急な子どもの発熱。
目の前の子どもの心配をしながら、仕事のスケジュールが一気に浮かぶ。
そんな自分に罪悪感を感じる。
このような体験がある方、いないでしょうか?
世界経済フォーラムが2022年7月に発表した「ジェンダーギャップ指数2022」によると、日本の総合スコアは146カ国中116位。教育・健康分野は高順位ですが、経済・政治分野の順位は低く、先進国の中では最低レベルです。
結婚している・していない、子どもがいる・いないにかかわらず、「こうあるべき」を突きつけられることが多い女性の働き方・生き方。
今回ご紹介する合同会社「ココスキ」は、兵庫県尼崎市で「クリエイティブ×女性」の発想で、地域とつながり、“やりたい仕事”をつくるサポートしています。女性が自分らしく生きるきっかけを支援しているココスキの活動について、代表の坂本恵利子(さかもと・えりこ)さんに、お話をうかがいました。
合同会社ココスキ代表。チームリーダー。ライター歴20年以上、雑誌から専門書まで幅広いジャンルの原稿執筆を手がける。尼崎市で2015年より子ども作文教室「コトバのチカラ」を主宰。ココスキでは、おもにイベントの企画やディレクションなどを担当する。取材、原稿執筆のほか、ライティング講座やセミナーの講師としても活躍中。
地域の中で、一緒に仕事をつくろう
ココスキは、フリーランスのライター・フォトグラファー・デザイナー・プランナーなどで構成される女性クリエイターチーム。
尼崎を中心に、女性が地域で活躍できるコミュニティづくりや、現在・未来のキャリアを見据えたスキルアップのセミナーの開催、さらに地域や企業からのオファーを受けて、女性の視点を最大限にいかしたデザイン制作や商品開発などにも取り組んでいます。
活動がスタートしたのは2017年のこと。
そこには、坂本さんが長年感じていた課題意識がありました。
坂本さん 子育て中もフリーランスのライターとして仕事を続けてきました。フリーランスは融通がききやすい職種と思われますが、実際は、クオリティが下がったり締め切りが遅れたりしたら、次の仕事が来なくなるという、せめぎ合いがあって。
子どもが生まれた時に、急な病気や、保育園に慣れなかったこともあって、責任をもって仕事ができなくなるのが怖くて。自分でどんどん仕事を減らしていったんです。でもやっぱり自分は仕事したい。フリーランスだけじゃなくて、他の女性もそうだと思うんですが、仕事を続けるって大変だなって思っていました。
そんな中で、ココスキの活動につながる出来事があったそう。
坂本さん 子どもが小学校に入る前に学区変更があって、地域で話し合いがあったんです。うちの子は新しい校区に通学することになって、通学路の環境を整えるための話し合いが何度かありました。そのときに、市役所の方がいろいろな人をつないでくれたんです。
この話し合いに参加することで、地域の人と出会い、子どもたちを見守ってくれる環境に気がつき、親も一緒に地域を考えていこうという意識が芽生えました。
そのとき知り合った市の職員から、尼崎市南部地域のフリーペーパー「南部再生」の編集部を紹介された坂本さん。まちのマニアックな情報が集まる編集部に興味を惹かれ、ボランティアで参加することに。
坂本さん ライターとして情報誌の仕事をしてきていたんですが、自分がいままで知っている情報じゃ太刀打ちできないレベルの編集部で。住んでいる地域をこんなに知って、そのまちで遊ぶというのは、大都市に遊びにいくのとは違う面白さがあると思いました。そこから、仕事の合間にまちのイベントにも参加するようになって、知り合いが自然に増えていったんです。
そのころ、市のビジネスプランコンペに、いつかやってみたい!と考えていた「子どもの作文教室」を応募。NPOで働くメンター係との出会いで、社会課題を解決しようとしている人の存在を知ったそう。コンペを機にまちとの接点が一気に増え、自分と同じように「仕事をつづけることの大変さ」を感じている女性がたくさんいることに気がついた坂本さん。彼女たちに声をかけ、ココスキの活動がスタートしました。
「チャレンジしたい!」をフォローする
メンバーが講師を務めるライティングセミナーや、フリーランスで活躍する女性をゲストに招いたお話会などを開催していくうちに、まちの人から「やってみない?」と声をかけられ、尼崎市のママたちが出店するマルシェ「あままままるしぇ」の実行委員を担うことに。
マルシェの運営経験はなかったものの、たくさんの人からアドバイスが集まるのが尼崎のいいところ。「やりたい」と言えばみんながお手伝いしてくれる風土、失敗しても笑い飛ばすような雰囲気も後押しし、いろんな失敗をしながら、運営技術を学びました。
マルシェを通して、ハンドメイド作家や地域の女性とつながるようになると、悩みや課題を聞く機会も増えたそう。「儲けがでない」「チラシの文章の書き方が分からない」「出店にハードルを感じる」――。主催者の目でイベントを見ることで、1日限りのイベントではなく「女性がつながる過程」や「ステップアップしていく場」にしたいという思いが生まれます。
ちょうど同じころ、商業施設「あまがさきキューズモール」からココスキにコラボイベントの依頼があり、同施設内のスペースで、託児付きイベントやスキルアップ講座など、女性が気軽に参加できるイベントの企画・運営をはじめることに。ココスキ設立翌年のことでした。
