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“古民家オーナー”ってこんなに面白い!古民家で暮らす・働く・遊ぶ人びとを紹介するウェブサイト「古民家びと」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

古民家とは、建造されてから特に時間が経過した民家のこと。明確な定義はないものの、主に戦前の伝統的構法で建てられたものを指すことが多いようです。

田舎暮らしへの関心の高まりとともに、最近ではとても身近な言葉になった「古民家」。インターネット上では、古民家に住みたい人と古民家に住んで欲しい人をマッチングするサービスや古民家の再生を体験できるツアーを見かけます。

今回ご紹介するのは、数ある古民家ウェブサイトの中で特に異色を放っているウェブサイト「古民家びと」。古民家を事業に利活用している事例を多く紹介し、建物だけでなく人(=古民家オーナー)やそのストーリーに焦点を当てています。

古民家の維持管理はとっても大変!

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「古民家びと」を運営する早川さんご夫妻

古民家という言葉は身近なものになりましたが、その数は年々減少しており、住居や仕事場として積極的に活用している人となるとまだ多くはないのが現状です。

なぜ古民家の活用が進まないのか、仙台にて「古民家びと」を運営されている古民家オーナーズコミュニティ有限責任事業組合の早川欣哉(はやかわ きんや)さんと早川昌子さんにお尋ねしました。

古民家に対して、皆さん「いいよね」とはおっしゃいますが、もし古民家に住んでいたとしたら話が変わってくるのではないでしょうか。現代の一般住宅と比べると、床面積が2〜3倍と大きいため維持管理の手間や費用がそれだけ多くかかりますし、高齢化、後継者不足に悩まされている所有者さんが自己負担だけで維持管理していくのは難しいんです。

指定文化財として保護や助成があるのなら別ですが、古くて寒くて使いづらい造りでもあるので、現代のライフスタイルに合わない部分も多く、昔のままただの住宅として住むのに適さないことも多々あります。

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解体・廃棄される築150年の古民家

維持管理が大変であるという現状から、所有者の中には古民家を解体して新しい住宅を建てたい、という方も多いと言います。

古民家は、東京都心はもちろん、仙台の中心市街地などにもほとんど残っていない貴重な建築物です。しかし所有者さんにとっては日常生活の場であるため、たとえ建物に価値を感じていたとしても、住みやすさを求めて意外なほどすぐ解体される方もいらっしゃいます。

所有者さんが解体することを決めると、その周りに住む方々が「もったいない」とおっしゃる場合も結構ありますね。周囲の方は建物に価値を感じてはいますが、維持管理の大変さまでは分からなかったりするものなんです。

所有者の方から「どなたか活用される方はいませんか」と連絡をもらうこともありますが、その時点で既に解体が決まっていることも多いのだとか。

誰か紹介してマッチングできればいいのですが、そのタイミングではなかなか難しいんです。

解体されてしまうことは残念ですし、できるだけ残したいのですが、所有者さんにしか分からないご苦労などがあるので、安易に「もったいない」とか「やめてほしい」とか言うことはできません。今まで守ってこられたこと自体がすごいことだから、まずはそこに対して感謝しようと思っています。

古民家を事業に利活用する「古民家オーナー」

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古民家びとのウェブサイトでは、古民家オーナーさんを紹介しています。

「古民家びと」では、古民家を活用して暮らす・働く・遊ぶ人のことを「古民家オーナー」と呼び、ホームページやFacebookを用いて広く紹介しています。写真やインタビュー記事、動画などを通して、古民家オーナーさんの想いに触れることができます。

現在は25組の古民家オーナーさんにご登録いただいています。活動の様子を拝見してこちらからお声がけしたケースもあれば、知人の紹介や「古民家びと」を見て本人から申込があったケースもあります。

タイミングと予算の許す限り、現地には行くようにしているそうで、昨年9月にも京都府の美山町と滋賀県の東近江市、近江八幡市に取材に行ってきました。

古民家びとで紹介している古民家オーナーさんのほとんどが、古民家を事業で利活用されている方々です。オーナーさんたちは「保存したい」という義務感だけで動くのではなく、一つの生活の手段として、アイディアや経験・パワーをうまく活かした各々のやり方で運営されています。

