主権とは「国の政治のあり方を最終的に決め、それを実行することができる力」のこと。そして民主主義国家である日本の主権者は、私たち一人ひとりです。そう、私たちは「国の政治のあり方を最終的に決め、それを実行することができる」のです。しかし、一人ひとりと政治の距離が離れてしまった日本において、主権者であることを自覚し、行動するのはなかなか難しいのが実状です。特に若い世代は、政治が自分とは遠いものだと思っている(※)。本来、民主主義の主役は私たち一人ひとりであるにも関わらず、です。
2022年10月、神奈川県茅ヶ崎市で「ちがさきこども選挙」が開催されました。これは「こどもの、こどもによる、こどものための選挙」を掲げ、実際の選挙と同時開催・同一候補者で行なう17歳以下を対象とした模擬選挙です。運営者たちの子どもの主体性を育みたいという思いからスタートしたこの取り組みは、実際にやってみると「主権者教育」の側面が非常に大きかったといいます。この取り組みが話題を呼び、その後「全国こども選挙実行委員会」というネットワークが生まれ、各地の有志による自律分散型の活動が広がって、2026年2月現在、全国20ヶ所でこども選挙が実施されています。
今回はちがさきこども選挙の発起人、池田一彦(いけだ・かずひこ)さんに加えて、各地の実行委員のみなさんに集まっていただき、こども選挙の必要性や重要性を語っていただきました。世界じゅうが分断と混沌の最中にある今、私たちが足元からできることのヒントを探ります。
※日本財団が実施した「18歳意識調査」第20回(2019年発表)「国や社会に対する意識(9カ国調査)」と第62回(2024年発表)「国や社会に対する意識(6カ国調査)」では、日本・アメリカ・イギリス・中国・韓国・インドなどの若者(17〜19歳)各1,000人を対象にしたインターネット調査を行ったが、「自分の行動で国や社会を変えられると思う」という回答が日本は極めて低く、2019年調査では18.3%、2024年の6カ国調査でも他国と比較して最低水準(約26.9%※「同意」+「どちらかといえば同意」の合計値による)だった
本当の選挙と同時開催で、本物の候補者に投票する
茅ヶ崎市の市民活動の拠点の一つとなっている「Coworking & Library Cの辺り」のオーナー・池田さんがこども選挙を始めるきっかけとなったのは、友人夫婦との他愛ない会話でした。
池田さん その時は子どもの主体性をどう育んでいくかというテーマでブレストしていて「実際の選挙を題材に模擬選挙をしたら面白いんじゃないか」という話になったんです。しばらくして茅ヶ崎市長選っていつなんだろうと調べてみたら、ちょうど半年後だった。「じゃあ、それに合わせてこども選挙をやってみようか」と企画が始まったんです。
それまで実施されていた模擬選挙の多くは、架空の候補者を設定してそこから選ぶというものでした。
池田さん それだと子どもたちが真剣に選ばないだろうと思ったんですね。でも、本物の候補者から選べば真剣になるだろうし、自分のまちのリーダーを決めることに擬似的であっても関われる。子どもには考える力があると思っていたから、本当の選挙との同時開催には当初からこだわっていました。
投票に先駆けてこども選挙委員を募集し、ワークショップや勉強会も行なうことに。まちの課題に触れたり、候補者への質問を考えて動画で回答してもらうようにしたほか、当日の投票所運営も行なうなど、子どもたちが主体的に参加する機会をつくりました。
選挙日当日は、茅ヶ崎選挙管理委員会から本物の投票箱や記入台を借り、市内の協力店舗を投票所に見立てるなど、実際の選挙に極力近づけることを目指しました。その一方で、投票用紙とは別に自分が投票した候補者へのメッセージを書ける用紙も用意し、選挙後に各候補者へ渡すなど、子どもたちの声を市政に届ける独自の工夫もしたそうです。
ちなみに、企画書が完成して最初に相談したのがCの辺りの会員だった宮崎一徳(みやざき・かずのり)さん。なんと宮崎さんは、参議院内閣委員会調査室長(当時)で、「こども国会」を実施した経験もある方でした。
池田さん 企画書を見せたら、ひとこと「これはデラックスですね」と言われました(笑)。実際の選挙をベースにした模擬選挙の前例はありましたが、候補者へ質問をしたり投票所運営を子どもたちが担うところまで盛り込んだ事例はありませんでした。また、公職選挙法(※)との兼ね合いや政治的中立性の観点から一定のリスクも伴います。つまり、僕らが政治に詳しくない素人だったからこそ、考えられた企画。でも宮崎さんは「本気でやるつもりならぜひやりましょう」と言ってくれて。そこから仲間を集めて、宮崎さんには全体監修に入っていただきました。
