「蒜山に来るたびに、生き方について考えさせられるんですよね」
「ひるぜんネイチャーウィーク」の運営に携わるみなさんとお話していたとき、ポロリとこぼれ出た言葉にハッとしました。
どう生きたいのか、何をしたいのか。草原に立ち深い呼吸をするたびに、自然と共生しながら紡がれてきた蒜山の文化や歴史を知るほどに、そんな考えが巡るのは、なぜでしょう。
その答えが見つかるかもしれないのが、ここ、岡山県真庭市北部に位置する蒜山高原で2023年から開催されている「ひるぜんアクションツーリズム」です。全国からビジネスパーソンが蒜山地域を訪れ、自然資源とビジネスの視点を掛け合わせたプロジェクトを提案・実行することで、現代に合う方法で蒜山地域の自然環境を再生していくことを目指します。
岡山駅から車で約2時間を要し、決してアクセスが容易なわけではありませんが、これまでの参加者たちにより、それぞれの専門分野や強みをいかしたビジネスプロジェクトを通して、蒜山の自然資源に人が関わり続ける動きが確実に生まれています。3年目となる2025年は、“ネイチャーポジティブ”をテーマに掲げ、「ひるぜんネイチャーウィーク」として開催することになりました。
前編では、蒜山地域特有の自然と共生してきた歴史や文化について紹介しましたが、後編では、アクションツーリズムが生まれた背景や、今年このテーマを掲げた意図、蒜山の自然資源とビジネスを掛け合わせることで生まれるこれからの地域への期待感について、企画・運営を担う真庭市 産業観光部 産業政策課 回る経済推進係長の平澤洋輔さん、Ba &Co(バ・アンド・コー)株式会社(以下、Ba &Co)の荻野高弘さん、本間由佳さんの3人にお話を伺いました。
真庭市 産業観光部 産業政策課 回る経済推進係長。神奈川県出身。東京で広告業界に従事した後、家族で岡山県へ移住。ローカルベンチャーやスタートアップ事業を経て、2020年4月から真庭市役所で勤務する。
Ba &Co株式会社にて、企画やコミュニティマネージャーを担当。ひるぜんアクションツーリズムでは、イベントやツアーの企画・運営・参加者の伴走支援を担う。
Ba &Co株式会社にて、拠点開発・コンテンツづくりを担当。ひるぜんアクションツーリズムでは、イベント企画や設計・運営を担う。
シェアオフィス「ひととき」を、偶然の出会いが生まれる場所に
今回みなさんにお話を伺った「シェアオフィス蒜山ひととき(以下、ひととき)」は、大山隠岐国立公園内の旧レストハウスを建築家・隈研吾氏率いる設計事務所がリノベーションし、2023年にオープンした真庭市の施設です。「ひととき」の設計時は、まだコロナ禍の真只中。隈氏が提唱したのは「ハコからの解放」という概念でした。
平澤さん 都会のコンクリートの中で仕事をする時代から、地方の開放的な空間で仕事をする時代に変わっていくなかで、そういった場所になってほしいと「ひととき」は建てられました。
そこで真庭市は、「ひととき」の利用促進事業の業務委託事業者を募集。都市部を拠点に場づくりをしてきたBa &Coは、それまで培ってきたノウハウをいかし、蒜山のような地方の拠点で、人が集い、新たなことを生み出す場をつくることに挑戦すべく応募しました。

Ba&Coは、「場の発明」をミッションに掲げ、不動産企画開発を軸に、拠点開発、コミュニティ運営、イベント企画運営、空間デザインを手掛ける。コワーキングブランド「co-ba」を軸に、都内に直営拠点、全国にフランチャイズ拠点を展開している
荻野さん 東京を拠点にコミュニティ運営を軸にした場づくりをしていると、偶発的に、たまたまそこにいたから新しいプロジェクトが生まれるということが起こります。でもそれって都会でしかできないことでもないよねって話を、ちょうど社内でしていたんです。
