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社会を変えるには、何から始めればいい? 日本を代表する社会起業家たちが語り合った、「KRP-WEEKシンポジウム〜社会起業家があつい〜」をレポート!

KRP-WEEKシンポジウム2016

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

社会の課題を、ビジネスの手法で解決する“社会起業家”。近ごろでは「企業に就職するよりNPOなどで社会変革に取り組みたい」と、社会起業を目指す学生も増えているそう。今の若い世代にとって社会起業家は“憧れ”の対象にもなっているのです。

2016年8月1日、京都リサーチパーク(以下、KRP)にて、日本を代表する社会起業家が語り合う「KRP-WEEKシンポジウム〜社会起業家があつい〜」が開催されました。

基調講演に「一般社団法人リディラバ」代表理事の安部敏樹さん、パネリストには「株式会社ロフトワーク」代表取締役社長の諏訪光洋さん、「COS KYOTO株式会社」代表取締役の北林功さん、「株式会社坂ノ途中」代表取締役の小野邦彦さんが登壇。そして、モデレーターは多くの社会起業家を見てきた「greenz.jp」元編集長であり京都精華大学人文学部特任講師のYOSHこと兼松佳宏さんが務めました。

社会起業家たちがリアルな現場をありのままに語り合った、スリリングなシンポジウムの様子を一部抜粋し、レポート形式でお届けします。

今年6回目を迎える「KRP−WEEK」とは?

Opening_KRP-42

はじめに、「KRP」と「KRP−WEEK」について軽く触れておきたいと思います。

「KRP」は、1987年に大阪ガス京都工場跡地に設立された、京都の産業の研究開発およびベンチャービジネスを支援する組織です。賃貸オフィスや研究開発スペースの管理運営を行っており、現在KRP地区には約380の企業・組織が入居。4200人が集まる“まち”を形成しています。

「KRP−WEEK」は、KRP地区で行われているさまざまな活動を広く発信する、年に一度のイベントです。6回目となる今年は一週間に渡って大小60のイベントを展開。ピックアップイベントのひとつだった本シンポジウムには、学生、研究者、行政や企業関係者など約140名が全国から参加しました。

社会課題の解決を阻む3つの壁とは?「リディラバ」 安部敏樹さん

Ridilover 安部敏樹さん
2009年、「みんなが社会問題をスタディツアーにして発信・共有するプラットフォーム『リディラバ』」設立。これまでに4000人以上が約200種類のスタディツアーに参加した。現在、東京大学大学院博士課程に籍をおく29歳。特技は「マグロを素手で穫ること」。

基調講演「身近な“未来の変え方”について話そう―ソーシャルビジネス/デザインの今―」に登壇したのは安部敏樹さん。安部さんが、「リディラバ」を立ち上げたのは、「自分自身が社会問題の当事者であり、社会問題そのものだったから」だと言います。

実は、14歳の頃の安部さんは、家庭不和からお母さんに怪我を負わせ、家を出て路上や友人宅で暮らしていた“非行少年”でした。

安部さん 当時思っていたのは、「なぜ、世の中は、大人や先生はこうもオレに関心がないのか」ということ。駅前のコンビニでタバコを吸っていても誰も非行少年には声をかけてくれないんです。そして、大学に入って他の社会課題の現場に足を運んでみると、どの課題の当事者も同じことを言うわけです。「いや本当にね、誰も興味がないんだよ、こんな話に」と。

「なぜ、多くの社会問題は解決しないのか」を考えはじめた安部さんは、社会問題の当事者と非当事者を隔てている3つの壁があることに気づきました。「興味の壁(興味がない)」「情報の壁(よく知らない)」そして「現場の壁(関わり方がわからない)」。これらの壁を1つずつはがしていく方法として、スタディツアーや社会問題を伝えるメディア「TRAPRO」に着手しました。

安部さん 我々がやりたいのは「社会の無関心を打破」することです。世界中で毎日のように新たな社会問題が生まれ、気づかれないままになっています。そこに誰かが道路を通さないといけない。

「リディラバ」のツアーづくりは「無関心の人や、関心はあるけれど関わり方がわからない人と、社会問題の現場を結ぶ橋を架けること」。当事者だけでどうにもならないから社会問題なわけじゃないですか。その解決には、非当事者がどれだけ関われるかが大事なんです。

