2013カンヌ受賞作の連載、今回は、ドイツからの事例をご紹介します。
ドイツでは12,000人もの人びとが臓器移植を待ち、平均で毎日3人が亡くなっていました。臓器提供のドナーカードを持つ人があまりにも少なかったのが、その原因です。ドナー不足という問題に、もっと多くの人に関心をもってもらいたい。しかし、メディアで意見を訴えるほどの資金はない。
そこでドナーカードの普及を図る団体「FIR LIFE」は、メディアを巻き込んで多くの人の議論を促すために臓器提供を待つ患者とともに、思い切った行動に出ました。
舞台となったのは、電車のホーム。電車を待ちながらイライラとする人たちの中、大きな医療用のベッドが運び込まれ、そこに人工透析を受ける患者さんが横たわります。「どこか悪いのかい?」と聞かれた患者さんはこう答えます。
「腎臓がないんです」「7年間も待ち続けているんです」「なんてこと!」
何人かの人は彼に話しかけ、あまり知られていない病気の苦しみをじかに聞きます。そして、話をしない人もいつもと違う様子から目を逸らすことはできず、患者さんと、そのそばにある掲示板のメッセージを読みます。
私たちのうち何人かは、長い間、ドナーの臓器を待ち続けます。ドナーカードを持ち、私たちを助けてください。
電車を待つ人びとは、自分たちとはケタ違いの時間を待たなければいけない患者さんたちのことを想像せずにはいられません。この決死のアプローチはテレビや新聞で報道されたことはもちろん、ネットでも関心を集め、ウェブサイトを訪れた人は33%も増加。ドナーカードのアプリのダウンロード数は16,000を上回るまでになりました。
待つ、という共通の苦痛を多くの人が感じる場所で、はるかに大きな苦しみを伝える。実感を伴うメッセージの伝え方はもちろん、患者さん本人が訴えたことが、これだけの結果に結びついたのではないでしょうか。
カンヌライオンズ受賞作の連載は続きます!引き続きお楽しみに。
(翻訳協力:モリジュンヤ)