以前greenz.jpでもご紹介した、沖縄県うるま市での「共創型ワーケーション」。グリーンズの有志メンバーのひとりとして参加した私は、そこでうるまのたくさんの魅力的な人々と出会い、大きな衝撃を受けました。みなさん、本当に幸せそうに、暮らしも仕事も楽しんでいたのです。
「どうして彼ら・彼女らはあんなにも生き生きとしているのだろう?」
そんな疑問を持ち、調べてみると、どうやら多くの方が「うるまワタクシプロジェクト」の参加者だということがわかりました。
一体、「うるまワタクシプロジェクト」とはなんなのか。そして、全国にさまざまなローカルベンチャースクールがあるなかで、「うるまワタクシプロジェクト」の特徴とはどのようなことなのかを、プロジェクトを運営する「一般社団法人プロモーションうるま」の西貝瑶子(にしがい・ようこ)さんと、参加者だった石川優子(いしかわ・ゆうこ)さんへのオンラインインタビューから探ってみることにしました。
ナリワイづくりに伴走する「うるまワタクシプロジェクト」
はじめにすこし、うるま市のご紹介を。
沖縄県うるま市は、沖縄本島中部の東海岸に位置する、沖縄では3番目に人口が多いエリア。特に市内の平安座島(へんざじま)、宮城島(みやぎじま)、伊計島(いけいじま)、浜比嘉島(はまひがじま)、津堅島(つけんじま)の5つの島からなるエリアは「島しょ地域」と呼ばれ、赤瓦や琉球石灰岩の石垣など、沖縄の昔ながらの風景がのこされています。
そんなうるま市で開催されている「うるまワタクシプロジェクト」は、島しょ地域を舞台にナリワイづくりに本気で挑戦したい人をとことん応援する、2020年にスタートした起業支援スクール。専門家が個別に伴走しながらサポートしてくれることや、島しょ地域のキーマンとつながり、地域理解が深められることが特徴です。
ちなみに「ワタクシ」は、ウチナーグチ(沖縄のしまことば)で“ヘソクリ“という意味。「お小遣いも増やしつつ、ワタクシならではの物語を紡ごう」という想いが込められているそうです。
2020年11月から2021年3月まで開催された第1期では、6組が卒業。コミュニティキッチン「あごーりば食堂」づくりに取り組む、宮城島の同級生を中心にしたチーム「SU-TE」や、漁港前の物件を改修し、食堂兼直売所「海畑食堂てぃあんだ」をつくるチーム、伊計島の古民家カフェ「命薬のあの土」を拠点に、カラダとココロが笑顔になる料理の提供に取り組む上地正子さんのチームなどが、うるまワタクシプロジェクトを通じて取り組みをブラッシュアップしていきました。
(参加者の取り組みについて、くわしくは「しまみらいBridge」の記事をご覧ください。)
まわり出した「人づくりによる地域の循環」
また、2021年10月から2022年2月には第2期も開催。1期生はすでに島しょ地域に住んでいたり、活動していた人が中心でしたが、2期生は島で本気でチャレンジしたい人であれば、島しょ地域に住んでいなくても対象としていました。
実際に集まった7組中、3組は島内に拠点はない人たち。だからこそ、1期には行わなかったような地域のことを深く知るためのフィールドワークをプログラムに取り入れたそう。地域の歴史・文化・日常、そして課題について把握し、それぞれの地域のキーマンとつながることで、事業を行う上での地域資源や関係性を育んでいきました。
参加者のひとりが神谷恭平(かみや・きょうへい)さん。20歳で上京し、ウエディング業界で音響PAとして働いたのち、津堅島にいわゆる孫ターンし、ひいおじいちゃんの残した津堅島の民宿「神谷荘」を引き継いで運営しています。
実は津堅島は、橋で本島とつながっておらず、船での行き来になるため、少子高齢化も進み、移住者も少ないなど、島しょ地域のなかでも課題が深刻だそう。そんな島にあって、神谷さんの事業はかなり重要なものとなっています。
