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今、社会に必要なのは希望だと思う。ボーダレス・ジャパン代表・田口一成さんに聞く、社会性と経済性を両立するソーシャルビジネス論

「お金そのものが社会課題ではないか?」という仮説のもと始まった、「お金を変えるソーシャルデザイン」を探求する連載企画。連載第2回としてお話を伺ったのは、株式会社ボーダレス・ジャパン 代表の田口一成(たぐち・かずなり)さんです。

ボーダレス・ジャパンは、社会課題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」のみを行う会社として、2007年3月に設立されました。自社事業とともに社会起業家の育成・支援を行い、現在14か国で51の事業を展開しています。

数多くのソーシャルビジネスに携わってきた田口さんは、お金をどのように捉えてきたのでしょうか。社会性と経済性を両立させるための工夫や仕組みづくりとは。グリーンズ編集長の増村江利子(以下、増村)がお相手となり、ボーダレス・ジャパンのこれまでの歴史、2023年10月に発表した新たなパーパスの背景にも触れつつ、ソーシャルビジネスにおけるお金のあり方について聞きました。

田口一成(たぐち・かずなり)
株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役社長
1980年生まれ、福岡県出身。早稲田大学在学中に米国ワシントン大学へビジネス留学。卒業後、㈱ミスミ(現 ミスミグループ本社)を経て、25歳でボーダレス・ジャパンを創業。社会課題を解決するソーシャルビジネスのパイオニアとして、日経ビジネス「世界を動かす日本人50」、Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」、EY「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン」に選出。2020年、カンブリア宮殿に出演。TEDx『人生の価値は何を得るかではなく、何を残すかにある』の再生回数は100万回を超える。著書『9割の社会課題はビジネスで解決できる』はベストセラーに。
増村江利子(ますむら・えりこ)
greenz.jp 編集長
国立音楽大学応用演奏学科卒業。Web制作ディレクター、広告制作のクリエイティブディレクター、メディア編集を経て独立。Webマガジンでは他に、esse-sense編集、SMOUT移住研究所編集長、ながの人事室編集長。ドキュメンタリーマガジン『Community Based Economy Journal』副編集長、地域探訪誌『涌出』編集長。竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll」を運営するおかえり株式会社の共同創業者、「竹でつくった猫砂」を販売する合同会社森に還すの共同代表。信州大学農学部総合理工学研究科(修士課程)を修了。森と水、里山と暮らしをテーマとする独立研究者。三児の母。長野県諏訪郡へ移住し、9坪の狭小住宅で家電を使わずに暮らす。ミニマリストとしての暮らしぶりは『アイム・ミニマリスト』(編YADOKARI)にも収められている。

社会の課題を、みんなの希望に変える

増村 ボーダレス・ジャパンは約18年間、ソーシャルビジネスの第一線を走り続けていますね。この領域で最近よく語られる「社会性と経済性の両立」について、田口さんがどのように捉えているか教えてください。

田口 僕のなかでは「社会性は目的、経済性は手段」とシンプルに捉えています。目指したい社会のあり方や解決したい社会課題を目的において、経済性は後からなんとか担保する。並列のように見えて、この2つには考える順序が明確にあると思っています。

また、経済性は手段なので、とりうる選択肢は多様にあります。事業型でもいいし寄付型でもいい。目的を達成するためのソリューションを詰めていくなかで、自ずと最適な手段は見えてきます。一方、経済性のほうから考えてしまうと、ソリューションに歪みが生じてしまって、儲かるけれど課題が解決されない、なんてことにもなりかねません。

増村 うまく両立している起業家の特徴などはありますか?

田口 ソーシャルビジネスの文脈でいうと、ビジョンを持っている人だと思います。この領域にいると、自分のことを「こういう社会課題に取り組んでいます」と語る人たちを多く見るんです。でも、そうした活動は一定のところで止まってしまうケースが多い。本当に事業を前に進められる起業家たちは、問題を解決した先に実現したい「理想の社会」を語ります。そのほうが、周りから興味を持ってもらいやすかったり、力を借りやすかったりしますからね。

増村 問題だけでなく理想も語るのが大切だ、と。昨年、「SWITCH to HOPE 社会の課題をみんなの希望に変えていこう」というパーパスを策定されたのも、そうした考えからですか?

