12/19開催!「WEBメディアと編集、その先にある仕事。」

greenz people ロゴ

“編集”の力で、世代間の交流をつくる。神戸市東灘区でシニア世代と大学生、クリエイターが協力してつくる”見守りの情報誌”「omusubi」

omusubi12
撮影/森本奈津美

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

みなさんは地域のシニア世代と話す機会はありますか? 家族や親戚以外となると、シニア世代と話す機会は意外と少ないかもしれません。

現在、高齢化が進む地域では、ひとり暮らしをしている方々が誰にも看取られずに死を迎えてしまう、いわゆる”孤独死問題”が深刻化しているとも言われています。

高齢化によって生まれる課題を解決していくためには、シニア世代と若い世代が自然に出会い、普段の暮らしの範囲から取り組んでいくことが大切です。そこで今回ご紹介するのが、世代間の交流を生み出すきっかけとなっている”見守り情報誌”「omusubi」です。

2012年に創刊したomusubiは、地域の世代間交流にどんな影響を与えてきたのでしょうか? 現場に関わるさまざまな人たちの声を聞いてみました。

omusubiの取材が世界を広げる。

omusubi2
地域の手と手を結ぶ、できごとメディアomusubi。東灘区内全世帯を中心に配布されている。

omusubiの誕生は、「デザイン都市・神戸」を推進するKIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)が2010年に展開した、「デザインの視点から高齢者見守りを検討するプロジェクト」がきっかけでした。現在は、神戸市東灘区社会福祉協議会の広報誌として発行されています。

編集・制作の中心メンバーは、神戸市東灘区のシニア住民と甲南大学の大学生。神戸市在住のプロのクリエイターも、バックアップするかたちで参加しています。

まずはシニア世代、若い世代それぞれの編集メンバーの声を聞いてみましょう。編集メンバーのひとり、北岡裕さん(65歳)は、社会福祉協議会に掲示されていたメンバー募集チラシをみて参加したそう。
 
omusubi3
北岡裕さん 撮影/森本奈津美

北岡さん 現役時代は仕事一筋。自宅と職場を往復するだけの生活を送っていたので、仕事をリタイアしてからは地域とのつながりがありませんでしたが、omusubiでの取材活動を通じて、まちの見え方が変わってきましたね。

こんなにもさまざまな活動をしている人がおられるんだ、というのが一番の驚きでした。もっともっと自分の住んでいる地域で活動されている人たちのことを伝えたいです。

同じく編集メンバーで甲南大学の溝尾玲奈さんは、「大学生のうちにできることを」と思ってomusubiに参加しました。
 
omusubi4
溝尾玲奈さん 撮影/森本奈津美

溝尾さん omusubiに参加している学生は、大学は同じでも学部も学年も違う人たち。普段関わることのなかった方たちと出会えるのも良いことだと思います。年配の方と関わるようになって、自分の家族に連絡する機会が増えたのも大きな変化ですね。

omusubiはKIITOでのゼミがきっかけで生まれた

omusubi誕生の場となったKIITOのキーワードは「+クリエイティブ」。デザインを活用して身の回りの社会的な問題を解決していくために、さまざまな取り組みが行われています。「+クリエイティブゼミ」もそのひとつで、クリエイターや学生、会社員や主婦など幅広い世代が参加しています。
 
omusubi5
+クリエイティブゼミの様子

ここでは、ゼミ生がチームを組んで、行政などが抱えるリアルな課題について議論や調査を重ね、3か月ほどかけてプランを練り、発表します。その結果、「グッドアイデア!」と判断された実現性の高いプランについては、関係諸機関と協議しながら事業化されるのが特徴です。

ゼミからは、(1)ひとり暮らしの高齢者も、日ごろから地域での交流があれば、安心して暮らせるまちになるのではないか、そして、(2)
高齢者の孤独死を一件でも防ぐために、高齢者と若い世代をつなぐメディアをつくってはどうか、というふたつの提案がありました。

その背景にあったのが、神戸では阪神・淡路大震災から20年が経ち、高齢者の孤独死やひきこもりの問題が課題としてクローズアップされていたこと。

慣れない仮設住宅や地域に移り住み、その地域との関係が希薄なために周辺の方が異変に気づきにくく、疾病で身動きが取れないまま死亡する方が出てしまうという事態が、神戸市で起きていたのです。

