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大企業が社会課題の解決に取り組むには何が必要? 日本財団・町井則雄さん×グリーンズ小野裕之が語る「日本におけるCSVのこれから」

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グリーンズ副編集長、小野裕之(左)と日本財団、町井則雄さん(右)

「ソーシャルデザイン」という言葉を聞いたとき、NPOやNGO、あるいは地域での取り組みをイメージする方のほうが、まだまだ多いかもしれません。企業の経済活動と社会課題の解決は、一見、対立しているように見えますが、本当にそうなのでしょうか?

2013年に日本財団が行った「未来を変えるデザイン展(以下、デザイン展)」は、企業が社会の課題を解決できるということを示した画期的な展覧会でした。

今回はその仕掛け人だった日本財団の町井則雄さんとグリーンズ副編集長の小野裕之が、日本のCSV(共通価値の創造)の未来と、これからの両者の取り組みについて語りました。

「未来を変えるデザイン展」が変えたものとは?

小野 デザイン展は画期的なアプローチでしたね。あれ以降、CSVという言葉が流行ったり、大きな企業の中で起業家的な動きをするイントレプレナーは増えてきたりしているんじゃないかと思います。

町井さん その前身として、2010年に「世界を変えるデザイン展」を日本財団として主催したのですが、当時、「デザイン」という言葉はまだプロダクトデザインを指すのが一般的でした。

ですから街づくりや貧困などの社会課題を解決する事例もすべてデザインと呼ぶ、という発想でデザイン展をやろうという話を聞いて、「これはすごいな」と思いましたね。

ロケーションも重要視して、六本木のミッドタウンで開催したのですが、当時、ツイッターが広がっていた時期で、思っていた以上の反応がありました。「あ、社会がBOPビジネスやソーシャルデザインに関心を持ち始めている」ということに気付けたのは、僕にとってはすごく大きかったですね。
 
未来を変えるデザイン展 2013 会場
「未来を変えるデザイン展」の会場。暗い未来に風穴を開けるかのように、社会課題に果敢にチャレンジする19の参加企業のプロジェクトを「閃光」に喩えた。

小野 20代、30代の人たちがかなり足を運んだという印象がありますね。

町井さん そうです。ただ一方で「世界を変えるデザイン展」には、公式には1社も日本企業は展示していなくて。

「このフィールドで日本企業がやることはいっぱいあるはず」と思っていたので、次にやるときには絶対に日本企業に関わってもらおうと決めていました。

とはいえ「世界を変えるデザイン展」が終わった後は、自分の中で次に進む方向はそのときはわかっていなかったんです。

震災を経て、2013年のデザイン展へ

町井さん 日本企業が本質的な社会課題の解決に目を向け始めたのは2011年だと思います。震災をきっかけに世間の流れが変わり、風が吹いているなと感じました。

そんなときふと、「将来、震災の年に生まれた子どもたちが20歳になったときに、社会ってどうなっているんだろう?」と思ったんです。

社会課題を解決しようとする日本の企業の取り組みを、社会はちゃんと理解しているんだろうか? その価値を認識しているだろうか? そしてそれを財団のような第三者的な目線で見ると、どんな見え方ができるんだろう?

そう思ったことが、企業を巻き込んだ2013年の「未来を変えるデザイン展」(*)につながっています。

(*)大阪では2014年3月にナレッジキャピタルで開催。

未来を変えるデザイン展 2013 会場
Agriculture(農業)、Community(コミュニティ)、Education(教育)、Energy(エネルギー)、Resilience(復興)の5つに振り分けられた展示スペースに、各プロジェクトを納めた「光のカプセル」を配置した。

小野 20年で、構造自体を変えられるかっていう視点はすごく大事ですね。

町井さん 2025年には、団塊の世代が全員後期高齢化するんですよ。「この年に社会保障が破綻する」と社会学者もずっといっているし、国も認識しているけれど、社会保障費とか、削れないお金ばかりで。国頼みのままだと、社会が坂道を転がり落ちていくだけになってしまいます。

小野 だからこそ企業の役割が非常に重要なんですね。ちなみに2013年のデザイン展は、どのように始まったんですか?

町井さん 基本的にこちらから企業に声をかけ、結果として19社に参加してもらいました。そのときは出展するのに分担金を負担してもらったので、すごくいい取り組みをやっている中小企業でも、出展するお金を出せず出展できなかったところもありました。

例えば、雪国まいたけは、バングラデシュでグラミン銀行との合弁会社を設立していて、農業で1500人以上の雇用を生んでいます。大企業に並んでこういう仕組みがあるというのは、すごく価値があると思います。

あとは、ミドリムシで知られるユーグレナや、対人地雷除去機をつくっている日立建機、アスクル、サラヤなど、素晴らしい企業の取り組みはたくさんあります。

小野 デザイン展でターゲットにしていたのはどんな人たちだったんですか?

町井さん 普段あまり社会課題の解決を意識していない人たちが、「もしかしてこれって、ビジネス的に見てもマーケットがあるんじゃないか」という気づきを持ってもらうのが重要だと思っていました。

そこでビジネスパーソンにアプローチできるよう、ダイヤモンド社とタイアップしたり、その特集でも「そもそも、企業は社会課題の解決をビジネスにすることで、成長してきたのでは?」という疑問をしっかりと投げかけたのです。

その後、日経新聞に取り上げられたことで、ビジネスパーソンが大勢来てくれました。
 
未来を変えるデザイン展 2013 会場 ストーリーナイト
国内外の社会課題をキーテーマに、セミナーやワークショップも数多く開かれた。

イントレプレナーの役割とは?

小野 2013年のデザイン展が終わって、次はどこに向かうのでしょうか?

