NPOグリーンズの合言葉でもある「いかしあうつながり」とは、関わっている存在すべてが幸せになり、幸せであり続ける関係性のこと。それをみんながデザインできるような考え方、やり方をつくり、実践し、広めるのが、NPOグリーンズの新しいミッションだ。
とはいえ、それってどんなこと? 発案者の鈴木菜央も「まだわからない(笑)」という。「わからないなら、聞きに行こう」というわけで、鈴木菜央が「いかしあうつながり」「関係性のデザイン」に近い分野で実践・研究しているさまざまな方々と対話する連載。第5回目は藤野の地域通貨「よろづ屋」の池辺潤一さんと小山宮佳江さんです。
ー 目次 ー
▼「ただその人がいることで、全体が豊かになる」地域通貨のあり方
▼自分らしくいることがいかしあうつながりを生む
▼「やってみたかった」をスタートできる仕組み
▼物や情報、地域通貨でめぐるもの
▼負担を減らして、持続可能な取り組みへ
▼お金の意味を問い直す
▼金融資本では手に入らない、新たな豊かさを実現する
「ただその人がいることで、全体が豊かになる」地域通貨のあり方
鈴木菜央(以下、菜央) 藤野の地域通貨「よろづ屋」の前回の記事掲載が2018年7月だね。前回はどちらかというと地域通貨そのものについての話だったと思う。
今回は地域通貨がどういう考え方で成り立っているのか、その背後にあるデザインや、グリーンズがテーマにしている「いかしあうつながり」と地域通貨の関係についても聞いていきたいと思ってます。
「よろづ屋」事務局の池辺潤一さんと小山宮佳江さん、どうぞよろしくお願いします。
池辺潤一(以下、池辺)さん、小山宮佳江(以下、みかえ)さん お願いします。
菜央 自然の力をいかした暮らしをすることや、人の力をいかして生きること。それをひとりひとりができるようになると、幸せで持続可能な社会をつくることができるんじゃないかなと僕は思って「いかしあうつながり」をテーマにしています。
それは「ある社会課題があって、その社会課題を解決するための最短距離の方法を考えて、すごいスピードで実行していく」っていうのとは全く違うものなんだよね。もっとじんわりしたもので、いろんな人が関わるし、即効性がなくて、面倒くさい。でもいろんな人が関わるからこそいろんなニーズが満たされて、いろんな課題がじんわりと少しずつ全体的に解決していく、みたいなことが起きる。
その強力な実例の一つが地域通貨なんじゃないかな。僕が住む千葉県いすみ市でも、藤野に触発されて2016年から地域通貨をはじめて、今このコロナ禍でも非常に活発にやりとりが続いていて、本当にやってよかったなって思ってるところです。
地域通貨の活動って、カテゴリ分けできないんだよね。人と人がつながるっていうだけでもないし、困りごとを解決するってだけでもない。さらに、ただ単純に「中古のものをもらいたい」という気持ちで参加してる人もいるんだけど、それが全体としてはいいことになる仕組みなんだよね。
自然を観察しているのと同じだと思うの。鳥はただ鳥らしくいたいだけで、飛びたいとかフンしたいとか求愛したいとかってやってるだけだし。木は木で、勝手に生えてるんだよね。でもその存在が全体にとってすごく有益になっていて。
その人がいることによって、全体が豊かになっていく。地域通貨って、そういう状態をつくれてるんじゃないかな。どうしたらその状態をつくることができるのか。今日は深掘りして考えてみたいと思っています。
「地域通貨って何?」という部分は過去の記事で出ているので、前回の取材から2年以上経った地域通貨の現状を伺いながら、背景にあるデザインの話に入っていきたいと思っています。ということで、今、藤野の地域通貨はどんな感じなんですか。
自分らしくいることがいかしあうつながりを生む
池辺さん 2020年に藤野の地域通貨が10周年を迎えて、それを機に1枚加えた地域通貨の説明会用のスライドがあるから、それを見せたらわかりやすいかな。これはもう「いかしあうつながり」の仕組み、って書いてある(笑)
菜央 おお(笑)
池辺さん 地域通貨を10年続けた結果、当初想定していなかったこんなことが起きた、ということを書いたんだ。僕自身が実感したのは、多様性があることの豊かさ。
最初は15人からはじめて、それぞれがそれぞれの友だちを10人ずつぐらい誘って、参加人数が100人を超えた。