茅ヶ崎市で暮らす友人知人に声をかけると、60人以上のボランティアが集まりました。選挙当日に向けて日に日に結束が強まって熱気を帯び、蓋を開ければ投票数は566票を数えて大成功。その様子がメディアなどで紹介されたことで、この動きは全国に広がっていくことになりました。
※公職選挙法の選挙運動に関する規定では、18歳未満の人について「選挙運動をすることができない」と定め、また、大人が18歳未満の人に選挙運動をさせることも禁止している
全国に助け合える仲間がいる。広がり続けるこども選挙のネットワーク
実は、最初につくった企画書の段階で「全国どこでもこども選挙ができるようにする」という構想はあったそうです。ただし、具体的な計画まで考えていたわけではありませんでした。ところが自然と「自分たちのまちでもこども選挙がやりたい」という問い合わせがくるようになりました。
池田さん 広がっていくならルールで縛るのではなく共通して保持する文化のようなものが必要かなと思い、3つのコミュニティ方針をつくりました。一つはオープンソース。ちがさきこども選挙で培ったノウハウやロゴ、チラシデザインや企画書のひな形、投票システムまで、全部無償で提供することにしました。その代わり、みなさんが得たノウハウも共有してくださいねとお願いしました。二つめが自律分散型でやりましょうということ。全部に僕らが関わることは不可能なので、各地域で実行委員会をつくって、その責任のもとでやってもらうことにしました。
三つめは助け合うこと。助け合いの相互扶助ネットワークをつくろうと「全国こども選挙実行委員会」というFacebookグループを立ち上げました。わからないことや困ったことがあったら、そこで質問するとみんなが答えてくれる。この3つの方針をつくったのが、今振り返ると、すごく良かったなと思います。
方針が提示されたことで、それぞれが責任をもってやるべきことと頼っていいことが明確になり、ゆるやかでありつつも強力なネットワークが構築されていきました。
最初に連絡をくれたうちの一人が「さいたまこども選挙」を運営する北浦宏幸(きたうら・ひろゆき)さんです。
北浦さん きっかけは「主権者教育について何かやりたい」という友人から届いた熱いメッセージでした。その声に共感した仲間でミーティングをしたときに、ちがさきこども選挙のことを知りました。僕自身、世の中が選挙や政治に対して無関心なことに疑問をもっていて。何とかしたいと思っていたときに、たまたまこども選挙に出会えたという感じでした。
「こだいらこども選挙」は、市内小学校の元PTA会長のみなさんが実行委員となって始まりました。青木佑一(あおき・ゆういち)さんもその一人として参画しましたが、実は、こども選挙が市民・団体の部で最優秀賞を受賞した「マニフェスト大賞」を当時共催していた「早稲田大学マニフェスト研究所」で働く研究者でもありました(現在は閉所)。
青木さん とにかく「すごく面白い企画が出てきたな」という印象でした。私はもともと、政治や議会、選挙をメインテーマに研究していたこともあって、「こんなに面白い企画は自分もやらないといけないな」と思ったんですね。2015年に18歳選挙権が解禁されたあと、高校生や大学生に模擬選挙をやってもらい、投票を呼びかける活動はいろいろとありました。ただ、学校教育の中でやるにはいろいろと制約もあって、限界も感じていたんです。
でもこども選挙は、いわゆる社会教育として市民のみなさんがやっちゃおうぜと盛り上がり、その限界を突破した取り組みです。宮崎さんがおっしゃった「デラックスですね」というのは、政治や教育界隈にいる我々の常識をぶっ壊してくれたという意味だったんじゃないかと思います。
「やまがたこども選挙」は、山形大学の現役大学生4名が実行委員となって実施しました。学生が主催となったのはやまがたこども選挙が初。発起人の塩谷咲華(しおや・さくら)さんは大学の授業をきっかけに、政治や選挙に関心をもつようになりました。
塩谷さん それまでは政治って、大人たちが難しい言葉を使って、いつも怒っているようなイメージがありました。でも大学で政治の授業を受けてみたら、政策を実現するためにあえて非効率だと思えることもやっていたり、今の政治家がこうなった理由みたいなものもちゃんとあったりして、意外と面白いなと思うようになったんです。その感覚が幼いときからみんなにあれば、若者の政治離れが防げるんじゃないかと考えていたときに、インターンシップの受け入れ先の方に、こども選挙のことを教えてもらいました。
やるとなったら絶対に大変だし、チーム内でも一度は「やめよう」という話になったんです。でも市の選挙管理委員会の方々も乗り気で協力してくださって。会うたびに励ましてくれるので、なんとか頑張り続けることができました。
大人が一番変化する?こども選挙をきっかけに市議会議員が誕生!
