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やりたいことが違っても、遠慮せず言い合う。それが夢見た景色を実現する道。岐阜の鵜飼屋地区を面白くする「リバスケ」メンバーの関係性。

岐阜県岐阜市の鵜飼屋地区。清流といわれる長良川に面し、対岸には、戦国時代に織田信長が拠点を構えた岐阜城を山頂に抱く金華山を望みます。

1300年以上の歴史を持つ長良川鵜飼で知られ、昭和40年代ごろまでは遊泳場を訪れる観光客で賑わったことも。現在では古くからの家やマンションなど住宅が多く、豊かな自然と、その恵みを受けた人々の生活の営みが、美しい眺めを生み出しています。

今回ご紹介するのは、この鵜飼屋地区で2019年5月に複合施設「and-n(以下、アンドン)」をオープンさせた、「長良川リバースケープ有限責任事業組合(LLP)(以下、リバスケ)」です。

建物内とすぐ近くの長良川沿いで「長良川夜市」開催中のアンドン。

廃業した木材問屋の倉庫をリノベーションした「アンドン」には、花屋、家具屋、居酒屋、カフェレストラン、川魚専門店・漁船ツアー受付などが入居しています。

建物に一歩入ると、もともとの木材倉庫の天井の高さを生かした空間が。木材問屋ならではの立派な木材が随所に見え、さらに家具や照明、ドライフラワーなどでお洒落な雰囲気です。

アンドンの吹き抜け部分。2階に見えるのが花屋。

2019年8月より、野菜や生花、衣類、雑貨などを取り扱うマルシェ「あんどん朝市」をスタート。

あんどん朝市の様子。画面奥では、生鮮野菜や米を販売している。

また、鵜飼屋周辺で毎年行われていた新聞社主催の花火大会が中止になったことをきっかけに、「アンドン」を拠点にして、2020年から2年連続で「長良川鵜飼屋花火大会」を行っています。

「アンドン」や、その周辺のイベントは、今まで鵜飼屋に興味のなかった人が鵜飼屋を訪れ、自然の美しさや鵜飼の様子に触れるきっかけとなっています。景色とお店とのマッチングを楽しむ中で、鵜飼屋の魅力に気付くことができるのです。

他団体と連携して行ったイベント「川の湊市」(2021年3月)。長良川の両岸で行われたマルシェの間を、渡し船でつないだ。

今回は、「アンドン」をオープンさせたリバスケのメンバーで陶芸家の交田紳二(まじた・しんじ)さん、デザイナーの宮部賢二(みやべ・けんじ)さん。そしてリバスケが運営する複合施設「and-n(アンドン)」に入居する家具店「THE NOMAD LIFE」店長の矢田和照(やだ・かずてる)さん、アンドンの運営をサポートする白木あや(しらき・あや)さんにお話を伺いました。

アンドン近くの長良川沿いで、左から矢田さん、交田さん、宮部さん、白木さん。

鵜飼屋とお客さん、そして地元の人どうしをつなぐ

「リバスケ」に関わる人々を近い場所から見つめてきた私が感じる彼らの魅力、それは、仲間のやりたいことを次々と実現させていること。

たとえば、ある日の飲み会で盛り上がった、こんな雑談。

長良川プロムナードに出店したい。雰囲気のあるおしゃれなお店があって、市民が飲んだり食べたりしながら、プロムナードに並んで鵜飼を眺めていたら、楽しげな感じに見えるのでは?

この話がきっかけとなり、2020年10月から始まったのが「アンドン夜市riverside」(現在は「長良川夜市」に改名)。飲みながら夢や妄想を語る人はたくさんいるけれど、自分たちが中心となって実現させたことに、私は感動しました。


鵜飼が行われているすぐ横の川岸に、LEDの提灯をつけたお店の並ぶマルシェは独特の雰囲気があり、多くの人々が訪れています。

アンドンが大切にしているのは、地域の人とのつながり。入居する居酒屋「うかいや食堂」は、徒歩で来られる範囲の地元の方が常連となり、鵜飼屋の旅館やホテルのお客さんも浴衣で加わります。また朝市には、野菜や生花の店を目当てに、多くの地元の人が集まっている様子。

交田さん 居酒屋は、地元の住民たちの拠り所のようになっています。それまで近くに住んでいても接点がなかった人たちが、ここで顔を合わせているうちに、親密に話をするようになりました。それも、歴史を語るなど文化的な話をしているんです。

朝市も、地元密着でありながら、「岐阜市に大きい朝市があるんだ」と、観光客にも喜んでもらえるようになるといいですね。

宮部さん こういう建物をリノベーションして、小洒落た感じにして、若い人が集う場所にするというのは、全国でもそんなに珍しいことではないと思います。でもそれだけだと、今まで来なかった若い人が来るだけになってしまうかなと。