本間さん「ひととき」の利用促進事業に取り組む時に、これからの働き方について議論したんです。私たちは長年コワーキングスペース運営に携わる中で、「クリエイティブ産業層」と呼ばれる、デザイナーやアーティスト、事業プロデューサーなどのクリエイター職種の方々の働き方の変化を目の当たりにしてきました。最近は自分たちのテーマや関心に根差した仕事をつくる機会を探すニーズが高まっていて、能力をいかしてチャレンジするライフワーク的な事業が増えてきていると感じていたんです。
平澤さん 真庭市は、ひとときが「知的創造の拠点」としてクリエイティブ産業層が集まる場所になることを目指しています。岡山県の南部にはあっても、北部にはそういう職種の人が集まる場所がなかったんです。だからこそ、地域外の人たちから見たら、蒜山の自然資源を新鮮な感覚で捉えていただけるのではないか。そのために、まずはこの場所に人が集まり、偶然の出会いから新しい発想が生まれてほしい、というのがアクションツーリズムの構想のはじまりです。
コロナ禍を経て、社会全体で働き方の価値観が大きく変化していく中で、蒜山地域にはまだ少ないクリエイティブ産業層の人が集い、「ひととき」を拠点に、出会い、定期的に訪れ働く状況を生み出す試みとしてスタートした「ひるぜんアクションツーリズム」。そうした職種の人たちにとって“わざわざ蒜山に来る理由”になる機会をつくり出すことにしたのです。
プログラムを企画する上で要になったのが、「蒜山らしさ」を形づくってきた豊かな自然資源、そして自然と共生しながら培ってきた暮らしの知恵や文化、産業です。今、そんな自然環境や文化の担い手がどんどん減少している状況で、ビジネスの視点と蒜山らしさを掛け合わせることで、現代らしい形の「自然共生のあり方」にアプローチすることができるかもしれないーー。そんな仮説のもと、蒜山の自然をフィールドに、多様なビジネスパーソンを招いてアイデアの種を育ててきました。
「蒜山の自然資源×ビジネス」で、プロジェクトが動き出す
蒜山には、訪れた人それぞれに心惹かれるところが異なるほど、自然資源が豊かにあります。都市からのアクセス面で見ると、クリエイティブ産業層の人が集いやすいとは言いがたいにもかかわらず、過去2年間のアクションツーリズムには、蒜山に興味をもつさまざまな業種の人たちが参加。なんと、参加者の半数以上が首都圏からの参加だったそうです。コンサルタント、事業開発、コミュニティマネージャー、UXデザイナーなどが集い、それぞれの視点でビジネスプロジェクトを提案しました。
初年度は、1泊2日のアクションツーリズムを合計3回開催。まずは、クリエイティブ産業層をはじめとした多様な職種の人が蒜山に来ることでビジネスプロジェクトが生まれる状態ができるのでは、と考え、地域資源を巡り、地域で活動している人たちと交流するプログラムを開催しました。
2年目となる2024年度は、「スローマテリアル活用コース」と「スローアクション共創コース」の2コースを設定し、それぞれ2泊3日の現地ツアーを実施。スローマテリアル活用コースでは、茅や木材などの自然資源と出会い、それらを活用するアイデアを考えました。対してスローアクション共創コースでは、蒜山地域で活動する事業者やクリエイターの想いを知り、新たなプロジェクトをともにつくっていくアイデアを提案しました。

2024年度のスローマテリアル活用コースで珪藻土採掘跡地を訪問したときの様子。蒜山地域特有の自然資源と出会った参加者が、アイデアの種を感じるポイントは人によってさまざま(写真提供:バ・アンド・コー株式会社)
蒜山地域の自然資源や課題感と出会うことで生まれたビジネスアイデアの種は、ツアー最終日のワークショップでさらに具体化。その後、約3ヶ月間にわたって面談やワークショップでプロジェクト化や事業化に向けてアイデアを深め、1月に東京で行った報告会で発表しました。報告会は一般公開し、参加者はプロジェクトが生まれた背景や成果の過程を発表。ゲストコメンテーターの方からのアドバイスを通してさらに構想を深めていきました。

