今年2月に世界的な環境学者デヴィッド・スズキ氏が来日しました。
娘であるセヴァン・カリス=スズキとともに、世界で地球環境の保全に著しい貢献をされた方々を顕彰する「KYOTO地球環境の殿堂」について、第7回の殿堂入り者として選ばれ、その授賞式に参加のための来日です。そして2月13日に授賞式が行われ、授賞式後の2月14日に東京で来日講演イベントが行われました。
昨日公開した前編では、そんなバレンタインデーの日に行われた、デヴィッドさんのスペシャルトークをお届けしましたが、今回は後半に開催されたトークセッションの様子をお届けします。
第2部 トークセッション
「ワールドシフトな生き方へ!~空気・水・火・土・多様性」
デヴィッド・スズキ博士は人類をささえるのは「5つのエレメント(基本要素)」だといいます。
それは、「空気」「水」「土」「太陽エネルギー」「生物多様性」の5つ。
私たちの生命は、これらのエレメント(基本要素)によって支えられています。そして、私たちの食物のほとんどは生きものであり、それらひとつひとつがやはり同じ5つの要素によって生きている、と考えているのです。この「5つのエレメント(基本要素)」を基軸として地球との関係を考えていく、というのが第2部の趣旨です。
食物を安定的に得る知恵であったはずの農業が、生命の基盤であるはずのこれら5つの要素を汚染したり、劣化させたり、破壊しています。そして世界中の耕作地のほとんどに農薬が撒かれています。
その農薬は一体どこに行くのでしょうか。生態系を汚染し、食品を汚染し、さらに生物の多様性を損います。そしてもちろん、汚染された水や空気や食べものを、僕たちは結局、自分の中に取り込むことになるのです。
一体、我々は経済成長やGDPの名のもとに、未来の世代から何を奪い、どんな負の遺産を残していこうとしているのでしょうか。親として、親になる者として、僕たちはその問いに向き合わねばならないと、デヴィッド・スズキ博士は言います。
そこで第二部では、「ワールドシフトな生き方へ!~空気・水・火・土・多様性」と題して、「火(エネルギー)」、「水」、「土」、「空気(気候変動)」の分野でそれぞれ具体的な活動、そして解決策を実践している人たちが登場。
筆者(谷崎テトラ・ワールドシフトネットワークジャパン代表理事)が進行させていただきました。この5つのエレメントを考えることで、「ワールドシフト」(持続可能な文明への転換)を考える手がかりとなるのではないか。第二部はそんな流れではじまりました。
「火」Energy:中村隆市(ウィンドファーム)
「土」Soil:藤岡亜美(ナマケモノ倶楽部/Slowwatercafe)
「水」Water:並河進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン)
「生物多様性」Biodiversity:つなげよう森川里海
谷崎 まずは持続可能な社会への転換(WorldShift:ワールドシフト)という言葉について、僕からお話しさせていただきます。ワールドシフトというのは、ワールドという言葉とシフトという言葉を組み合わせた一つの造語。文明そのものを転換していくということです。
「ワールドシフト」とは、システム哲学者アーヴィン・ラズロ博士やゴルバチョフ元大統領などが属する世界賢人会議「ブダペストクラブ」が、持続可能な社会への転換(WorldShift:ワールドシフト)の緊急提言を行ったことからはじまった世界的なムーブメントです。
個人レベルの意識と行動の変化を根底として、国境や民族の壁を越えて、また政治やビジネスでのリーダーシップ、市民セクター、メディアなど、あらゆるセクターが、分断された関係を越えて、ともにワールドシフトの提言を行うことで、社会のシフトを促していくことを目標としています。http://www.worldshift.jp/
さきほどデヴィッドさんがお話しいただいたように、我々がつながりというものを忘れてしまっているこの社会。その中から、もう一度つながりを取り戻していくということを一つのテーマとして考えています。
WorldShift 。持続可能な社会にむけて、各自がシフトを宣言することでつながることができる。http://www.worldshift.jp/
谷崎 今日は地球へのラブレターということで、我々の人類の歴史は10万年あるんですけど、この地球の映像を見てからまだ50年経っていないですね。1968年12月のアポロ。
自分は51歳なんですが、自分が生まれた時には、地球人はこれをまだ見たことがなかった。今、新しい地球というが本当に生まれてきたんだということ、これがワールドシフトの前提です。
1986年アポロ8号から見た「地球の出」。Earthrise | NASA The Earth is seen rising above the lunar horizon from the Apollo 8 spacecraft.