学生、研究者にPTA、市民活動グループ。このほかにも農家や学童保育のスタッフ、主権者教育に興味がある人、子どもの主体性の観点から興味をもった人など、立場も年齢も興味・関心もバラバラのみなさんが、それぞれにこども選挙を実現しました。
どんな人であっても実現できてしまう理由は、ノウハウや素材がオープンソース化されていて準備の負担が少ないことに加え、Facebookグループという助け合いのネットワークがあること、そしてなにより「自律分散型」であるがゆえ、最低限のルールさえ守れば、あとのやり方はそれぞれに委ねられているからです。

座談会会場は、茅ヶ崎にある「まちのクリエイティブポケット totsukuru」。オーナーの市川夫妻が、実は最初に池田夫妻と子どもの主体性をどう育んでいくかというテーマでブレストした方々。こども選挙のロゴやチラシを制作したデザイナーでもある
例えば、やまがたこども選挙では、通常のこども選挙に加え「いちごバナナ投票」なるものを実施しました。いちごかバナナ、好きなほうに投票してもらい、勝ったフルーツに関する商品が、提携する八百屋さんで割引になるという企画です。実はこれにはある思いがあったそうです。
塩谷さん 何かしら、結果が反映される仕組みがあったほうが投票に行こうと思ってもらえるのではないかと思いました。私たち大人も、自分たちの1票で世界が変わる実感がないから、投票に行かない。投票に行けば世の中が変わるということをわかりやすく実感してもらえたらと考えました。
その結果、勝ったのは「いちご」。そこで、いちごを使った商品が10円引きに。投票によって、社会がほんの少しだけ変わったのです。
このように、地域による個性が発揮されたこども選挙は、とてもユニーク。みなさんは、こども選挙を通じて、どのような手応えを感じたのでしょうか。
池田さん まずはもちろん、子どもたちの主権者教育になったと思います。「大人になったら投票に行きます」と言ってくれた子もいたし、メッセージを書いて、それを候補者全員に届けることで、市政への参加機会をつくるというミッションも達成できました。
「でも実はそれ以上に副産物が面白かったんです」と池田さん。
池田さん というのも、大人のほうにもすごく影響があったんですね。こども選挙委員が考えた3つの質問に候補者が答えた動画をウェブサイトにアップしたんですけど、子ども向けだと政治家も難しい言葉を使わずに、わかりやすく答えてくれるんです。その結果「一番わかりやすい選挙メディアだった」といろいろな人に言われました。
もう一つは、子どもたちと一緒に学んでいく中で、大人たちもまちの課題を知り、なんとかしたいと思うようになったこと。その結果、その後の市議会議員選挙に2人が立候補して当選したんです。彼らが市議になったのは、明確にこども選挙をやったことがきっかけでした。だから子ども以上に、大人が主権者教育されたんですよね。
これは想定外のできごとでした。子どもを対象にした取り組みであったはずが、その取り組みを提供する側の大人たちにも大きな影響を与えたのです。
また、さいたまこども選挙では、選挙のとき以外も、市長や教育長へ手紙を書いて送るワークショップを開催したそう。こだいらこども選挙では、子どもたちも大人たちももっと頑張ろう、もっと社会に関わりたいと自然に思い始め「コダイラコドモクラブ」という市民団体が立ち上がったそうです。「今は、とある学園祭でポップコーンを売ろうという話になって、原価のことから何から子どもたちが考えながら進めています」と青木さん。
どうやら影響は、こども選挙の枠を越えて、広がり続けているようです。
選挙権はなくても、主権者である私たち
直近では今までになかった新たな運営者層も生まれています。
2025年12月に実施されたのが「ひがしくるめこども選挙」。主催したのは、なんと高校生でした。同市にある自由学園高等部1年生の5名が自ら提案し、探求の時間を使いながら実現まで漕ぎつけたそう。発起人である立石織愛(たていし・あやえ)さんは、母と妹が「こだいらこども選挙」に関わっていたことがきっかけでこども選挙のことを知りました。
立石さん 私は、子どもが主権者教育を受ける機会がなかなかないと感じていました。子どもは選挙とは無関係で、政治はどこか遠い存在。でも、選挙や民主主義に少しでも関心を持てる場があれば、それは素敵なことじゃないかなと思って。こども選挙を知った時に、私もぜひやりたいと思い、友人に声をかけました。
一緒に活動した田辺かや(たなべ・かや)さんは、仲良しの立石さんの誘いならばと参加しました。もともと政治にも興味があったそうです。