「うるまワタクシプロジェクト」で神谷さんは、宿・食堂以外の新しい取り組みとして、神谷荘で生産している津堅人参を活用した商品開発・メニュー開発を行うことに挑戦しました。津堅人参は、島の他の人達が生産している廃棄分の購入も検討しているそうです。
そんな津堅島では、2021年度に初めて、地域での暮らしを体験し移住を検討してもらう「お試し移住」の事業を実施することが決定。神谷さんは企画や運営に関わりました。
残念ながら新型コロナウイルスの影響により受け入れは中止したものの、オンラインイベントの開催と、移住検討者に向けて島を紹介する動画の制作をすることに。その動画の撮影と制作は、「うるまワタクシプロジェクト」第1期で動画クリエイターとして法人の立ち上げという大きな一歩を踏み出した塩谷大輔(しおや・だいすけ)さんが「島のために」と快く担当してくれたそうです(完成した津堅島のページはこちら)。
このように、第1期、第2期と実施を重ねるにつれ、島しょ地域で想いを持って挑戦する方々同士が出会い、コラボレーションが生まれています。「うるまワタクシプロジェクト」が目指していた、「人づくりによって地域に循環が生まれる」ことが、実現しつつあるのです。
事業から感じる、島しょ地域の文化や風土に対するリスペクト
「うるまワタクシプロジェクト」が大切にしているのは、新しく生まれる事業が、起業する本人にとっても、そして島にとっても、持続可能なものを目指すということ。その人だからできることと、島だからできること。私の宝と島の宝が組み合わさった、「宝」の掛け算が生み出すみんなの幸福を尊重しているといいます。
これは岡山県西粟倉村のローカルベンチャースクールや山形県鶴岡市の鶴岡ナリワイプロジェクトのあり方や仕組みを学びながら、うるまの島々に合う起業支援のあり方を模索した結果だそう。
「うるまワタクシプロジェクト」を運営する「一般社団法人プロモーションうるま」の西貝瑶子さんは、プロジェクトを通じて育まれた事業の特徴について、こんなふうに語ります。
西貝さん いい意味で、ビジネスっぽくないというか。もちろん稼ぐことは大切なんですが、それよりも一人ひとりのやりたいことと、島しょ地域の文化や風土を掛け合わせることを、みなさん大事にしているような気がします。
西貝さんがいうように、「うるまワタクシプロジェクト」の第1期を卒業した取り組みを見てみると、島しょ地域の文化や風土に対する強いリスペクト(尊敬・尊重の念)を感じます。
「Being(あり方)」を問いかけてくる場所
もしかしたら、うるま市における「ワタクシ」は、「私」と「お小遣い」という意味だけでなく、土地の文化や風土へのリスペクトも含まれているんじゃないか。
そう考えた僕は、西貝瑶子さんにじっくり話を聞いてみることにしました。
現在は「一般社団法人プロモーションうるま」のメンバーとして、「うるまワタクシプロジェクト」の運営やワーケーションのモニターツアーの企画・開催、そして「LivingAnywhere Commonsうるま」の運営に、地域×教育の事業にも取り組むなど、島しょ地域にどっぷりの西貝さん。
実は新卒から勤めていた都内の企業を退職して、2020年9月に移住したという経緯があり、ある意味ヨソモノとしての視点を持つ西貝さんなら、うるまが持つ特別な力がなにかを知る手がかりを持っているかもしれません。
「うるま市に来たら、PCを開けなくなってしまったんですよねぇ」という話をすると、「あぁ、わかる気がします。ここに来ると、自分のあり方を問われるんですよね」という答えが返ってきました。
自分のあり方を問われる、とは?