谷崎 現在、人類は72億です。20世紀中に人類は約3倍になりました。このままいくと2050年に93億になり、100億に達するとも言われています。この中で、「土壌」「水」「大気」「生物多様性」「エネルギー」など5つのエレメントを、100億の人類が共有していかなければならないというのが大前提です。
ただコンピュータシミュレーションしてみると、今のままだと人類文明は81億までいったところで、崩壊する可能性があると環境学者ヨルゲン・サンダースは言っています。おそらく2020年から30年の間にブレイクダウンしてしまう可能性がある。今こそシフトする必要がある、文明そのものの転換が必要だと言っています。
この20年で起きたことをざっと駆け足で見ていきますと、1990年代以降に地球から失われたのはアルゼンチンの国土以上の森が失われています。CO2の排出量は92年と比べると36%増えています。そして、4万種の生物多様性が失われています。2010年から2年間でソマリアは26万人の人が飢饉で餓死しています。
生態系の危機、経済の危機、社会の危機は相互に結びついています。ひとつひとつの問題を一個一個片付けるのではなくて、全体の価値観というものを変えていかないといけないということです。それぞれの人がそれぞれのシフトというのを宣言して宣言することによってつながっていくというのがワールドシフトの考え方です。
ヨルゲン・ランダース「2052」より。人口、消費、労働生産性、食料生産性、エネルギー使用量、CO2排出量、CO2濃度などの14の指標からコンピュータを併用しながらシステムループを用いて試行錯誤により40年後を予測したもの。
エレメント「大気」
谷崎 今日はデヴィッドさんがお話しした5つのエレメントに関して、シフトの考え方を話していきたいと思います。
気候変動に関して、国連では、パリ協定でようやく合意できました。温暖化を2℃未満におさえるという動きがようやく国際社会でも始まりました。まず古野さん、気候変動に関する「350.org」という活動をされていますが、空気・大気についてお話しいただけますか。
古野真さん
古野 国際環境NGO350.orgジャパンの古野です。本日は、綺麗な空気をどういう風に守るかということについて紹介していきます。
350という数字なんですが、この数字は大気中の二酸化炭素濃度を示しています。そして科学者によりますと、大気中の二酸化炭素濃度を350に戻さないと生きやすい地球には戻れないということです。
今現在の濃度は400まで上がっていて、それは大変危険な状況にあるというのです。温暖化の問題がどういうものかはみなさんも聞かれていると思いますが、さまざまな分野の中で気温上昇が続くとすれば、世界の水、食料、土、生き物全てが危険にさらされてしまいます。
古野さん そして私たちが焦点をあてている問題なんですが、こういう状況の中で私たちのお金が地球を汚している産業に投資されているのが現状です。そして”私たちのお金”といいますが、預けている銀行や年金、保険会社、地方自治体は全て地球を破壊する産業に投資しているのです。
そしてこの解決策として私たちが提案している運動が、”ダイベストメント”というものです。ダイベストメントを簡単に説明しますと、未来を守る投資に切り替えるということ。
そして、地球を破壊する産業から投資を引き上げて、地球を守る産業へ再投資しましょうというものです。この運動は、世界中に広がっておりまして、今現在で43カ国、500団体が参加している運動であり、そして今後日本でも運動を広げたいと思っています。
(提供: 古野真さん)
デヴィッド 今、世界で言われていることは、大体450から500ppmでいいのではないかという話にもなっているんですが、そうなったら本当に悲劇です。
一番いいのは、埋蔵されている化石燃料を新たに取り出すことなく、そのままにしておくということです。先ほど彼が話したダイベストメントというのは、解決策ではなく、解決策に至るための手段なんです。