ひるぜんアクションツーリズム最終日の様子。個人ワークとグループワークで深めたアイデアを発表。ゲストコメンテーターのコメントから新たな視点や意見を取り入れ、アイデアをさらにブラッシュアップ。プロジェクト化して、約2ヶ月後の一般公開の場で発表した(写真提供:バ・アンド・コー株式会社)
平澤さん 初年度はテーマを設定せずに開催したところ、アイデアの種は見つかったけれど、プロジェクトとして動き出すのには時間がかかったんです。
そこで2年目は、テーマを絞って、地域の自然や歴史、文化を学んだ上で、蒜山ならではの自然資源や地域課題と出会い、自身の事業分野やスキルを掛け合わせてアイデアを生み出すというプログラムにしたんです。すると、蒜山の自然資源には新たな発想を生み出していくポテンシャルがあることと、そのポテンシャルを参加者に見せる設計ができるとプロジェクトが動き出すことが分かった。「自然資源×ビジネス」という図式が見えてきました。
これまでのアクションツーリズムを経て、参加者がツーリズム後も蒜山地域を訪れ、地域に継続的に関わろうとする状況が生まれつつあります。そこで、3年目の開催となる今年度は「ネイチャーポジティブ」をテーマに据えて、「ひととき」を拠点にしたプロジェクト創出と人の循環をさらに推し進めていくことになりました。
ネイチャーポジティブとは、人が自然に手を加えることで、自然環境をより良い状態にしていくという考え方。
古くから西日本屈指の木材産地として知られている真庭市は、2014年に「バイオマス産業都市」に選定され、2015年からは木質バイオマス発電所を稼働し、間伐材や製材所で生じる端材を活用しています。加えて近年、蒜山には、真庭市と株式会社阪急阪神百貨店が協働して立ち上げたサステナビリティの発信拠点「GREENable HIRUZEN」や、Ba&Coとともに場づくりを進める「ひととき」、蒜山高原の自然環境と文化の再生を進める蒜山自然再生協議会(以下、自然再生協議会)が次々と発足。人と自然が共生してきた歴史に価値を見出し、失われつつあるそれらの文化と自然環境を取り戻したいというはっきりとした意志が地域にある今こそ、このテーマを掲げるのにぴったりのタイミングだと考えました。
本間さん 2年目のアクションツーリズムで提案されたプロジェクトを横に並べて見た時、どれも蒜山の自然資源と人の関係性みたいなものを模索したり、探究したりするものだったんです。地域の外から来た人が魅力的に感じるのはそこなんだ!と分かって。真庭市のバイオマスの取り組みや、自然再生協議会の発足など、今まで市が積み重ねてきた文脈とも合致していて、イベントのテーマに「ネイチャーポジティブ」を掲げることは、既存の取り組みをより加速させていくためにも大事なタイミングかなと思いました。
プロジェクトをスピーディーに進める伴走体制
過去2年間のアクションツーリズムには合計42名が参加し、13個のプロジェクトが提案されました。内容をみると、テーマに掲げていないにもかかわらず、 まさに“ネイチャーポジティブ”なものが多く、驚きます。
例えば、「蒜山フィールドミュージアム」というプロジェクト。提案した株式会社Mutureは、過去2年間ともアクションツーリズムに参加している、組織開発型DX支援(※)を行う東京の企業です。初年度は一人の社員が個人で参加し、自分たちのDX支援の知見を地域の課題解決にどういかせるかを探った上で、翌年は社内で新たに立ち上がったソーシャルデザイン事業部のリードメンバーが参加しました。そして生まれたこのプロジェクトは、蒜山の「地域そのもの」を博物館に見立て、草原や自然、文化、産業、人びとの暮らしを「展示物」として捉えることで、蒜山の自然資源と人びとをつなぐことを目指しています。
※DX(デジタルトランスフォーメーション)支援は、企業がデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスなどを変革する取り組みをサポートすること