西貝さん 東京にいたときには当たり前だと思っていた価値観が、問い直されるというか。
たとえば、東京だと消費をすることが当たり前でした。あれもほしいとか、これも食べたいとか。お金を払ってなにかを得ることで豊かさを感じようとしていた気がします。
でも、うるまに来てからは消費ばかりの生活から抜けだせた。夏、朝早くに朝日を浴びながら散歩をしたり、仕事が終わってから海に入ったり。お金を払って映画を見なくても、太陽が昇って沈む、その景色を眺めているだけで感動できるんですよ。
また、沖縄には「ゆいまーる(助け合い)」という言葉がある通り、共助が当たり前のように行われています。これも、東京をはじめとする都市とは異なる点のようで。
西貝さん たとえば、地域にお酒が大好きで、いつも酔っ払ってどうしようもない人がいたとします。そんなとき、「あの人には酒は売らない」みたいなことがあるにしても、最終的に見捨てたりはせず、その人が地域でどのようにして生きていけるか考えるような文化があるような気がする。人間的に根っこでつながって、助け合っているんです。
どうやら、うるまの自然や人は、都市で生きる人々が当たり前のように感じている生き方(たとえば、快楽は消費を通して得られるということや、労働を通して成長しなければいけない、自分の身は自分で守らないといけない、ということなど)に、「本当にそれでいいの?」と、問いを投げかけてくれるのかもしれない。
つまり、うるまという場所が、その人の「Being(あり方)」に対して問いを投げかけてくる、とも言えるかもしれません。そのことがわかるエピソードを、西貝さんは教えてくれました。
西貝さん 人のため、地域のためにすごく尽くしている、すごいオジーがいて。以前、人生に悩んでる友人がうるまに来たとき、何気なく「生きがいって何ですか?」って聞いていたんですね。
そしたら、「三線を弾くことだよ」って。その言葉が、すごく響いたそうなんです。「あ、こんなヒーローみたいな人でも、なにかを成し遂げるとか、お金持ちになるとかじゃなく、そういうことに幸せを感じるんだな」って。うるまではそんなふうに、自分が本当に大事にしたかったことにつながる機会が得られる気がします。
「うるまの人や自然に触れて、息がしやすくなった」
自然が、人が、「Being(あり方)」を問いかけてくる。そのことを経験した人が、もう一人います。宮城島・上原集落に2021年12月にオープンした、誰もが気軽に飲食できるコミュニティキッチン「あごーりば食堂」を運営する「SU-TE」のメンバー、石川優子(いしかわ・ゆうこ)さんです。
古民家をリノベーションしてつくられた「あごーりば食堂」では、島の豊かな食材を使った料理を提供。単に食事を楽しめるだけでなく、地域の人々がふらっと訪れてぼーっとしたり、おしゃべりをしたりできる場所になっています。
そんな場所をつくるうえで、石川さんの存在は欠かせません。「SU-TE」のメンバーに「なんかやろうよ」と言い続けて、動かしたのは石川さんだったのです。
石川さんたちが「あごーりば食堂」を立ち上げる上で大きな力になったのが、「ワタクシプロジェクト」。石川さんは「SU-TE」のメンバーと、島で場づくりをしたいと思っていたところプロジェクトの情報と出会い、仲間たちと第1期に参加しました。はじめは「本当に役に立つか、半信半疑だった」と振り返りますが、プログラムに参加するうちに、その思いも変わっていったそう。
石川さん 運営してるみなさんもそうだし、伴走してくれる講師の方たちも含めて、本気度がすごかったんです。こういった講座に参加しても、講師の人が「仕事でやってるだけで、本気で向き合ってくれてはいないんだろうな」っていうのは伝わるじゃないですか。
でも、「ワタクシプロジェクト」では私たち参加者に本気で向き合ってるのが伝わってきた。講師の一人である「鶴岡ナリワイプロジェクト」の井東敬子さんからは、「あなたは本当にこれをやりたいの?」って、何度も問いかけられて。いい意味で、お尻を叩かれたような感覚があったんです。
そんな石川さん自身も、うるまの自然と人に動かされた経験があるそう。「島にはいろんな人が来ますけど、その人の人生が変わる。ここはそういう力があるなと思います」と石川さんは語ります。
沖縄本島北部にある名護市出身で、短大卒業後は県内で就職し、その後12年間福岡県で生活していた石川さん。しかし、福岡では多忙な生活のなかで、心身ともにすり減らしてしまっていたそう。そんなとき、友人から伊計島で開催されているアートプロジェクトを手伝ってくれないかと相談され、1ヶ月島に滞在したことが、石川さんの人生を大きく変えました。
石川さん 実はその頃、人との関係がうまくいかず、人を信用できなくて、かなり気持ちが落ち込んでいたんですよ。それこそ、命を終わらせようとすら思っていました。そんなとき、「伊計島に来てみないか」と言われて、滞在してみることにしたんですね。
そしたら、島のみなさんが、ほんと、みんなプラス思考の塊で(笑) 人を肩書きで判断したりしないし。肩書きの偉い人が来ても、「へぇ、ところで三線は弾けるのか? 酒は飲めるのか?」と。
