プリン、リッチキャラメル、こだわりチーズなど7種類の味が楽しめる「にじいろラスク」。チョコレートをコーティングしたフィナンシェ。商品を買うことで、作り手である障がいのある人たちの自立支援をサポートできる「社会貢献型スイーツ」がいま人気です。
障がいのある人が働く作業所はつくれるけれど、売る場所や買ってもらう人までにアプローチするのはなかなか難しいもの。そのプロデュースを行っているのが「Social Sweets Project」です。大阪で活動を行う「Pleasure Support」代表取締役の町さんにお話を聞きました。
自分の子へ抱いた親の思いを聞いて、動き出した事業
ふだんは企業へのコンサルタント事業を手がけている町さん。今の取り組みは、取引先での集まりでの出会いがそもそものきっかけでした。
「三日でもいいから、自分よりも先に逝ってほしいんですよ」。
ある障がいを持った中学生を持つ親御さんからのこの言葉を聞いたとき、納得できない思いでした。どうしてそう思うのか、理不尽じゃないかと。
でも、「障がいのある子どもは親から自立するのは難しい。両親が亡くなって独りにさせるよりは、自分が生きているあいだ、目に見える範囲でいてほしい」という言葉の裏の思いは理解できました。
そういう気持ちになるのはわからんでもない。そう思い続けるだけでははじまらない。じゃあ、どうしたら解決できるのか?考えた結果、町さんは個人的に作業所をまわりはじめます。
「Pleasure Support」代表の町さん
「Social’s」が生まれるまで
実際に足を運んでみて、多くの問題点に気づきます。作業所では1人でできる仕事を5人で分けていたり、勤務時間も10時〜16時と短いために、経済的に自立するのは難しかったり。何より一番のネックは、売る経路を持っていないことでした。
商品を売るためにパッケージデザイン、販売先への営業、そして工場での製造など、それぞれの行程をふむのが通常の流通ですが、それができない作業所では、専門店や百貨店で並ぶお菓子と比べてしまうと、どうしても見劣りしてしまうのです。
これは当たり前のことだと思います。作業所は、福祉のケアの専門でありビジネスマンではないんですから。
作業所の方はモノを売りたいわけではなく、福祉として就労支援がするのが仕事。そこで、本来やりたいケアに特化しながら、流通の問題を解決するために生まれたのが、”Social’s”というブランドです。
作業所それぞれが別の商品をつくるのではなく、ひとつの大きなブランドを掲げることで商品力を強化しようとする試み。実際どんな変化があったのでしょうか。
これまでは”障がいのある人たちがつくった商品”という印象で買ってもらっていました。「Social’s」でやろうとしたのは、美味しいという味へのこだわりもそうですが、商品そのものの魅力をつけることです。
売り場としての工夫は随所に見られます。月に数回、バザーに商品を出展させたり、ビジネスマッチングフェアの展示会にお菓子を提供したり。さらには、レジ横に置いてもらっている美容院もあります。
「美容院の会計では、多くの方がお札を出します。その流れでついでに買ってくれる方が多いんです」と秘訣を話します。売り場とのよいつながりをつくれるのは、コンサルティング事業を手がけていた「Pleasure Support」ならではの視点といえるでしょう。
お菓子だけでなく、ハンドメイドの雑貨も販売しています
現在は、”社会貢献型商品”という見せ方で、スイーツに留まらず、雑貨、名刺、レーザー加工も行っています。ゼロから商品企画を持ち込む場合も増えているそうです。
全部ビジネスとして成立させたいと思っています。寄付とかボランティアは必ずしも継続しないので。
目的はあくまで、「障がいのある人たちの仕事を通したやりがいをつくること」と町さんは強調します。
ビジネスとは人と人とがつながること
大阪生まれ、大阪育ちの町さん。とにかく人とのつながりを大切にしています。
コンサルの仕事はシンプルで自分が行って話をすればいい。だけど、Social’sの活動を始めてみたらわからないことだらけでした。自分だけで完結させるのは無理。そもそもま僕は食品のことを全く知らないので、周りに助けてもらわざるをえないんです。
Social’sが手がけた「にじいろラスク」は、まさにご縁で生まれたもの。パンにコーティングする材料はパティシエである友人が提供してくれたので、それをもとにスタッフがレシピを開発しました。
にじいろラスク
取材でいただいた虹色ラスクのこんがり美味しいチーズ味。これもまた知り合いのチーズ屋さんから切り端をいただいたもの。チーズ屋さんに切り端を格安で売ってもらうことで、お互いにメリットをつくっているのです。
障がい者がつくりました、を超えるパッケージで買ってもらう
いま求められているのは”商品力”だと町さん。そのために、パティシエさんに協力お願いし、品質をあげる一方で、マーケティングにも力を入れています。200箇所ほどの作業所へのリサーチを行い、現在も約10施設とやりとりを続けています。
そのなかで作業所で働くスタッフとぶつかることも。それは「障がいのある人は、本当に給料を望んでいるのか」ということです。
私は、彼らが少しでも自立できる環境になればいいと思っています。給料がアップする仕組みを考えたい。でも、彼らにとって給料があがること=幸せなのかどうかは、断言できません。そもそもこの議論は、今までされてこなかった。だからこそそこを考えるきっかけになったらいいですね。
“自立”という言葉が当たり前のように使われていますが、その意味するところは微妙にあいまいです。いままでの”居場所”をつくる取り組みだけでなく、ビジネスの世界で評価され、それがしっかりと給料としてフィードバックされることで、どんな変化が生まれるのか。Social’sを通じた町さんの挑戦に注目したいと思います。
(Text:青木優莉)
横浜生まれ横浜育ちのハマっ子。中高時代はオーケストラ部に所属しバイオリンに打ち込みながら、校外活動で読売新聞の子ども記者、横浜開国博Y150のFM横浜ラジオレポーターを務める。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に通いながら、人をつなげたい!とインタビュー、デザインを足を動かしながら学び中。イベント、WSの企画運営を行いながら、声だけでハーモニーをつくるアカペラに飲めり込む毎日。
Twitter:@pandaoki