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自分の生き方を表現する商いを始める。 広島・鞆の浦の長田夫妻が「ローカル開業」で見つけた自分たちの生き方

「私は今、自分が心から求める生き方をしているのだろうか?」

人生の節目節目で、幾度となくこの問いを投げかけてきたように思います。

もちろん、置かれた場所で花を咲かせることも素晴らしいけれど、できることなら社会の枠組みやルールの中だけでなく、本当に自分の心が豊かになれる場所で、自分の生き方を表現する商いをやってみたいと思いませんか?

グリーンズは、そんな想いを持ったあなたを応援するため、合同会社コト暮らしとともに、「ローカル開業カレッジ」を始めることにしました。

「ローカル開業カレッジ」は「自分の生き方を表現する商い」を始める人のためのラーニングコミュニティです。
地域の課題解決が先にあるのではなく、自分の好奇心をいかし、自らの生き方を表現するためのお店の始め方など、全国各地でお店を営む実践者から学び、ローカル開業に向けたあなたの一歩を後押しします。

今回は、このカレッジをともに主催し、東京から広島県・鞆の浦に移住して自身もローカル開業をしている「コト暮らし」代表・長田夫妻の物語をお聞きしながら、ローカル開業の可能性を探っていきます。

長田涼(ながた・りょう)
コト暮らし共同代表。京都生まれ兵庫育ち。某大手アパレル企業、スポーツイベント会社、IT企業を経て2018年にコミュニティフリーランスとして独立。オンラインを中心としたコミュニティマネジメントの専門家として活動。その傍らで、2022年に夫婦で鞆の浦に移住し、古民家カフェ「鞆の浦ありそろう」を経営しながら街の内と外や観光と暮らしをつなげる活動を行う。
長田果穂(ながた・かほ)
コト暮らし共同代表。大阪生まれ横浜育ち。機械メーカー、ヘルスケアベンチャー、人材業界での会社員を経験した後、個人事業主を経て、現在はNPOやソーシャルベンチャーの創業支援をサポートするコーディネートなどを行う。東京在住時にパン職人をしていたことがあり、現在鞆の浦でパン屋の開業準備中。

「鞆の浦ありそろう」は人と人がつながり、誰かを応援できる場所

2022年2月、鞆の浦に移住した長田夫妻は、移住から約一年後の2023年1月に、コミュニティ事業を行う会社「合同会社コト暮らし」を夫婦で立ち上げました。

「コト暮らし」のコンセプトは、コミュニティを通じて「あなたの選択」に寄り添うこと。
「あなたの選択」とは、社会の声や他者の声を優先するのではなく、自分自身の声から生まれる選択や納得感を持った選択のことをいいます。

コミュニティマネージャーである涼さんと、コーディネーターとして活動する果穂さんは、人と人とのつながりから生まれる力が、社会を豊かにすると信じてきました。

涼さん コミュニティの一員であることの実感が大きな安心感につながり、自分らしい選択を尊重することができたり、さまざまな人と出会うことで新しいなにかを生み出すきっかけになる。一人ひとりが自分らしくいられるコミュニティが増えていけば、社会はもっと面白く豊かになると思うんです。鞆の浦でも、そんな人と人とがつながれる場づくりを少しずつ実践しています。

現在、長田夫妻は古民家カフェ「鞆の浦ありそろう」という一つのコミュニティで、「あなたの選択に寄り添う」ためのさまざまな仕掛けをつくっています。さ

鞆の浦は、広島県福山市の南部にある沼隈半島の先端に位置する港町。江戸時代の風情が残る古い建築や、穏やかで美しい瀬戸内海の景色を求め、国内外から多くの人が訪れる日本有数の観光地です。その反面、観光地には珍しく、住宅も多く混在しており、メイン通りから少し路地に足を踏み入れると、そこに暮らしている人の息遣いを感じられるような、とても居心地のいい風が吹いていることに驚きます。

鞆の浦の街並み。路地へ入ると昔ながらの景色が広がっていてタイムスリップしたような気分になる

長田夫妻が営む古民家カフェ「鞆の浦ありそろう」も、そんな港からほど近い閑静な路地に佇んでいます。

果穂さん 実は開業当時はコミュニティスペースと名付けていたのですが、地元の特に高齢の人たちがコミュニティという言葉にあまりピンときていなかったので、今は分かりやすく古民家カフェとしています。でも中身は、人と人とがつながり、応援し合える場所。