田口 その通りです。ボーダレス・ジャパンは創業から、社会課題に目を向けずに経済が進んできたことに警笛を鳴らすために「社会課題」という言葉を使って活動をしてきました。しかし、最近になってそれ自体が、僕らの大きな課題じゃないかと考え始めたんです。「社会課題」と言い続けていると、日本が課題に溢れた悲しい国のようにも映りますし、何より人が前向きに取り組もうと思いづらいですからね。

ボーダレス・ジャパンは、悲壮感ではなく、楽しそうに使命感を持って課題解決に取り組んできた会社です。そのスタンスをきちんと表明するためにも、課題だけではなく「希望」もセットで伝えようと新たなパーパスを発表しました。

お金には興味がない。でも、事業の利益は確実に出す

増村 今後についてのお話をよく理解するためにも、先にボーダレス・ジャパンのこれまでについて伺いたいと思います。創業の経緯や、当時大変だったことを教えてください。

田口 僕が起業しようと考え始めたのは20歳のときです。貧困問題に興味を持ち、NGOについて学ぶうちに、社会課題を解決する企業や事業に対して資金が不足していることに気づきました。そこで、そうした活動に資金提供できるプレイヤーになろうと思い、大学を1年休学してアメリカのシアトルでビジネスを学んだんです。シアトルはスターバックスやタリーズなどのスペシャルティコーヒーカフェの発祥地。そこで思いついたのが、スペシャルティカフェのお茶版で、茶葉は発展途上国の貧しい農家と直接契約することで、フェアトレードを実現するビジネスモデルを考えました。

帰国してからは、事業を立ち上げるためにVCから資金調達をしようとしたのですが、上手くいきませんでした。当時は、「ビジネスで直接的に社会課題を解決する」という考えは一般的ではなく、VCから「良い品質の茶葉を安定して安く買えるように、最初は商社から仕入れるべき」と言われたこともあります。でも、それでは自分がやりたいことはできない、と断わりました。

ボーダレスハウス構想につながるアメリカ留学中の写真

それから自己資金で起業するために商社に就職。2年間、昼夜問わず死に物狂いで働いて貯めた600万円を資本金にボーダレス・ジャパンを創業したんです。ただ、会社をやっていくと、そのくらいのお金はすぐになくなってしまいます。本当に安定して事業を成り立たせるまでは、知人にお金を借してもらったり、できることをなんでもやりながら、なんとか継続させてきました。

増村 田口さん自身も、創業当初はお金に悩まされていたんですね。

田口 当時からお金にはまったく興味がないんですけど、お金がないことの大変さは身に染みてわかりましたね。だから、ボーダレス・ジャパンや僕たちがサポートする起業家がつくる事業は、どれもきちんと利益を出せるように設計してきたんです。

増村 どんな工夫をされてきたんですか?

田口 一つ例をあげるなら、僕らはアクティブ・ベースド・コスティング(※1)を導入して、かなり精緻なコスト計算をしています。仕入れなどのわかりやすいコストだけではなく、たとえば「サービス受注のために通話した時間分のコスト」など目に見えにくいコストも洗い出して、シミュレーションするんです。それでも最終的な営業利益が15%くらい残るようなモデルをきちんと組み立ててから、事業をスタートしています。

そうすると、商品を安売りするようなモデルは絶対に成り立ちません。今までにない商品、付加価値の高い商品をつくる必要があります。できる限り精緻に計算して最終利益を出そうとする考え方が、サービスの独自性にもつながっているのです。

※1 間接費をそれぞれの製品やサービスのコストとしてできるだけ正確に把握する原価計算方法

エコシステムと自社事業の両輪で、多種多様な社会課題にアプローチ

増村 事業づくりの他に、会社の仕組みづくりに関しても伺いたいです。グループ全体で50以上の事業を展開されていますが、どんな仕組みで実現しているのでしょうか?

田口 ボーダレス・ジャパンは、社会課題に取り組む起業家の事業プランニングをサポートし、いいプランができたものに対しては事業資金を出資してきました。出資を受けた起業家は、余剰利益が出るようになったら、売上の一部をボーダレス・ジャパンに還元。そのお金をプールした「恩送り資金」から、また新たな起業家の創業資金をサポートするというエコシステムをつくりました。

「恩送り資金」の仕組みの図(ボーダレス・ジャパンの公式HPから抜粋)

加えて、ボーダレス・ジャパン自体も内部に事業を持っていて、会社の活動費はその事業の売上から捻出しています。起業家を支援するエコシステムをつくりながら、自らも社会起業家の一員として活動しているんです。

増村 フェローには、かなり多様なメンバーが揃っていますよね。多様性の高いコミュニティを継続するために意識してきたことはありますか?

