「“どんな場所でも生きる力”を、地方で身につけたい」。
そう思っている方に、ぜひ知ってほしい求人が始まりました。
それが、福岡県築上町の地域おこし協力隊の募集。
もしかしたら、「築上町」という名前を聞いたことがない方もいるかもしれません。でも、このまちには、身のまわりにあるものを使いながら仕事や暮らしをつくっていくことができる、“どんな場所でも生きる力”を持つ人たちがたくさんいるのです。
そんな築上町で活動する地域おこし協力隊は、3年間の任期のうち1年目に20以上の受け入れ先でさまざまな仕事を体験したあと、2年目以降は自らが地域でやってみたい取り組みを見つけ、活動していくことになります。
3年が終わるころには、どんな地域でも生活していけるような力が身についているかも? そんなユニークな「体験型地域おこし協力隊」の募集について、ご紹介します。
“どんな場所でも生きる力”がある人がたくさんいるまち
築上町は、福岡県東部に位置する人口約1万8千人の町。英彦山、一ノ岳、犬ヶ岳、求菩提山、国見山などの山々を水源とする河川が平野を流れて周防灘に注ぐ、自然ゆたかな土地にあります。
こうした自然をいかして、アサリや牡蠣などの漁業や、スイートコーンやいちごなどの農業がおこなわれています。
また、まちには航空自衛隊築城基地があり、毎年秋に開催される「航空祭」の際には全国から多くの方が訪れるそう。さらに、「赤幡神楽」や「寒田神楽」など7つの神楽が継承されている、伝統文化が残るまちという顔も持っています。
2021年6月に新庁舎がオープンしたという築上町役場で、まちづくり振興課の工藤順子(くどう・じゅんこ)さんと吉元良太(よしもと・りょうた)さんが迎えてくれました。
さっそくお二人に、今回の募集について聞いてみることに。地域おこし協力隊の3年の任期のうち、最初の1年は地域の方々のもとで仕事を体験をするそうですが、なぜそんな企画を?
工藤さん 築上町って、“どんな場所でも生きる力”がある人がたくさんいるんですよ。違う言葉でいえば、身のまわりにあるものを使って、豊かに働き、暮らしている人が多いんです。私は築上町って、「リアル『どうぶつの森』」だなぁって思ってるんですけど(笑)
『どうぶつの森』といえば、動物たちが暮らす村に住み、まわりの住人とコミュニケーションをとりながら暮らしをつくっていく、あの人気ゲーム。あの世界観に近い環境が、築上町にあるのでしょうか?
吉元さん そうですね。みなさん、身近にあるものでなんでもつくってしまんです。畑で野菜をつくったり、味噌づくりをしたり、自分の家に飾るお花を山でとってきたり。
あとはこの前、地域の人が企画して、子どもたちを集めてヤマメのつかみ取りイベントをしたんですけど、そのときも重機で土を掘って池をつくるところからやってましたからね(笑)そういうことをできちゃう人が多いんです。
なるほど、“どんな場所でも生きる力”があるというのは、お金を払うことによってモノやサービスを得る「消費者」としての生き方ではなく、自ら仕事や暮らしをつくるような生き方を実践している、ということなのかもしれない。
工藤さん そう思います。ほんと、築上町の人たちって、災害が起きても自分たちでなんとかする力が備わっているんじゃないか、と思いますね。
まちでの仕事や暮らしの体験を通して、“どんな場所でも生きる力”を身につける
そんな築上町が募集する地域おこし協力隊。まず1年目は、築上町で働き、暮らす人たちのもとで仕事を体験します。およそ20にものぼる現場で順番に体験していき、それらを通して得たことを、役場などにはられる壁新聞で地域内向けに、さらにSNSなどを通じて地域外向けに発信していきます。
さまざまな仕事を体験できるのは、大きな会社でいえばジョブローテーションのようなもの。数々の体験をするなかで、自分に合った仕事や暮らしを見つけていくことができるはずです。そして、2年目以降は1年目の体験を通して、「地域と一緒に、こんな仕事や暮らしをしてみたい」というものを見つけ、かたちにしていきます。