空気、季節をもたらすもの、自然というのは私たちが変えることがどうしてもできないものなんです。なぜならば自然というのは私たちの命を支えているものなのだからです。それなのに企業や政治家たちは、私たちの創造物である経済を、それよりも大事なものとしてしまった。
だからこそ、350.orgにありがとうと言いたいと思います。彼らは大気を安定化させる350を目指そう、そこへの道筋を私たちに見せようとしてくれているんです。
古野さん 私の中では、どうやってワールドシフトをする必要があるかというと、「地球を破壊する社会経済から地球を守る社会経済」にシフトしないといけないと考えています。
今後350.org Japanは、実際に一人ひとりが参加できる「ダイベストメント」として、化石燃料や原発関連の投資をしていないクリーンな銀行を選ぶ新たなキャンペーン「MY BANK MY FUTURE」を開始する予定です。詳しい情報はウェブサイトに掲載していきます。
エレメント「水」
谷崎 ここからは水の話に入っていきます。並河さんは広告代理店の電通で、さまざまな水のアクションをされているということで、水の話をお願いします。
並河進さん
並河さん 水ということで僕の話をします。僕自身、水をテーマに専門にやっているわけではなくて、電通という広告会社で働いていて、クリエイティブディレクターをしていました。
10年くらい前にデヴィッドさんが言うような大量消費、大量生産を推し進めるような、そういう広告だけではなくて、広告という伝える技術をもってもっとそれを社会をよりよくするような方向に、力を使えないだろうかと考えたりして、それからいろんな活動をするようになりました。
水以外のテーマもいろいろやっているんですが、今日は水と衛生ということでいくつか事例をお見せしていきます。
水と衛生のために伝える技術で何ができるかということで、幾つか事例を紹介します。「日本トイレ研究所」というNPOがありまして、ここは公衆トイレの水とトイレットペーパーの無駄遣いを防ぐようなキャンペーンをやりたいということで考えたキャンペーンです。
その活動は、公衆トイレにポエムを張り出すというもの。水を大切に使おうという気持ちを呼び起こそうとしました。
『トイレットサファリパークへ』
トイレで想像する
トイレットペーパーは紙だ木だ森だ
トイレの水は川だ滝だせせらぎだ
ここはジャングル
しりは丸出し
今ライオンに襲われたらどうしよう
しりをかまれたらいたいいたい
ここは穏便に
紙をちょっとだけ
水もちょっとだけ使わせてもらおう
ジャングルを怒らせないように
そうっとそうっと
並河さん 実はトイレと自然はつながっているんだよと感じさせる詩を張り出しました。いろいろ張り出して、水や紙の無駄遣いの量が減ったという結果が出たので、最近ではいろんな公衆トイレに張り出されたり、この詩をみんなで書いてみようという活動に広がっています。
それを少しバージョンアップしたのが、「トイレ美術館」というものです。これは公衆トイレを丸ごと美術館にしてしまおうというものです。
(提供: 並河進さん)
並河さん オープニングセレモニーでは、テープカットのようにトイレットペーパーをハサミで切ってみました。外側はこんな様子で中に入ると、公衆トイレを大切にする気持ちが芽生えるアートがたくさん並べられています。
(提供: 並河進さん)
並河さん もう一つ、水ではないんですが、手を洗うことは凄く大事で手洗いをちゃんとしていないがために、途上国では子どもたちが病気になってしまうケースが多いんですね。そこでユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクトの立ち上げをお手伝いしました。
10月15日の世界手洗いの日を盛り上げていくために世界手洗いダンスをつくって、それを広める活動をしています。森山開次さんというダンサーの方に踊っていただいて歌は僕が歌っています。
並河さん 僕のワールドシフトは、「モノを売るためだけの大量生産・大量消費の動きを推し進めるような伝える技術から、持続可能な世界をつくるための伝える技術へ」です。水以外もそうなんですが、当たり前のことに感謝したりそういう問題に気づいたり、そういうことを伝えるという技術でやっていきたいと思っています。