ここは鵜飼との関わりのある地域なので、地元の人たちと交流をしたい、地元のコミュニティをつくりたいという思いがより強くあります。居酒屋に加えて朝市をやれば、車に乗れないお年寄りも歩いて野菜を買いに来られるのです。

アンドンに入居する家具屋「THE NOMAD LIFE」の店長、矢田和照さんは、お客さんの様子をこう話します。

矢田さん ここは川沿いで、多くの人にとって生活圏内ではありません。自分の周りの岐阜の人でも、知ってはいても来たことがない人が多かったです。

でも、うちのお客さんを見ていると「景色も素晴らしいし、雰囲気もゆったりしている」と、ここを好きになる方が多いように感じました。実際、アンドンに来る人の多くは、その前後に長良川まで景色を見に行っています。

矢田和照さん

古くからの鵜飼屋の住民は高齢化し、若い世代の新しい住民との交流、また新しい住民同士の交流も、それまで盛んだったとは言えませんでした。しかし、土地の自然に根ざした伝統漁法・鵜飼が行われている鵜飼屋で地域のコミュニティができれば、鵜飼を支える身近で大きな力にもなります。

また、鵜飼屋の魅力に気付いたお客さんも、鵜飼を身近に感じ、応援する力になってくれるかもしれません。

宮部さん コロナの影響で昨年から鵜飼の開催日が少なくなる中で、「鵜飼はもういらないのではないか」という声が大きくなる可能性もあります。何とかして、価値あるものとして残していかないといけないという思いで、夜市や花火のような、鵜飼のときの楽しみをもっと増やそうとしています。

ゆるい「長良会」から有志がLLPを設立

「アンドン」を運営する「リバスケ」のメンバーは、地元在住の建築家、アーティスト、動画クリエイター、飲食店、パソコンの専門家など13人。皆、地元在住でまちのことに関心のある人がゆるくつながる「長良会」の有志です。

長良会の始まりは2010年。長良川の南側で、商店や寺院の後継ぎ世代による「岐阜町若旦那会」が結成され、交田さんは建築家の門脇和正さんから「(長良川の)川北でも同じような会をつくろう」と誘われました。

鵜飼屋の旅館の社長や、お寺の若住職も加わり、4人で集まって飲みながらいろいろな話をしているうちにメンバーは増えていき、現在は50人弱に。そのうち、地区のまつりの手伝いなど活発に活動しているのは、20名ほどなのだとか。

それぞれ本業を持つ「リバスケ」のメンバーは、各自のペースで「アンドン」に関わっています。そんな中でメンバーが顔を合わせる週1回のミーティングは、毎回夜8時から深夜にまで及ぶのだそう。

週1回のミーティングの様子

「アンドン」が生まれたきっかけは、2018年、鵜飼屋地区にあった木材問屋の廃業にありました。そこには古い木材倉庫があり、大家さんから長良会に「ここを活用しないか」という話が持ち込まれたのです。

宮部さん 僕らが借りないと、ここがなくなってしまうのではないかと思いました。それで一度入ってみたら、大人の秘密基地みたいな感じでわくわくしたんです。

宮部賢二さん

倉庫を掃除し、まずは2019年2月、宮部さんが2011年から発行しているフリーペーパーのイベント「金華山だより感謝まつり」を開催。ペットボトルで訪れた人と「金華山」をつくったり、菓子まきや縁日を行ったところ、のべ1000人が訪れてにぎわいました。

「この地域を訪れる人が、誰でも気軽に寄れるような開かれたスポットにしたい」という思いが固まっていき、リノベーションを進め、入居するテナントを決めることに。賃貸借契約を結ぶにあたり、長良会の中でもアンドンに深く関わってみようと考えた13人が参加して、LLP(有限責任事業組合)を設立しました。

改装費用は基本的にメンバーの持ち寄り。足りない分は、まちづくりファンドから融資を受けたほか、クラウドファンディングも行い、108万6,500円が集まりました。

そして2019年5月11日、鵜飼シーズンが始まる「鵜飼開き」の日に合わせて「and-n(アンドン)」がオープンしました。

思いのある人のやりたいことを応援

リバスケとしてさまざまな取り組みを行う今も、メンバーの関係性のベースには、長良会で長年自然と大切にしてきた理念があるそうです。

交田さん リバスケメンバーの建築家、門脇和正さんがよく言うのは「平原の中の小高い丘にみんなで座っていて、お互いに聞いている。聞こえない人もいる」。そういうゆるやかなつながりを大事にしています。

以前、仕事が忙しくて手に負えず、長良会のFacebookグループで「助けて」と言ったことがあります。そうしたら、何人もが梱包の手伝いに来てくれました。ありがたかったですね。

宮部さん きついつながりになってしまうと、「やらなきゃならない」という気持ちで、100点を目指さなければいけなくなる。そうするとしんどくなります。だから、お互いに「60点でもいい」という気持ちです。

リバスケを設立し、活動の幅が広がった今、この理念はどう生きているのでしょうか。

宮部さん 長良会のときは、自分たちだけが盛り上がればいい、楽しければいいという感じがありました。でもアンドンを運営するにあたって、地域の人と関わることが必須になりました。