3年の任期が終わる頃には、「身近にあるもので暮らしをつくる力」や「地域の人々とのコミュニケーション力」、「地域で仕事をつくる力」など、どの地域でもいかせる“どんな場所でも生きる力”が身についているはず。
しかし、どうして築上町では、地域おこし協力隊を募集することにしたのでしょう。他の地域で見られるような、「この地域課題を解決してほしい」という、ミッション型の募集ではないようですが。
工藤さん 築上町も多くの自治体と同じように、少子高齢化が進んでいます。地域がこれから持続していくためには、移住する方や訪れる方が増えることが欠かせません。
でも、今はあまり地域の人々と、地域外の人々との接点がなくて。築上町にはこれまで話したような“どんな場所でも生きる力”がある素敵な人がたくさんいるんですが、その魅力を本人達も、地域の外の人達も気づいていないんです。それってすごくもったいないな、と。
そこで鍵になるのが、地域おこし協力隊の存在です。
吉元さん 協力隊の方が、築上町の人々の仕事や暮らしを体感し、発信したら、「自分たちが当たり前にやっていることが、実はすごいことなのか」と地域の人々が気づいて、地域全体が外に向けて開くきっかけになると思っているんですよね。
協力隊にとっては、“どんな場所でも生きる力”が身につくきっかけになる。地域の人々にとっては、「当たり前だけど、実はすごいこと」に気づくきっかけになる–。協力隊の任期がそんな3年間になることを、工藤さんや吉元さんは期待しているようです。
では、どんな方を求めているのでしょう。
工藤さん シンプルですけど、「ありがとう」や「ごめんなさい」がちゃんと言える方ですね。やっぱり地域の方々と信頼関係を築くために、コミュニケーション力は大事ですから。
吉元さん あとは、とにかく築上町での仕事や暮らしを楽しんでもらえたらいいな。楽しそうなところに人は集まりますからね。
そうしたコミュニケーション力や、仕事や暮らしを楽しむ力に加えて、ミッションが明確に定まっているわけではないので、さまざまなことにチャレンジする好奇心や柔軟性と、自らのキャリアについて考える力があると、より有意義な3年間をすごすことができそうです。
地域の素材をいかしたおもてなしを体験する
実際に地域おこし協力隊になったら、どんな人たちのもとで体験ができるのか。その例を見てみましょう。
まず訪れたのは、「古民家食庵 伝法寺庄」。4百年間にもわたって築上町をおさめた豊前宇都宮氏の家臣の邸宅「旧竹内邸」を改修して、2017年3月10日にオープンした食事処です。
地元の主婦たちが、地域でとれる山菜や米など旬の食材をふんだんに使った家庭料理を提供しています。工藤さんや吉元さんいわく「どの料理も美味しいだけじゃなくボリュームがあって、食べ応えがありますよ」とのこと。
「古民家食庵 伝法寺庄」を運営するのは、地元の地域おこし団体「文殊会」のメンバーたち。その中心である青山艶子(あおやま・つやこ)さんは、立ち上げの経緯を次のように語ります。
青山さん 私たちはもともと農家で、商売をしたことなんてなかったんです。でも、「この古民家をつかってなにかできんか」という話をいただいて、やるなら地元の野菜をつかって郷土料理を出したらええんじゃないか、ということではじめました。
青山さんも、まさに“どんな場所でも生きる力”がある人。例えば伝法寺庄に飾られている花は、一度もどこかで買ってきたことがないそうです。
「山にいってとってきてるんですよ。私らは、お出しする食材も、お花も、ここにあるものを使っておもてなししとるんです」と青山さん。そんなおもてなしを求めて、伝法寺庄には全国からお客さんが訪れています。
そんな伝法寺庄では、協力隊になる方は郷土料理をつくるのはもちろん、接客や料理教室などのイベントの運営を通して、地域ならではのおもてなしの技術や考え方を体感することができそうです。
青山さん せっかく協力隊の方に体験してもらうなら、私らが日々体験してる「出会いの楽しみ」を知ってほしいですね。