谷崎 デヴィッドさん、どうですか。
デヴィッド みなさんがこういう仕事をしているのは素晴らしいと思います。宣伝というのが解決策になるとは思っていなくて、こうしたことは教育のシステムの中に組み込まれていくべきだと思います。
東京の人口はカナダの全部の人口とほぼ一緒なんですが、例えば子どもたちがトイレの水を流したあとにどこに行くのか、水道をひねったときの水はどこから来るのかということをきちんと知っていたら変わってくると思います。こういうことが教育の中核になっていったらいいですね。
エレメント「生物多様性」
谷崎 引き続き、生物多様性ということで、僕の方から話させていただこうと思いますが、今、日本では生物多様性の大きな取り組みが始まっています。
これまで環境省による太陽光発電推進をはじめ、いろんな政策を進められてきたわけですが、そうではなくて、環境省が文明を転換させるということについて国民運動をつくるべきとして、「つなげよう 支えよう 森里川海プロジェクト」というプロジェクトを国民運動として呼びかけはじめています。そのプロジェクトの映像をご覧ください。
「つなげよう 支えよう 森里川海プロジェクト」PV Producer:谷崎テトラ/Director:太田裕司/Music:P.R.E.M(kanata music)
谷崎 この映像はどういうことかというと、川というのをつなぐことで、森の生態系と海の生態系をつないでいくという国民運動をつくろうという取り組みです。それを「森、里、川、海」といいます。
これまではどうしても行政区によってまちまちだったんですが、川を軸に考えるということ。人と自然を荒廃させる大量消費文明から森里川のつながりの生命環境文明への転換。こういうプロジェクトを大きなシフトの一つにしていきたいなと思っています。
デヴィッド 本当にワクワクするような試みだと思います。日本の森林が比較的いい状態で保存されているということは素晴らしいことなんですが、それはある意味グローバル経済の恩恵を受けているということなんです。
日本の企業は、例えば発展途上国に行って森林をみな伐採することで、自分の森に手をつけずに資源を確保しています。もちろん日本の森林を保護することも大切なんですが、自分たちの経済活動がどういう影響を広範な範囲で及ぼしているのかと意識する必要もあると思います。
谷崎 ありがとうございました。
エレメント「火」(エネルギー)
谷崎 では、エネルギーについてお話しいただければと思います。
中村隆市さん
中村さん 日本で原発事故が起こって、丸5年が経ちました。
今汚染された状況の中で、病気が増えてきていて、例えば急性心筋梗塞というのは、福島は全国平均の2.5倍です。慢性リウマチ性心疾患というのは、全国平均の3倍なんです。そしてチェルノブイリでもあった目の病気。白内障とか水晶体の病気が2倍。血管、リンパ管の病気が2.5倍。
いろんなものが増えているんですが、一番増えているのが甲状腺がんなんです。しかし、国や福島県はこれらは原発事故の影響とは考えられないと言っています。
チェルノブイリの時は、事故から5年後にチェルノブイリ法というものがつくられました。年間1ミリシーベルト以上、汚染されたところに住む人々に対して、避難の権利を与えたんです。5ミリシーベルトまで自分で住みたいと思えば住むこともできますが、移住したければ移住できる。そのための保証を十分にしたんです。
ところが日本の場合は、事故から来月で5年になろうとしているのに、20ミリシーベルトまで安全だと言っているんです。そこに避難した人を戻しているんです。この状況をなんとか変えていかないといけないと思います。
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中村さん そんななか、今年の4月に電力の自由化がスタートしました。これまでは各家庭では、電力会社を自分で選ぶことができなかったんですが、4月から選ぶことができるようになったのです。