人が増えることで、自分に持ってないものを持ってるとか、知らないことを知ってる人がいることのほうが楽しいと実感した。コミュニティに新たに人が入ってきたとき、それまでは自分たちと違うような人だと思うと警戒していたようなところも、この仕組みでやっていると「また面白そうなのが来た」とワクワクするようになる。それが「よろづ屋」をやってて大きく変わったことだって話を最近しているんだ。
このスライドは、「あなたたちも自分たちらしくいることで、この藤野でつながっていくことができますよ」っていうメッセージのつもりでもある。「人と違うことが地域にとっての価値でもある」「そのままでいい」と伝えることで、みんなが自己肯定感を持てたり、何か地域で貢献できることがあると気づいたりできたらいいな、と思って。
藤野の現状としては、続々と移住者が増えている。把握しきれないぐらいの人数になってきていて、それはそれで必要なことだなとは感じてるんだけど、ともするとつながりが希薄になっていくようにも感じている。
でもこうして「いかしあうつながり」を意識することで、互いに名前を知らなくても、「あの人もきっといかしあう仲間なんだな」と互いの多様性を認めて、それぞれがプライドが持てるような暮らしや生き方ができる状況につながっていくんじゃないかな。
そうすればこの先もみんなが安心して幸せな暮らしができるような地域として、続けていけるかなと感じてます。
菜央 なるほどね。この6つの要素(多様性・参加意識・幸せ・肯定感・貢献意識・安心感)が、それぞれつながっている。自分らしくいることで、ニーズがマッチされる確率も上がって、役に立てたと感じることも増える。これはすごいね。僕自身がいすみでやってることを振り返っても、なるほどなるほどという気持ちです。
「やってみたかった」をスタートできる仕組み
池辺さん 地域通貨の中で、活躍が目立つのは女性かな。自分の持ってるスキルや個性を、例えば子育て中で時間がないお母さんでも、地域の中で発揮できる場として地域通貨があるんじゃないかなと思う。
菜央 「よろづ屋」の構造全体として、そうした気持ちを引っ張り出すようなつくりになっているのかな。
池辺さん そうだね。「あの人も何か面白そうなことやってる」「なんか私もやっていいかも」とか「やりたくなっちゃった」みたいな空気がある。
菜央 チャレンジの連鎖っていうか、ちょっとしたプチチャレンジがいっぱい見えてて、「私もやりたい」って思えるのかもね。
みかえさん 暮らしのことをいろいろ聞きやすいというのもあるかな。例えば、「子どものスキーのウェアが小さくなっちゃったから大きいの譲ってもらえませんか」みたいなことを発信しやすいのが女性だったりするかなっていうのはある。あと「ちょっとこんな物をつくってみたから食べてみて」じゃないけども、そういうことを言いやすい雰囲気があって。
池辺さん 小さなマーケットみたいなものを自分の家で開くとか、そういうのも割といろんなとこで起こっているね。例えばこのコロナ禍でも、家の庭や森の中に子どもが思いっきり遊べるような場をつくりましたっていう人がいて、そうした場の提供も、最近は頻繁に起こってるかな。
みかえさん アイスクリーム屋さんをはじめたとか、あとは本業は違うけれどお菓子をつくるからイベントで出すとか、ヴィーガンのカフェをはじめるとか、そういう動きがはありますね。
物や情報、地域通貨でめぐるもの
菜央 なるほどね。この記事を読む人に向けてざっくり概要をおさらいしたいんだけど、今は参加者は何人ぐらいになってるのかな?
池辺さん 750から800人ぐらいですね。退会っていう仕組みがないので、メーリングリストの登録を削除してくださいって言われなければメンバーは増えていく一方です。
菜央 引越した人でも以前住んでた町とつながりたいというニーズもあったりするから、それはそれでよい気もするね。今は具体的にどんな取引が多いんですか?
池辺さん 相変わらず物のやりとりが多いかな。「こんなものが要らなくなっちゃったんだけど」というのが一番多い。イベントの告知や人が集まることの呼びかけみたいなものはコロナ禍になって少なくなってきてしまっているので。
菜央 こういうのが取引されたなって、読者がイメージできるものはある?