「リディラバ」のスタディツアーでは、当事者との交流の場や参加者同士の議論の場をつくるなど、参加者が社会問題の本質を理解するプロセスを設計。

また、それぞれの現場に関わるNPOの手を借りて、ツアー代金の売上をシェア。社会問題の現場に人とお金の流れをつくり、解決の一助としています。ツアーの後、参加者はボランティア、移住、転職、結婚など、大きな行動変化を見せることも多いそう。

2014年、「リディラバ」のスタディツアーは「観光庁長官賞を受賞。そして、観光立国閣僚会議で、社会課題・地域課題のスタディツアーを若者に促すことが政策に盛り込まれました。次のステップは、世界中にこのしくみを広めること。たった数年のうちに飛躍的に活動の幅を広げてきた安部さんですが、「身近な“未来の変え方”」について今はどう考えているのでしょうか?

安部さん 私ひとりで世界が変わることは絶対にあり得なくて。あらゆる人が、事業や消費活動を、社会課題起点のものに変えていって、その大きな集積が人類の歴史を変えるんだろうなと思っています。

そういう意味で言えば、すべての人は当事者であり得るわけで。日々の活動に、「社会を変える」という、課題を意識した活動を取り入れることを、みなさんと一緒にやっていけたらいいなと思っています。

「なにかひとつ、社会課題を起点とした活動を取り入れる」という身近な行動から未来は変わっていく。はっきりとした言葉で語られた安部さんのメッセージに、勇気づけられた人も多かったと思います。

課題の解決は、それを阻む壁を見ることから始まる

続いて、3人のパネリストが活動紹介のプレゼンテーションを行いました。最初に登壇したのは「ロフトワーク」諏訪光洋さんです。

・「株式会社ロフトワーク」 諏訪光洋さん
 
ロフトワーク諏訪光洋さん
2000年、長年の友人だった林千晶さんと一緒に、最初に立ち上げたクリエイターコミュニティ「loftwork.com」には、現在2万5000人が登録(うち約30%は海外から)。

「ロフトワーク」は、オープンコラボレーションを通じて、コンテンツ、コミュニケーション、空間などのデザインを手がけるクリエイティブ・エージェンシー。「loftwork.com」「OpenCU」など、クリエイターコミュニティを背景に、2012年にはものづくりカフェ「FabCafe」をオープンしました。

3Dプリンターやレーザーカッターなどを設置した「FabCafe」は、現在は世界6カ所に展開。国境やジャンルを越えたクリエイティブの発信地として、国内外の企業や行政とのコラボレーションを繰り広げています。

「自らを社会起業家だと思ったことはない」と言う諏訪さんですが、「ロフトワーク」と社会起業家の接点として、「オープン」と「コミュニティ」というキーワードを挙げました。

諏訪さん 僕らはクリエイティブやデザインを通して、新しいイノベーションを起こし、ソーシャルインパクトをつくることをテーマにしてきました。だから、社会起業家だとは思ったことはないけれど、デザイン、クリエイティブ、エンジニアリングは「社会課題を解決するツール」であることは間違いないです。

今「ロフトワーク」は、渋谷の真ん中に誰もがバイオテクノロジーに触れられる民間のバイオラボをつくるという新しい試みに着手しています。デジタルファブリケーションがものづくり業界を民主化したときに「FabCafe」がその一翼を担ったように、数年後にはバイオラボもバイオテクノロジーを個人の手元に届けるというインパクトを起こしそうです。
 
・「COS KYOTO株式会社」 北林功さん
次に登壇したのは、「COS KYOTO」の北林功さん。「地場産業をグローバルな“文化ビジネス”にする」という新しい仕事に取り組んでいます。
 
COS KYOTO 北林功さん
社名の「COS」には「地場産業のつくり手たちのいいものを抽出して洗練する=漉す」という意味が込められているそう。

北林さん 文化ビジネスというのは「世界のなかでそこにしかない文化的価値を持つビジネス」のこと。世界中どこにいても同じサービスを受けられることを目指すのもグローバルビジネスかもしれませんが、世界中の人が欲しくなる「そこにしかない価値を持つものを提供すること」もグローバルビジネスではないかと思うんです。

歴史ある伝統産業や地場産業では、分業化が進んで「つくり手」と「使い手」の距離が開いてしまったことによる、「つくり手と使い手の喜びの喪失」も大きな課題。「つくり手と使い手の直接的な対話のなかで、魅力的なものが生みだされ、背景にある想いも届く」しくみをつくるために、「文化ビジネスのコーディネーター」が必要だと北林さんは考えています。

