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「政治家のみなさん、法案つくっときました!」気候変動を止める50のアイデアをクイックに社会実装するための本『Prêt a Voter』

「停戦を呼びかけて!」「気候変動対策を!」「差別をするな!」

いまも世界中で、さまざまな社会課題の解決のために、たくさんの人びとが声をあげ、行動を起こしています。

数ある社会課題の中でも深刻なのが、気候変動。熱波や水害などを報じるニュースは絶えず、年々激しくなる夏の暑さから気候の変化を実感している方も多いのではないでしょうか。

人類の文明や地球上に生きる生命に深刻な影響をもたらす気候変動を食い止めるために、さまざまなテクノロジーやアイデアがどんどん生まれています。しかし、こうしたテクノロジーやアイデアを速やかに、効果的に社会に実装するには、法の整備が必要です。ところが、政治家に訴えても、なかなか耳を貸してもらえなかったり、すでに官僚によって用意された法案が優先されたりすることがしばしば…。

もうこれ以上、待っていられない。
もっと速く、社会を動かすことはできないか…。

そこで、これまでにない政治へのアプローチとして編み出されたのが、2022年にフランスの国会議員全員に配られた一冊の本、『Prêt a Voter(プレタヴォルテ)』です。

気候変動を止めるパワフルな50の法案が、一冊の本に

『Prêt a Voter』というタイトルは、日本語で「投票の準備はできている」という意味。さて、この本はどういったところが画期的だったのでしょうか。

この本を編集したのは、環境問題に取り組む財団「Solar Impulse」。この財団は探検家のベルトラン・ピカールが率いる団体で、「エコリアリズム」を掲げて環境問題への取り組みに関する知見と実行とのギャップを埋めることを目的に活動しています。そのため、実用的で経済的に実行可能な革新的アイデアを収集しているのです。

環境団体などが政治家に訴えて、それを法案にするのに時間がかかるなら、法案を市民側でつくってしまえばいいのではないか。弁護士や法学者を含むチームを編成し、即効性がありインパクトが大きい50のアイデアの一つひとつを法案に置き換えていったのです。

政治家のみなさんは、提出するだけでOKです!

こうしてできた法案を1冊にまとめたのが、『Prêt a Voter』。2022年7月、初版本ができあがると、「Solar Impulse」はまずフランスの国会議員577名に送付しました。後に希望する市民にも配布され、現在はフランス語のみですがウェブサイト上で公開されています。

さらに有権者である国民から政治家にプレッシャーをかけさせるために、国会周辺の屋外広告で、『Prêt a Voter』の存在と意義をアピール。またSNSを通して国民的な意識を高めるアクションも行いました。


via YouTube

これにより、政治家たちはそのまま国会法案を提出できるようになり、また、国民は選挙で候補者を選ぶ際に、誰がどの法案を実現することに意欲的か知ることで投票の判断材料を持てるようになりました。

完成した『Prêt à Voter』を手にした国会議員たちは、さっそくこの本に載っている法案を提出。出版から3カ月の間に、実際に、地熱発電と水面に浮かべる太陽光発電システム、そしてソーラーシェアリングを促進する3つの法案がフランス政府の再生可能エネルギー法案に組み入れられることになり、さらに9つの法案も審議されることに。

有権者の声を聞いて識者を集めて法案をつくり、議会内で調整するというこれまでの方法であれば、少なくとも数年を要するのではないでしょうか。


via YouTube

社会運動というと、デモや署名、ロビイングといった地道なものが思い浮かぶと思います。しかし『Prêt à Voter』は、「社会変革のアイデアを法案として書き換え、政治家と国民にシェアする」という、民主主義のルールを賢くハックするような方法で社会実装をこれまでにないスピードで実現したのです。



太陽光を農業生産と発電とで共有する「ソーラーシェアリング」を促進する法案も! via YouTube

日本では政治というと選挙のタイミングにのみ注目が高まりがちです。しかし、短い選挙期間に人を選ぶことだけが政治への関わり方ではありません。民主主義のルールを知って、プレーヤーとしてどのようなアクションを取ることが社会を変えていくために有効なのかを考え、行動する。そうした政治との向き合い方を意識すれば、より現実的で効果的なアイデアに近づくのではないでしょうか。

(編集 / Text: 丸原孝紀、greenz challengers community)