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ニッポンをひっくり返して見て、初めて見えてくるもの。「NOddIN」丹下紘希さん、関根光才さんが映像制作を通して伝える、お金から自由になる生き方

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NOddIN(ノディン)」という映像制作に関わる人々の集まりがあります。

NOddINの名前はNIppON(ニッポン)をひっくり返したもの。3.11のあと、“日本をひっくり返して見てみよう”と集まった人たちです。映像監督やコピーライター、女優など、メンバーは現在約30人。まずご覧いただきたいのは、彼らが2015年に制作した短編アニメーション『戦争のつくり方』です。
 

NOddINはこの作品の前に、メンバーが制作した作品を集めた展覧会を3度開催しています。第1回目の展覧会で上映された作品については、以前greenz.jpの記事でも紹介しましたが、原発問題を中心に、約10本の映像作品を制作して上映。その後の第2回、第3回の展覧会でも題材や手法を変えながら様々な作品を発表してきました。

そして、1度目と2度目の展覧会、及び『戦争のつくり方』に関しては、MotionGalleryのクラウドファンディングでその資金の一部を集めて実現させました。

これまでの作品に込めた思いや、これからの日本について思うこと、クラウドファンディングとの関わり方などについて、NOddINの開始当初からのメンバーである丹下紘希さん関根光才さんに聞きました。
 
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左)丹下紘希(たんげ・こうき)
人間、自由無人党員、映像作家
1968年11月24日生まれ。東京造形大学卒。ミュージックビデオの監督、ジャケットデザイン、障害者の就労支援啓発や幼稚園のアートディレクションなどを手がける。架空の政党「自由無人党」の一員。97条の会の発起人の一人。2012年度で経営していた会社を一時休止。現在は映像の問題は「現実感の喪失」だとして映像との付き合いに疑問を持っているが、同時に映像を愛してもいる。
右)関根光才(せきね・こうさい)
映像監督、写真家
1976年4月26日生まれ。上智大学卒。東京を拠点として、クロスカルチュアルな映像を、CM、ミュージックビデオ、映画他、ジャンルを問わず制作中。「いま本当に創るべき映像は何か」を考えた結果、志を近くするフィルムメーカー仲間と旗揚げをするに至る。

政治とクリエイティブを結びつけて表現するプラットフォーム

「戦争へと導かれていく国」の姿を映しだした絵本(2004年発行)をアニメーション化した『戦争のつくりかた』。

この映像作品を見て私が感じたのは、何よりも戦争が近づきつつあるという危機感です。そしてそこに想定されているのは、今の日本が第2次大戦前と同じように私たち個人の権利を制限しようとしているという空気です。

それは必然的に現政権への批判へとつながります。そのような政治的な意図を持っているがゆえに、作品づくりの上でも困難があったと丹下さんは言います。

丹下さん 僕はもともと広告業界にいたので実感しているのですが、広告は企業によって成り立ち、その企業が政治に影響を及ぼしている。そのため、業界内では、例えば国策としての原発推進を問題視するような作品のためにお金を集めることはもちろん、政治的な意図を持った作品に出てくれる人を探すことすら難しいんです。

NOddINの作品に出てくれる人は、僕ら同様、踏み込んだ理解と覚悟が必要になってしまうし、制作費は自腹でなんとかするしかない。「広告業界の人間」である僕らが、業界外の活動であるにしても政治的なことを叫べば叫ぶほど、その影響を推し量ることは難しく、誰がどう攻撃を受けるかわからない、という危惧は最初にありました。

政治的なアピールは、それに反対する人たちから反発を受け、時には攻撃を受けることもあります。NoddINは、クラウドファンディングを使うことで、資金を集めるだけでなく、そのような問題を避けることも可能になったそうです。
 
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関根さんの作品「IVAN IVAN」より

関根さん クラウドファンディングについてすごくいいと思うのは、その透明性なんです。誰がお金を出したのか、どうやってお金を集めたかが明確になっているので、どういう資金援助でやってるのか妄想して絡んでくるような人への対抗策になります。

丹下さん 『戦争のつくり方』のクラウドファンディングのとき、30万円のコレクターへのリターンとして、「エグゼクティブプロデューサーとしてクレジットする」というものを設定しました。ひとりだけそのコレクターになってくれた人がいて、その人がたまたま共産党の人だったんです。

