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「自然豊かな地域です」じゃ集まらない? 地域おこし協力隊の採用に関わる人に伝えたい、「募集情報を届けるための8つの心得」

2018年に掲載し、大好評だった「地域おこし協力隊のいい採用とは?」の記事。あれから3年が経ったいま、地域おこし協力隊として毎年5000人以上が活動し、任期を終えた人を合わせると協力隊隊経験者は1万人以上にものぼるそうです。

地域にとっても個人にとっても、地域おこし協力隊はさらに一般的なものになってきている一方で、地域の求める期待と個人の期待のすれ違いによるミスマッチも、全国で起きているようです。

地域おこし協力隊制度の活用をミスマッチにつなげないために、協力隊を採用する自治体職員や採用支援に取り組むNPO・まちづくり会社などは、どのようなことを意識したらいいのでしょうか。

自身も元地域おこし協力隊であり、任期終了後から現在まで7年間、毎年十数の協力隊活動支援や起業支援、募集企画支援に取り組んでいる西塔大海さんは、協力隊の採用を料理に例え、以下のプロセスで説明しています。

(1)準備:制度の根本理解と徹底的ヒアリング
(2)調理:5W1Hで企画を掘り下げ、4視点で見極める
(3)盛付:ペルソナを描き、勤務条件調整
(4)提供:募集情報の拡散作戦を練る
(詳しくは、雑誌『TURNS vol.48』に掲載されている西塔さんの連載「誰も書かない地域おこし協力隊のトリセツ」をご覧ください。)

そのうち、今回焦点を当てるのは(3)(4)に当たる「募集情報の届け方」。募集の企画を立てたあと、どのようにしてその情報を届けたらいいのか、西塔大海さんに聞きました。

聞き手は、グリーンズジョブ・チーフエディターの山中康司です。

地域おこし協力隊が、キャリアの選択肢として定着してきた

 「地域おこし協力隊のいい採用とは?」の取材でお話を聞かせていただいてから、3年が経ちました。その後、西塔さんのなかで感じている変化はありますか?

西塔さん 国からの支援が手厚くなったことなど、さまざまな変化がありますが、おそらくこの記事を読んでいる自治体職員さんや協力隊の採用支援に関わる方にとって参考になりそうなこととしては、若者を中心に協力隊がローカルキャリアとして定着してきていることですね。

これは僕の肌感覚ですが、特に20、30代の若者にとって、「協力隊になること」がキャリアの選択肢に入りやすくなってきている気がするんです。

 たしかに、グリーンズジョブではキャリアについてみんなで考えるコミュニティを運営しているんですが、そのメンバーにも協力隊を検討している方はたくさんいます。なかには学生から「新卒で協力隊を検討しています」というコメントもありました。

西塔さん そういう方が今ではたくさんいますよね。良くも悪くも、今では協力隊になることは「普通の転職」のような感覚になってきているような気がします。ある程度安定した収入が見込めるわけですしね。地方で新しい暮らしを始めようと思ったら、「地方企業で働くよりは、協力隊になる方がハードルが低い」というイメージを持つ方も多くなっているんじゃないかと思います。

インタビューはオンラインで行いました。

実態と異なる募集が生むミスマッチ

 一方で、自治体側と協力隊側のミスマッチが起きている場合もあるとも聞きます。

西塔さん そうですね。ミスマッチが起きる原因はいろいろあるのですが、ひとつ大きいのは、募集づくりがちゃんとできていないことです。

たとえば、実態以上にキラキラしたような肩書きをつけてしまったり、ふわっとした業務内容で募集要項をつくってしまったりする場合が多いんです。

「◯◯プロデューサー」といった肩書きをつけて、さらに具体的な業務は書かずに「自由に活動できます」とうたって募集すれば、たくさんの応募は来ます。だけど、いざ着任してみると、実質役場の職員として働くわけですから、調整や書類づくりなど、地味な仕事がたくさんあるわけです。そうすると、「思っていた仕事と違った」となってしまい、ミスマッチが起きる。そういう事例が、各地で起こっています。

「募集要項」だけでなく「募集記事」が必要

 では、そうしたミスマッチを起こさないために、募集づくりの際に意識しておくべきことはどんなことなのでしょうか?

