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福井豪雨の支援からはじまった未来の地域づくり。グッドデザイン賞も受賞した「河和田アートキャンプ」って知ってる?(第一回)

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みなさんは、「河和田アートキャンプ」って知っていますか?

河和田アートキャンプとは、京都精華大学を中心に、地域内外の有志学生たちと地域住民とが主体となって協働でおこなう「地域づくりプロジェクト」です。福井県鯖江市の里山、人口4,400人の河和田地区を舞台に、全国から学生たちが集まり、共同生活しながらさまざまなアート作品をつくっていくという試みです。

毎年8月に開催され、去年で10年目。毎年100人もの学生が古民家、一つ屋根の下で共同生活しながらアート製作に取り組んできました。今回、河和田アートキャンプの10年間の取組みと最新プロジェクトを取材しました。全4話でおとどけします。
 
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河和田アートキャンプの拠点となる古民家。地元の古い神社の参道にあります。この古民家に学生たちが40日間共同生活し、地域のひとたちといっしょにアート作品を制作します。写真:大田理子

いま全国で地域アートフェスが盛んですが、河和田アートキャンプは他のアートフェスとはちょっと趣が異なります。

「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」に代表される地域アートイベントは、有名アーティストを地域へ招聘し、いわば美術館を里山に移したタイプものですが、河和田アートキャンプは著名なアーティストを集めたりするものではありません。

いわばアーティストの卵、アートを学ぶ学生たちが地域住民と出会い、地域の暮らしのなかに入っていって一緒に作品をつくりあげていきます。
 
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学生たちがつくる河和田フリーペーパーのファッションページ撮影。河和田に住んでいる方々の昔着ていた服やおしゃれな服で若者をコーディネートした写真を掲載。

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水害にあった養鶏場をギャラリースペースにして作品が展示される。写真:中西朝美

この河和田アートキャンプはアート作品をつくるのが目的ではありません。目的は「芸術が社会に貢献すること」。アート作品はそのコミュニケーション手段としてつかわれます。

地域を知るなかで表現がうまれていく、さらにいえば若者たちの好奇心や創造性と地域の課題がむすびついた”関係性のアート”であり、里山を舞台とした”社会彫刻”といえるのかもしれません。

きっかけは福井豪雨

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河和田アートキャンプの総合ディレクターの片木孝治さん(左)と筆者(右)写真:中西朝美

河和田アートキャンプの総合プロデューサーを務めるのが、応用芸術研究所を主宰する片木孝治さんです。片木さんはこれまで多数の環境芸術のディレクションや、建築と地域づくりを手掛けてきました。

もともと2003年から京都で、科学×芸術というプロジェクトに参加していました。

これは主に環境問題の啓発活動で、研究者が扱う数値や専門用語ではわかりにくい内容、たとえばCO2の体積を可視化するための風船などアートの表現を介することで、一般の人々にも直観的に分かり易く伝える…といった試みでした。

京都大学の環境保全センターの浅利美鈴先生をはじめ、有志の若手研究者や芸術家などと一緒に取り組んでいました。

そんな片木さんのところに一枚の写真がとどきます。

2004年の7月18日。福井豪雨。九頭竜川水系の足羽川や清滝川の堤防が決壊し、河和田地区でも多数の浸水害が生じました。
 
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それは福井豪雨によって破壊された街と、その災害ゴミが山になった被災地の写真でした。環境プロジェクトに取り組んでいた私達にとって、京都での啓発活動だけでなく、被災地(温暖化が原因)へ赴き、災害支援といった行動をするべきではないか? といった議論になりました。

そこで片木さんたちは、被災地支援のために災害ゴミの分別支援や環境塾(研究者からのアクション)、また、災害ゴミを有効利用した、アートをつくるワークショップ「子供たちを元気にする企画」(芸術家からのアクション)などをはじめました。
 
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水害直後の2004年度は6~7人の学生を含む、科学×芸術プロジェクトメンバーと現地に入り、NLK(new letters from Kyoto)というコンセプトをもったチーム名をつくって、活動がスタートしました。京都議定書が締結された京都から・・・というメッセージです。

この初年度の時点では、未だアートキャンプとしての形式ではなく、災害支援のアートワークショップとしての始まりでした。

福井豪雨では河和田を含む広域が被災。近隣の「越前和紙」の産地の今立では、出荷用のロール和紙の下半分が水に浸かって廃棄しなければならなくなり「もったいない」と多くの和紙の提供がありました。