今、北林さんが取り組んでいるのは、各地の地場産業のもとに「文化ビジネスコーディネーター」を育て、全国的なネットワークをつくること。日本中の「良いもの」を受け継ぎ、世界へ、そして未来へと伝えていこうとしています。
 
・「株式会社坂ノ途中 小野邦彦」さん
最後に登壇したのは、以前「greenz.jp」でもご紹介したことがある「坂ノ途中」の小野邦彦さん。
 
坂の途中 小野邦彦さん
「坂ノ途中」では、新たに農業に挑戦する人たちと連携し、オーガニックでおいしい野菜を中心に販売。目指すのは「新規就農者はじめ中山間地域で活躍できる小中規模の農家を支え増やしていくプラットフォームづくり」です。

小野さんによると、「農業は人類が持つツールのなかで最大の環境破壊要因」。これまでに人類がダメにした農地面積は約20億haで、砂漠化の一大要因にもなっているそう。

農地を痩せさせてきた原因は、歴史的には「過放牧」と「過灌水」でした。農薬や化学肥料に代表される外部資材依存型の現代農業は、かつてない規模と速度で農地にダメージを与えています。今、世界中の国々が土壌を損なわない農業への転換に取り組んでいます。

小野さん ドイツやフランスは全農地の4〜6%がオーガニックになっていますが、日本はわずか0.4%。

しかし、今の日本には「農地が空いていく一方で、都市部にはオーガニックやそれに準ずる農業をやりたい人が増えている」という特殊なシチュエーションがあります。つまり、空いた農地に新規就農者を送り込むことが、農業を変える最短距離だというのが、僕の思っていることです。

新規就農者の弱点は「生産量が少量不安定なので販路が広がらないこと」。そこで「坂ノ途中」は複数の新規就農者と連携。栽培計画の全体最適を図ることや、密なやり取りを丁寧に続けることで安定性を確保し、レストランへの卸から、個人向け通販へと販路を広げていきました。「未来から前借りしない今」をつくるために、小野さんたちの地道で力強い活動は続きます。

地に足の着いたリアルな「社会起業家」とは?

最後は、パネルディスカッション「社会起業家のリアル」。冒頭に、モデレーターのYOSHさんからパネリストのプレゼンへの感想が伝えられました。
 
YOSHさん
現在は京都精華大学人文学部の特任講師として教鞭をとるYOSHさん。greenz,jp編集長時代に数多くの社会起業家を見てきたYOSHさんは、今回のシンポジウムに最適なモデレーター。パネリストのみなさんも本音を話しやすかったようです。

YOSHさん 僕がずっと編集長として「社会起業家」にワクワクしてきたのは、ややこしい課題があるからこそ必然的に生まれてきた逆転の発想なんです。「その手があったか!」というイノベーションは、現場から生まれるんだなあと、改めて感じました。

ただ、その上で思ったのは、「社会起業家」や「ソーシャルデザイナー」という呼称は、あくまで周りから言われるもので、本人の自覚があまりない方が収まりがいいのかな、ということ。

そして、本来すべての仕事は社会的なものなのに、敢えてカテゴライズが必要なのだとすれば、「社会起業家」という言葉を軸に、仕事の原点を探っていくということの意義は大きい、ということです。

だからこそYOSHさんは、「社会起業家のいい面ばかりではなく、泥臭くて地道な姿も観てほしい」と3つの質問を用意。「1. 仕事の手応え、難しさ」「2. 事業をスケールさせるときに感じた矛盾や難しさ」「3. 京都で事業をつくることの可能性」を軸に展開しました。
 
1. 「社会をゼロから考え直すエクスタシーが喜び」(安部さん)

ひとつめの質問に最初に答えたのは安部さん。「多くの人が課題として認識するけれども、その解決に市場原理が働かない分野に対応するために、「たとえばCO2のように計測できたら、社会課題は市場原理に組み込めるかもしれない」と考えているそう。
 
KRP-WEEKシンポジウム2016

安部さん 僕のひとつの目標として「社会とは何か」という問いに踏み込んで、「計りたい」と思っています。

少なくとも民主主義や貨幣経済は、3〜4000年続いていますが、僕はそれらをゼロからデザインしなおせるパースペクティブを持てる時代に生まれて、人によっては次のしくみについてもある程度答えが見えています。