西塔さん まず、前提として「募集にはふたつある」と考えることをおすすめします。「募集要項」と「募集記事」です。

「募集要項」は、業務内容や給与、福利厚生など、基本的な情報がまとまった一覧表ですね。自治体のなかには、この「募集要項」しか公開せず募集しているところも多いんです。でも、正直なところ「募集要項」だけで応募は来ません。なぜなら今は、常時300件以上の協力隊募集があるわけです。「募集要項」だけを伝えたところで、埋もれてしまうのは目に見えていますよね。

そこで必要なのが「募集記事」です。「募集記事」では、「募集要項」で伝えた基本的な情報の他に、仕事の具体的な内容を書きます。想定される3年間の目標やスケジュールも書きましょう。先輩協力隊の紹介や、まちの魅力、地域で活動している人の想いなどを紹介していきます。

話はそれますが、仕事を探している人は「どこで・だれと・なにをするか」という情報を、しっかりと見ています。「どこで」は、その地域にある資源や地域課題や制度など。「だれと」は一緒に働くことになる人の想いや人柄、組織の関係性など。「なにをするか」は仕事の内容です。

それらは「募集要項」だけで伝わるものではないので、「募集記事」でしっかり伝えることが、他の求人との差別化のために必要なんです。

募集要項・募集記事をつくる際の8つの心得

 では、そうした「募集要項」や「募集記事」をつくる際に、意識しておいた方がいいのはどんなことなのでしょうか?

西塔さん 僕は、次のような8つの心得にまとめています。それぞれくわしく説明していきますね。

西塔さん作成の「担当者研修曼荼羅」をもとに、グリーンズジョブ作成。

(1)“自然や人の豊かさ”は弱い

西塔さん 多くの自治体が、売り文句として「自然が豊かです」とか「人のつながりが豊かです」とかいったことを、募集に書いています。でも、それって日本中ほとんどどこの自治体でも言えることですよね。

「川が綺麗で、20年連続で日本一の水質なんです」みたいに、圧倒的な事実があるなら別ですが、「森があって海があって…」くらいなら、他の200以上の自治体と差別化できる要因にはなりません。「“自然や人の豊かさ”」は、応募を集める文句としては弱いんです。

「うちの自治体には、差別化できることなんてないよ」と思うかもしれません。でも、そんなことないんです。地域資源でも、人でも、具体的に書けばかならずなにかしら差別化できる点があります。

ポイントは、協力隊活動に関連する地域の特徴を、なるべく具体的に書くこと。

たとえば、協力隊を受け入れる団体の人の優しさや情熱がわかるように、その団体の人にインタビューをして、想いを掘り下げる。協力隊の業務が商品開発なら、地域にどんな資源があり、これまでにどんなプロジェクトがあって、どんな失敗をしてきたのかを掘り下げる。そうすると、他の地域とは違う魅力がかならず浮かび上がってくるんです。

(2)コピペは絶対ダメ!

西塔さん これは基本的なことなのですが、実際のところ各地の協力隊の募集をみていると、その8割くらいは他の地域の募集のコピペなんじゃないか、と感じます。

自治体の職員さんは忙しいので、オリジナルな募集をつくる時間がないのはわかります。でも、他の地域と同じような募集をつくっても、人は集まりませんよね。

イチから募集をつくる余裕がないのであれば、せめて10件くらい、その地域と似ている募集をしている自治体の募集を眺めて、それらを参考にしながら書くのがいいのでは、と思います。

(3)業務は正直に具体的に全部書く

西塔さん 先ほども言ったように、募集を実態以上に魅力的に書いてしまうと、その後のミスマッチにつながります。正直に書くことを大前提にしたうえで、実際に存在する魅力を伝えることが大事です。

特に注意したいのが、自治体の職員にとって当たり前になっている業務を見落とさないことです。

たとえば日報の提出、出張報告、見積もりの作成、掃除や消防団の活動などなど。「そんなの、やるのが当たり前じゃないか」と思うかもしれませんが、あなたの常識も他人の非常識。それらを書いておかないと、後で「こんなことまで業務に入っていると思わなかった」と、協力隊との間でトラブルになります。