田辺さん 私は『日曜討論』を見るのが好きなんです。新聞やニュース報道よりも生身の人間が会話している感じがあって、突発的に出てくる言葉で人となりがわかるのが面白い。だから政治自体にも興味があったし、立石さんに誘われたのでやろうかなという感じでした。
もうひとりの主催メンバーである山田芽依(やまだ・めい)さんは、生徒の主体性や自治を重んじる自由学園だからこそ、やってみようと思えたと話します。
山田さん 自由学園の学びは、自ら主体的に学びとっていく力を養うことが軸になっています。もちろん、誰かがやっているこども選挙に参加できなくはないと思うんですけど、やっぱり自分たち自身でつくらないと、主体的な学びは得られないんじゃないかなと思いました。
学校や教員の立場からはこうした生徒の動きをどのように捉えていたのでしょうか。発起人の立石さんから相談を受けた大畑方人(おおはた・まさと)先生は、第一声でこう言ったそうです。「そういう生徒が現れることを待っていました」と。

自由学園高等部校長の佐藤史伸(さとう・しのぶ)さん(右から2人目)、教諭の大畑方人(おおはた・まさと)さん(右)。この日は終業式。終わり次第、なんと校長先生自ら車を運転して、茅ヶ崎まで駆けつけてくれた
大畑さん 政治や選挙というテーマを扱うことに及び腰になってしまう学校や教員は多いかもしれません。一方で、主権者教育の必要性は大きく叫ばれています。私もこれまでに勤めた学校で模擬選挙を20年近くやってきましたが、今回は教員が主導するのではなく、生徒たちが運営していくというところに新しさを感じました。まさしく「子どもの、子どもによる、子どものための選挙」ですよね。これはぜひ応援したいと思いました。
こども選挙の考え方に共感したとはいえ、運営の主軸になっていたのは全員、高校1年生。池田さんは「こども選挙は17歳以下の選挙権をもたない子どもが対象の取り組みなのに、高校生が主催側に回ったことに最初は驚いた」と言います。
立石さん 確かに私たちは選挙権がない17歳以下の子どもです。でも子どもも主権者であることは知っていました。2年経ったら選挙権を得るわけだし、子どもと大人の狭間みたいな世代なので、そういう私たちにしかできないことがあるんじゃないかと思いました。
子どもが政治や選挙に興味がないというのは大人の偏見や思い込み
立石さんたちの言葉からもわかるように、子どもたちには主体性も、考える力もあります。みなさんはこども選挙を通じて、ある「思い込み」に気がつきました。
北浦さん 印象深かったのが、小さな男の子がめちゃめちゃ楽しそうに投票していたこと。特にエンタメ性が高いわけでもないのに何がそんな楽しいんだろうと思って聞いてみたら「あのかっこいい箱に入れたかった!」って言うんです。おそらく、お父さんお母さんと一緒に投票所へ行って、大人たちが投票箱に入れるのを見ていたんでしょうね。投票するときには、家族で記念写真まで撮っていました。それが嬉しかったし、やっぱり原体験って大事なんだなと。
選挙に触れる最初の体験が楽しかったり、かっこいいと思えるものだったら、その先はすごくいい流れになる。そういうことが、遠回りのようで、民主主義を実現していく力になるんじゃないかなと感じました。
実はこれはこども選挙あるあるで「投票箱に入れてみたかった」という子どもはかなり多いのだそう。
塩谷さん やまがたもそうです。「大人と同じように投票してみたいと思っていて、初めてできたから嬉しかった」って言う子が結構いて。子どもたちは想像以上に選挙に興味があって真似したいんだなと思いました。
青木さん こだいらでも「『大人は投票してるのに、なんで子どもはできないんだ』って文句を言われていたから、やってくれてありがとうございました」って親御さんに言われました。
「つまり、子どもが政治や選挙に興味がない、若い人が面倒くさいと思っているというのは大人の偏見や先入観なんですよね」と池田さん。
青木さん 「公益財団法人 明るい選挙推進協会」の若年層を対象にした調査によると「自分のように政治のことがわからない人間は投票しない方がいい」という設問に対して「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」という回答が結構あるんです。やったことがないとかよく知らないということが選挙に行くハードルになってしまっている。だからやっぱり「0→1」をつくってあげるのが大事なんですね。その意味でもこども選挙はすばらしい取り組みだと思っています。
大変だけど、つらくない。絶対やったほうがいい!