そうしたら、「あそこは共産党から金もらってる」みたいな話になって。でも僕たちには、お金を出してくれた人がどういう思想の持ち主なのか全くわからないわけです。

関根さん だから、絡まれることは絡まれたんですが、透明性を持って集めたお金だったことで、それ以上に炎上するようなことにはならなかったんだと思います。

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いま起きていることに疑問を投げかける姿勢を取っている以上、どうしても反体制的な主張が多くなるため、それに反対する人たちに絡まれることが多くなるわけですが、NOddINとしては一つの主張にこだわっているわけではなく、むしろ反対の主張を持つ人たちの視点もあったほうがいいと言います。

関根さん 僕らは、傍から見るとある特定の主張とか心情だけでまとまって動いているように見えると思うんですけど、実際はそんなことなくて。

むしろ、思想が一致する方が怖いので、考えは違うけれどクリエイティブなことしたいっていうような人とも積極的にコミュニケーションを取っていきたいと思っています。

理想はあるけど、思想は多様に持って、政治的なことをクリエイティブと結びつけて表現するプラットフォームがNOddINだと思ってるんです。

これまでなかなか触れられることがなかった政治をクリエイティブな方法で語ろうとしているNOddIN。その原点はどこにあるのでしょうか。

原点としての3.11と「ひっくり返して見る」こと「声を失っていくことへの危惧」

NOddINの原点は、東日本大震災とそれに続く福島第一原発の事故にありました。3.11の衝撃から、今までとは別の視点を持って映像作品を自主制作する人たちが集まったのです。

第1回のクラウドファンディングは2011年の8月まで行われ、発表のための資金として約38万円を集めました。なぜ“別の視点”を持つ必要があると彼らは思うようになったのでしょうか。
 
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関根さん 東日本大震災の直後に、ACジャパンのCMがひたすら流れていたのは誰が見ても異常でした。そのときに、こういうものをつくって流すのが僕らの業界の誰かなのだと考えると、自分たちに責任がないとは言えないだろう、と思いました。

丹下さん 僕は、自粛しなくてはいけない、流せないようなものを普段からつくっていたことに気づいていなかったことが怖かったし、その後何事もなかったかのようにもとに戻っていったことのほうがもっと怖かったんです。

忘れてはいけないことをたくさん感じたはずなのに、その一つひとつが自分の手のひらから抜け落ちていくっていうことがすごく怖かった。

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谷一郎さんの作品「Here, There」より

3.11以前の自分たちがいかに無自覚で無責任であったのか、そのことに気づいて、どうやったら責任を取ることができるのか、それを探るための作品をつくることになったというわけです。

関根さん 僕ら自身、何も考えないでつくった気になっていたことに対する反省というのがすごくあって、その反動から始まった面はありました。だから、自分たちが普通に見てたはずの世界が実はこうだったというアンチテーゼを、原発を通して投げかける作品が多くなったのだろうと思います。

閉塞感がある時代が続いたから「エンターテインメントを日本にもたらさなきゃ」と考えるのも悪いとは思わないけど、今まではそっちのほうが楽だからみんな無意識にそっちに行ってしまっていたというのも事実だと思います。そうではなくて、自分のつくったものがどのような結果を招くのかちゃんと意識しようと思ったんです。

丹下さん 広告の仕事は大量の消費を促すことが前提なので、そこで破壊されるものに眼をつぶることさえも、いつの間にか前提になってしまっています。それが社会に悪影響をおよぼすかもしれないとしても、仕事だからという理由で目をつむるということを散々やってきたんです。

社会がずっと右肩上がりで進んでいかなきゃいけないっていう命題があって、だからみんな働かなきゃ働かなきゃって。

でも、それは完全に自己矛盾で、本当はいったん立ち止まって自分の姿を客観的に眺めてみることも大事だった。だから、改めてそれをやろうというのがNOddIN。新たな視点をもつという意味で「ひっくり返して見る」というテーマが生まれたんです。

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丹下さんの作品「We love music We love peace」より

3.11で気づいた自己矛盾とそれをもたらしてきた社会の仕組み。それに気づいたことが原発問題を超えて、今の社会を見つめることにつながり『戦争のつくり方』の制作へとつながります。

