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子育てで得た視点で当たり前を変える!「子連れMBA」が培ってきた、仲間と出会い、学び、行動しながら“自分らしく生きる・働く”メソッド

最初に、今、子育て中の私の話を少しだけ。
はじめての子連れでの外出は、「ちょっとそこまで」が大冒険でした。

オムツや着替えでパンパンに膨らんだカバン。
慣れない手付きで押すベビーカー。
お昼寝の時間に合わせて乗る電車…。

慣れない生活に追いついた頃には、会う人・行く場所・会話の話題は、子ども中心に。

子どもが生まれる前、がむしゃらに働いていた頃は、毎日いろいろな人と出会い、チャレンジの機会が転がっていました。ところが「●●ちゃんのお母さん」と呼ばれるようになって生まれたのは、社会とのつながりが薄くなったような感覚でした。

大好きな仕事をする楽しみに駆られて復職すると、1日が仕事・育児・家事であっという間に終わってしまい、思う存分仕事をすることも、子どもと遊ぶ時間を持つこともままならない。キャリアへの不安やモヤモヤした今を「どうにかしたい」と思っていました。

そんなときに知ったのが、「子連れMBA」の活動です。「子どもと一緒だからこそ自分らしく生きる・働く、自分の人生のリーダーを目指す、コミュニティ型スクールをつくっている、子連れMBA代表の赤坂美保さんと、運営メンバーの石井詠子さんにお話を伺いました。

赤坂美保(あかさか・みほ)
子連れMBAの運営母体「一般社団法人ぷちでガチ」代表。東京やNYの事業会社や金融機関にて財務会計やM&Aの仕事を経験後、出産のため京都へ戻る。出産・育児をしながら大学院を卒業。関西では大手メーカーでの海外事業推進や経営企画、教育機関での学部立ち上げに携わる中、次男育休中に赤ちゃん連れで参加できる学びの場「子連れMBA」を立ち上げる。現在、全国の育休中や復職後のワーママを中心に「学びとつながりの場」を提供している。

石井詠子(いしい・えいこ)
第1子育休中に子連れMBAの活動に参加し、第2子育休中の2020年12月から運営メンバーに加わる。子連れMBAの広報・運営に関わる他、自身の不育症治療の経験から、妊娠・出産・子育てと仕事の両立を疑似体験できるボードゲームづくりをすすめる。

赤ちゃんを抱っこしながらでも、頭は使える!

子連れMBAを立ち上げ、代表を務める赤坂さんは、現在6歳と10歳の息子を育てるお母さん。2015年、2人目の子どもを出産後の育休中に活動をスタートしました。

赤坂さん 長男出産を機に東京から京都に戻ったとき、大学院に通っていて。生後3週間くらいで復帰して、授乳の合間に大学に通い、家で赤ちゃんを抱っこしながらクラスメイトとのグループワークにオンラインで参加していました。

次男出産の際、初めて会社の育休制度を利用したときに、その経験を思い出したんです。赤ちゃんを抱っこしながらでも頭は使えるし、移動もできる。赤ちゃん連れで参加できる本気のビジネス勉強会をして、みんなが集まれる場所になったら楽しいなあと思って。

初回は同じ時期に育休中だった知り合いに必死で声をかけ、なんとか15組が集まりました。知人からの紹介で講師を引き受けてくれる人は見つかったものの、いちばん困ったのは会場探し。当時、赤ちゃん連れで利用できる場所はほとんどなく、数ヶ月かけてようやく見つけた大阪の会場で活動がスタートしました。

活動を始めた頃は、育休中の知人に千本ノックさながらいろんな人に連絡をして参加者を募ったそう。

赤ちゃんを抱っこしながら、本気で学びます。(2019年以前に撮影)

子連れMBAの活動は、主に平日の昼間。「エフェクチュエーション講座(※)」「サスティナビリティ・マーケティング」などの起業や経営・経済にまつわるテーマを、大学教授や実務家の講師から学びます。2020年のはじめまでは、育休中のお母さんを中心に参加者が赤ちゃん連れで集まり、大学の講義をイメージした2時間の講座で学んでいました。

(※)エフェクチュエーション: 世界各国で活躍する優れた起業家たちの思考を体系化したもの。起業するノウハウを学び、アクションにつなげる学習として広まっている。

また団体の運営は、参加者から運営にコミットしたいメンバーがボランティアで行います。さまざまな地域のメンバーが参加できるよう、活動当初からリモートで運用していたそう。育休復帰や仕事、家事の都合で、入れ替わりながらも常時20名前後が運営に関わっています。

大切にしているのは参加者の縦・横のつながり。(2019年以前に撮影)

リアルからオンラインに。もう一歩踏み込んで。

口コミで参加者を増やしながら続けてきた学びの場でしたが、2020年、新型コロナウイルス感染症の影響で活動が大きく変わりました。

赤坂さん ギリギリまで参加者がリアルに集まれる場を続けていましたが、「これはちょっと…」という状況になり、オンラインに挑戦しました。講座も運営もオンラインのみになったとき、活動継続が難しいという話もでましたが、「孤独になった」「子どもが休校で大変だった」という声も多く、今こそつながりが必要だよね、と。それをきっかけに、団体の理念を再定義し、活動内容を変えていきました。