伝法寺庄はただ食事をする場所じゃなくて、この土地の食材や景色や歴史に触れてもらって、喜んでもらう場所。お客さんに「来てよかった」って言ってもらえることが、私らにとってなにより嬉しいことなんです。その喜びを体験してもらえたらいいですね。
アウトドアを通じて地域の魅力をつたえる体験
もうひとつの体験の場所が、「牧の原(まきのはる)キャンプ場」。耶馬日田英彦山国定公園内に位置し、4名、6名、10名用のバンガローや、最大50名まで収容できる大型の山小屋、五右衛門風呂やピザづくりができる石釜があり、四季折々の景色のもとアウトドアを楽しむことができます。また、2022年5月にはテントサイトもオープンする予定だそう。
併設する寒田生産物直売所「まこちの里」では、寒田コンニャクなどの地元の特産品や、バーベキューに必要な食材を販売。2021年7月7日からは「マコチキッチン」がオープンし、うどんやそば、パスタやカレーなどのフードのほか、自家製の梅を使ったドリンクなども提供しています。
運営するのは、まこちの里運営委員会のみなさん。代表である吉川洋子(よしかわ・ようこ)さんと、娘である綾(あや)さん、大塚久美子(おおつか・くみこ)さんが話を聞かせてくれました。
洋子さん まこちの里は、ずっと前から地域の人から愛される直売所でしたが、4〜5年前にはお客さんが減って、当時の会長さんが「もう潰そうか」って話をしていたんですよ。
私も当時から関わっていたんですけど、「もったいない!」と思って。「給料いらないから、私にやらせてほしい!」って言って、運営するようになったんです。
このまこちの里とキャンプ場は、地域にとっても大事な場所。ここを盛り上げることを通して、地域活性化を目指してます。
そんなキャンプ場の運営のやりがいは、どういうところなのでしょうか。
綾さん 自分自身もアウトドアができるようになるのが楽しいですね。
私も前はテントなんて立てたことなくて。でもここで働きながら、火入れとかテントの立て方をお客さんに教えるようになったら、すっかりハマっちゃったんです(笑)アウトドアのスキルがあると、なにか災害があった時にも役立ちますしね。
あとは、なにか工夫をして、お客さんが喜んでくれるのが嬉しいですね。例えばこれまでは夏と秋にお客さんが多かったんですけど、春にもお客さんに来てもらえるようにミモザを植えてみました。そんなふうに工夫してみると、「変わったね」とお客さんが喜んでくれる。そういう声を聞くと嬉しいですね。
今回協力隊で着任する方は、牧の原キャンプ場での体験を通して、自分自身のアウトドアのスキルや、それを教えるスキル、またお客さんに喜んでもらうための企画を考えるスキルを身につけることができそうです。
地域の人々が、協力隊のことを気にかけてくれる
地域おこし協力隊になった方は、伝法寺庄や牧の原キャンプ場など、20以上の仕事の体験をしながら地域でやりたいことを見つけ、3年間で“どんな場所でも生きる力”を身につけていくことになります。
気になるのは、実際に築上町の地域おこし協力隊になったら、どんな暮らしが待っているのか。そこで、地域おこし協力隊として築上町で活動する松村一成さん(まつむら・いっせい)さんに話を聞いてみることにしました。
松村さんは、現在地域おこし協力隊の3年目。椎田漁港を拠点に、特産品の「椎田あさり」や「豊前海一粒かき」の養殖など、水産振興に取り組んでいます。
松村さん もともと、漁師として独立することを目指していたんです。他の地域でも仕事を探したんですけど、独立を前提に働かせてもらえるところってなかなかなくて。漁師として独立するためには、漁協で組合員として認めてもらうことが必要だったりするので、外の地域から来た人間にはなかなかハードルが高いんですよね。
でも、たまたま見つけた築上町の協力隊の募集要項には「漁師として、任期後に独立を視野に活動する人を募集」と書いてあったので、「ここだ!」と思って応募しました。