田口 フェローが自分の意志で事業を進めていけるように、特権やパワーでまとめ上げないことを意識していきました。創業時にボーダレス・ジャパンの支援を受けたフェローは、僕が何か指示を出せば、意向を汲もうとしてくれると思うんです。でも、それでは自立自走する社会起業家を増やすことにはつながりません。

それに、パワーで無理やりつくったものは必ず壊れます。逆に、自然とできたものは、自然と広がっていく。これは歴史を見ると明らかで、どんなに偉大な企業でも、創業者の存在が大きすぎると引き継ぎがうまくいかない。

多種多様な起業家が集まり切磋琢磨する環境があるボーダレス・ジャパン

ボーダレス・ジャパンがつくりたいのは、100年後も200年後も機能する「社会起業家を輩出する仕組み」です。その頃にはきっと現代とは違う社会課題があると思いますが、この仕組みがあれば、課題は放置されることはない。長期的に残し続けるためにも、なるべく創業者の特権やパワーを排除し、自然に広がっていくように設計しています。そうした考えもあって、ボーダレスでは「創業者」という言葉を使わないように徹底しているんですよ。

増村 たしかに、地域で長く続くお祭りなどは、誰がそれを始めたのかはわからなかったりしますよね。とはいえ、目の前に喫緊の課題もあるなか、自然に広がるのを待っていては解決が間に合わないこともある、という考えもありませんか?

田口 そこが本当に難しいんですよね。自然に広げていくというのは、ゆっくりと育んでいくということです。気候変動などのように素早く、かつダイナミックに動かないといけないものは対応しにくい可能性もある。社会で起きていることに本当に責任を持とうとすると、たしかに、悠長なことを言ってられない場面もあります。

CO2ゼロの自然エネルギー100%のみ販売し、使えば使うほど自然エネルギーの発電所が増えるなどの特徴がある「ハチドリ電力」はボーダレス・ジャパンの自主事業。既存の電力会社の送配電網を通して電力を供給するため、安定した電力供給が可能だ

だから、ボーダレス・ジャパンは、ゆっくり育むことと、スピード感を持って動くことのハイブリットでいようとしています。先ほどお話しした、自社事業はまさにそのためのもの。起業家を輩出するエコシステムづくりでは有機的に生まれるものを大切にし、急いで解決しないといけない課題についてはハンズオンの自社事業も立ち上げながら対応できればと思っています。

より社会に開かれた存在になるため、お金にまつわる仕組みをアップデート

増村 ボーダレス・ジャパンの取り組みや考え方が理解できました。改めて、目指す未来について伺っていきたいと思います。まず、新しい取り組みとして、創業時の起業家への資金提供を「出資から寄付に変更」されましたね。これは大きな転換点だと思いました。なぜそうしたのでしょうか?

田口 大きな変化のように受け取っていただくこともあるのですが、僕らからすると実はあまり変わっていないんですよね。もともと出資の形をとっていたのは、銀行融資などが受けやすくなるように、事業立ち上げ時に資本金を厚くしてあげたかったから、というだけです。

便宜上、出資をしているだけなので、不要になったら株はいつでも買い戻せますし、価格も出資時と同じ額面価格でいいとしています。僕らへのリターンはそもそもゼロなので、実質的には寄付のようなものです。

制度変更をしたのは、ボーダレス・ジャパンが株を100%保有することによって、フェローの会社が子会社のように見えてしまうことに課題を感じたからです。本来、一人ひとりの起業家が自立して事業を進めているのに、ボーダレス・ジャパンがグループ会社を増やしているように見えてしまう状態は避けたいと思いました。

そこで、会社に出資するのではなく経営者自身に寄付することにしたのが、今回の変更です。起業家がそのお金を資本金に入れれば、目的であった「資本金を厚くして融資を受けやすくする」ということも担保できます。最初からこうすれば良かったと思うくらい、僕らにとって自然な選択でした。

増村 創業資金の提供を出資型から寄付型にすれば、NPOなどの団体にも提供可能になるということでしょうか?