池辺さん さっきみかえさんが言った、スキーウェアっていうのはあったね。
みかえさん あと数日前に、「犬が輸血をしなきゃいけないので、輸血してくださる犬を探してます」っていうようなこともありました。これ誰か答えてくれるのかなって、ドキドキしたんだけど、6時間後に返信メールがあって、輸血犬がみつかりました! 本当によかったです。
池辺さん 「コロナ禍で気持ちが落ちこんでいる人はご相談ください」っていうのもあったな。あと「いなくなった猫を探しています、誰か見ませんでしたか」とか。ちょっと変り種だと「子どもの七五三でこだわりの千歳飴を長野県から取り寄せようと思うんだけど、送料同じなのでほかにも誰かいますか」とか。
菜央 共同購入ね。なんかイメージが湧くね。面白いな。
みかえさん この間私、代わりに送ってって言われたお知らせがあります。10年ぐらい飼っている犬が亡くなってしまって、地域の人たちもその犬とよく遊んでくれてたから、お知らせしてもらえないかなと言われて。
「何かある人は直接連絡してあげてください」ってお知らせしたら、ものすごい数の連絡があったみたい。久しぶりに会いに来てくれた人とか、電話くれた人がたくさんいて、すごく嬉しかったって。「犬が亡くなったことがショックで今でもまだ立ち直れないぐらいなんだけれど、みんなに伝えてくれてありがたかった」と言ってもらえて、私も嬉しかったな。
菜央 いやー、しみじみ、いい話だなぁ……。ほんとにいろんなことやものや情報がやりとりされるんだね。ぐるぐる回ってるものもあるでしょう? 何周もしてるようなものとか、ちょっとしか使わない子ども系のものとか回ってるんじゃないの? いすみもそうなんだけど。
池辺さん 回ってるんだろうなと思うんだけど、確認がしづらいんだよね。きっと「よろづ屋」の大きな輪の中に小さな渦みたいものがいっぱいあって。子どもの年齢が近いとか、そういったところできっとぐるぐる循環してたりするんだろうな。
菜央 そうすると全員が参加してるメーリングリストじゃないところでもやりとりしてるってこと?
池辺さん ものによってはあるみたいで。子ども服のお下がりは、小さなサークルみたいなものができていたりもするみたい。だけどたまにドーンと大きなイベントにするときは「よろづ屋」のメーリングリストにポンと出てくるとか。
子どもを遊ばせる、森の幼稚園的な活動も、日常ではメーリングリストが個別にあるんだけれど、知らない人や新しい人に対して伝えるために、定期的に「よろづ屋」のメーリングリストで告知することもある。
負担を減らして、持続可能な取り組みへ
菜央 なるほど。もう少し具体的なところを確認していきたいんだけど、基本的にはメーリングリストがあって、そのメール上でやり取りするのがメインということだよね。
これ以外に何か仕組みとして、例えば“でしリスト”(※)みたいなのをやってたりするのかな? 最近どんな感じなの?
(※)でしリスト: ひとりひとりの「できること・してほしいこと」をリスト化したもの。
池辺さん 今はこれといって新しい取り組みを仕掛けるっていうのはあんまりなくてね。なるべく負担をなくすことが持続可能な取り組みだ、ということで、今は維持するというモードに入ってるかな。
10周年の時は「よろづキャンプ」って、一泊二日でお財布を持たず、よろづ通帳だけでみんなで楽しむっていうのをやったんだ。
それぞれが食材を持ってキャンプにいって、朝昼晩の食事をみんなで賄えるかみたいなことをやって。「こっちは食材が足りないみたいだぞ」となったら、急遽近所の農家さんのところにいって「ちょっと野菜をよろづで売って」と食材を買い付けて、みんなでそれをどう調理しようかみたいなことをする。みんなでお金を使わずに過ごすことができると、「全くお金を使わなかったなあ」みたいな一体感とすがすがしさが生まれて。楽しかったな。
菜央 まるで、のんびりした「バーニング・マン(※)」みたいだね!