聞けば聞くほど、みなさんが子どもたちの反応や大人たちの反響に大きな手応えを感じていることがわかります。そして、口を揃えて言うのは「すごく大変だった。でも本当にやってよかった」「興味がある人は絶対にやったほうがいい!」ということ。
青木さん すでにチラシや企画書のひな形は用意されているので誰でも動き出しやすいと思います。あと、池田さんから話を聞くと、なんかできちゃいそうな感じがするんですよね。質のいい企画にしようと思うとやることがどんどん増えて、結局大変なんですけど(笑)。でも、最終的にはみんな、やって良かったと思うんです。
北浦さん 大変だけどつらくはないんですよね。いいことをやっていると思えているからなのかな。
こども選挙のいいところは、自由度が高いところ。めちゃめちゃ大変にもできるし、すごくライトなやり方もできる。候補者にインタビューすると大変なんですけど、それは省略してもいい。ワークショップはやらずに、自治体が出す選挙公報をもとに投票だけをやったところも確かありましたよね。それぞれの実行委員会ができることに合わせてカスタマイズできるのがすごくいいなと思います。
山田さん こども選挙をやるにあたって、主要メンバー以外にも手伝ってくれる人がいたり、メディアの人も来てくれたり、たくさんの人に協力してもらいました。誰でも一人でやるのは無理だと思うんですけど、全部に目が行き届かない私たちみたいな高校生でもできたので、もっと全国に広がっていってほしいと思いました。
田辺さん 自分一人じゃ何も変えられないという意識は、幼い頃から積み重ねられて、色濃く残っているところがあると思います。でも声を上げたときに、その意見を面白いって言ってくれる人は必ずいます。できないと思っていることでも、実際は賛同してくれる人がいるし、一緒に動いてくれる人もいる。はじめは一人かもしれないけど、やってみようとか誰かに話してみようという心をもつのは大事だなというのは、今回のこども選挙を通してわかったことかなと思います。
塩谷さんは春には就職で山形から離れることが決まっていますが、誰かに続けてほしいという気持ちがあります。もしやりたいという後輩が現れれば協力するつもりだそうです。
塩谷さん 私たちが一度はやめようと思いながらも最終的にやることにしたのは、立石さんたちと同じで、子どもたちと歳が近いからっていうのがあったんですね。大学生は大人でもあり、子どもでもあって、その橋渡しがしたかった。そういう役割の人は必要だと思うので、できれば誰かに続けてほしいと思っています。
こども選挙は確実に、参加した人の人生に影響を与えている
こども選挙は、どんな選挙で実施してもいいのですが、現実問題として候補者の数が多いと複雑で選ぶのが難しくなるため、子どもたちにとっても身近である各自治体の市長選で実施されることが多くなっています。市長選は通常は4年に1回。実は2026年は茅ヶ崎市長選が実施予定で、二回目となるちがさきこども選挙の開催に向けて、ボランティアスタッフが再集結し、準備を始めたところだそうです。
池田さん こども選挙って、始まってまだ3年なんですよね。でも当時、こども選挙委員をやってくれた小学6年生の男の子が、もう中学3年生です。彼は最初の挨拶のとき「お母さんに言われて来ました」って正直にぶっちゃけた子でした。でも始まってからはすごく真剣に取り組んでくれて、最後のNHKの取材のときに「僕にとって茅ヶ崎はただ住んでいるだけのまちだったけど、まちが宝物のように感じられました。もっとよくしていきたい」と語ってくれたんです。僕はそれを聞いてすごく感動しました。
その子は今、なんと中学校で生徒会長をやっているんです。いじめ防止サミットを運営したり、いろいろなボランティアや市民活動にも参加しています。こども選挙は確実に、参加した人の人生に影響を与えているんです。
そして、10年も経たずに子どもたちは大人になるんですね。そうすると、日本が変わるんじゃないかなっていう希望も感じていて。こども選挙から次世代のリーダーが出てくるかもしれないし、社会を変えるかもしれない。日本の人口からしたら人数は少ないけど、そういうことってリアルにあるんじゃないかなと思うんです。