町井さん この先は、企業から生まれたプロジェクトがちゃんとスケールアウトしていって、「社会課題の解決はやっぱりビジネスになる」と認識できるよう、先進的な事例をひとつでもふたつでも生み出していくことが重要だと思います。

デザイン展では、企業の担当者が集まって、ざっくばらんに話すような機会はありましたが、そうやってアウトプットを生み出すことを前提にしてやっていきたいですね。

小野 打ち上げ花火ではなくて、継続的な解決策を生み出していける関係性ですね。「どんなふうに場をデザインしていけば、企業が補い合えるような関係になるんだろう?」ということを常に僕らは思っているわけですが、そのあたりはどう考えられていますか?
 
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「デザイン展をやってよかったではなく、それを機に1つでも2つでもプロジェクトを生んでいくことが大事だと思っています」

町井さん 例えばですね。ローソンが、介護が必要な高齢者とその家族を支援する新しいタイプのコンビニを、2015年に出店することを発表しました。昼間はケアマネジャーが常駐し、介護施設の紹介や生活面の相談に応じるんです。

30店舗くらい出店する計画なのですが、人も集まるし、高齢化、過疎化が進んだ地域の次のコンビニのあり方みたいなものを定義していて非常に面白い。介護用品を扱ったり、車椅子を貸し出したりとか、別のアイデアも広がってくると思います。

こういう画期的なことをやるときは、おそらく社内で考え付いた人が、なかば強引にロジックをつくって、モデルケースを示してやっているんじゃないかと思うんです。結局そういう人がいるかいないかで変わる。だからこそ社内起業家の役割は大切です。

小野 そういう社内起業家とはどうやって意図的に出会えるのでしょう? デザイン展のようなものも瞬間最大風速はすごいものがありますが、長くは続かないですよね。

きっとグリーンズで連載するだけでも、関心がない人たちにはなかなか届かないだろうなという実感もあって、プレイヤーがなかなか増えていかないもどかしさがある。

例えば、グッドデザイン賞のように、「あそこを目指してみよう」とベンチマークされているものに、ソーシャルデザイン部門をつくってもらえたりすると、すごくいいと思うんです。

要は、「自分たちの手で自分たちの未来をつくる」ということをもっとメジャーなカルチャーにしていきたいんですよね。
 
小野さん 対談
「たくさんの出会いがあれば、競争ではなくて共創になりやすい。僕らが目指しているのはそこなんです」

町井さん 社会に良いことをしようとするとき、100点をとる企業なんて存在しなくて、いろんな段階がありますよね。

例えばオーガニックコットンの世界認証は、基準がすごく厳しくて、実際にそこまで環境を整えるのに何千万円もかかったりします。そこにこだわりすぎると、世界のオーガニックコットンのシェアは全然伸びていかない。

それより、許容できるところは許容して、よりよい社会を目指したほうがいいこともあるんです。ベストじゃなくベター。大企業はそれに向いています。

今で言うとトヨタが破壊的なイノベーションだけをやって、売り上げを保てなくなったら、町全体が壊れてしまいますよね。日本経済への影響も出るでしょう。

そうではなく、持続可能な経営を保ちながら、プリウスや燃料電池を開発して、車の利便性は壊さずに次世代に残していくというやり方でも、大きなインパクトがあります。

小野 なるほど。そのあたりはまだ企業の中で、理想とスケールの折り合いがついていないのかもしれませんね。そのあたりの基準づくりからはじめていく時期なのかもしれません。
 
未来を変えるデザイン展 2013 会場 ストーリーナイト
「未来を変えるデザイン展」参加企業のソーシャル・イントレプレナーが集い、参加者を含めて対話する「ストーリーナイト」は、現場感溢れるトークやメディアでは語れない本音が飛び出す場だった。

ベストよりベター。成功例をつくっていこう。

小野 今後、日本財団とグリーンズが手を組んで、社内起業家を応援してきたいと思っているのですが、どんなことができると思いますか?

町井さん まずはマインドセットを変えていくところをご一緒したいですね。普段、企業の中で「物を売る」ことしか考えていないと、視野が狭くなりがちですが、それを一回こわして、「こういう発想はできませんか」みたいに焚きつける。

いきなり「そうしろ」っていわれても難しいかもしれませんが、もうちょっと視野を広くもって、「こういう可能性があるんじゃないか」ということに気づいてもらえるワークショップをやってみたいです。

異次元の発想をぶつけあいながらも、企業側のニーズも汲み取って、一緒に解決策を生み出していけるといいですね。

小野 今までの経験からも、企業内のロジックに合わせて、ビジネスに落とし込む力を持つ人たちが集まっていれば、ソーシャルデザイン的なプロジェクトは成立するんだというのを、改めて感じています。

一方で、一社員として企業の看板を背負っているので、本音を言えないこともある。だからこそもっと自由になれる場を設定をし、先行事例を共有してイメージを持ってもらわないと、なかなか新しいマインドセットにジャンプできないんですよね。

そういう意味では町井さんの仰る通り、まずは参考になる成功事例をつくっていくことが一番の近道だと思いました。

町井さん ワークショップをすることがゴールではないですからね。日本財団のネットワークと、グリーンズのリソースを組み合わせて、小さくても素敵なプロジェクトを生み出していきましょう。

小野 そうですね。とても楽しみです。今日はどうもありがとうございました。

(対談ここまで)

 
二人の対談、いかがでしたか? 穏やかな語り口の町井さんですが、大企業だけでなく、中小企業や行政なども含めて、日本のCSVについてたくさんの情熱とアイデアを秘めている様子が伝わってきました。

まだまだブレスト段階の日本財団×グリーンズのプロジェクトですが、実現したらどんな可能性が開かれるのでしょう。ぜひ今後の動きにご期待ください!