また、たくさんの応募を集めたいあまり、ネガティブなことをふせる場合もあるでしょう。でも、ネガティブなこともぜひ書いてください。なぜなら、それを魅力だと感じる方もいるからです。

たとえば寒さが厳しい土地に、あえて住みたいという人もいるんです。一見ネガティブだと思えることも、実は地域の魅力になるんです。

ただ、なにが地域の特徴なのかはなかなか地元にいるとわかりづらいので、外部の方の意見を聞いたり、外部の方に記事を書いてもらうなどするのは有効ですね。

(4)企画への本気度を言葉にする

西塔さん これまで協力隊の採用支援をしてきて思いますが、自治体の職員さんの多くが控えめで、自分の言葉で募集を書かないんです。

でも話を聞くと、「わたしはこの街が大好きで、あそことあそこが特にお気に入りなんです」みたいに、熱く語ってくれる。そういう、自分が主語で語られた地域や募集する仕事への想いにこそ、多くの方は共感するんです。

自分で書くのがむずかしければ、誰か別の人にインタビューをしてもらうとか、別の職員からコメントを集めるのでもいいでしょう。とにかく、生の自分の言葉を書くことが大事です。

(5)担当課・担当団体へのインタビュー

西塔さん これも(4)と関連しますが、募集要項や募集記事に担当課・担当団体が登場しない場合があります。でも、先ほども言ったように、仕事を探している人は「どこで・だれと・なにをするか」という情報を、しっかりと見ているんです。

着任後に密に関わることになる担当課・担当団体にどんな人たちがいて、どんな想いで活動しているのかは、「どこで・だれと」にあたる情報なので、書いておくべき情報です。

(6)ペルソナに近い3人に読ませる

西塔さん マーケティング用語で、サービス・商品の典型的なユーザー像のことを「ペルソナ」といいます。協力隊でいえば、どんな人に着任してほしいかのイメージを、年齢や性別、居住地や職種など、詳細にまとめたものですね。

募集要項や募集記事をまとめたら、一度それをペルソナに近い人に読んでもらって、コメントをもらってください。たとえば、「27歳くらいの丸の内の企業で働いている女性がペルソナだ!」となったときに、40代の男性係長が書いた文章だと、なかなか刺さらないことがあるのは想像がつくでしょう。

そこで、ペルソナと近い人、たとえばご自身の娘さんがちょうど20代で、企業勤ならば、その娘さんに募集を読んでもらってください。「こんなのじゃ惹かれないよ」って言われたら、その募集はペルソナに刺さらない、ということです。

ありがちなのは、理想像を描きすぎて現実にはいない、あるいはいたとしても到底応募してくれる見込みがないペルソナを設定してしまうこと。

「プロジェクトマネジメント経験がある人がいい」
「コミュニケーション力がある人がいい」
「年収はあまり気にしない人がいい」
「夫婦で移住してくれる人がいい」

など、関係者が持っている理想を全部満たすような人をペルソナにしてしまう場合も見受けられますが、そんな人、いませんよね。

おすすめなのは、「自分の友達の友達にいそうかどうか?」を目安にしてみること。「友達にはいないまでも、友達の友達くらいにはこペルソナに近い人はいそうだな」と思えるなら、そのペルソナは現実味があるでしょう。逆に、いなそうだと思うなら、ペルソナを考え直した方がいいでしょうね。

(7)募集記事はプロに依頼(予算)

西塔さん 募集要項は採用を担う自治体職員が責任を持って書くにしろ、募集記事に関しては外部のプロに依頼するのはおすすめです。

その理由は4つ。まずは、写真が魅力的になること。募集記事において写真はとても重要です。

よく見うけられるのが、自治体職員が広報用に撮った写真を使ってしまっている例。それが魅力的な写真ならいいですが、多くの場合いかにも広報用の写真、という、地味な印象になってしまっています。プロに募集記事を頼んだ場合、カメラマンが素敵な写真を撮ってくれるので、募集の魅力がさらに伝わりやすくなります。

もうひとつの理由は、よそもの視点で募集の魅力を伝えてもらえること。自治体職員など、地域の人間ではわからない、その募集の魅力を伝えることができます。

さらに3つめの理由は、生の言葉を拾ってもらえること。(4)や(5)とも関わりますが、インタビューをしてもらうことで、自分で書くのでは伝えることができない言葉を届けることができます。