田口 まさにそれも、制度変更の決め手となった点の一つです。冒頭でも話したように、株式会社かNPOかというのは、経済性の担保の手段が違うだけで、社会課題解決のソリューションとしては同じだと思っています。実際、僕らが運営しているソーシャルビジネススクール「ボーダレスアカデミー」の卒業生にもNPOを立ち上げようとしている人はいて、どうにか応援したいと思っていました。

今回、創業資金を寄付で提供するように変更したことで、NPOに渡すことも可能になりました。NPO側も寄付実績もつくることができて、その後の事業も進めやすくなります。株式会社とNPOの境をなくし、より幅広いソリューションを応援できるようになったんです。

増村 実質的にやっていることは変わらないけれど、ボーダレス・ジャパンのスタンスがよりわかりやすくなったんですね。他に、お金にまつわる部分での変化はありますか?

田口 まだ構想段階ですが、「恩送り資金」の仕組みも変化させたいと思っています。これまでは、ボーダレス・ジャパンのフェローから、次なるフェローへと内部循環させる仕組みでしたが、これからは、より社会に開かれたものにしていきたいです。

実は、創業当初から、起業や入社がしたいわけではないけれど、何かしら僕らを応援したいと申し出てくれる人が結構いました。そこで「ボーダレス・サポーター(現ボーダレス・アライ)」という会員制度をつくり、いただいた会費を恩送り資金にプールするようにしてきました。

今後は、その仕組みをさらに発展させ、資金の出し手をより広く募れるようにしていきます。社会起業家が社会起業家を応援する「恩送り資金」を、市民が社会起業家を応援する「市民ファンド」のようなものに拡大できないかと思っているんです。

「ボーダレス・アライ」からより「ボーダレス・サポーター」へ。より多くの起業家が立ち上がり、より多くの課題解決ができる社会の創出を目指す

増村 社会起業家からしてみると、ボーダレス・ジャパンからお金を受け取ったというよりは、社会からお金を受け取ったという認識が強まりそうですね。

田口 そうですね。自分たちが社会にとって大切な存在なんだという自信にもつながりますし、その基金を減らさずに次の世代に引き継ごうという自負にもつながると思います。支援した起業家の名称に関しても、現在は「ボーダレス・フェロー」ですが、社会や世界に向き合っているという意味では「ワールド・フェロー」に変えてもいいかもしれません。今後も、よりボーダレス・ジャパンの活動を社会に開かれたものにしていくため、仕組みのアップデートを進めていきたいと思います。

地域の課題解決の鍵は、「マイクロフランチャイズ」

増村 ボーダレス・ジャパンのこれからに期待が膨らみます。逆に、田口さんが社会起業家や、ソーシャルビジネスを取り巻く環境に対して期待していることはありますか?

田口 社会起業家に対しては、規模を追求するということですね。本当に社会を変えようと考えるなら、やっぱりインパクトの大きさからは目を背けることができません。

ただ、それは必ずしも会社の規模や売上を大きくするということではない。課題を解決できるソリューションをつくり、それを広く展開していくことで、結果として大きなインパクトを生むことも含まれます。僕らは、それを「マイクロフランチャイズ」と呼んでいます。

マイクロフランチャイズを増やしていく上では、社会起業家のみなさんがソリューションを磨き、それを他の人も真似できるような形で共有していくスタンスが大切だと思います。

さらに、グリーンズのようなメディアのみなさんが、すでに話題になっているものだけでなく、まだ知名度はないけれど素晴らしい活動を見つけ、広げてくれることにも期待したいです。モデルケースを掘り起こし、必要とする地域のプレイヤーにつなげたり、そのケースを学べるプログラムをオーガナイズしたりして、マイクロフランチャイズの芽を育ててもらえたらと思います。

増村 メディアとして大事な役割を再確認させていただきました。最近は、地域という、自分のいる足元で、ほしい未来を現実のものにするような活動を始める人たちも増えていますね。

田口 そうですね。そうした方々の背中を押していきたいと思っています。必ずしもゼロから事業モデルを考えないといけないわけではないので、「この地域ではこのモデルが展開しやすい」といったノウハウを提供していければ、一歩目を踏み出せる人が増えると思います。

さらに、そうやって立ち上がった人たちと、その地域の学生や若い人たちが接点を持てればなおいいですね。物理的に近い距離にロールモデルとなる人がいることは重要です。若い世代の人たちがロールモデルの起業家を見て「この地域でも、こんなに楽しく挑戦ができる」と思えば、地域に残り続ける選択肢も生まれるかもしれません。

そこに、先ほど話した「市民ファンド」の地域バージョンが加われば、お金の循環もつくることができる。地域がワンチームとなって起業家を応援し、起業家がその地域の課題を解決し、さらに次世代の起業家を応援していく。理想的な地域の自治の形ができるのではないかと思います。

ソーシャルビジネスを、ビジネスのネクストスタンダードに

増村 地域の希望をつくっていく、まさに「SWITCH to HOPE」だと思います。ちなみに、田口さん自身が見据えている希望はありますか?

