色とりどりの花や植物が並ぶガーデニング用品売り場で種の袋を持っている笑顔の女性。
一見なんの変哲もない風景ですが、種の袋を装ったパッケージの中身はなんと、コンドームなんです!
一体なぜ、ガーデニングショップで!?
実はこれ、イギリスで実施されたとあるキャンペーン。背景には、イギリスのシニアの間で、淋病やクラミジアなどの性感染症が増加しているという問題があります。
イギリスのシニアを対象にしたある調査(*)では、最も楽しいと答えた娯楽の1位が「セックス」(44%)、次いで「家族に会う」(43%)、「ガーデニング」(32%)という結果に。一方でこの世代の性感染症に対する意識は低く、コンドームも避妊のためのものとして、性感染症対策に使うという認識を持っている人は少ないという課題がありました。
(*)relate.org (2022)
とはいえ、性行為にまつわるテーマは、どの世代でもオープンに話しづらいもの。デリケートなテーマについて、多くの人に考えてもらうきっかけをつくるには工夫が必要になってきます。
そこで考え出されたのが、調査でセックスの次にシニア世代に人気の娯楽という結果が出ていたガーデニングをフックにしたキャンペーンです。“寝室にいないときは庭にいるはず”ということで、各地のガーデニング用品売り場で、野菜や果物の種の袋を装ったパッケージにコンドームを入れ配布することにしたのです。
ガーデニングショップにマッチした上品なデザインのパッケージには、ナス、プラム、タマネギ、アボカドなどの植物のイラストが描かれています。しかしよく見ると意味ありげなイラストが。
種まきの時期や植え方といった園芸用語が並ぶ一般的に見えるテキストも、性行為にまつわる話題を匂わせるユーモラスな内容。あわせて、性感染症予防のためにコンドームの使用を呼びかけるメッセージが込められています。
庭の手入れ道具を買おうとガーデニング用品売り場を訪れて、こういうモノを手にしたら、あなたは眉をひそめますか?
それとも笑ってしまうでしょうか?
イギリスでは、ガーデニング好きで、言葉遊びやユーモアを好む国民性があいまって、このキャンペーンは大きな成功を収めました。
キャンペーン開始の最初の5日間で世界中の200以上のメディアで報道され、動画は16億インプレッションを獲得。
さらに各所で拡散されSNSなど50億のアーンドメディアにも露出しました。また、話題を集めただけでなく、参加者へのアンケートによると、独身のシニア(年金受給者)の95%が実際にコンドームを使用するようになったという具体的な結果にも結び付きました。
このキャンペーンを主催したのは、カウンセリングなどを通してカップルや家族、子どもなど様々な人たちの人間関係の構築をサポートするイギリスのチャリティー団体「Relate」。
団体の代表であり、人間関係を専門とする精神療法士(リレーションシップ・サイコセラピスト)でもあるアンジュラ・ムタンダさんは、
年齢に関係なく、安全なセックスの重要性について話すことを恐れるべきではありません。ガーデン用品売り場のような思いがけない場所で性の健康について議論することで、私たちはタブーを打ち破ろうとしたのです。
と話します。
ちなみに、このキャンペーンで配布したコンドームは、土に埋めれば生分解して土に戻るそうで、ガーデンに埋めることも可能。製品を提供したHanx創設者のファラ・カビル氏とサラ・ウェルシュ博士は、「セックスについて話すというタブーや気まずさを打ち破る最良の方法のひとつは、そういう話題が時にくすっと笑ってしまうという事実を受け入れることが有効」とコメントしています。
まさに、ユーモアの力でタブーを打ち破ったキャンペーン。大事だけど言いづらいことやデリケートな話題を伝えるときに、ユーモアや遊び心に富んだコミュニケーションの力が大きいことに改めて気づかされます。加えて、幸せでアクティブな人生を、という明るいメッセージを感じました。
[via GOV.UK, relate.org, ogilvy.com]
[Top Photo:via ogilvy.com]
(Text: 片岡麻衣子、丸原孝紀)
(編集: 丸原孝紀、greenz challengers community)