一人ひとりの暮らしから社会を変える仲間「greenz people」募集中!→

greenz people ロゴ

好きな街で、好きなことを。下北沢の古本屋さん「July Books」に聞く「”好き”からはじめる、お店のつくり方」

みなさんは、普段どこで本を買いますか?大きな本屋さんにはだいたい何でも揃っているし、Amazonで買うのは確かに便利。でも、自分の好きな街にお気に入りの古本屋さんをひとつ見つけると、それだけで本との出会いはよりいっそう豊かになるように思います。

僕の好きな街・下北沢の一番街にある「July Books」は、宮重倫子さんが1人で運営する小さい古本屋さん。木の棚に本や雑貨が並ぶ店内は落ち着いた雰囲気で、一番街を散歩しているとついつい寄ってしまいたくなるようなお店です。

「震災がきっかけで、勢いでお店をはじめてしまいました」と言う宮重さんに、どのような思いからお店をはじめることにしたのか、お話をうかがいました。

july books2
宮重倫子さん

きっかけは、地震と勢い

最初は本とは決めずに、「何か商売をしたい」と思っていたという宮重さん。

お土産物屋さんとかTシャツ屋さんとかいろいろ考えたんですけど、やっぱり本屋で働いていて、本が好きだったんです。

そう話す宮重さんは、元々TSUTAYA TOKYO ROPPONGIやSPBS(SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS)で働いていました。選書をしたり古本を扱ったりするなかで、自分でできる本屋さんのイメージがだんだん見えてきたと言います。

いつしか「自分の好きな本を集めた本屋さんを開きたい」と思うように。そんな彼女が「July Books」をはじめることを決めたきっかけは、東日本大震災だったそうです。
 
july books3
July Books の店内

「やりたい」って言っていても、やらないで終わっちゃうこともあるじゃないですか。3.11のあとに、このままではやらないまま終わっちゃいそうで、「これはいかん」と思って。

あとはTSUTAYAで働いていたときに、周りにアーティストや写真家志望の人が多かったんです。彼らが頑張っているのを見て、私も頑張ろうと思ったのもありました。

「やろうと思っていたのが、本当は3年後くらいだった」と、宮重さんは当時を振り返ります。しかしたまたま良い物件を見つけて、2011年の9月に契約をすることに。11月25日をオープンに決めて、実際にお店の場所を借りたのはなんと11月1日から。

11月に入ってからは、ほぼ寝ないで頑張りました。もう勢いにまかせていましたね。

と、宮重さんは笑います。

11月オープンなのにどうして「July Books」なんですか?と聞くと、「11月も考えたんですけど、英語だとNovemberで、ちょっと長いかなと思って(笑)」とのこと。

意味はないけど季節感のある名前にしたいなと思って、月の名前だと季節感があると思ったんです。1〜12月まで考えて、他の月の名前が付いている本屋さんを避けて。「July」って響きが好きだったので「July Books」にしました。

気に入った物件を見つけてしまったら予定は忘れて始めることにしてしまったり、響きが好きという理由でお店の名前を決めたり。お話を聞いて、宮重さんは自分の感性をとても大事にしているように思いました。

「やっぱり東京が私が育った場所なんだ」

july books4
下北沢の一番街

下北沢でお店をやると決めたのも、地震がきっかけだったそうです。

3.11のときに周りの人たちが「東京危ないんじゃない?別の土地に行こうか」と話していたんです。それ以前までは東京が自分のふるさとという感じはなかったんですけど、そのときに「なんだかんだ言って東京が私が育った場所なんだ」と思って。

だから、まだちょっと東京でやりたいぞという思いがあったんです。それで自分に1番近い場所でやりたいなと思い、よく遊びに来ていた下北沢でお店をやることに決めました。

そんな下北沢の魅力を、宮重さんは「この町ならではの人とのつながり」と話します。

一番街は昔ながらの商店街なので、駄菓子屋さんなんかもあってちょっと下町っぽかったりするんです。隣のお店も偶然私の高校の同級生の実家で、すごい良くしてくれて。そういう下北沢商店街ならではのつながりがあるのがいいですね。