田口 考えていることはどんどん変わっているんですが、今は高齢者と若者に希望を見出しています。日本の高齢化が課題のように言われるのは、高齢者がコストのかかる存在だというイメージが植え付けられているからですよね。逆に、高齢者がいつまでも生き生きとしていて、望めば自分らしく働くこともできる社会になれば、高齢化は希望に変わるかもしれません。

そこでボーダレス・ジャパンでは、シニアによる起業を応援していきたいと思っています。人生100年時代を考えるなら、65歳で退職した人もあと10年くらいは、自分らしく働く選択肢もあるはずです。そうした人たちに向けて、起業も含め、その方が望む範囲の心地のいい経済活動をするためのサポートをしたいと考えているんです。

もう一つの希望は、若者のキャリアパスに関することです。今はまだ、「いい大学に入って、いい企業に就職する」という一方通行の考え方がスタンダードですよね。でも、社会に出て学歴が役立つことなんてほとんどありません。若い人たちが学生のうちにもっと色々な経験をして、多様なキャリアをつくれることのほうが重要だと思うんです。

増村 若い世代が多様なキャリアパスを実現するために、どのような仕組みが必要だと思いますか?

田口 そのヒントはアメリカにあります。アメリカの学生たちの多くは、学校を卒業した後、2年間のギャップイヤーを過ごします。ボランティアや企業でのインターンシップを経験するのですが、そこで人気なのが、教育系NPOの「Teach For America(TFA)」なんですよ。

TFAでは、教育崩壊の危機に瀕する地方公立校に職員が派遣され、2年間の教員経験を積みます。そこで、人と向き合ったりリーダーシップを鍛える経験が、GAFAMのような企業からも評価され、その後の就職に有利に働く。学歴ではなく経験でキャリアが開かれるのは本質的ですよね。

これに学び、ボーダレス・ジャパンでは「JICA海外協力隊」を活用したキャリアコースを独自でつくろうと構想しています。うちで1年働いてスキルを身につけてから、JICA海外協力隊で2年間途上国へ行く。帰国後は、会社に戻ってきてもいいですし、起業や転職をしてもいいというキャリアコースです。会社に戻れるという安心感を担保しながら挑戦できる、ポジティブな選択肢として提供できればと思っています。

増村 とてもいいですね!最後に、ボーダレス・ジャパンの今後の展望を教えてください。

田口 僕らはソーシャルビジネスを「ビジネスのネクストスタンダード」に押し上げていきたいと思います。活動を始めた18年前は、ソーシャルビジネスはビジネスのアンチテーゼやオルタナティブな存在だと捉えられていました。しかし、本来ソーシャルビジネスは、ビジネスの新たな可能性そのものです。

課題を生みながら成長していくビジネスは終わり、人類にとっての課題を解決していくことこそビジネスのネクストスタンダードだという認識をつくっていきたいと思います。

増村 その認識が広がった社会をどう描いていますか?

田口 わかりやすく、かつ極端な言い方をすれば、日本の一番優秀な人材と国の大きな資金がソーシャルビジネスに注ぎ込まれるようになる、ということです。ボーダレス・ジャパンは、その受け皿となり、喫緊の大きな社会課題を直接的に解決していく存在になりたい。僕らが実践する、人や資金の活かし方、社会性と経済性の両立、課題を解決しながらビジネス成長させる試行錯誤を、未来のビジネスや企業のあるべき姿の一つとして提示していきたいです。

増村 今年、設立から18年を迎えたグリーンズは、ボーダレス・ジャパンと同い年。私たちも未来に希望が持てる社会づくりに向かって一緒に切磋琢磨していけたらと思います。ありがとうございました。

(対談ここまで)

(撮影:廣川慶明)
(編集:増村江利子・岩井美咲)