こういった廃棄されるものからアートをつくるワークショップをおこないます。

「てるてる坊主」をつくるワークショップをしたんです。地域のひとに水害を乗り越えて「明日、元気(天気)になあれ」というメッセージを込めて。その和紙に手紙を書いて、てるてる坊主をつくってもらいました。

地域の方々はもちろん、旅行でこられたかたなどにも旅行記風に手紙もつけました。これは象徴的なプロジェクトになりました。

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さらに片木さんは、学生たちといっしょにアートで子どもたちを元気にしようと考えます。

この年、災害復旧に8月いっぱいかかかり、子どもたちの夏の楽しみは失われてしまっていました。地域のひとたちといっしょになってアートでつながる試みがはじまります。

さらに福井豪雨の一年後の2005年7月18日にも、500個のてるてる坊主を並べたセレモニーをおこないました。

実はそれがアートキャンプのはじまりでした。本来ですと被災地支援は復興したらそこで終わりなんですが、僕たちには地域との接点ができていたんです。

水害はあったけれど、それは自然のことだから仕方がない。けれど、もともと河和田には漆器など地場産業の衰退と高齢化が課題があったんです。「学生たちの力で地域を元気にしてもらえないか」という声が地域からもあった。

「災害支援」としてボランティアで入った学生たちと地域のひとたちの交流。そこでできた縁を大切にしたいと片木さんは考えます。片木さんは、夏休みに建築学科の学生たちを連れて毎年、河和田へと通うことにしました。

やがて「未来への地域振興」のためのプロジェクトとして動きはじめます。期間も「夏の1ヶ月間から四季を通した年間活動」へと移行、そこから毎年のアートキャンプがはじまりました。

地域デザインでグッドデザイン賞!

そして2014年、河和田アートキャンプはグッドデザイン賞を受賞しました。「都市づくり、地域づくり、コミュニティづくり」というカテゴリーでの受賞です。

デザインコンセプトは「芸術が社会に貢献できることとは何か=創造の原点を、自身が生活する社会に置くこと」その10年間のとりくみが評価されました。
 
いまデザインの領域がいまひろがっています。ファッションやグラフィックデザイン、工業デザインだけではなく、コミュニティデザイン、ソーシャルデザイン、地域デザイン、さらには農業の領域でのパーマカルチャーデザインなど。

そんななかで地域デザインのひとつのモデルとして、河和田アートキャンプは注目されています。
 
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アートキャンプには海外からの留学生も参加しています。モデルはオランダからの留学生のロッテ。美人さんです。写真:ゴン

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作品の撮影も学生たち自身でおこないます。写真:北川智咲季

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地元のおばあちゃんに古着を提供いただき、洋服の思い出話やお洋服へのこだわりも取材してフリーペーパーで記事にします。古着は若者の感覚でコーディネイト。河和田のフリーペーパーのファッションページをつくります。ひとつひとつの企画が地域のひととの交流のなかでうまれていきます。

福井県鯖江市は「めがねのまち」として全国に名前が知られていますが、じつは「越前漆器」「越前和紙」「越前箪笥」など、伝統工芸の息づくまちでもあります。

江戸時代のむかしから全国を渡り歩いた職人さんたちが、最終的に終の住処とするといわれるものづくりのまち。むろんそこには高齢化や後継者問題、ものづくりの課題もあります。

そもそも「アート」と「工芸」が別のものになったのはヨーロッパの近代から。日本においての美はまずは「職人」の世界であり、美術館に展示するものですらなく、暮らしに寄り添うものでした。

河和田アートキャンプはアートを学ぶ学生たちが、河和田の集落のひとたちと交流し地域を活性化させていくなかで、10年間で100以上のプロジェクトが立ち上がりました。参加者数は累計約1,300人を超え、在籍する大学の数は全国39大学にのぼります。

連載二回目となる次の記事では、「林業とアート」「農業とアート」「伝統とアート」「産業とアート」「学育とアート」「食育とアート」「健康とアート」という7つの切り口から、それらのプロジェクトをお伝えしたいと思います。どうぞ、お楽しみに!

– INFORMATION –

 
河和田アートキャンプ2015への参加申し込みは、こちら!
http://goo.gl/forms/5V3nXjFAOA