前から好きだったけど、ここでお店をやるようになってからもっと下北沢が好きになりました。

また下北沢でお店をはじめたことで、本屋同士のネットワークも生まれているんだとか。宮重さんは去年B&Bで行われた「第一回下北沢本屋サミット」に参加し、いか文庫さんと一緒に「女店主の部屋」というイベントも開いています。

下北沢の本屋さんで集まると、「みんなでもっと本好きの来る街にしましょう」と言ったりして。一応ライバル関係ではあるけどそんな感じもなく、ネットワークを大事にしているのが好きですね。

本屋サミットでは10名を超える下北沢の書店員が集まってビール片手におしゃべりをして、とても楽しかったです。イベントの後はツイッターなどのやりとりも増えました。

これからやりたいことを尋ねると、絵本やマンガ、旅行書といった自分の好きなところを全面に出して、より自分のカラーを出していきたいとのこと。

みんなで盛り上げていこうと言っているので、その一員として何か色を出せるといいと思っています。

july books5

2年続けて、思うこと

july books6

昨年11月25日に、オープンから2周年をむかえたJuly Books。あらためて、この2年間を振り返った感想をうかがいました。

やってよかったと思います。1人でやっているのですごく大変なときもあるんですけど、でもやっぱり楽しいですね。普通に働くのとはまた違う大変さもあるんですけど、でもなんだかんだ好きなことをやって、それで続けていけているから、幸せだと思いますね。

そんな宮重さんが「お店をやっていてよかった」と思うのは、やはり人と関わるときだと言います。

一番嬉しいのは、人とのコミュニケーションをするときです。自分の好きなお店で、好きな本を置いて、それを好きなお客さんが来て買ってくれる。それでもしその本に思い出ができて語ってくれたりすると、うれしいですね。

ちなみに、2年続けてきたなかで1番記憶に残っている出来事はありますか?と尋ねたところ、「日々必死で、1番というのは決められないです(笑)」との答えが。自分のお店をすることの喜びというのは、大きな打ち上げ花火のようなものではなく、日々のなかに小さくたくさん転がっているものなのかもしれません。
 
july books7

さらにJuly Booksを始めてから、宮重さん自身の個人でやっているお店に対する意識も変わってきたと言います。

お店を始めてからなるべくしようと思っているのが、個人業者のお店に行ったら必ずひとつ買うとか、ネットで済ませちゃわないということです。行っても買えないときもあるけど、ちゃんと足を運ぶということには気を使うようになりましたね。

私も来てくれるだけでうれしいし、どこでも買えるものでもうちで買ってくれるとすごくうれしい。そうやって好きなお店で買ってくれる人たちがいることで続けていけるんだと思います。好きなお店には、時間があったりついでがあったらちょっと寄ったり。みんながそうしたら、街ももっと楽しくなるんだろうなと思いますね。

街に好きなお店を見つけたら、なるべく足を運ぶようにしてみる。そのうち自然と顔を覚えてもらい、お店の人と仲良くなって、会話が生まれる。そんなつながりが増えれば、宮重さんの言うように、街はもっと楽しくなるのではないかと思います。
 
july books8

好きな街で、好きなことをして生きる。「好き」という気持ちにしたがえば、やりたいことややりたい場所のイメージというは、自然と湧いてくるものなのかもしれません。

「自分は何が好きなんだろう?どこが好きなんだろう?」

これからお店をはじめたいと思っている方は、そんな自分の「好き」を探してみることからはじめてみるといいかもしれませんね。

July Books

東京都世田谷区北沢2-39-14 ルックアップマンション1F
営業時間:平日 14:00-20:00ごろ、土日祝 13:00-20:00ごろ
定休日:月・火曜日(祝日は営業)

HP:http://julybooks.jugem.jp/
facebook:https://www.facebook.com/julybooks
twitter:https://twitter.com/JulyBooks7

(Text:宮本裕人)