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キーワードは”豪族2.0″! これからは一旗あげるために地方へ行く。発酵デザイナー・小倉ヒラクさんが考える、今とこれからの日本のカタチ

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発酵デザイナー・小倉ヒラクさん

目に見えないものを、信じるか、信じないか。

よく話題にのぼるテーマです。でもじつは、信じる信じないという以前に、見えないものによって刻々と具象が変化するさまを、私たちは日々、目の当たりにしています。その最たるものが“発酵”ではないでしょうか。

味噌、醤油、お酒、お酢、みりん、納豆、キムチ、チーズ…。目に見えない微生物(発酵菌)の働きによってつくられた発酵食品は、私たちの身の回りに溢れています。

そんな発酵の世界に魅了されてしまったのが、今回お話を伺った小倉ヒラクさんです。菌のことがあんまり好きになりすぎて、2104年に肩書きを普通のデザイナーから「発酵デザイナー」に変え、東京農業大学の醸造学科の研究生にまでなってしまったという、日本で唯一の発酵デザイナーです。
 

唄って踊ってこうじの魅力を伝える「こうじのうた」。こうじにまつわるさまざまな人が参加した「こうじのうたプロジェクト」から生まれました。

ヒラクさんによれば、発酵デザイナーの定義は“目に見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにすること”。

それは図らずも、発酵というフィルターを通して社会をより良くするという、ソーシャルデザインとしての側面ももっていました。

決まったフレームの中で考えていた事象を微生物視点から見ると、面白い見方ができるんですよ。それを研究していくのが僕の役割のひとつだと思っています。

そこで、発酵デザイナーとして活動する中で見えてきた「これからの日本のカタチ」について、じっくりお話していただきました!

日本社会はいったいどこへ向かうのか。

一見、大仰なこのテーマがなぜだかそれほど大仰ではないような気がしてくる、小倉ヒラクさんのニホン未来予想図。まずはヒラクさんの現在を紐解くところから見ていきましょう。

発酵に触れて、熱い社会と冷たい社会のバランスを取る

僕は学生の頃から生物学と文化人類学を学んできました。生命の原理は何かっていうことと、どうして世の中にはこんなに多様な文化があって多様な人間がいるのかっていうことがずっと気になっているんです。その抽象的なテーマが行き着くところが、僕の中では発酵だったんですね。

発酵を知ると微生物のことがわかり、微生物のことがわかると生命の根本原理が理解できます。生物学的な欲求が満たされる一方、発酵食品や発酵文化は世界中にあり、驚くほどの多様性があります。それが、文化人類学的に見ると、すごく興味深いのだとヒラクさん。
 
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現在『ソトコト』で連載中の「発酵文化人類学」は、文化人類学的視点で発酵と社会とを捉えたユニークなコラム。DVD絵本「おうちでかんたんこうじづくり」も絶賛発売中です

そして、麹や日本酒を初めとした近年の発酵ブームは、文化人類学的に見ると、起こるべくして起こったのではないかと考えているそう。その根拠のひとつが、文化人類学者のレヴィ・ストロースが言っている“熱い社会と冷たい社会の存在”です。

熱い社会とは、常に変化を求めて、何かを前進させようとするせっかちなもので、現代文明がこれにあたります。それに対して冷たい社会は、円環的な時間構造になっていて、同じサイクルがずっと繰り返される社会です。いわゆる循環型社会みたいなイメージでしょうか。

僕も含めて、どうしてみんな、こんなに発酵にのめり込んでいくのかをずっと考えていました。

僕は醸造家の人たちとも仲がいいんですけど、みんなすごく穏やかで気っ風がいいんです。一緒にいるときの時間の流れ方とかこの世界に対する向き合い方の寛容さとか、これはいったいなんなんだろうって思っていました。

で、いろいろ考えた結果、目に見えず、かつ自分の思うようにならない微生物に毎日向き合うことで、レヴィ・ストロースのいう円環構造の中にちゃんと片足をかけていて、バランスが取れているんだろうなって思ったんです。

人間の原理とまったく違った、コントロールできないもの(微生物)とうまく関係を結んだとき、それは自分の暮らしをとても豊かにしてくれます。そして、ファストになりがちな社会(熱い社会)とのバランスをとっていくことができるのです。

麹づくりを通して、何千年も蓄積してきた世界の見方を取り戻す

そして、日本で暮らす私たちひとりひとりも、無意識のうちにそれを求めています。

たとえば、ヒラクさんの主催する麹(こうじ)づくりワークショップはたちまち予約が埋まり、口コミでその評判が広まると、開催してほしいという依頼が全国から殺到するようになりました。
 
