みなさんは犬を飼おうと考えたとき、どこに足を運びますか? まずはペットショップに…という人も少なくないのではないでしょうか。
ペットショップも犬と出会う場のひとつではありますが、犬や猫を保護しているシェルターに行ってみるという選択肢もあります。
悲しいことに、実は日本では2,434頭のペットたちが1年間に殺処分されています。(2023年度、出典元)忙しくなって世話ができなくなってしまったり、繁殖しすぎてしまったり。飼い主がペットを手放す理由はさまざまですが、居場所がなくなった動物たちを「一匹でも多く救いたい」という思いで保護し、里親につなぐ活動をしているシェルター団体があります。
アメリカのペットフードブランドである「PEDIGREE」は、2008年に「PEDIGREE財団」を設立。この財団を通じて、2050年までに飼い主を失った犬たちの住処問題を解決することを目標に掲げているのです。
保護犬たちと犬を飼いたいと思っている人たちを、もっともっとつなぐことはできないか…。 単に里親募集のお知らせを発信するだけでは不十分。そこで広告会社「BBDO」が考え「PEDIGREE」が実施したのが、「Adoptable」というプロジェクトです。
私たちは、すべての犬を愛しています。でも、最も愛を必要としているのは、シェルターで暮らす何百万匹もの犬たちなのです。
そう語る「PEDIGREE」が始めたのは、彼らの商品を宣伝する屋外広告を、里親探しのプラットフォームとしてハックするように活用してしまう取り組みでした。
「Adoptable」では、最先端のAI技術を活用。シェルターで過ごす犬の写真を加工し、広告写真として使えるクオリティまで高めます。さらに「リグ」と呼ばれる技術と紐づけることで、1枚の写真からその犬のあらゆるポーズや表情をつくり出します。するとまるで、保護犬たちがタレントのように!
こうしたテクノロジーにより、PEDIGREEのあらゆる広告に、実際に保護犬たちがモデルとして登場できるように。広告を見た人びとは、保護犬のさまざまな表情や仕草に接して、「会いに行ってみようかな・・・」と思いを馳せることもできます。
この取り組みの驚くべき点は、画像のクオリティだけではありません。位置情報や地域で暮らす人たちのビッグデータを活用して、広告の近くのシェルターにいる保護犬が適切な人とマッチングできるようサポートもできるんです。
たとえば、屋外広告のまわりの土地や、そこで暮らす人たちの家族構成といったデータをもとに、その地域でマッチングしやすい保護犬がモデルとして登場するような設定にすることができます。さらに、時間帯やシチュエーションに応じて広告のメッセージを変更することも。
こうした仕組みを活用して、通勤途中の人びと向けには「家に帰るの? いっしょにに行っていい?」というメッセージと共に犬の写真を表示するなど、ユーモアを交えた心温まる広告を展開。私たちは日々オンライン上で、自分の属性や関心に合った広告と出会いますが、その仕組みを屋外広告にうまく活用しているんですね。
各広告にはQRコードが埋め込まれており、スキャンするとウェブサイトでその犬についての詳細な情報を確認したり、実際に会う約束を取りつけることもできます。
この「Adoptable」を経由してシェルターのウェブサイトへのアクセスがぐんと伸び、保護犬のプロフィール閲覧数が6倍になり、ページの滞在時間は4.5倍に延びました。また、広告に登場した犬の50%は2週間以内に里親が見つかり、「Adoptable」を通じてシェルターを訪れた人は、里親になる可能性が12%高くなっています。
「PEDIGREE」は今後2026年までに、すべてのデジタル広告に里親を待つ保護犬たちを登場させることを目指しているのだとか。
AIや個人データなど、テクノロジーを用いて、自社の製品だけでなく、「大事な命を守る」という社会貢献の姿勢も”宣伝”している「Adoptable」。ペットフードを買う「消費者」を、ペットを救うといった社会課題を解決する「当事者」に育てていくというアプローチが斬新な事例ですね。
「こういうの好きでしょ?」とオンラインで追いかけてくるようなデジタル広告やレコメンデーションにはときどきうんざりさせられますが、こういう、命を救うことにつながるような使い方ならいいな、と思わされました。
(編集: 丸原孝紀、スズキコウタ、greenz challengers community)