そんな島の人に、私が人間関係で悩んでいることを話したんです。そしたら、「なんでそんなことで悩んでるんだ? 死ぬまで一緒にいるわけでもない相手になにか言われたからって、悩んでるのがわからん。時間がもったいない!」みたいに言われて。なんか、それを聞いて、悩んでるのもばかばかしくなったんですよね。息がしやすくなった。命がクリーニングされたような感覚です。
石川さんが「息がしやすくなった」のは、人の存在があるからだけではないようです。「人だけじゃなくて、もっともっと大きなものの存在を感じる」と石川さん。
石川さん 心がざわざわしだすと、どこでもいいから風景を見るんです。誰が見てようが、見てまいが、花は咲くし、枯れるし。その姿を見ていると、心が落ち着くんです。
昔から沖縄では、ちょっとした呪文があったりもして、広い意味での自然の力を使って病気を治してたんですよね。島しょ地域の人たちは自然の力をいただいて生きてきたし、そうやって今も生きている。
この自然が、開発によって人間の手で変わってしまったら、そうはいかなくなると思うんですよね。壊すのも新しくつくるのも簡単。だけど、残すことが難しい。そんな「残すこと」をあまり意識せずやっているのが、ここ島しょ地域なんです。
人が、自然が「Being(あり方)」を問いかけてくる。だからこそ、都市で「Doing(なにをするか)」を考え、苦しさを感じていた人にとって、”息がしやすくなる”きっかけになるのかもしれない。
そして、「そんな人や自然に対して『恩返しをしたい』という気持ちが、現在の活動のモチベーションになっている」のだそう。その言葉を聞いて、なるほど、と思いました。
「うるまワタクシプロジェクト」に感じる、島しょ地域の人々が持つ文化や風土に対する強いリスペクト。それは、自然や人からたくさんのもの(「Being(あり方)」の問いや、陽の光、海の恵み、豊かな緑や他者からの気遣いなど)を受け取ることができるからこそ、湧いてくる気持ちなのかもしれない。
うるまで受けとったものを、別の場所で返してくれたら、社会は豊かになる
うるまでは、人が、自然が、「Being(あり方)」を問いかけてくる。そうした問いによって生きやすくなる経験をしたからこそ、自然や人に対してリスペクトが湧いてくる。そのリスペクトが自然や人をさらに豊かにしていく…。
そんな循環が、うるまで起きているということ、そして「ワタクシプロジェクト」がそんな循環を生み出すきっかけになっていることがわかってきました。
そうだとすると気になるのが、今後うるまを訪れる関係人口が増えることで、そうした循環がそこなわれてしまうこと。たとえば地域資源をビジネスのための資源とみなし、開発するような発想を持つ方は、うるまにはそぐわないのでは? という気がします。
そんな懸念を伝えると、石川さんから意外な言葉が返ってきました。
石川さん たしかに、前は合わない人が島に来ることに拒否反応はありました。でも、最近では「この人は来てよくて、この人は来ないでほしい、なんておこがましいな」と考えるようになったんですよ。
うるまには自然や人の力があるから、合わない人は淘汰されていくはず。そんな安心感が、今ではあります。だから、個人的には少しでも惹かれた人は、来たほうがいいと思う。住んだほうがいいとは言わないけど、一度訪れてみてほしい。
「あごーりば」って、「召し上がれ」っていう意味なんです。その言葉には、食だけじゃなく、言葉でも、自然でも、ものでも、受けとってほしいという想いを込めています。特に、都市での生活に疲れているような人は、うるまでの日常を体験してみると、都市に戻ってからも生きやすくなることがあると思うんですよね。
うるまを訪れたら、息がしやすくなるかもしれない
ワーケーションで僕らグリーンズメンバーが出会った、生き生きと暮らし、働いている人々や、豊かな自然。
それらの存在は、貨幣経済や消費、労働といった行為など、僕らが当たり前だと考えているものごとが実は当たり前ではないこと、その外側に豊かな暮らしが存在しているということに気づかせてくれます。
そしてそんなうるまを舞台に行われる「うるまワタクシプロジェクト」は、単にビジネスのつくり方を学ぶ、というものではなく、どれも「Being(あり方)」への問いかけをはらんでいるのではないでしょうか。
今この瞬間も変容している「うるまワタクシプロジェクト」の受講生のみなさんに会いたくなったら、うるまを訪れてみてください。西貝さんや石川さん、そして僕らグリーンズメンバーがそうだったように、自分を縛っていた「当たり前」がときほぐされ、すっと”息がしやすく”なる。そんなきっかけになる出会いが、あなたを待っているかもしれません。
– INFORMATION –
● 沖縄発!! これからの生き方に橋を架ける探究メディア「しまみらいBridge」
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