交田さん テナントさんの困りごとや、大きいイベント、つまり人が困っていたりお金が絡んでいたりすると、ゆるくではやっていけないですね。長良会の、ほぼボランティアでやっていたときとはフェーズが変わりました。真剣です。
それでも、ボランティアの精神は今も根っこにあります。

リバスケのメンバーは、それぞれやりたいことや目標が違います。ただ、目の前や少し先のことについては、ほぼ同じ方向を向いているのです。

意見の食い違いもありますが、それぞれ言いたいことは言うという関係性で、みんなの意見を汲み入れていきます。LLPは組合員全員が対等なので、ある意味みんなが社長で、みんなが重要です。話し合いでしか決定ができないので、一気に進むときもあれば、「なんでいつまでも決まらんのやろう」とつくづく思うときもありますね。

宮部さん 「ここは譲れん」というところではぶつかることもありますが、結果がよければそれでいいという感覚です。

みんなの根底には「この界隈をよりにぎやかにしたい」「終わる方向にあるものを続けたい、次世代につなぎたい」という思いが共通しています。

また、お金が目的ではないのも共通していますね。次世代のことを考えるなど、懐の広い人ばかりです。
その分、ふと「自分は何のためにこんなに忙しくしているんだろう」と思うこともあります。だから折に触れて、根底にある思いや目的を振り返るようにしています。

交田紳二さん

組織において対等で、職業もばらばら。
やりたいことも違うメンバーが、言いたいことを言う。
それでも根底に共通する思いがあり、お互いに100点を求めていないから、けんかにはならず、意見を汲み入れながら決定できる。そして、ゆるやかにお互いを応援する。

例えば朝市などマルシェ主体のイベントは、矢田さんが中心となって運営していますが、場所の手配、出店者への声掛けや当日の設営、片付けなどはメンバーが一丸となって行っています。

そんなリバスケでは、アンドンやその周辺の鵜飼屋地区で新たに活動しようとする人のことも歓迎する雰囲気があります。現在アンドンで週2回、運営サポートの仕事をしている白木あやさんもそうです。

白木さんはリバスケメンバーの協力を得ながら、2021年10月、アンドン近くで鵜飼屋のロケーションを生かしたヨガイベントを初めて企画・実施。以前からの思いを叶えました。実施にあたっては「素晴らしい景色をよりたくさんの方に感じてもらいたい」と、矢田さんが白木さんをサポートしました。

白木さんは3歳と5歳の二児の母親で、アンドンが子どもに与える影響についても考えています。

白木さん 地元の人が組合をつくって、そこでボランティアではなく働けるって、東京など一部の地域の話だと思っていたけれど、ここでもちゃんとできるんですよね。
自分が今、ここでこういう形で雇用されて、未来を見据えたまちづくりに関わっている。その姿を見せる中で、子どもにもいい影響があるといいなと思っています。

ここにいる人たちは個性的で面白い。子どもにもそういう人と関わらせたいですね。枠にはめられただけの生き方じゃ、生きづらいじゃないですか。

白木あやさん

多様な取り組みの輪を広げたい

2021年10月15日、今年の鵜飼終いの日の鵜飼屋地区では、「長良川夜市」に加え、日中には岐阜県岐南町のデザイン事務所DESIGN HI-による屋外コワーキングスペース「かわべのオフィス」が開かれました。リバスケから始まった鵜飼屋での活動の輪が、さらに広がっています。

宮部さん 今まではリバスケが企画し、実施してきました。ただ、私の目標は、このアンドンから発生したコミュニティが地域に広がり、勝手に企画して走り始めてくれることです。

アンドンという拠点の中で、いろいろな人が集まっていろいろなことをやる、それをリバスケがサポートするという形になっていけば、もっと輪が広がっていくと思います。

私はリバスケの活動を通して、夢見たことを実現するには、みんなが「対等な立場で、言いたいことを言う」「メンバーの内外に関わらず、思いのある人を応援する」という、当たり前のようにも思えることが大切なのだと気付きました。

アンドンやその周辺の鵜飼屋地区で、多様な人の多様なアイデアが実現することで、「面白そうなことをしている場所」というイメージがつきます。そして鵜飼屋地区を訪れて楽しむ人や、そこで自分のアイデアを実現させようとする人が増え、その景色とのマッチングを楽しめる企画も多様になっていきます。

さらに、鵜飼屋地区に多くの人やアイデアが集まれば、地区の自然や、鵜飼屋を舞台とする伝統漁法、鵜飼の継承にも、プラスの影響を与えるはずです。

あなたも、やってみたいのに仲間に気兼ねして言えないことがあるのなら、まずは本当に言えない立場なのか、どうしたら対等な気持ちで話せるのか、振り返るところから始めてみてはいかがでしょうか。

(Text: 宮部遥)