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麹づくりワークショップの様子。性別も世代もさまざまです

これには、そもそも日本人がもっている特徴的な感性が関係しています。

僕が発酵デザイナーをやっている中でわかってきたのが、日本人は目に見えない自然から力を借りるのが得意だということ。

なぜ得意になったかというと、四季があって菌の種類が多い土地だからです。自分たちの心持ちとテクニック次第で、腐りもすれば発酵もする。だから必然的に、見えない自然を解き明かして自分たちの暮らしに取り入れる作業を1000年以上も続けてきたんです。

ところが、もともとそういう感性をもっているのに“目に見えるもの、測れるものしか信じちゃいけません”という理屈の元に成り立っているのが現代社会です。そこで「なんだかしっくりこないなぁ」と誰もが感じているのだそうです。

その反動として「麹菌育てたい人!」って聞いたら「はいはいはいはい!」って手が挙がる。

麹を手づくりするなんて本当はとっても非効率。だけど、それをやることによって、みんな無意識にバランスを取ろうとしているんだよね。つくって、育てて次の世代へと生命を継承していく。要は、自分たちが原点として何千年も蓄積してきた世界の見方をもう1回取り戻したいっていう話なんです。

これはDNAレベルの、無意識下の日本のカタチのお話です。最近のDIYムーブメントやものづくり回帰も、そのあたりが関係しているのではないかとヒラクさん。

社会投資としてのマーケットを拡大しよう

しかし、残念ながら社会としては、不自然さが完全に消えることはないだろうと考えています。では、その不自然さを少しでも軽減するためにはどうしたらいいのでしょうか。

僕は、グローバル標準でお金をいっぱいかける今の経済とはちがう、ウラ経済をつくったほうがいいと思います。均質化されていないマーケットをつくるんです。

それを国家全体でやるようなプランは絶対に出てこないと思うから、自分たちでやるしかないでしょうね。

ヒラクさんは“社会に対しての投資家として振る舞うマーケット”ができ始めていると感じています。

ちなみに僕は、それを実践してるんです。たとえば、この家の床材は、岡山県の西粟倉村から買いました。向こうの部屋の床材は東京の林業家の方から。そういうふうに、この家に置いてあるプロダクトって、同じ価値観をもつ知り合いがかかわっているものが多いんです。

それって、僕の中では買い物であると同時に、投資なんですね。

直接僕に返ってくるわけじゃないけど、僕はこの社会をもう少しマシにしようと思ってこういう仕事をやっているわけだから、大きなところで返ってくる。今後はみんなで、そのボリュームを増やしていくしかないと思います。

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インタビューは山梨県甲州市のヒラクさんのご自宅で行ないました。引っ越してきたときには床がなかった(!)という古い家屋を、コツコツDIYしながら暮らしています。無垢材のいい香りが漂っていました

これからは地方豪族が増えていく!

そしてもうひとつ、「これからの日本のカタチ」を語る上で、ヒラクさんがかなりの確率で当たるモデルだと予測したのが地方豪族の進化系「豪族2.0」の台頭です。

「この間、タルマーリーの格(イタル)さんが、うちに遊びにきたんです」とヒラクさんが切り出しました。

タルマーリーは天然酵母パン屋として知られ、現在は鳥取県の智頭村に移住して、パンに加えてビール製造も手がけていこうと動いているヒラクさんの発酵仲間です。グリーンズでも以前にこちらの記事で紹介させていただきました。

その時に、明らかに今、日本は天下泰平の世から動乱の時代に向かっていて、「これからは地方豪族が増えていく」って話ですごい盛り上がったんです。

地方豪族? それっていったい、なんですか?

真の実力者が、地方から現れる

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つまり今、地方に行くということは、その土地で一旗あげるっていうことなんですよ。

大きな政治は“グローバルスタンダードな勝ち組国家モデル”を推進しようとするだろうけれど、おそらく壮大にコケます。で、イチ企業にとどまらず“クニ”を経営することに情熱を傾けて、多くの人の共感を得る真の実力者が地方から現れるんです。

確かに今、バイタリティに溢れた人々が次々と地方に移住して、これまでにない新しい動きを見せ始めています。そこでは、産業が育ち、独自の文化が形成され、勢いのあるコミュニティが生まれているのです。

かくいうヒラクさん自身も、今年の春に山梨県甲州市に移住したばかり。

おそらく、僕とか格さんは、無意識にその流れをキャッチして、(地方に)動いたんですね。

今後は、どう消費するかじゃなくて、みんながどうやってサバイブするかの話になります。僕が、水がいいから山梨県に移住しましたっていっても、今は都会の人には全然意味がわからないかもしれない。

