2014年の「カンヌ国際クリエイティブ祭」受賞作の連載「Cannes Lions 2014」。今回はアメリカからの事例「UNLOAD YOUR 401K」をご紹介します。
毎月の給料の中から一定額を積み立て運用するというアメリカの個人年金、401K。日本ではあまりなじみがありませんが、アメリカでは約5100万人もの人々が加入し、働く人であれば当然のように加入しているとさえ言われています。
利用者の多くが気にするのは、なんといっても投資に対する見返り。それに対して、集められたお金がどこに投資されているかを気にする人はほとんどいませんでした。
そんな中で明らかになったのが、401Kの積立金が銃製造会社への投資に使われているという事実でした。銃事件被害者の遺族たちは、このことを多くの人々に広めるために「UNLOAD YOUR 401K」というウェブサイトを立ち上げました。
このサイトのコンテンツは主に3つ。まず、インフォグラフィックを駆使した、銃をめぐる事故の統計。
401Kを申し込んでいるアメリカ人の数と、「コロンバイン高校銃乱射事件」以降に拳銃事件の被害にあった人々の数がわかるインフォグラフィック
次に、銃の犠牲者の遺族へのインタビュー動画。401Kに加入することで知らない間に銃製造会社に投資しているかもしれないということを、エモーショナルに伝える動画をソーシャルメディアで流しました。
「コロンバイン高校襲撃事件」や「サンディフック小学校銃乱射事件」などで子供や兄弟を亡くした遺族や、目撃者が出演。
そしてメインとなるのが、自分が活用している401Kプランが銃製造会社に投資してるかどうか調べられる検索機能です。「銃社会はこりごりだ」と思う人が、銃製造会社に投資しているプランをやめることができるツールを提供したのです。
「あなたの401Kプランは、銃製造会社に投資しているかもしれません。」
ひとりひとりの行動から、銃のない社会をつくる。
アメリカでは、これまで銃を規制する法案が何度か出されたことはありましたが、成立したことはありません。それは銃業界が政治家に対し、積極的なロビー活動を展開しているからです。銃による悲劇を繰り返したくない。でも、自分たちにはどうにもできない。そんな無力感に、多くの人がとらわれていました。
感情に訴えても何も変わらなかった。でも、銃製造会社への資金を止めることはできる。そんなメッセージを伝えるウェブサイトは、たくさんの人々の命が奪われたコロンバイン高校銃乱射事件から15年たった春、全米ライフル協会が年に一度行うロビー活動会議に合わせて公開。
衝撃的かつ効果的なこのウェブサイトは200あまりのメディアで取り上げられ、公開されて1週間でなんと1万人の以上の人が負の投資から手を引く一歩を踏み出したのです。
声を上げるだけではなく、具体的な行動にまで導く。このアプローチは、銃の問題に限らず、市民運動の新しい可能性を切り開いたと言えるのではないでしょうか。
カンヌ2014の連載は、まだまだ続きます。次回も、お楽しみに!
(翻訳アシスタント:猿田幸絵 + 舘山佳奈 /「greenz global」編集部)