坂本さん 子どもを誰かに預けてセミナーに参加するというのは大変ですが、買い物のついでに1時間半くらいなら気軽に参加しやすいのも、商業施設の良さだと思います。
たとえば、「ココからマルシェ」というイベントは、スキルアップ講座で文章の書き方・写真の撮影法・ディスプレイ方法などを学んだ受講生が出店します。ぜんぶ一人でするのは大変だけど、学びの機会がある、集客してくれる、場所がある、託児があるとなると、子どもが小さくてもステップアップができます。
子どもが小さいときは、自分の時間をとるのも大変ですが、参加者は「次はあのイベントに出よう」「事前セミナーがあるならマルシェも出れそう」と背中を押されるようです。
坂本さん チャレンジしたい女性たちを、できるだけフォローするのがココスキの仕事です。私も子どもが小さいとき、子育てもがんばりたいけど、自分の生き方も残しておきたかったんです。「子育てが落ち着いてからやったらいいのに」っていうのがいやで。そういう考えの人が10人中何人いるか分かんないですけど、女性の頑張りたい気持ちを地域のなかで応援できたら、と思っています。
まちに種をまいて、耕す
現在、プロジェクト全体を把握するココスキのメインメンバーは女性8人。子育て中の人も、そうでない人もいます。加えて、イベントに参加して興味を持った人や、今後フリーランスで活動をしていきたい人など、いろいろなライフステージのパートナーメンバー40人以上が参画しています。
2021年には合同会社化。関係者も増え、企業からの受注も多くなってきました。女性視点でマーケティング・企画・広報制作物にいたるまで一貫してできる強みをいかし、プロジェクトごとにチームを組んで動いています。
坂本さん 企業との商品企画のときにはハンドメイド作家さんがサンプルをつくってくれるなど、地域の中に関わってくれる人が増えています。そういったチームだからこそ、コロナ禍でも仕事をすすめることができました。この2年くらいで、分担してフォローしあえる体制が大分できてきたように思います。
ココスキの活動に興味をもちいっしょに仕事をする関係者が増えた分、今後は気を配っていきたいところもあるそう。
坂本さん ライフステージの中で、それぞれしんどい時期もあるので、メンバー同士でコミュニケーションをよりきめ細やかにとっていきたいです。バランスをとりながらやっていければと思うので。
それと、まちに入って人と深く関わるメンバーも増やせたらいいのかなと。現場で人のやりたいことを聞いて一緒にやっていける、自分の活動ではなく他の人のフォローが好きな人。そんなコーディネーターの仕事も成り立っていけばと思います。
少しのきっかけで次のステップにつながっていく女性たちの姿を見てきた坂本さん。チャレンジしてくれたハンドメイド作家さんが次々と他のマルシェに出ていったり、知り合った作家同士で一緒に出店したりと、自然にいろんな活動がはじまるそうです。
坂本さん セミナー参加者のコメントで「これまで子育てに手一杯だったけど、いろいろな人と出会って、学んで、自分の世界が広がると家族に優しくなれた」とあったんです。自分が楽しいと、人にも優しくなれる。
ココスキじゃなくても、人って、そこに行けばすごく伸びる・いろんな人が一緒にやってくれるっていう、自分にぴったり合う場所があると思います。
やりたい人が、やりたいタイミングでチャレンジできる場所がまちの中にたくさんあって、それぞれの活動を楽しんでいる人がいると、結果的にまちが楽しくなる。まちの中にたくさん種をまいて、耕していったら、自然に芽がでていく。そんな、人のきっかけになれるような仕事ができたらと思っています。
まずはつどい、つながる
坂本さんは、ココスキの活動を「自走するまでのフォロー」と説明していたのが印象的でした。
いまは、尼崎市営団地の一室を借りて、ココスキの拠点づくりをしているそう。セミナーや子ども連れで学べる場、スキルアップの場としてみんなが使える場所にしていく予定です。
坂本さん 何か始めたいときに、仲間と一緒だと頑張れるということもある。やりたい人が集い、それぞれ自分のタイミングで次のステップにいくきっかけを、まちの中にたくさんつくっていきたいですね。
ライフステージにかかわらず、女性がやりたいことに挑戦できる。ココスキのような活動があなたのまちでも広がるための、3つのヒントを教えてもらいました。
坂本さん 私は最初に、まちの中で面白いことをしている方たちに会えたのがすごく大きい。みなさんに助けてもらって、背中を押してもらってきているので、ココスキでは出会う方たちの背中をどう上手く押すか、だと思っています。背中をぽんと押すと、すごく前に出る人ってたくさんいらっしゃる。
女性だから、結婚しているから、子育て中だから、「〜〜であるべき」。
生活していると、そんな風潮が社会に根強く残っていると感じる場面があるし、女性自身が知らず知らずのうちに意識に刷り込んでいる場合も。
自分が住むまちで、顔が見える間柄の人との関係の中で、チャレンジできる環境があることは、自分らしく生きるための選択肢を広げるように感じます。長い時間をかけて社会が変わっていくのを待つよりも、まず自分たちができることから始める一歩が、少し先の未来につながっているのだと感じました。
(編集:村崎恭子、スズキコウタ)
(インタビュー撮影:佐伯桂子、村崎恭子)