飲食の提供だけでなく、古道具や雑貨の販売を行っているのは、「鞆の浦ありそろう」を起点に人やものの循環を生み出すことで、誰かを応援したいと思っているから。

「鞆の浦ありそろう」で販売している古道具

涼さん 古道具は、鞆の浦にたくさんある空き家の中に放置されていたものを、必要な人の手に渡ることを願ってもう一度綺麗にして販売しています。雑貨や飲食で提供する食材なども、友人や知人がつくっているプロダクトを扱うことにこだわっていて、僕たちを起点に鞆の浦を通してご縁がめぐる循環を生み出すことで、活動を応援できたらいいなと思っているんです。

また、さまざまなジャンルでこれから本格的に自分の場所を持って活動したいと考えている人のために、実験的に出店できるイベントスペースとしても機能しています。
まちに住むヨガインストラクターがヨガイベントを開催したり、将来的に自分のコーヒーショップを持つことを考えている友人が月に一度出店したりと、「鞆の浦ありそろう」を自分たちだけの場所にしないことで一人ひとりのやりたいことの背中を押せる仕組みをつくっているそう。

涼さん 僕たち二人がこれまでやってきたことや得意なことを掛け合わせると、やっぱりコミュニティを通じて誰かの選択を応援することなんですよね。表向きはカフェでも、やっていきたいことは一貫して変わっていません。

住んでいる人みんな、このまちが好き。そんな場所で子育てがしたいと思った

長田夫妻が東京から地方への移住を考えたのは、子育てが大きな理由でした。

果穂さん 子どもが生まれてみると、東京での生活はとても窮屈に感じました。ベビーカーでどこかへ行くにしても道は狭いし、混んでいる電車に乗ると舌打ちされる。お店で子どもが泣いたら外に出ないとみんなが迷惑そうにみてくる……。子どもがもっとのびのびできる場所で子育てしたいと思い、地方移住を考え始めました。

今年6月に生まれたばかりの次男景くんも一緒に取材に参加してくれた

その後、青森県の十和田市や宮崎県の日南市、愛媛県の今治市、大洲市、広島県の尾道市など、移住候補地に挙がったまちへ順番に滞在していきましたが、当初、鞆の浦は候補地ではなかったといいます。

涼さん 友人にお勧めしてもらったので、尾道に来たついでに3時間だけ観光するつもりで鞆の浦へ行きました。鞆の浦で出会った人たちと会話をしていると、みんなこのまちが好きなんだということが伝わってきたんです。「そこまでみんなが好きになるまちってなんなんだろう」と、気になり始めました。

果穂さんは、ここでだったら理想の子育てができるのではないかとも思ったそう。

果穂さん ほかのまちでは、子育てのために移住先を探していると話すと、保育園や小学校が閉校になるとか小児科がないとか、子育てにおいてマイナスな面がみえることが多かったのですが、ここでは「子育てするなら鞆(とも)じゃろ!」と、みんなが口を揃えて言ってくれて、それにすごく魅かれましたね。

長男の晴くんは、近所でも人気者。地域の人から可愛がられてすくすくと育っている

翌月、もう一度見に行ってみようと鞆の浦を訪れたとき、初めての訪問の際に出会った先輩移住者の人がすでに空き家を見つけてくれていたこと、さらには鞆の浦に一つだけあるこども園の入園申し込みに間に合ったことが重なり、「これはご縁だ!」と感じて移住を決めたといいます。

他人軸ではなく、自分のやりたいことを大切にしたい

これまで、新卒時代からさまざまなキャリアの変遷を経てきたおふたり。自分が本当にやりたいことや、自分らしくいられる場所を求めた先に、今の暮らしがありました。

機械メーカーやITベンチャー企業などを経験し、コミュニティーマネージャーとしてフリーランスになった果穂さんは、フリーランスになったときに初めてやっと自分らしく生きている感覚を得られたと話します。

果穂さん 子どもの頃からずっと誰かと張り合うような教育環境で育ってきて、常に他人の評価を気にして生きていました。キャリアも自分のしたいことというより、誰かから勧められたとか「この人がこういうんだったら乗っかってみよう」といった感じで、他人の軸に任せていたように思います。そんななかでフリーランスは初めて自分で選んだキャリアでした。