さまざまな形態の事業として古民家を社会に開くことで、維持管理にかかる負担を自分だけで抱え込まず、生活と事業の両輪を回す持続的な経営ができます。これは、古民家を将来の世代に残していく可能性の一つだと思っています。

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築140年の、絵本と木のおもちゃ屋さん「横田や」。サイトにはオーナーさんのインタビューも。

古民家オーナーさんに共通している特徴としては、他地域から移住されてきた方が半数以上です。地元出身の方が運営されている場合でも多くは一度地元を離れた経験をお持ちです。外の目線がないと、身近に眠っているお宝の価値には気付きにくいのかもしれません。

古民家独特の雰囲気を生かし、古民家と、カフェやおもちゃ屋、ギャラリーなどを組み合わせています。その地方の地域活性化の牽引役になっている方もいらっしゃいますし、例えばバイオマス発電など、先進的なことに取り組んでいる方もいらっしゃいます。

古き良きものと、現代の価値観のバランス

仙台市太白区の長町駅前にあるレストラン「長町遊楽庵びすた〜り」。オシャレな外観からは一見分かりませんが、築125年の古民家を現代風に活用した場所で、コンサートや芝居のイベントスペースとしても利用することができます。

そしてびすた〜りは、障がい者の一般就労を目指す就労継続支援施設であり、11人全員と雇用契約を結びお給料も発生しています。
 
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レストラン「長町遊楽庵びすた〜り」

NPO法人「ほっぷの森」常務理事の菊田俊彦さんたちは、福祉施設の新しい展開として障がい者の働くレストランを構想し、実行委員会を立ち上げます。お店を開業できる物件を探していたものの、福祉施設であることを理由に断られることが続きました。そんな中で、活動をサポートいただいている方に紹介されて、この古民家と出会います。

ボロボロの建物で、本当にここでレストランやるの?かなり大変だろう、というのが第一印象だったそうです。しかし一歩中に入ってみて感じたのは、凛とした力強さや他とは違う空気感。痛々しいんだけどどこか力強い、こんなところでやれたら面白いだろう、という気持ちが芽生えます。そして実行委員会立ち上げから2年半が経過した2008年8月、「長町遊楽庵びすた〜り」が営業開始しました。
 
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古民家独特の戸棚や神棚などを残しつつ、現代のレストランとして再生されたびすた〜り。取材で訪れた平日のランチタイムは、お客様で満員でした。

営業開始から5年半が経過した今、地域の方々に支持されていることが分かりましたし、一生懸命働いているスタッフさんとの相乗効果もあり、どこか暖かみのある居心地の良さが特徴的でした。
 
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早川さん夫妻は、菊田さんのような古民家オーナーさんとのつながりが楽しみだと言います。

先ほど、これまで守って来た方はすごいと言いましたが、使われなくなったり、解体されそうになったりしていた古民家をあえて利活用していくと決められた方も同じようにすごいです。

再生された古民家を訪れると、新たな持ち主と出会って息をふきかえしたような感じがしますし、古民家との出会いを「俺に活かされたくて呼んだんじゃないかな」と運命的に話されるオーナーさんもいるほど、皆さん想いが強いです。

誰に言われるでもなく、企画書を書き始めていた

早川さん夫妻も、東京からの移住組。地方から上京して10年ほど東京で働いた後、新たな環境を求めて宮城県仙台市に住処を移します。新天地・東北で二人を待っていたのは、古民家と魅力的な古民家オーナーとの出会いでした。

せっかく東京から移住して来たので、東京にはないもの、その典型として古民家を訪れたい気持ちがありました。いざ現地に行ってみると、もちろん古民家もすごいけれど古民家を拠点に活動している「人」のパワーの方が更にすごいことに気がつきました。いろんな古民家を訪れるうちに、オーナーさんを紹介したい気持ちが高まり、誰に言われるでもなく新しいウェブサイトの企画を勝手に作り始めていました。