でもこれから、基本の社会インフラのコストはどんどん上がるから、そこを押さえておくって大事なことです。うちはお金をかけずにきれいな水が飲める、それってお金とは別のカタチの資本を蓄積しているっていうことでしょう。そうすると、そこにいっぱい人が集まってきて、勢力が拡大できるわけ。

“生き延びる道を試行錯誤する”最適解としての地方移住

ここ数年の移住ムーブメントも、みんながその流れを察知して起きているのではないかと考えられるそうですが、単に“丁寧に暮らしたい”とか“田舎暮らしをしたい”というだけでは、足元を掬われると指摘します。

なぜなら、動乱の時代だから(笑) 動乱の時代に地方に行くのは“ライフスタイルの追究”じゃなくて“生き延びる道を試行錯誤する”ための最適解なんです。

生き延びるために、開けた場所でなんでもつくる。生き延びるために、仲間を集めてコミュニティをつくる。生き延びるために、多様なコミュニティが交易をするクニをつくるんです。

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庭に張り出したウッドデッキも手づくりしたもの

天下泰平の時代は何をやっても成功するから、パターンは少ないほうが効率がいいということになります。そこで中央で大きく管理し、分業して、ひとつのモデルだけで安定的に動かすというのが基本的な構造です。

そんな時代は、地方移住はひとつの“ライフスタイルの追求”でした。退職後のセカンドライフとかね。それがまさにこれまでの日本社会です。

対して動乱の時代は、生き延びるための手段として、“中央から離れて、なんでも自分でつくる”ということが始まります。つまり、脱中央化と脱分業化が進むのです。

そうすると、全体性を備えた小さなモデルがいっぱい生まれます。たとえば、国の財政がウルトラ傾いているのに、そこの村だけは儲かってる、みたいな状況があちこちで起こる。別のカタチで力をもつ地方豪族が、この先、どんどん登場すると思いますよ。

地方豪族の進化系「豪族2.0」とは?

ヒラクさんが予想する未来の社会像はこうです。

まず東京はシンガポールのようにメガロポリス化します。そこにはいろいろな国の人が出入りして、世界の情報集積都市のひとつとして、維持されます。対して地方では、ほかでは真似できないユニークなサービスやプロダクトが生まれます。

すると、日本社会全体は下り坂になっていく中で、局所的には盛り上がる、という現象が頻発するのです。それが「豪族2.0」と呼ばれる人たちの台頭です。

それは自給自足するということとも違います。人間が本当にサバイバルな状況に陥れば、自給自足では飽き足らず、むしろ進んで貿易するようになるものなのだそう。

今後はサバイバルする、生き延びるっていうことが僕たちの人生のテーマになっていきます。 生き延びるために頑張る人生って結構悪くないんじゃないかなと僕は思いますけどね。

行動すれば、社会は変わる

動乱の時代、サバイバル、などと聞くとなんだか憂鬱に感じる人もいるかもしれません。けれども、よくよく想像してみましょう。

自分たちで自分たちの暮らしを切り拓き、いいものをクリエイトして、同じような価値観をもつ“クニ”と交易を行う。ある意味で、理想の社会をゼロからつくりあげるようなものです。それってなんだかやりがいがあって楽しそうじゃないですか?

楽しいよ。物を売ったり買ったりつくったりするのが、楽しくて仕方がなくなります。生き延びるために、みんなすごく力をつける。独自の経済圏をつくったり、コミュニティをつくったりも当然する。それは楽しいに決まっています。

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標高1000m近くの高台に建つヒラクさんのお家からまちを見下ろすと、なんだか天下とった感が満載です

ちなみに「豪族2.0」予備軍となったヒラクさんの野望は、麹づくりを1000人に教えること! 意外にも、とても具体的な行動目標でした。

本当に1000人に教えたら、そのうちの20分の1ぐらいは、また別の人に麹づくりを教えるような気がするんですよね。で、その人たちがまた別の人に教える。

そういうプロセスを繰り返すと、結構な規模で広がって、結果的に社会を変えていくことになるんじゃないかなと思っています。生命をつくって育てることを主眼に置くような、原点回帰の世界に生きる人たちが増えていく。

ブログではいろいろ言ってるけど、僕はデザイナーだし発酵の研究家だから、哲学的なことはあんまり本質ではなくて、実践してもらうことが大切なんです。で、そういうことを意識的にやろうとしています。

これからの日本で、どう生き延びて、どう未来を変えていくのか。それが、ひたすら大変なものになるのか、楽しいものになるのかは、きっとこれからの、ひとりひとりの行動次第。

で、あるならば。世知辛い世の中を楽しく生き延びていくために、あるいは豪族になるために(笑)、いったい何をしましょうか(ワクワク)?