「蒜山フィールドミュージアム」を提案した株式会社Mutureは、自然再生協議会と協働して2025年2月に「冬蒜山を歩く」というイベントを開催。前編で紹介した自然再生協議会の千布拓生さんによる「文化と歴史を紡ぐストーリーガイド」や、雪道を歩く「スノーハイク」などのプログラムで構成された(画像提供:株式会社Muture)
ただ、構想を実現する過程で一筋縄ではいかないこともあったそう。プロジェクトの連携先となる自然再生協議会に相談をしたときに返ってきた反応は、「プロジェクトの構想はまさに実現したいものだが、現状の抱えている業務と体制を考えると、新たなチャレンジをする余力が足りない」というものでした。そこでMutureのみなさんは、方針を転換。組織開発型DX支援という自分たちの分野での知見をいかし、まずは自然再生協議会の組織体制の見直しを提案することにしたのです。
みなさんは何度もひとときを訪れ、自然再生協議会の主要メンバー全員にヒアリングをして、組織の課題の整理や改善方針を共に議論。地道なコミュニケーションを重ねながらフィールドミュージアムの連携方法を模索しています。現在は、自然再生協議会で開催してきた山焼きや茅刈りなどの恒例イベントに、フィールドミュージアムの要素を織り交ぜる形で、継続的な取り組みに発展させる方法を探っています。
また、2年目のアクションツーリズムに参加した、香川県に本社を置き全国に拠点を持つあなぶきグループの、あなぶきエンタープライズ 事業開発部 地域共創推進室の担当者も参加し、蒜山地域の土壌改良の歴史や暮らしの知恵を組織の活性化にいかす社内研修プログラムを提案しました。現在も、蒜山地域の自然や暮らしに触れる中で得た気づきや学びを、今後の企業活動にどう活かしていけるか、社内での検討を進めています。

研修プログラムは、蒜山の人と自然が共生する中で生まれた暮らしの知恵や歴史、産業を、会社の組織活性化にいかす内容を検討している。現在は、担当者が所属する穴吹グループ内の社員向け研修を実施し、パッケージ化を進めている(写真提供:穴吹興産株式会社)
参加者それぞれの提案が、このようにスピーディーに動きだす背景には、これまで数々のプロジェクトや起業家に寄り添ってきたBa&Coスタッフによる伴走の体制があります。
実はアクションツーリズムでは、エントリーの前に参加希望者全員との個別面談を実施して、自分がやりたいことをしっかりと意識した上で参加してもらうだけでなく、ツーリズムが終わった後にも何度も面談を行い「なぜ、何をしたいか」を確認しながら、参加者それぞれの思いや目指す方向性に沿って、自信を持って進められるようにアドバイスする機会を設けているのです。
本間さん アクションツーリズムが終わってからは、本人も消化できていない疑問や、無自覚だったけれど大事な視点が出てくることもあるので、2ヶ月間くらいは2週間に1回ほど、個別に打ち合わせをします。自分が参加者の視点ならプロジェクトをどう進めるか、どこが気になるか、会社の強みや目的がある中で何を目指したいのかなど、いろいろな展開を考えながら話しています。それぞれのお仕事の状況も変わっていくので、久しぶりに話す時にも、改めてプロジェクトに関わり続けたい思いがあるのかを聞くようにしています。
ここまで手厚い伴走体制を敷くのは、アクションツーリズムによって生まれるプロジェクトを、参加者それぞれが抱くビジョンや、ともすれば生き方に違和感のない形で実現し、継続的なものにしたいから。
荻野さん プロジェクトを継続することで、ようやく活動意義が生まれると思うんです。思いだけでも、お金だけでも継続はできない。会社や、自分の人生の方向性と、蒜山の自然資源に限らない歴史や文脈も含めた「何か」がぴったり合致するから、続ける意味が生まれるのかなと。だから、参加者それぞれが目指しているビジョンの中で、蒜山に関わる目的や動機がどこにあるのかをしっかり聞くことを大事にしています。
いよいよ募集開始。気になる2025年のプログラムは?