もしも、5000年後に地球が滅亡して人類が火星にいたとしても、人類が生き残っていればそこに“社会”はある。そのときに機能するものを自分で考えてつくることに、めちゃくちゃエクスタシーを感じます。

一方で、諏訪さんはまったく違うところで、仕事の手応えや喜びを感じているようです。

諏訪さん 僕は、特にクリエイティブなドライブがきく分野において、戦略を考えられたら何でも楽しい。でもね、実際には会社を営むこと、ビジネスをデザインすることは課題の固まりなんです。そこに埋没して目先の課題を解決しながら、大きな社会課題にも取り組む。行ったり来たりしながら、そのストラクチャーをデザインしていくのが、僕はすっごく楽しいですよね。

北林さんは「文化ビジネスのコーディネーター」という、今までの世の中にないしくみをつくることの難しさ、小野さんはスタッフや提携農家さんの成長を感じる喜びについて語りました。
 
2. 「成功体験を壊し続け、リーダーシップを変容させる」(小野さん)

ふたつめの質問は、「事業をスケールさせるときに感じた矛盾や難しさ」。これには、組織づくりの側面から小野さんが答えました。
 
KRP-WEEKシンポジウム2016

立ち上げ期のメンバーにはマイクロマネジメントで「細かく指示して最短距離を走った」という小野さんですが、15人を超えたあたりからそのやり方には限界を感じたそう。

小野さん そこで、がらっと変えて「鷹揚なリーダーシップ」を意識するようにしました。

たぶん、会社のステージによってリーダーもフォロワーも求められる役割が違うと思っていて。でも、リーダーは立ち上げがうまくいったらそれが成功体験になってしまい「これがオレのやり方だ!」とこだわりがち。一度うまくいっても、そのやり方を壊し続けることが大事だと思います。

また、北林さんがスケールアウトの最終イメージとして「社会のインフラになる」と発言すると、ほとんどのパネリストが同意。小野さんは「持ち上げられているうちは、体制側から脅威だと認識されていない。脅威として見なされてはじめて事業として迫力が出てくる」と話しました。
 
3. 「1200年の重みに常に試されるのが京都」(北林さん)

最後の質問「京都で事業をつくることの可能性」には、京都で学生時代を過ごした小野さんと北林さんが答えました。偶然ですが、ふたりとも出身は奈良。京都以上に古い歴史の流れにある土地に生まれ育ち閉塞感を感じていたそうです。
 
KRP-WEEKシンポジウム2016

小野さん 18歳のとき、大学進学を機に京都に来て、やっと息を吸えるようになった気がします。

京都は、「自由さ」や「変さ」を許す風潮があると思っていて、それがしっくりきました。なので坂ノ途中をスタートするときも、当然京都でやろうと思いました。京都は「とりあえず何かやってみる」ためには、とてもいいまちだと思います。

北林さん 京都は1200年間も都だったまち。生半可な知識や美意識で変革しようとすると、1200年分の重みで突っ返されるんです。

本質的なところから考えないと「本当はどうなんだ?」と試される。だからこそ、京都をクリアできるなら、世界に広がる可能性を持てます。そんなまちは、世界でも京都だけなのかなと思います。

最後に、諏訪さんから「これから起業するなら、誰かと一緒にやるといいと思う」とアドバイスがありました。

諏訪さん 10年を越えて組織が大きくなると経営者は孤独になってくるんです。「どうしてオレをわかってくれないんだ!」と孤高の人になってしまうこともある。

誰かと一緒にやっているとプロフィットは半分だけど、いろんな喜びや悲しみを共有して半分にできる。社会課題をハブにする場合は、パートナーになりうる人は見つけやすいと思うしお薦めします。

起業から16年目の諏訪さんの言葉からは、事業のスケールに合わせて現れる、さまざまな課題に向き合ってきた経験の重みが感じられました。

社会起業家には、「世の中にいいことをして、ビジネスとしても成功している人」という、きらきらしたイメージがあります。しかし、彼らは最初から「きらきらした人たち」だったわけではありません。当然ながら、誰にも「最初の一歩」があり、人知れず壁にぶちあたってヘトヘトになることもあったのです。

今、はじめの一歩を踏み出したばかりの人、壁にぶち当たって汗だくになっている人、そして経営者の孤独を感じている人……読者のみなさんは、それぞれの現場でいろんなフェーズにあると思います。

このレポート記事を共有することで、みなさんがご自身の現場で感じていることを見直したり、言語化するきっかけになればとてもうれしく思います。