※バーニング・マン…アメリカ北西部の人里離れた荒野で年に一度、約1週間に渡って開催されるアート/音楽イベント。会期中一切現金が使えない、すべてがギフトに基づいたイベントとして有名。
池辺さん “でしリスト”みたいなものがないと、どんな人がいるかとか、どんなリソースがあるかみたいなことがわかりづらいから、そういうのがわかるようなものがあったらいいなと思いつつ、今はそれを解決してくれる人が現れるのを待ってるっていう感じ。
菜央 でも、すごいよね。逆に。頑張らなくてもいい状態になってるってことだよね。
池辺さん そういう意味では本当にインフラみたいになってて。それこそ飛龍くんたちの廃材エコビレッジとか。あっちもあっちで面白い動きがあって、新しい若い人がどんどん入ってきてて。「よろづ屋」の中に飛龍くんが情報を入れてくれるので、「よろづ屋」のネットワークの中から廃材エコビレッジに関わり出す人が出てきたりもしてる。藤野にある様々なコミュニティそれぞれが面白いことやっていて、その動きを俯瞰して見ることができるのが「よろづ屋」のメーリングリストみたいになってるかな。
菜央 さまざまなプロジェクトも活用するインフラになっているんだね。
池辺さん うん。「よろづ屋」として何か仕掛けるっていうことをしなくても、それぞれが能動的に仕掛けてくれるというか、面白い活動をしてくれてるんで、それをつなげるという。全体を一番俯瞰してみることができるのが「よろづ屋」だから、それはそれで末永く維持していこうという感じになっているかな。
菜央 ちなみに、新しく入りたい人が入る仕組みは?
池辺さん 入る仕組みは相変わらず月1の説明会なんだけど、「よろづ屋」を知るきっかけについては、僕もちょっとよくわかってない。だいたい口コミなんだろうけど。
引っ越す前からすでに「よろづ屋」のことを知っているパターンもあるし、引っ越してきてすぐに近所の人に「いろいろ役に立つから入ったほうがいいよ」と言われて入ってくるパターンもあるとは思う。移住すると「よろづ屋」に入るっていう流れが、もうできてる感じかな。
菜央 なるほどね。もう組織的にはあまり動かずとも、月1の説明会を開いたらあとはみんなが勝手にマルシェとかあちこちでやってるってことなんだね。
池辺さん そうですね。
菜央 そうやって「自発的に増えたな」みたいになるまでって、どのくらいの期間かかった?
池辺さん 期間というよりも、2011年3月11日の東日本大震災後に意識が変わった感じがあるかな。世の中全体でも「つながりって大切だよね」みたいな空気になったよね。
移住する人ももしかすると、地域の中でつながりがほしくて藤野を見つけてくるということもあると思う。だから移住してきた段階でもうすでに「地域とつながりたい」という感覚を持った人が多い印象。
そうするともう、こっちは「そうですよ。こうやってみんなでつながってやっててすごく楽しいし、安心感ありますよ」ということを、ちゃんと伝える。そうすると「私たちもそうしたことを大切にして、地域とつながっていこう」とワクワクしながら飛び込んできてくれる。
そしたらもう僕らの方から何かをしなくても、いつの間にか「あの人最近来たばっかりなのに友達すごくいっぱい増えてる」ということがあって。新しいこともすぐはじめたりして「ずいぶんスムーズに地域になじんだな」みたいな感じがあるんですよね。
菜央 そういうつながりがあったからこそ、そのスピード感があるのかもしれないね。
池辺さん そうかもしれない。
お金の意味を問い直す
菜央 いろんなことが勝手に同時に起きていってる状況が、今つくれてると思うのね。
これって例えば、ひとりすごくセンスのいいデザイナーや設計者の人が指示してやっていると思う人も多いんじゃないかな。だけどそういうわけじゃないよね。みんなで寄ってたかってやってる感じだよね。
一体どういうふうに意思決定してるのかな。どうやったらこういうふうに、うまくいくのかな?
池辺さん どうでしょう、みかえさん。
みかえさん 今まであった地域通貨という考えは、地域の経済を豊かにするとか、外にお金が行かないようにすることが目的だったかもしれない。でも私が藤野の地域通貨のことで話をするときには、「よろづ屋」やこの方式の地域通貨は、コミュニケーションするためのツールであり、関係性をつくっていくためのツールだっていう話し方をするんだよね。
だから「地域通貨」と言っても表面的な地域経済ではなくて、より本質につながってる感じがする。
この間「エンデの遺言ー根源からお金を問うこと」(※)というドキュメンタリーを撮った監督のオンラインの会があったんだよね。その監督さんがエンデに質問をしたときのことを思い出しながら話をしてくれた中で印象的だったのは「エンデは地域通貨は答えではなくて、“お金の意味を問い直す”ということだと言っていた」ということだったの。
(※)「エンデの遺言ー根源からお金を問うこと」: ミヒャエル・エンデが日本人への遺言として残した一本のテープをもとにつくられた、NHKのドキュメンタリー番組。番組を元に、同タイトルの書籍も出版されている。
菜央 お金の意味を問い直す?