脱原発実現の一番有力な方法は、原発でつくった電気を買わないということです。家庭の電力の市場は、現在8兆円規模の市場です。例えば九州電力は年間1兆9千億円くらいの売上げですが、仮に3割の人が、原発を再稼働した九州電力から買わないと言えば、年間、5千700億円が電力会社に渡らなくなります。
だから重要なのは、電力自由化になったときに原発で電気をつくっている会社から電気を買わないということではないかと思います。これをみんなで広げていきたいんです。
谷崎 ありがとうございます。デヴィッドさんどうでしょうか。
デヴィッド 今の中村さんの話を聞いて涙が出そうになりました。日本は世界で唯一核爆弾が落ちた国で、原子力に対して反対していく先陣をきっていく国だと思っていました。ところがこんなに地震の多い国に、原子力発電を取り入れてしまった。
原子力発電がどうやって発電しているかご存知ですか。基本的には、お湯を沸かして水蒸気をつくっているだけなんです。あれだけの装置をつくって何をやっているかというと、結局は水蒸気をつくっているんです。日本には一体どれだけの温泉があるんでしょうか。そういうことを考えたときに、何かがおかしいと思わざるを得ないです。
エレメント「大地」
谷崎 では、最後になりますが、大地・土ということですが、これは地球とどうつながっていくかということだと思います。藤岡さん、お願いします。
藤岡亜美さん
藤岡さん 宮崎で、与那国馬とニホンミツバチのファミリーと、3人の子どもたちと一緒に土とつながり、冬は薪を使って暮らしています。
今日はバレンタインデイですが、昨日までは土の全くない、大阪の街のデパートでチョコレートを売っていました。果物の種であるカカオとその種の発酵であるチョコレートの開発に夢中になって、エクアドルの村の人たちと企画した商品です。
大量生産・大量消費のなかでも、ちゃんと人に出会うことができると思います。そこで会った人たちにも、先ほどのセヴァンのラブレターや、デヴィッドのメッセージを伝えていきたい。みんなせっかく地球に生まれて、地球が大好きなはずだから。それが私のワールドシフト、友産友消です。
私のおじいちゃんは、沖縄の嘉手納の出身です。半農半豆腐屋として地産池消や自給自足的な暮らしをしてきました。
今はアメリカ軍の軍事基地が、ジュゴンの海を埋め立てることにより、辺野古につくられようとしていますが、それより前にできた基地によって本家は敷地内になってしまい、東京に出てきました。私も土と離れて、つくった人の顔のみえない都会で育ちました。
ですが、エクアドルのインタグの人たちとの出会いで、人生が変わりました。
私は学生のとき、ひとつ前のプレゼンの中村さんが始めたコーヒーのフェアトレードの生産地に住み、女性たちとサイザル麻の商品企画をしていました。彼らは鉱山開発よりも、森や川をそのまま残し、子どもたちに引き継ぐことを選び、そのために表現をし、森にコーヒーを植えたり、地上にある資源でものをつくることで暮らしを成り立たせていました。
彼女たちを日本に招聘したときに言っていたことは、「私たちの土地にはきれいな水、空気、汚染されてない食べもの、子どもたちと豊かに生きていくために必要なものは全部あります」ということでした。彼らは馬で移動し、分け合い、おすそわけし合う、ラヴにもとづいた交換をしていました。
そんなふうに大事なことを教えてもらえる人たちのつくったものを紹介しながら、オーガニックな市場と暮らしを東京でつくっていきつつあった、東日本大震災以降、原発予定地だった宮崎県の串間市に移住しました。
耕作放棄地だった谷を開墾すると、風が生まれました。森にも手をいれ、アーモンドを植えたり、蜂を飼ったりしています。気候変動も大変なので、すべてをつくることはできないけれど、肉は友だちがとってくる鹿や猪を食べたり、他の地域の有機農家と交換したり、工夫して食卓をつくることで、どんどん楽しくなります。
近所の仲間や海外の友だちとアースオーブンづくり。最小限の薪で最大限楽しめる。(提供: 藤岡亜美さん)
藤岡さん レボリューションを支えるには、都会にいて、たくさんの人と今ある消費の仕組みを変えてゆくことも必要だし、実際に土とのつながりを取り戻すことも必要だと思います。それをお互いに支えあう、友産友消、有機農業、フェアトレード、交換、おすそ分け、援農を暮らしに取り入れるワールドシフト。