「鞆の浦ありそろう」の2階からの景色。窓からは瀬戸内海を見渡せる

果穂さんは自分で選択したキャリアを歩み始めたとき、これまでに感じたことのない充実感に満たされ、今度は自分が誰かの選択を後押しできるようになりたいと、現在は週4日リモートワークで社会起業家を支援する仕事にもついています。

涼さんは、新卒で大手アパレル会社勤務を経て、スポーツイベント会社やIT関連会社で働いたのちにコミュニティフリーランスとして独立。この道を選んだのは、ほかでもない自分自身がコミュニティの存在に救われてきたからでした。

涼さん 会社員を続けていたとき、なんだか鳥籠の中にいるみたいでずっと苦しかったんです。そんなとき、苦しみを解消するために会社員をする傍らで始めたのがオンラインコミュニティの活動でした。特に「これからの働くを考えよう」をコンセプトに2018年にスタートした「Wasei Salon」では、立ち上げの段階から初めてコミュニティマネージャーという立場でかかわらせてもらい、当時抱えていた苦しみをはじめて共有できるほどの関係性が育まれていきました。悩み相談をした際、「お前ならできる!」と背中を押してもらい、自分で道をつくっていくことを決心することができたのが大きな原体験です。

コミュニティの価値を自分自身の肌で実感した涼さんは、果穂さんと同じく、今度は自分がその価値をかたちにし、誰かの背中を押したいと、2018年にコミュニティマネージャーとして独立することを決意したといいます。

歩んできた道は違っても、「心の内から出てきた本当の選択を大切にする」という同じ価値観を持った長田夫妻。
「鞆の浦ありそろう」は、そんなふたりの生き方を表現するための場所でもあります。

涼さん もともと夫婦でなにかをすることに憧れを持っていました。今の時代、場を持たないで活動することもできますが、あえてここに暮らしているからこそ出来る僕たちの仕事をやってみたかったんです。「カフェをやってお金を稼ごう!」というのではなく、僕たちの持っている価値観を表現するためにカフェを始めたと言った方が正しいかもしれません。

「リアルな場所」にこだわった理由の一つには、これまで都会でオンラインコミュニティーマネージャーを続けてきた涼さんのジレンマに起因していました。

涼さん オンラインで仕事が出来るって、場所はいらないし効率的で便利なんだけど、ずっと続けているうちに「これって本当に自分のやるべきことなのか?といった漠然とした不安が生まれてきていたんです。やることは変わらないんだけど、自分の確かなフィールドを持つことで地に足のついた感覚を得たいと思いました。

オンラインで仕事をしているときには感じることのできなかったことを、いま「鞆の浦ありそろう」で確かめているといいます。

自分たちができることと、まちにいいことが重なっていく

鞆の浦に移住してから2年半、長田夫妻の中にはある変化が生まれているそう。
それは、自分たちのやりたいことを表現するために始めた活動が、ときを追うごとに鞆の浦というまち全体に視点が向いてきたということ。

果穂さん 「鞆の浦ありそろう」という場所を持ったことで、まちとのかかわり方や見られ方は確実に変わったと思います。地域でのあたたかい関係性もたくさんでき、私たち自身がこのまちに対する愛着が増したことによって、自然とまちのためになることを考え始めました。

この日も取材前にまち案内をしてもらっていると、たったの1時間ほどで何人ものまちの人に声をかけられ、数時間の滞在だったにもかかわらず、帰る頃にはなんだか私までこのまちに愛着を持ってしまっていました。
涼さんは、そういった鞆の浦のあたたかい交流を都会の人にも体感してもらえる時間をつくり、高齢化が進む地域に人を呼び込む新たな活動を始めています。

涼さん このまちの暮らしに触れてもらうことが愛着につながって、いずれは移住者になってくれるかもしれない。このまちの面白いところは、暮らしのエリアと観光エリアがごちゃ混ぜになっているところなんです。暮らしと観光を切り離して、いかにインバウンドでお金を稼ぐかということではなくて、暮らしをベースにした観光のあり方を「暮らし観光」と呼び、その実現を模索しているところです。

実際、長田夫妻の活動をきっかけに、ほかのまちから鞆の浦を訪れる人の数は徐々に増え始めているそう。この取材で撮影を担当してくださった菅野さんもその一人で、長田さんをきっかけにして鞆の浦に初めて訪れ、今では定期的に通っているといいます。