『戦争のつくり方』は第2回、第3回の展覧会を経て、参加する映像作家たちが共同でつくる初めてのプロジェクトとしてスタートしました。NOddINとして3回目となるクラウドファンディングはこの作品の制作資金を集める目的で行われ、200万円を超える金額が集まりました。

この作品が多くの応援を集めた背景には、多くの人が今、日本が進んでいく方向に危機感を抱いていることがあるのだろうと思います。丹下さんは、今の社会構造と“前の戦争”の時の社会を結びつけて考えます。
 
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丹下さん 振り返ってみると、前の戦争の時も、いろんな局面で「なぜその仕事をしなきゃいけないのか?」ということを棚において、その先の影響を考えずに「とにかく仕事だからやるんだ」ってなってしまっていた。

『戦争のつくり方』は戦争がどう始まるのかを示したと思っていますが、あれを見れば戦争はもう始まっているというのが現実で、その中で何ができるかを考えなきゃいけない、ということに気づく。その時、政治的中立性という理由で自主規制をしていくことも含めて、声を失っていくってことに対しての強い危惧が僕の中にはあるんです。

「戦争はもう始まっている」という言葉はなかなかピンときませんが、丹下さんは「実際にドンパチやってるのは、戦争の中期から末期の方で、ビギニングの状態にはもうなっている」と言います。ドンパチが始まる準備は着実に整ってきてしまっているのです。

しかし、なぜそのようになってしまったのか、そしてどのようにしたら実際の戦争を防ぐことができるのでしょうか。

日本人のお金に対する不自由さ

なぜ「戦争はもう始まっている」ような状態になってしまったのか、そのポイントは「お金」にあるとお二人はいいます。
 
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関根さん 最終的に行き着くところは経済構造なんだと思います。今の社会では、お金が人間という社会的な動物にとって中心を占めてしまっていて、お金によって自由を奪われてしまっている。お金に縛られるから、その向こうにあるものが見えなくなってしまっている。今の資本主義の構造の中にいながら視点を変えることは難しいんです。

丹下さん そういう意味では、クラウドファンディングは新しい経済システムの中の一つだと思う。こっちの現実の世界では、犠牲の上にお金が成り立っていて、みんながそれに目をつむっているけれど、クラウドファンディングで受け取るお金には想いや意志が込められている気がします。

関根さん クラウドファンディングって、ジプシー的というか、芸を披露してお金をもらうというのに近い気がします。

日本にはそういう“投げ銭”という文化があまりなかったわけですが、「いい音楽聞かせてもらったからいくらいくら払う」って、すごくお金に対して自由だということ。クラウドファンディングも、応援したい気持ちをもとに、自分で金額を決めて払うというところに自由さを感じるんです。

丹下さん 僕もそのお金に対する自由はけっこう重要だと思います。日本人は、何かに所属して、定価が決まっているものに対してきちんとお金を払いたくて、自分の価値観によって金額を決めることができない。これって、日本人のお金に対する不自由さだと思うんです。お金に対して自由であるっていうのは、自分で価値を決めるってことなんですよ。

関根さん だから、日本人が参加するクラウドファンディングにはリターンが必要なのかもしれないですね。金額に対する対価が決まっていたほうが、払うお金を決めやすい。本来はリターンなんてなくて、自分でいくら払うかを決めればいいんだと思います。

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「戦争のつくり方」より

私は日頃、クラウドファンディングでもっぱらお金を出す側で、払う金額を決めるときにはリターンの内容を見て決めています。どこか「ものを買う」のに近い感覚があり、それがお金に対する不自由さを表しているという指摘には、はっとさせられました。

丹下さんは、在外派遣芸術家制度を使って留学したことがあり、それに対して「国に何らかの恩義を感じないのか、国に何を返したんだお前は」と言われた経験から、「お金というのは本来立場をイコールにするものでなければいけない」と感じたとも言っていました。支援というのは見返りを求めて行うものではなく、本来は支援される人がその人らしくあることでその支援に報いることができるはずだというのです。