生まれ変わった「新omusubi」

「+クリエイティブゼミ」の成果が評価され、神戸市の試験的な事業として制作がスタートしたomusubi。1号、2号は片方から読むとシニア世代、もう片方は子育て世代のための記事、全体としては世代を超えて読めるものになっています。
 
omusubi6
地域の手と手を結ぶ「見守り」マガジンomusubi1号、2号の表紙と裏表紙

創刊の翌年には、神戸市内のあんしんすこやかセンターで、主に広報誌づくりを担当する人たちを対象に、クリエイターによるデザインとコピーの講座を開催。高齢者のコミュニケーションに必要な情報ツールを手にとって読んでもらえる広報誌づくりを学びました。

例えば、一般に手に入るチラシをたくさん用意して、伝わりやすいものと伝わりづらいものに分類したり、読み手の立場に立って、それぞれの広報誌の文章を読む体験をしたり。これらの結果、ぐっとクオリティのあがった広報誌が増えたそうです。
 
omusubi7
取材風景 撮影/森本奈津美

試験的な事業だったものの、とても好評だったこともあり、2013年度からは区社協だより「ひがしなだ」を新「omusubi」としてリニューアル。

旧omusubiはプロのクリエーターが制作しましたが、新omusubiでは、地域のシニア世代と甲南大学の学生で編集チームを結成し、前述の北岡裕さんや溝尾玲奈さんを含めたシニア世代3名、大学生7名が参加しています。
 
omusubi11
ワークショップの様子

新omusubiの編集チームをつくるために、最初に取り組んだのが、デザインや編集を実感できるミニ講座「新聞をつくろう」「取材をしてみよう」です。

そうして制作された第1号は、子育て特集。シニア世代と学生、それぞれの視点で取材や記事の執筆をしてもらい、「手に取って読んでもらうにはどんな書体がいいだろう」「色はどうしよう」と、一つひとつ考えていきました。

とはいえ、学生とシニア世代による編集チームは、当初からうまくいったわけではありません。発言の多いシニア世代とおとなしい学生たちの間にはちょっとした溝があったことも。そんなとき、都築いく子さん(77歳)の「もっとみんなで話し合おうよ」という呼びかけなどで、少しずつ打ち解けていきました。

omusubiプロジェクトは2014年度も継続。「より地域の人々が読みやすく、身近な存在になった」と、これまでの読者から評価を受けているそうです。

地域の中で自然なかたちで世代間交流をつくりたい。

omusubi10
神戸市東灘区社会福祉協議会 鎌田あかねさん

同じ地域に住む、若い世代とシニア世代が声をかけあえるようになるきっかけづくりとなっているomusubi。そのキーパーソンのひとりが、神戸市東灘区社会福祉協議会の鎌田あかねさんです。

鎌田さんは15年間、児童館で指導員をしていました。そして社協に移って最初に担当したのが地域の見守りでした。

鎌田さん 公園に行ってもお買い物に行っても、昼間の地域にいるのは子育て世代とシニア世代です。この両者をうまくつなげられたらいいなと思っていました。

社会の状況から核家族や単身世帯、転入者も多いこの時代。「子育て世代とシニア世代が自然に出会うのって、実は難しい」と鎌田さんは言います。

鎌田さん シニア世代からは、「言うてあげたいことはあるけど言いにくい」と言うし、若いお母さんの中には「言ってくれたらいいのに」と言う人もいる(笑) その橋渡しを自然な方法で実現したいと思っています。

誰もが生きがいをもって生き生きと暮らせる地域をつくるのが、社協のミッション。広報誌であるomusubiで、地域の取り組みを紹介することによって、世代間交流の輪やさまざまな地域活動をひろげて地域を元気にしていくのが狙いです。

鎌田さん シニア世代はさまざまなキャリアを積まれています。それを地域活動で活かしてもらいたいけれども、なかなか入り口がないのが現状で、もったいないなあと思っていました。また、甲南大学地域連携センターとのおつきあいがいろいろある中で、地域のことを学びたいという学校側の要望もありました。

そのふたつが「広報誌をつくる」という同じ目的でうまく重なりました。取材に行って制作するというツールがあることで、お互いが自然なかたちで学び合う状況をつくることができたんです。

omusubi9

実際omusubiができたことで大学生が取材を通じて地域の活動とその背景にある思いを知る機会となりました。

また、シニア世代の方も「こんな活動をやっていたんだ」と新たな発見も生まれ、趣味や経験を活かせる活動の場となっています。今後は子育て世代の方にも参加してもらいたいと考えています。

子育て世代とシニア世代の橋渡しはどの地域でもあてはまる課題。日々の忙しい業務の合間を縫ってomusubiプロジェクトに取り組む、鎌田さんたちの姿は、きっとほかのまちで同じ課題に取り組む人たちの励みになると思いました。

編集メンバーみんなが無償でこのプロジェクトに取り組み、”自分ごと”として活動し、成長していく姿にぐっときました。