いよいよ8月8日(金)より、2025年度の参加者募集が始まります。早速、今回のプログラムをご紹介しましょう。今年はより多くの人が蒜山を訪れ、関わるきっかけが生まれるよう、期間も内容もアップデートしています。
まず、今年は5日間の「ひるぜんネイチャーウィーク」と名付けて開催。前半3日間を「カンファレンス」、後半2日間を「アクションツーリズム」という構成にしています。
「カンファレンス」の3日間は、全国で活躍するさまざまな立場の人たちが登壇。ネイチャーポジティブの考え方や各地での取り組み、実践の始め方についてそれぞれの視点でのレクチャーを受け、ネイチャーポジティブの実践へ向けての解像度を高めます。
<DAY1:ネイチャーポジティブとは>
ネイチャーポジティブがなぜいま必要なのかを、政策や社会的インパクト、アカデミックなどの視点から俯瞰的に見ることで理解します。
<DAY2:ネイチャーポジティブのフロンティア>
実際に起きているネイチャーポジティブの具体的な実践や取り組みを知り、知見を得ます。
<DAY3:ネイチャーポジティブの始め方>
ネイチャーポジティブな取り組みを始めるにあたって、「はじめの一歩」をいかに踏み出すのか。蒜山で起きていることや、他の地域の実践者の話を聞き、明日からのアクションにつなげます。
今回、カンファレンスを設定したのは、自然との共生や、ネイチャーポジティブというテーマに興味を持っていて、「一歩踏み出したい」と思っている人も参加しやすくするため。
荻野さん まだ具体的にアクションを起こすほどではないけれど、興味がある、という人はカンファレンスだけに参加することができます。そこでネイチャーポジティブな実践のイメージが膨らみ、翌年以降のアクションツーリズムに参加してもらえるような生態系をつくれるといいなと思っていて。今年はその挑戦の1年目です。
さらにもう一歩踏み込んで、具体的なプロジェクトにしていくのが、後半2日間の「アクションツーリズム 」。カンファレンスでインプットした後に、蒜山の自然と共生してきた歴史や文化、地域課題を知るために、実際に蒜山のさまざまな場所を訪れて自然資源に触れ、具体的なプロジェクトの種を見つけ、アイデアに育てます。最終日にそれぞれが発表したアイデアは、その後も継続してワークショップや面談の機会を持ち、深めていきます。
荻野さん 去年まではプロジェクトの報告会や成果発表を東京でやっていました。でも、おこがましいかもしれないんですけど、「蒜山の方にこそ、提案を聞いてもらいたい!」と感じていたんです。地元の方の視点で見ると「蒜山って実はこんなに進んでいるんだ」と思ってもらえたり、「それなら、こういうことができるかもしれないよ」と逆に提案してもらえることもあるんじゃないかと思っていて。そういう意味でも、今回は蒜山での開催にこだわっています。
どう見立てるかは、訪れる人それぞれの視点
つい先日、蒜山の自然に興味を持ったWeb3事業を推進するコンサルティング企業と真庭市、自然再生協議会が協働して、世界で蒜山にしか生息していない虫、フサヒゲルリカミキリの3D NFTの販売がスタートしたそうです。NFTの収益は、蒜山の環境保全活動に用いる予定だとか。取材で訪れた日、そのリリースを目前に控え、自然再生協議会や真庭市役所のみなさんが、ワクワクと話していたのが印象的でした。蒜山の自然資源がビジネスの視点と組み合わさることで、自然環境がより豊かになっていく。アクションツーリズムの「ネイチャーポジティブ」への展開は、蒜山の今を表しているようです。
2日間にわたり、今回のアクションツーリズムに関わるみなさんにお話を伺ってきて感じるのは、みなさん自身が、自然と共生してきた蒜山ならではの文化を大切にしながら、いろいろな人がこの地を訪れることで生まれるであろうこれからの展開を、とても楽しみに取り組んでいるということです。
平澤さん アクションツーリズムは、自分なりの問いや仮説を持っている人、今までの真庭になかったスキルやアセットを持っている人たちが来てくれるのが面白いと思っています。自分たちにリテラシーがある分野、得意としていることと、蒜山地域の自然資源が掛け算されて、新しい何かが生み出されていくと面白いなと。仮説検証や問いのヒントを見つけることが、次のチャレンジにつながってきたと思うので、そういう機会をつくり続けられると、蒜山地域は「わざわざ」行く場所になりうると思っています。