なかなか難しい論点ではありますが、確かに私たちはあまりにお金に囚われすぎていると思います。

しかしクラウドファンディングで考えると、お金を払う側は意外と見返りに執着しないもののような気もします。それはそのお金が、そもそも応援の気持ちで払ったものであるからです。

そのようにしてお金を使えることがお金から自由になることであり、そのような自由なお金が流通することで、私たちはさまざまなものから自由になれるのだと感じました。

お金、責任、これから

社会という大きなものが相手なだけに、どうやっても簡単に変えることができないのは仕方がないことです。それでも、NOddINは活動を続けて、それをなんとかしようとしています。丹下さんと関根さんはこれから何をしようと考えているのでしょうか。

関根さん 僕は、これまで理想というか哲学的というか遠大な話にばかり取り組んで来た気がしていて、自分の身の回りにあることとか、距離が近いものからリスタートしたいと思っています。

去年から「カルチャーシード」という、子どもたちの文化体験を無料にしようという活動をしていて、チャンスがない子どもたちに門戸を開くことで、もう少しいい日本になればいいなと思ってるんです。

その活動も含めて、作品づくりもするかもしれませんが、自分でひっくり返せることから始めようと思います。「お金から自由になる」とか、「ひっくり返して見る」とか、その一歩を踏み出しやすくすることに取り組んでいきたいです。

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「カルチャーシードプロジェクト」

丹下さん 原発事故のときに強く思ったのは、自分たちがこの世界の一部当事者として責任があること、少なくとも責任を認めて努力することの大切さでした。

責任を取るというのは、何かを保証することではなくて、どう行動するかを示すことだと思うんです。その責任は自分たちも何らかの形で取らなきゃいけない。だから、自分もどう行動するかを示していかないといけない。

世界を変えることはできないかもしれないけれど、自分が変わることができるということを希望にして、自分というちっぽけな一人が変わることで、それを見ていたもう一人、またもう一人と変わっていくかもしれない。だから自分が変わる必要があると思うんです。

現代は複雑な社会なので、一つの突破口が見えたからってそれで全部が変わるわけではないけれど、ひとつひとつやっていかないといけない。時間はかかりますけど、やっていくしか無い。

戦争の問題は人類がどうしても立ち向かっていかなくてはならない問題だと思っているので、その中で自分が何をどうしたら一歩前に進むことができるのかをいつも考えています。そのためには自分が成熟するしか無い。

お金に負けないで社会の本質的な価値を見出していく方向に進みたいけど、その入口にも立てない憤りが自分の中にあって、だから小さな一歩ずつでも成熟したいってずっとあがいているんです。

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丹下紘希×SEALDs「Landscape of liberty」(自由の風景)

何がしたいのか、というよりはもはや「どう生きるか」という話になってしまっていますが、2人に共通しているのは身近なところから変えていくしかないということ。

理想を声高に叫ぶのではなく、自分自身が行動して、周りを着実に変えていくしか全体を変える方法はないということです。そのようなこれからのために、NOddINの活動はやはり欠かせないとも言います。

丹下さん これまでやってきて、仲間がいてよかったなというのはすごく思います。何人かで話すとか、そういうことがすごく大事で、そういうコミュニティができただけでも希望が持てます。意見がいろいろある中で、ちっぽけな自分としてどうあるか、その責任を全うしていきたいと思います。

関根さん メンバー同士がお互いに影響しあうことで、人生の選択肢も確実に前とは変わりました。

今まで意識してこなかったような選択肢を意識できるようになり、従来の経済の仕組みから逸脱したとしても、生き方としてはより正しいと信じて思い切り生きれるようになった。自分だけではなく、そういった人が関わりあって増えていくだけでも、いつかその価値を振り返ってよかったと思える時が来るのではないかと思っています。

自分という個人からスタートして、周りを少しずつ変えていく。NOddINは、そのようなあり方を私たちに示してくれます。

NOddINの作品を見て、そこで語られていることを自分自身に問い直すこと。自分が前進するために努力をし、それをコミュニティへと敷衍していくこと。今に危機感を感じているなら、そうやって自分が成長し、社会が成熟していくことを期待するしか無いということ。

『戦争のつくり方』やNOddINの他の作品を見て、まずは自分の視点を「ひっくり返して見る」ことを始めてみてはいかがでしょうか。
 
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