だからこそ、こども選挙は地道にコツコツ続けていくことが大切です。2025年12月に実施された「だざいふこども選挙」では、教育委員会の後援のもと、初めて学校での期日前投票が実現し、過去最多の1535票が集まりました。
池田さん 僕らが当初想定していたゴールは、全国の学校の授業でこども選挙が正式に採用されることでした。いろいろな人のチャレンジのおかげで、その目標に近づくことができています。一方で最近は、学校で採用されることだけがゴールじゃないかもしれないとも思い始めています。
学校で採用された瞬間、それは先生が教える授業になります。つまり、子どもたちは「受け手」になる。でも、こども選挙で重要なのは「子どもも大人も自分たちで選挙をつくる」ことなんですね。僕はつくる側に回ってはじめて、一人の人を投票行動に向かわせるのがこんなにも難しいことなのだとわかりました。だからこそ1票の大切さをめちゃくちゃ感じた。つくる側に回るからこそ見える景色があるし、体験できることがある。そしてなにより、残っていくものがあるんですね。
だから僕は、提供するプログラムがこども選挙なのではなく、つくっていくプロセスがこども選挙なんじゃないかと思うようになってきました。先ほども話がありましたが、さいたまでは、子どもたちが市長へ手紙を送る活動を実施しているし、こだいらでは市民団体ができました。ちがさきでも市議会議員さんがバーのマスターになってざっくばらんに話をする「まちのBAR」という企画を続けています。つまりこれはもう、こども選挙の範疇を超えた社会運動なんですよね。
北浦さんが「それ、めちゃくちゃ共感します」と続けます。
北浦さん 子どもも大人も、自分たちがもっている力に気づいてないんですよね。でもつくる側に回ると、できることがたくさんあるって気づくことができる。さいたまこども選挙実行委員会のコアメンバーは実質5人です。たった5人であれだけのムーブメントをつくれたっていうのはとんでもないことだなって我ながら思いますし、やる気さえあればそこまでできるんだっていう自信にもなりました。一人でも多くの人が自分ができることに気づいて動き出したら、世の中はめちゃめちゃ面白くなると思います。
池田さんはこの3年、こども選挙が全国に広がっていき、各地のさまざまな経験や成果、エピソードを聞くうちに、ある確信が生まれています。
池田さん やっぱり結果じゃないんです。このプロセス自体がすごく尊い。
たぶんそれは「僕らが主権を回復していくプロセス」だからだと思うんです。
主権って、本当はみんながもっているはずじゃないですか。でも今は、みんながそれを忘れている。民主主義は、みんながまちや社会のことを考えるのが前提条件なんですけど、それも忘れています。けれども、子どもを真ん中に置いて選挙をつくるプロセスの中で、多くの人がそのことを思い出す。だから結果的に、その後もいろいろな活動や団体につながっていくんです。
「主権」というものを、あらためて考えさせられます。
戦後、高度経済成長を遂げ、先進国の仲間入りを果たした日本では、主権を意識しなくても、楽しく生きてこられました。それはそれで、平和の象徴のようにも感じます。しかし、こども選挙を通じて“主権を回復した”みなさんを見ていて感じるのは「生き生きして、楽しそうで、羨ましいなぁ」ということ。
何もしないでいられることは“平穏”ではあるでしょう。しかし、自分たちの目で社会を見つめ、発見した課題に取り組み、投票を通じて自らの意思を表明することには、もっと中身が詰まった“幸せ”があるように感じます。主権の回復があちこちで起これば「点」はやがて「面」になり、社会は変わっていきます。こども選挙はそのきっかけであり、未来への願いなのではないでしょうか。
興味をもった人、やろうか悩んでいる人は、こども選挙のウェブサイトから気軽に問い合わせを。子どもたちの成長とともに、あなた自身の暮らしもまた、豊かで楽しいものにきっとなっていくはずです。
(撮影:大塚光紀)
(編集:岩井美咲)
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