講座を完全オンラインに切り替えるにあたり、以前運営に参加していたメンバーの声も参考にして、講座のスケジュールや形式を変えました。時間帯はランチタイムに設定し、オンラインでも集中できるよう、1時間×3回と短時間で区切る講座形式に。うち1回は参加者同士の交流時間を設け、オンライン上でもつながれる場を用意しました。講演・講座内容は録画し、チャット・動画ツールで配信。見逃した人のフォロー体制もつくったのです。

オンライン上でも参加者が雑談・交流できる時間を設けます。

運営グループの活動にも変化がありました。元々フラットな組織体制かつフルリモートで活発に議論する土壌があったことをいかし、チームコミュニケーションツール「Slack」内で議論しながら、団体の再定義やプログラムづくりを進めました。

このときに出た、「コミュニティの立ち上げ体験」や参加者同士がメンタリングし合う「相互メンタリング制度」などの新たなアイデアを、運営メンバーで1年間試験的に実施しプログラム化することで、参加者がやりたいことにチャレンジできる場を整えました。

運営メンバーが議論するSlackでは、熱量ある本気の話し合いが展開されます。

すると、参加者の層にも変化が表れました。これまではリアルな集まりを求めて参加する育休中の人が多かったのが、オンラインにしたことで場所や時間にとらわれなくなり、仕事復帰している人やリモートワーク中の人も増えるように。もともと関西在住者が中心でしたが、首都圏やその他地方都市からの参加も増え、活動が全国に広がっていきました。

Makers of Business Art=ビジネスをツールとして自分を表現できる人

立ち上げから6年が経ち、運営メンバーで団体の意義を再定義する中でたどり着いた新たなビジョンは、「子育てで得た視点で、これまでの社会の当たり前を変えていく」というもの。

「自分の価値観に基づいて行動できる人を輩出すること」をミッションとし、活動名の「MBA」には、経営学修士ではなく「Makers of Business Art=ビジネスをツールとして自分を表現できる人」の意味を込めました。

赤坂さん 活動当初は、「育休中にパフォーマンスをあげるためにがんばろう」「子育てや育休をブランクにしたくないよね」という感じでしたが、今はちょっとちがうぞ、と。会社の既存の形に合わせてパフォーマンスを発揮するよりも、「子どもがいる」という経験をいかして会社の形を変えるのが私たちの役割なのかなと思っています。

そのビジョンに至った背景には、過去の運営メンバーが水を得た魚のように変わっていった姿がありました。学びと出会いを通し互いに刺激しあい、行動し、自分がしたいことを見つけていく―。すでに子連れMBA内で起こっていた参加者の変化を、より多くの人が身につけられる形にすることにこだわり、ハーバード大学のビジネススクールがリーマンショック後の教育改革に使ったフレームワークを当てはめ、3つのメソッドを活動の支軸にしました。

「子連れMBAの3つのメソッド」

●学ぶ(Knowing)
第一線で活躍する大学教授・実務家による講座を通して、当たり前を疑い自ら考える「思考力」と、仲間を巻き込み変化を起こす「実行力」を身に着けることを目指し、参加者同士で互いに学びあう。

●やってみる(Doing)
コミュニティを立ち上げたり、参加したりして、コミュニティ内外の仲間とプロジェクトをすすめることで、知識を活用し、実行力を身につける。

●自分を知る(Being)
参加者が互いにメンタリングしあう相互メンタリングや、自己理解ワークショップを通じて、他者との交わりから自分を理解する。

異業種の人と出会えることが、人生を変えるくらいの財産に。

「私はたぶん、活動で受ける恩恵をフル活用しているタイプです」と笑顔で話してくれたのは、育休中の2020年12月から運営メンバーに参加している石井さんです。主に広報の役割を担い団体活動の発信などにコミットしながら、自身のコミュニティも立ち上げています。

石井さん もともとはイベントや講座の参加者でした。運営メンバーの方に、今の仕事への疑問やキャリアチェンジの相談をしたら、「とりあえず入って、やってみよう。失敗しないと自分が何が好きか・何をしたいか・どんな仕事をしたいか分からないよ。いっぱいこけよう!」と言ってもらい、運営メンバーに参加したんです。

「自分で考えて必要だと思うことをやってみて」と言われ、初めて自分の頭で考えるようになりました。講座のオンライン化が始まり、参加者層が変化していた頃だったので、私が団体活動の発信を強化したところ、他のメンバーも一緒にしてくれたんです。普段は会えないいろいろな職種の人と出会い、議論することが魅力的で。視野が広がり、必要だと思うことに対して行動を起こす自信につながりました。