プロジェクトが持続するかどうかは、正直やってみなきゃわからないと思うので、僕たちはとにかくその機会をたくさん提供できたらいいし、その中で生まれたものが1つでも2つでも残れば、それが蒜山の新しい物語を紡いでいく。そういう状況が生まれると嬉しいですね。
アクションツーリズムは、そんな“蒜山の新しい物語”を紡ぎ始める、絶好の場となるのではないでしょうか。
荻野さん 時代の変化とともに、蒜山での自然共生のあり方も変わってきていて、今、現代における自然共生がどういうものかを考えないといけない時期にきている。そのとき、自然と共生してきた文脈がある蒜山をフィールドに、自然資源とビジネスを掛け合わせることは、すごく面白い可能性があると思うんです。
僕、蒜山に来るたびに生き方について考えさせられるんですよね。この風景を見ると、なんで生きてるんだとか、なんで仕事してるんだっけとか、どうしても思わざるにはいられなくて。だから、会社で少しくすぶっている感覚がある人や、何かアクションを起こしたい人、人生に迷ったり引っかかったりしてる人こそ、蒜山に来て、そういうことを考えてもらえるといいんじゃないかなって思っています。
蒜山にすでにある自然資源やポテンシャルをどう見立てるかは、ここを訪れる人それぞれの視点だと思うので、そのための打席を用意したいなと思っています。本当にいい場をつくりたいなと思ってるので、まずは打席に立ってもらいたいですね。
本間さん 新しい取り組みを始めることに、ハードルを高く感じる人もいると思いますが、等身大の思いから始まっているプロジェクトもあるし、自分たちの「何かをやりたい」気持ちをベースに、会社を巻き込んでいる人たちもいる。一度参加してみて、そういう人たちと出会って、蒜山の自然資源を目の当たりにして、自分の活動や仕事と組み合わせる視点を持つだけでも、得られるものがあるだろうなと思っています。
それによって、これから先、別の地域に行ってみようと思ったり、自分たちの地域を見る視点が変わったりするのかなと。ネイチャーウィークに参加して、自分がどういうことを感じるのかを共有するだけでも価値があると思うので、「自然資源×自分」という視点で考える機会を持ってみたい人は、ぜひ参加してほしいなと思っています。
蒜山地域の人たちは、これまでのアクションツーリズム参加者による提案を決して否定しないそうです。大自然の中で全てを受け止め、自然と共生するための知恵と工夫をもって暮らしてきた蒜山には、いろいろなことを「まず、受け止める」風土が根付いているのかもしれません。
蒜山の自然に、あなた独自の視点やキャリア、スキルが掛け合わさった時、一体どんなプロジェクトが生まれるのでしょう。ネイチャーポジティブというテーマや、蒜山地域に紡がれてきた自然と共に生きる文化に心が動いた人は、ぜひ、今回の「ひるぜんネイチャーウィーク」に参加して、蒜山地域のこれからの物語を紡ぐ一歩を、一緒に踏み出しませんか。
雄大な自然とそこから生まれるストーリーのある資源は、自分自身の中にある「何かしたい」という気持ちを後押しして、あなたの生き方をも変えてくれるはずです。
(前編では、蒜山の自然と共生して生まれた文化や自然資源についてご紹介!)
(撮影:小黒恵太朗)
(編集:村崎恭子)
– INFORMATION –
地域共創で生み出すネイチャーポジティブ 〜 産官学連携で生物多様性を回復する方法~
今回ご紹介した蒜山地域の「ネイチャーポジティブ」をより深く掘り下げるオンラインイベントを開催します。2025年10月に開催される「ひるぜんネイチャーウィーク」を前に、東北大学・近藤倫生さん、真庭市・平澤洋輔さんらをゲストにお迎えし、地域でネイチャーポジティブに取り組む可能性に迫ります。
蒜山エリアでの事例に関心がある方はもちろん、地域×ネイチャーポジティブに関心のある方にもおすすめの内容です。
日時:2025年9月9日(月) 20:00〜21:30
参加費:無料

全国で自然資源を活かしながらプロジェクトに取り組む企業・自治体担当者・専門家による講演やクロストークを通して、ネイチャーポジティブを考えるカンファレンスおよびアクションツーリズムを開催いたします。
真庭市・蒜山での取り組みに関心のある方は、どなたでもご参加いただけます。
日時:2025年10月7日(火) 〜10月11日(土)
会場:シェアオフィス「ひととき」(岡山県真庭市蒜山上福田1205番 780)
主催:岡山県真庭市