地道に構想を練り上げているうち、知人に背中を押されて内閣府の「平成22年度・23年度地域社会雇用創造事業(事業実施団体:NPO法人えがおつなげて)」に挑戦。東日本大震災の影響を受けて一時中断されたものの、2011年4月下旬に無事採択され、7月に古民家オーナーズコミュニティ有限責任事業組合を発足、10月にサイトをオープンしました。
 
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もともとは事業化なんて考えていなくて「あくまで、自分達のできる範囲でやろう」と思っていました。だけど構想を始めて約2年が経過した頃、「企画がここまでできているんだったら内閣府の助成金に応募してみたら?」と公私ともにお世話になっている知人に言われて、初めて挑戦しました。

1次審査(書類)は無事通過しましたが、東京での2次審査(プレゼンテーション)の前日であった3月11日に震災が発生したため、コンペは一時中止になりました。当時は9ヶ月の赤ん坊がいましたのでミルクとおむつなどに困りました。当時のことはとにかく混乱していたので、あまり覚えていません。

そのうち事務局から事業再開の連絡が来ましたが、やめようと思っていました。プライベートも大変だし、本業である建築士として果たすべき役割もあり、周囲の状況的にも、新しいことをやろうという気持ちにはとてもなれませんでした。しかし「応援するから」と言って、審査員の先生が4月上旬にわざわざ仙台までお越しくださったので、仙台でプレゼンをして、4月下旬に採択されました。

震災から1年も経たないうちに立ち上がった古民家びとは、運営開始から2年半が経過しました。運営事務局は昌子さんが担当し、ページの更新や古民家オーナーの登録などウェブサイトの管理をしています。

当時から現在までもうすぐ3年が経ちますが、震災後のあの時期にチャンスを下さり、いろいろと面倒を見て下さる方々に出会えてよかったと思います。運営に関しては、ウェブ製作や英語の翻訳、デザインなどをプロに依頼しています。特に英語に関してはこだわっていて、「日本の誇るべき文化」を海外に発信していくためできる限り英語併記にしています。

また団体としては営利活動を行う有限責任事業組合ですが、実際の活動は非営利の普及啓蒙活動が中心です。今後はより継続的な事業性を模索していきたいと思っています。

目標は、身近な豊かさに気付く人が増えること

古民家オーナーの魅力を自然体で語る早川さん夫妻が醸し出す空気は、義務感や緊張感などの固さではなく、優しく包みこまれるような大らかさ。古民家オーナーの皆さんも、強い想いを持ちながらも初めての人や事を受け入れ、仲間と成功や失敗を分かち合える大らかさを持っている方が多いそうです。最後に、古民家びとの目標を伺いました。

今後の目標は、古民家びとに登録するしない関係なく、古民家を利活用している方、大切な日本文化の1つと思ってくれる方がもっと増えて、古民家をみんなで未来に残していけたらいいなと思います。実は身近なところに他人がうらやむような豊かさがあるのですが、僕たちはそこに気付かないことが多いのではないでしょうか。

住まいとか建物という意味で、ハウスメーカーの住宅やモダンな建物を否定するわけではなくて、古民家には100年維持された建物という事実があり、それだけ維持できるからには必ず理由があります。そういうしっかりした古い物を、部分的にわるいところを直しながら、これからの生活にいかに折り合いをつけるのかということだと思っています。

あと、古民家びとは、旬な情報やトレンドをリアルタイムで掲載するメディアではありません。今の時代を生きる人が、答えは明確に分からないけれど日頃なんとなく感じている、「地域がどうやったら元気になっていくのか」とか「古いものがなくなってしまっていいのかな」とか、そういう疑問へのヒントがあるものではないかと思っています。

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ロゴは、多くの人が気軽に立ち寄ってお茶をする囲炉裏端をイメージして、囲炉裏の上に吊るされている自在鉤と鉄瓶をモチーフにしています

古民家をより身近に、より楽しく伝える古民家びと。ウェブサイトは、かわいいロゴと紺色をベースとしたセンスの良いデザインで作られ、見ているだけで楽しくなります。

サイトが持つ優しい雰囲気は、「なんだか面白そう、というだけでもいいからぜひ関わってほしい」、早川さん夫婦がそう言っている気がします。興味のある方はぜひ一度ご覧ください。

(Text:安藤貴明)