石井さんは子連れMBAに参加する前、自身の不育症治療の体験からコミュニティを立ち上げましたが、運営につまずいてしまったそう。そのため、「辛い経験をした人が多いのに話題にあげづらいことを、なんとかポジティブに変換できないか…」という思いも抱えていました。

石井さん 一度失敗して動き出した今だからわかるんですが。何かを始めるとき、ひとりでやるって限界があって。もうひとりいたらなんとかなるんです。でも、最初の「もうひとり」を見つけるのが本当に難しい。子連れMBAは、「もうひとり」を見つける場としてよくできていて。学ぶ・行動する・自分を知るのバランスを取りながら、仲間と一緒に活動できるのが強みだと思います。

石井さんは今、子連れMBAの会員だけが参加できるコミュニティ「チャレンジコミュニティ」で「もうひとり」を見つけ、運営メンバーの経験をいかしながら、仲間とのつながりの中で活動を加速させています。

石井さん ボードゲームで若い世代が妊娠・出産・子育てと仕事の両立を疑似体験し、制度や支援策を知る機会にしたい」とプレゼンすると、多くの仲間が共感してくれました。今はチームを結成し、外部の人も交えながらボードゲームづくりを進めています。

ボードゲーム作りはチームで進めています。今後はクラウドファンディングも予定しているそう。

子連れMBAの参加者には、石井さんのように自身の活動を広げたり、復職後に社内風土や制度を変えるためのコミュニティを立ち上げたりと「一歩踏み出す」人がほとんどだといいます。

日本の育休制度は制度としては整っていても、育休中や復職後にキャリアへの不安を感じる人が少なくありません。ブランクへの不安や、時短勤務・子育て中だからと負荷がある仕事を任されずキャリアアップをあきらめるなど、育児と仕事を両立しようとすると、制度でカバーしきれないハードルにぶつかることもあります。

そんなときに子連れMBAの活動を通して、異業種や異なる価値観の仲間と出会い・学び・行動する経験は、一歩踏み出すための自信につながっているようです。

2021年、子連れMBAは5月20日を子連れ(520)の日として、日本記念日協会に登録し、記念にパネルディスカッションイベントを開催しました。決して子連れを主張したい日ではなく、自分の子育て経験から学ぶ「お互いさま」の気持ちをきっかけに、多様性を認めあう社会になっていけば、という思いが込められています。

子育てで得た視点を、社会に還元しよう

口コミで参加者を増やしていき、累計参加者は3,000人を超えました。団体の意義を再定義し、新たなスタートを切った子連れMBAのこれからについて尋ねました。

赤坂さん 団体の意義や活動メソッドが固まり、ようやく、みんながやりたいことに挑戦できる土壌が整いました。子育てで得た視点で、どんな小さなことでもいい、これまでの社会の当たり前を変えていける人をどんどん生み出したいです。

意思決定権を持つ管理職となって組織を変えていくのも素晴らしいですが、みんながみんな管理職や昇進を目指さなくていいとも思っています。転職しても、起業してもいい。会社に勤めながら別のキャリアを同時に追求するパラレルキャリアでもいい。

子育て世代の一人ひとりが自分の価値観に正直に行動を起こし、自分らしいライフキャリアをつくることで、みんなが幸せになるのではないか、世界でも圧倒的にリーダーポジションの女性が少ない日本の現状を変えていけるのではないかと思います。

石井さん 今までほぼ100%口コミでご縁があった方が参加してくれている活動なので、これからはもっといろいろな人に知ってもらえれば。何かを始めたいとき、最初の「もうひとり」の仲間を見つける場所として広がっていけばいいなと思います。

これまで、育休中の男性2名が運営メンバーに加わったそう。子育てを通して生まれる悩みや視点は、立場や状況で変わるもの。育休中よりも復職後に悩みが深くなることも多く、子連れMBAでは女性・男性・育休中・復職後問わず、多様な人がつながれる場をつくり出しています。

子どもと一緒だからこそ、自分らしく働き、自分らしく生きる。

育休中の不安や、子育て中のモヤモヤ、一歩踏み出したい気持ち。その受け皿として、学び・つながり・挑戦する場をつくる子連れMBAは、学びの場であり、自分らしく行動したい人の背中を押す場でもあると感じました。

「子どもが生まれると自分のことは後回しになる」とよく言いますが、私もそのひとり。食べるものも休日の過ごし方も働き方も、“子ども”を中心に考え、なんとなくある世の中のルールに合わせようとしていました。

だけど、“子どもと一緒だからこそ”得られた視点で、今あるルールを疑い、動いていく方が、きっと自由で楽しい未来につながるように思います。知識を身につけたり、仲間を探したり、自分を知ろうとしたり。誰かのためでなく「自分がしたいこと」を始点に踏み出す一歩が、周囲の環境を変え、よりよい社会につながっていくのだと感じました。

モヤモヤしたり、不安を感じているときは、きっとチャンス。毎日自分がしたいことに100%の力で向かっていく子どもの隣で、あなたも一歩踏みだしてみませんか。

(Text: 佐伯桂子)