2013カンヌ受賞作の連載、今回はプエルトリコからの事例をご紹介します。
プエルトリコでは、1929年に死刑が廃止されましたが、犯罪が増えつづけていることから、刑事事件で死刑を復活させようという声も出始めていました。国家の手で人が殺されるとはどういうことなのか。世論が揺れるなか、人権保護団体のアムネスティは、死刑について多くの人が考えるきっかけをつくるキャンペーンを実施しました。
舞台となったのは、ファーストフード店。トレイの上に敷かれた紙には、プレートにのった食事の写真がリアルな大きさで印刷されています。そしてプレートの下には、こんなコピーが書かれています。
これは、レオ・ジェームス氏が1998年に死刑執行される前に食べた食事です。彼は1993年から無罪と推定されていました。
許せないと思ったなら、死刑反対に署名してください。
なんと印刷されていたのは、冤罪の可能性があったにもかかわらずアメリカで死刑になって命を奪われた人の最後の食事だったのです。5人の死刑囚の最後の食事は、ふだんと同じように何気なく食事をした多くの人たちに、死刑について問いかけました。
つづいて報道機関や一般の人たちに、5人の死刑囚が食べた最後の食事を提供するレストランをオープン。食事とともにサーブされた伝票にも、死刑に反対する署名を呼び掛けるメッセージが書かれていました。
この食事のあとに、無実の罪で命を奪われるとしたら。
「もし真相が明らかになったとしても命は戻ってこない」という、死刑の理不尽さを考えずにいられないこのキャンペーンは大きな話題になり、一ヶ月で目標とする署名を集めることができ、新聞社の世論調査では半数以上の人が死刑に反対するようになったそうです。
死刑というのは、ふだんの生活では遠く感じるテーマかもしれません。ところが、それを食という日常的かつ本能的な行為とつなげて伝えることで、グッと身近な問題として考えてもらうことに成功したのではないでしょうか。
カンヌライオンズ受賞作の連載はつづきます!引きつづき、お楽しみに。
(翻訳協力:モリジュンヤ)