食べものの受粉には蜂の力が必要だし、友産友消のポイントは人間だけでないところです。そこにはせっかく地球に生まれたラヴ、好きなことがたくさんつかえます。
生きものに向き合うこと、育てること、料理すること、だれかと一緒にたべること、友だちになること、新しい文化を知ること。そんな態度が、鉱山開発や軍事基地などの環境破壊を超えていくためにはどうすればいいのかを、デヴィッドさんに聞いてみたいです。
#友産友消:「地産池消」よりもっと自由な「顔のみえる関係」よりもうちょっと近い、友だちがつくったものを友だちとして美味しく食べたり使うライフスタイル。鉱山開発に反対するエクアドルのコーヒーのつくり手たちとの出会いが、日本でスローなライフスタイルのたねをまくきっかけとなったように、”ともさんともしょう”でいろどる毎日の暮らしが、日本や世界の土に根付いて平和をつくるレボリューションを、応援していけますように。
デヴィッドさん 昨日京都で壇上に上がったんですが、全員が男性だったんです。男性という視点でほとんどが支配されているんですが、女性という違う視点が入るだけでだいぶ変化が起きてくると思うんです。
もう一つ、藤岡さんがやっていることで素晴らしいことだと思うんですが、例えば東京に住んでいる子どもたちが農場に行っていろんなことを体験したら本当にそれこそ素晴らしい変化が起こってくると思います。
彼らが最後に裸足で土の上に立ったのはいつのことだったのでしょうか。もし彼女の農園にいってそういうことを体験したら本当にいろいろ感じることができると思います。そうすることで生活も成り立っていくと思います。
私が鏡を見ると、老人が写っているんです。ただ、歳をとっていいことは一杯あって、仕事のこととか昇給のこととかお金について心配しなくていいんです。権力、名声、セックスのことも考えなくて大丈夫。本当に心の底から自分が大事だと思うことができるんです。
60年代のアメリカで平和運動が起こった時に、その中で最もパワフルな人たちというのは、退役軍人でした。軍隊にいた頃は、彼らは本当のことを言うことができませんでした。仕事を失うのが怖かったりしたんだと思います。でも退役軍人だからこそ、そういうことを気にしないで本当に大事だと思うことをすることができて、一番核兵器に反対していた人たちはそう言う人たちだったんです。
ですので、退職した社長さんだとか、経営陣の人たちに話しかけてください。本当に退職して自分の心にとって大事なものを話せる人たちと手を結んでいろんな動きを起こしてほしいと思います。元首相が反原発で活動していると聞いています。そう言う人たちと手を取り合って、大きな動きにしていってほしいと思います。
谷崎 ありがとうございます。地球へのラブレターということで、5つのエレメント、「空気」「水」「土」「火(エネルギー)」「生物多様性」の話をしていただきました。本当に「大気」のことを考える時は「経済」のことや「お金」の使い方が重要という話があり、「水」を使うために、「教育」が必要という話もありました。
そして、「エネルギー」を考える時に「倫理観」や「健康」について考える必要があり、そして「大地」は「生き方そのもの」という話もありました。そして「生命(いのち)のつながり」ということが全体をつなぐ大きなテーマだったと思います。文明の大きな転換期になるかもしれません。
「地球へのラブレター」ということでイベントの最後に、詩人ナナオサカキさんの「ラブレター」という詩をみんなで聞きながらイベントを終わりにしたいと思います。
2006アースデー東京、クロージングセレモニーでの朗読「ラブレター」。撮影、JUNKO MURAOKA & KUMA.
今回の企画は、デヴィッド・スズキ氏の「第7回KYOTO地球環境の殿堂」受賞により実現いたしました。受賞を心よりお祝い申し上げます!
(写真提供: ナマケモノ倶楽部 / 350.org Japan)
(取材協力: ナマケモノ倶楽部)
(翻訳協力: 350.org Japan)