大分県別府市出身の松村さん。実はもともとアマチュア力士として活躍しており、高校時代には個人戦で全国ベスト8入りするほどの実績の持ち主です。埼玉の大学を卒業した後も大分県内の高校で臨時教諭などとして働く傍ら、相撲大会に出場していました。
松村さん でもある時、右膝に大怪我をして、半年入院してしまったんです。もう思うように相撲はできないし、これからなにをしていこうかなと、悩んでいたんですよね。
そのとき思い浮かんだのが、漁師になるということでした。幼い頃から釣りが好きで、心のどこかで「漁業を仕事にするのって、いいなぁ」と、ずっと思っていたんです。それで調べたら、築上町の協力隊募集を見つけて、とりあえず応募したんです。
面接で訪れるまで、築上町に来たことはなかったという松村さんですが、築上町の第一印象はどんなものだったのでしょう。
松村さん 都会とくらべたら、お店などはすくないですよね。でも、いざ協力隊になって住んでみたら、何も苦労しなかったです。博多には車でも電車でも1時間半、北九州には1時間、北九州空港も車で30分くらいでつきます。町内には高速道路のインターが3つもありますし、交通の便がいいですからね。
移住してから松村さんがなにより驚いたのは、築上町の人の優しさだったとか。
松村さん 本当にみなさん、協力隊の僕によくしてくれるんですよ。漁師さんたちは、よそものの僕にイチから漁業のことを教えてくれて、家族ぐるみの付き合いをしてくれてます。あとは地域の方も、「なにか困ったことはないか?」と、ずっと気にかけてくれて。
役場の方も、すごく親身になってくれますね。どこの課の方も「どう? 魚とれてる?」って声をかけてくれる。だから気軽に役場に行けるんです。他の地域で協力隊をやってる人にこのことを言うと、「いい地域で協力隊になったなぁ」ってうらやましがられますよ(笑)
こうした関係性を築けているのは、松村さんの人柄によるところもあるでしょう。しかし、工藤さんや吉元さんが「このまちの人は、おもてなしが好きなんですよ」と言うように、他地域から来た人に対して寛容な文化もたしかにあるようです。
では、なにか移住前とギャップを感じることはあったのでしょうか。
松村さん そうだな…あんまりないけど、強いていうならご飯を食べるところが少なかったり、スーパーも町内に一軒しかないことは、都会での暮らしに慣れた人からするとギャップを感じるかもしれません。でも正直、食材はたくさんもらうので、あんまり苦労したことはないんですよね(笑)
飲食店やスーパーがすくないということは、裏を返せば、自分たちで食べるものをつくっているということ。たとえ移住した当初は戸惑ったとしても、築上町で“どんな場所でも生きる力”を身につけていくうちに、モノやサービスを買うということをせずに暮らしていく生き方が自然なものになっているかもしれません。
“どんな場所でも生きる力”を身につける、3年間の冒険
ビジネススキルを身につけるなら、都会の企業につとめた方がいいでしょう。でも、身のまわりにある資源をみつけ、それを工夫しながらいかし、関係性を大切にしながら暮らしていく…そんな“どんな場所でも生きる力”を地方で身につけたいと思っている方にとっては、築上町の地域おこし協力隊の3年間はきっといい機会になるのでは。
「こんな仕事がしたい」と、明確に決まっていなくても大丈夫。築上町の人々と働き、暮らすなかで、自分自身の生き方の輪郭が、だんだんと見えてくるはずです。そんな3年間の冒険に、飛び込んでみませんか?
– INFORMATION –
今回の募集について、8/23(月)にオンライン説明会を予定しています。募集に興味を持った方は、ぜひご参加ください! また、動画としてアーカイブすることで、応募を検討しているけれど当日参加できなかった!という方にも後日共有していく予定です。アーカイブ視聴は「グリーンズ求人オンラインコミュニティ」にて公開いたします。ご希望の方はこちらのページをご確認のうえ、ご参加ください。