最後に、「ニッポン移住・交流ナビ JOIN」を読まない層にも届けることができること。協力隊募集を掲載するサイトとして「JOIN」がありますが、「JOIN」を読んでいない人はたくさんいます。雑誌やwebメディアに掲載してもらうことで、「JOIN」を読んでいない人にも情報を届けることができます。

これら4つの理由から、募集記事はプロに依頼するのが有効です。ただ、まずは前提として、外部に頼めるだけの予算をとっておくことが大事ですね。

できれば200万円、それが厳しかったら100万円を募集用に計上しておいて、各媒体に問い合わせ、見積もりを依頼しましょう。その見積もりが来期の協力隊募集業務を助けることになるはずです。

たとえば、募集記事制作をお願いできるところとしては「日本仕事百貨」「ソトコト」「TURNS」「DRIVEメディア」、そして「グリーンズジョブ」などがあります。

せっかくグリーンズジョブで取材いただいてるので、僕目線からみたグリーンズジョブの特徴をお伝えすると、記事を書くライターさんの質が安定して高く、記事が募集期間終了後も掲載され続けるところ。短期的な協力隊採用だけでなく、中長期的な採用広報や関係人口づくりにも役立てたい場合はマッチしそうです。僕が協力隊採用支援をする場合は、この理由で8割近くグリーンズジョブさんにお願いしています。

(8)口コミは自分で(メール100通)

西塔さん 「募集づくりの心得」8つめは、口コミを自分で広げることです。

仮に外部に募集記事を発注したとして、「あの媒体に載せてもらったら、勝手に情報が広まるんだ」と思っていたとしたら、とんでもない。そんなことは起きません。協力隊に応募する方は、「友達から紹介された」とか、「SNSでシェアされてた情報をみた」という人が多くなっています。そうした口コミは“広げるから広がる”のです。

採用を担う職員自身が、自分の知り合い100人に連絡する。自分だけで難しければ、役場でTwitterやInstagramなどをやっている職員にシェアしてもらうとか、関係ある外部の人にお願いするとか。「こういう募集を始めたから、拡散して」「いい人いたら、紹介して」など、なんとか100人に連絡をしてください。“ダメもと”でいいです。10人に頼んで、シェアしてくれるのは1人か2人。でもその1人か2人の口コミが大事なのです。

僕は、協力隊の募集に関しては口コミが最強だと思っています。「SNSで広告を打っておけばいいでしょ」と思うかもしれませんが、今の人たちは信頼できる人からの情報を信じるんです。

2,3日、対話を通して募集をつくればきっと応募は集まる

 「募集づくり8つの心得」、すごくわかりやすかったです。最後に、協力隊の採用に取り組む自治体職員の方や、採用支援に取り組む方に向けて、なにか伝えたいことはありますか?

西塔さん ここまで説明してきたことを、ひとりで考えるのは大変ですよね。だから、募集は一人でつくろうとしないで、問いを投げてくれる相手と対話をしながら考えた方がいいと思います。

僕はこれまで、30近い自治体の協力隊の採用支援をしてきました。そのなかで、僕が募集企画の中身について提案することはほとんどありません。職員さんが自らアイデアを出されます。このやり方で、募集をつくれなかった職員の方は一人もいなかったんです。

他者から問いを投げかけられて、考えて、気づいて、言葉にしていく…そういうプロセスを経れば、いい募集はかならずつくれるんです。答えは自体職員さんがすでに持っていることのなかにある。それだけ地域に入って、日々真剣に仕事をしているわけですから。

だから、自治体職員の方は問いを投げかけてくれるパートナーと協力して募集をつくってください。2,3日、打ち合わせを繰り返してつくりこんでみる。その2,3日は大変かもしれませんが、そこを一生懸命やれば、応募はきっと10倍になって、ミスマッチも減りますよ。

– INFORMATION –

グリーンズジョブでも、地域おこし協力隊の採用にご一緒させていただくメニューをご用意しています。詳しくはグリーンズジョブのページをご覧ください。

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