涼さん 僕たちが出来ることと、まちにとっていいことが重なる部分を探しているような感じです。

近い将来、鞆の浦にはない銭湯やパン屋、私設図書館を始める構想も考えていると教えてくれました。
それも、自分たちがこのまちに暮らすうえであってほしいということと、まちの人にとっても暮らしを彩る豊かなものになると考えているから。

涼さん 東京にいたとき、まちのことを考えるってあまりしていなかったんですよ。それは消費をベースにした暮らしだったからだと思うんです。でもここでは、都会にあるものがないから、「ないなら自分でつくろう!」という感覚になれるのが凄く面白い。ないからこそ引き出される「やりたいこと」もあるんだなというのが最近の気づきです。

「まちや社会のために開業する」という大義名分も素晴らしいけれど、まずは自分たちの好きなことや心からやりたいことを表現する場を持ってみる。そうすることで、まちや地域との自分たちなりのかかわり方が見えてくること。そこから生まれる事業は、確実にそのまちの暮らしの風景を豊かに変えていきます。それがまさに「ローカル開業」なのだと教えてもらいました。

「ローカル開業カレッジ」開講。
同じ志を持った仲間と出会い、あなたの選択を尊重してほしい

「ローカル開業カレッジ」は、長田夫妻のように、自分の生き方や選択を表現するために商いを始めたいと思っている人たちに向けた学びの場です。

2024年10月2日に開講する「ローカル開業カレッジ」すでに全国からの申込みが続いている

近年、都会から離れ、ローカルで開業する人の数は増えていますが、その中にはただ観光地でお金を稼ぐことだけを目的にしたものや、その土地に根付く文化を置いてけぼりにした事業スタイルの開業があるのも事実です。

しかし、本当に熱い想いを持った開業が日本各地に増えたなら、きっとこの社会は彩りを取り戻せる。私たちは、そんな開業のことを「ローカル開業」と呼ぶことにしました。

10月から約半年間のスケジュールで、講義・ゼミ・フィールドワークを行い、ローカル開業に向けた知識を高めていきます。

涼さん ゲスト講師にお呼びしているのは、さまざまな方面でローカル開業をして活躍されている方ばかりで、ほかのスクールにはない豪華さだと思います。また、フィールドワークでは長野県諏訪市と島根県大田市を訪れ、自分たちの開業とまちの文化をどのように融合していくのか、実際に目で見て吸収できるまたとない機会だと思います。すでに活動する良いプレイヤーのみなさんを見ることで、自分たちの事業がうまくいけばいくほど、地域もより豊かになるといった実践を肌で感じてほしいです。

ローカル開業カレッジで登壇いただくゲストの方々

そして何よりの醍醐味は、同じ志を持った仲間と出会えること。

涼さん ゼミでは集まった仲間と今後どんな生き方をしたいのか、どんな開業をしたいのかなど、対話を積み重ねる時間を沢山とっています。同じ地域の中だけではなくて、さまざまなローカルと接続できることもポイントだと思います。卒業生同士がお互いのまちを行き来したり、まちを超えたコラボレーションが生まれる未来を想像しています。ローカルのプレイヤー同士ってなかなかまちを越えたつながりを持てていなくて、僕たち自身もこのカレッジをきっかけにたくさんの将来のプレイヤーたちとつながれることを楽しみにしています。

長田さんは、最後に、「主催者として、このカレッジに来てくれた一人ひとりのやりたいことに向き合い、きちんと背中を押せる存在でありたい」と話してくれました。

自分のまちがもっとこうなったらいいのにという思いを持っている人や、このまちとともに自分の人生を歩みたいと思っている人。もしくは、心の底からなにかやりたいことがある人。そんなみなさんの背中を押す手助けをしながらも、それだけではなくお互いにエンパワーメントし合える関係性を築けるようなプログラムに。これから、「ローカル開業カレッジ」を通じて生まれていく沢山の方々との出会いを、心待ちにしています。

(撮影:菅野亮)
(編集:岩井美咲)

– INFORMATION –


「ローカル開業カレッジ」の申込締め切りは2024年9月23日(日)23:59 までとなります。
興味のあるかたは、ぜひ下記のリンクからお申し込みください。

詳細はこちら