みかえさん うん。お金や時間の使い方、そういうものの本質をみんなで話し合うとか、自分で問い直す。そういうことを「エンデの遺言」の中では言いたかったっていう話をしていて。
みんなで「エンデの遺言」を藤野で観て「地域通貨はじめましょう」っていうときも、必ずしも地域通貨が答えではない、それこそ関係性ができてしまえば地域通貨ってなくなってもいいんじゃないっていう話もしたと思う。
「よろづ屋」はそういう本質というか、地域の中の経済、つながりをつくることに特化してきたからこれだけ長く続いているし、いろんな相乗効果が生まれてきたのかなあ。まだまだ楽しいし、新しい人が入ってくるのってすごくワクワクする。この活動をずっと続けていきたいって感じています。
菜央 なるほど。日本円、お金で買えないことは本当にたくさんあるよね。心の豊かさとか、つながりの中の豊かさとか。そういうお金では手に入らないいろんな豊かさをみんながほしいと思ったら、手に入れることができる、そういうことなんだろうか。
みかえさん 池ちゃん(池辺さん)が説明会で話をする中でも、地域通貨が答えだみたいなことは言ってないよね。一人ひとりがお金について考えるとか、みんなが持っているものを分け合うとか、そういうことが大切だよねということをしっかり説明してくれている。
みんなの資源を共有して、そこでつながっていこうっていうことが本質だと思う。
金融資本では手に入らない、新たな豊かさを実現する
菜央 僕は、みんなが金融資本に意識が向きがちな社会に生きているなと感じていて。人間が生きていくのに必要な、水とか建物とか温かさとか洋服とか自己表現とか楽しみとか成長とか、そういったニーズをすべて金融資本を通じて満たすっていう考えが今は大方なんだよね。
でも本当は、豊かになるために使える、お金じゃない資源や資本っていっぱいあるじゃない。
人間関係やみんなが持ってるスキル、それからすでに持ってる道具。新たに買わなくても、貸し借りしてすむことも多いし、むしろ貸し借りをすることでやり方を一緒に教えてもらえることもある。コンクリートドリルを借りたら、その人と仲良くなった、とかね。
そういう新たな豊かさを実現するのが地域通貨の素晴らしさだよね。
池辺さん そういう意味では、金融資本で手に入らないものがあるんだと気付いた人が模索しているように感じます。
金融資本では手に入らない豊かさをどうしたら手に入れられるんだろうと考えていったときに、「よろづ屋」は自分たちで新たな機能を追加することができて、自由度がある。
地域通貨はすごく限られた範囲での小さな経済だけど、可能性は金融資本よりも広がってるという感覚を持つことがある。そうすると「豊かだ」と思えるのかな。
菜央 地域通貨は、金融資本で得られる豊かさの限界にみんなが気づくきっかけになっていたりするのかな?
池辺さん そうだと思う。「よろづ屋」の説明会にくる人には、登録目的以外の人もいるんだけども、その人たちは何か問いを抱えて説明会にきてるような気がする。
ウェブサイトに「地域の人しか入れません」とは書いていないからだと思うんだけど「ただ説明を聞きにきました」っていう人が毎回1人2人はいる。そういう人たちはおそらく、金融資本に限界を感じている中で、いろんな可能性を探してるんだと思う。
「よろづ屋」の話をすると、顔がぱっと明るくなるというか。「なるほど。そこにはちょっと可能性を感じますね」と言ってくれる人が多くて。それは何に感じてもらったのかはわからないけど、現状では限界を感じていることに対して、それよりももうちょっと可能性があるということに気付いてくれたということかな、と思うんです。
菜央 なるほどね。
社会全体が、あまりにもお金を中心に回り過ぎている。金融資本を通じてしか、つまりお金がなければ、なりたい自分になれなかったり、お金がなければ、自分自身のままではいられないっていう日常を送ってしまっていたりする。そういうところに限界というか、自分が生き生きしてないなという思いを抱えた人たちがいっぱいいると思うんだよね。
そういう人がこの地域通貨の話を聞くと「私もそこに入りたい」って思うし、「自分が役に立てることがあったら楽しいだろうな」って思うんだろうね。
みかえさん 「自分が何かできるんだ」という意識って今すごく希薄になってるというか。自分はこうやって生きてていいんだと思えない人が、悲しいことに増えてるような気がしていて。
そういう人にも、地域通貨を通じて「自分でもこういうことが役に立つんだ」とわかったら、すごく希望を感じるんだと思うんだよね。
(編集: 福井尚子)
(編集協力: 板村成道)