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あなたが「大切にしたい」と思うものって何でしょう。思い出の品、親友がくれた手紙、好きな人のこと…
「守りたい」という気持ちはおそらく、「好き」という気持ちから生まれるもの。正しいはずの「自然を守りましょう」という言葉が他人ごとに聞こえるとき、私たちにはもしかしたら、「自然を好きになった」記憶が足りないのかもしれません。
現代の子どもたちは90%の時間をインドアで過ごしています。でも、子どもたちは”自然と恋に落ちる”チャンスを与えられる必要があるのです。
カナダの絵本作家であり、ナチュラリストであるMarghanita Hughesさん(以下、マーガニータさん)は、こう語ります。この状況を変えるための手段として、彼女が選んだのは「アート」でした。
マーガニータさんはカナダを拠点に、子どものための自然の中のアート・クラスを開設しているほか、幼児教育に携わる大人を対象に、子どもたちの学びと遊びに自然を取り入れる方法を伝えるワークショップも開催しています。
昨年はニュージーランドで開かれたネイチャー・エデュケーション・カンフェレンスで基調講演を行うなど、子どもたちを自然と繋ぐ必要性を唱え、各地で積極的に活動しています。
自然の中のアート・クラス。静かで閉ざされた室内とは違い、子どもたちは自然から刺激を受け、自分の内側の創造性を発揮します
「自然欠損障害」の子どもたち
彼女がこうした活動を始めたきっかけは、10年ほど前にアメリカで出版され話題となった”Last Child in the Woods”(邦題『あなたの子どもには自然が足りない』)という本の中で提唱された「自然欠損障害」という言葉。医学的な診断名ではありませんが、自然との繋がりを失いつつある現代の子どもの危機を考えるキーワードとして、広く取り上げられるようになってきました。
彼女自身も、自然とかい離した生活の中でADHD(注意欠陥多動性障害)やストレス性の不調に悩む子どもの多さに心を痛め、その解決策として、自然の中での美術教室の可能性を追求してきたのです。
そんなマーガニータさんの提供するプログラムの中で、子どもたちは自然の光や風、鳥の鳴き声に創造性を刺激されながら、自然の素材を使って作品を作り上げていきます。そうすることで、自分が自然と深く繋がっていること、自分が自然の一部であることを理解していくのです。
自然とアートと子ども。三つとも一緒にすることで、ちょっと魔法がかった化学反応が起きると言います。
子どもたちは想像力を味方にどんな物でも素敵な遊び道具に変えます。古タイヤが大海原を航海する船になったり、魔女の大鍋になったり。
森の中からそれぞれに小枝を集めます
思い思いに組み立て、飾りつけをして
大人だって入ってみたい「妖精の家」の完成
子どもたちと地球のよりよい未来のために
自然を大好きになった経験のない子どもたちに、自然を守る必要性を心から感じることはできないでしょう。子どもたちと自然を再びつなげることで、子どもたち、そして地球上の自然環境にとって、よりよい未来をつくることができる、と信じています。
一方で、自然を必要としているのは子どもだけでなく、大人も同じ。マーガニータさんは、大人のための自然の中でのアートやヨガのクラスも開催しています。
多くの人々が、忙しさのあまり忘れてしまっていることがあります。それは、小鳥のさえずりを聞き、立ち止まって花の香りを嗅ぐこと。裸足で踏む土の柔らかさ、暖かさを感じること。ただひととき、満ちたりた深呼吸をする時間だって、忘れてしまっているでしょう。
私たちは、目まぐるしい毎日の中で自然のリズムを忘れ、五感を使い、心を動かすことを忘れがち。効率を求めるあまり見失っているのは、「生きている」ことが本来持っているはずの、豊かさそのものなのかもしれません。
例えば好きな人を想う時間が効率的ではなくても豊かなように、自然と向き合う時間もまた、効率性では測れない豊かさを思い出させてくれるかも。忙しい日々に一息つきたくなったら、あなたも「自然と恋をしに」、どこかへ出かけてみませんか。
(Text: 田中寛子)
[Via Outside With Marghanita]