも、がんになったことは不運ではあるけど不幸ではない。確かにつらいし、できればなかったことにしたい。だけど、それは変えられない事実。ならせめて、がんになったことも含めて、この人生で良かったと思えるようこれからを生きていきたい。

がんになったからこそ見える風景や視点は、きっと誰かを幸せにする力がある。そこに自分がいなくても、大事な人たちが生きる未来のために何かを生み出していくことが、自分にとっての救いになるのだと思います。

「がんになると治療そのものが人生の目的のようになってしまう人が少なくない」と谷島さんは言います。治療は手段でしかないと考えていくことで、がんにとらわれない生き方をする人が増えて欲しいというのが谷島さんの思いなのです。

がんの経験を価値に変えるという活動は、「がんサバイバー」にとって、健康でなくとも生きている喜びを感じられる一歩となっています。また、その人を支える人にとっても、LINEスタンプのような、誰もがたやすく扱えるものにすることで、身近にがんについて考えてみるきっかけとなっています。

さて、冒頭の問いに戻りましょう。
もしもあなたが、あなたの大切な人ががんになったとしたら、あなたはどう生き、どう支えたいと思いますか?

ぜひあなたも彼らの取り組みに触れてみることで、そのときを考えてみるきっかけにしてみてはいかがでしょうか?