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グリーンズの学校は、みんなの”待ち合わせ場所”。「コミュニティ・オーガナイジングの教室」講師、笠井成樹さんインタビュー

どうしてこんな仕組みになってしまっているんだろう。こんなルール、変わったらいいのに。 そんな風に社会や身近な暮らしの中で、心に引っかかることはありませんか。

法律を変えるような大きなことから、公園の使用ルールを変えるようなことまで、コミュニティ・オーガナイジング(CO)は、さまざまな変化を起こすことが可能です。COは、市民が立ち上がり、コミュニティの力で社会を変えていくための手法。まだ日本ではなじみが薄いかもしれません。

グリーンズの学校では、2016年からCOのクラスを開講してきました。その講師を務めてきたのが、NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン副代表の笠井成樹さんです。「地方を変えようという人にCOを伝えたい」と意気込む笠井さんに、COとの出会い、そしていまの興味・関心をうかがいました。

聞き手は、「グリーンズの学校」学長、兼松佳宏(YOSH)が務めます。

笠井成樹(かさい・しげき)
NPO法人ソーシャルプロデューサーズ代表/NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン副代表。私は「人の可能性を広げる」ためリベルルアーツを探求。歴史、哲学、音楽、美術、物理学、生物学、宗教、心理学、経済学、文学を愛する。

違和感でいっぱいの会社員が、
たくさんの出会いを経て希望を見出した

YOSH まず改めて、しげしげ(笠井さん)は何者なのか、みたいなことからお願いしていいですか?

笠井さん その質問はいつも「なんて答えようかな」と思うんですよね。講義をするにあたっては、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ)の副代表理事。コミュニティ・オーガナイジング(CO)というメソッドを学んで、専門家として教えています。

YOSH そもそもCOとどうやって出会ったの?

笠井さん もともとは、WEBコンサルをしていた会社員だったんですけど、会社って予算があって、この予算を達成しなさいと言われるものですよね。常にチェックされるのは、「どうやってこれを達成するのか」というhowの部分だけ。

僕の感情や思いや悩みは聞かれない。そういうコミュニケーションにすごく違和感を感じて、「この社会は本当にまっとうなのかな」とか、「これでいいのかな」みたいなことを考えるようになって。こういうコミュニケーションは絶対したくないと思って、違う方法を探し始めたんです。

それで、2012年から毎月5万円を自己投資に使うことに決めて、セミナーやワークショップ、講座に参加したり、本を読んだりし始めました。実はYOSHとの出会いもそうだし、いろんな人と出会いました。そうやって、自分が思っていることと近しい考えの人はいるし、そういう人はいま見ている社会の外にいるんだとわかって、どんどん希望が湧いてきたんです。

そういうときに、すずかん先生(※)が主催している社会創発塾というスクールに行ったら、プログラムの中にCOが入ってたんです。それが2014年のことだったんですが、感情をちゃんと伝えながら、人を奮い立たせる方法があるんだと知って、「これだ!」と。

※すずかん先生=鈴木寛(すずき・かん)通産省勤務の傍ら、大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰するなど、人材育成に励む。SFCなど名だたる大学で教鞭をとりながら、一般社団法人社会創発塾を創立し、社会起業家の育成に力を入れるなど、元官僚、政治家の枠にとらわれない活動を継続

COを開発したハーバード大学ケネディスクールのマーシャル・ガンツ博士

COの大事なエッセンスである「ストーリーテリング」

実際にストーリーテリングという形で人の話を聞くと、本当に感情が揺れるんです。初めての講義で、モデルのジェームス・クロフトという同性愛者の人がストーリーを話す映像を見て、僕は泣いてしまいました。考えてみると、資本主義者ばかりの人の中で違和感があって、孤独を感じてたんですね。それが彼の孤独とつながって共感したんです。

そして、人の感情を大切にしながら、リーダーやリーダーシップを育んで、社会を変えていくことを伝えていきたいと思いました。まだCOJが創立して数ヶ月目ぐらいのときで、自分が関われる余地もあったし、それからもう7年やり続けています。

YOSH その後、COJの活動のほかに自分でNPOも設立していますが、会社員を辞めたのはどういう流れだったんですか?

笠井さん すずかんのスクールに入ったとき、ほぼ初めましての状態で二人で会って、僕の話を聞いてもらったんですね。するとその場で急に「君、僕の助手やらないか」って誘っていただいて。それが人生で一番ぐらいの衝撃でした。

その短時間で僕という人間を見抜いて、そこまで意思決定できる人が、政治家や官僚を経験してきた人間でいるんだということが、僕にとっては天と地がひっくり返るぐらいの出来事で。だから、もっとこの世界を信じられるかもしれない、この世界にもきっと希望があると思えたんです。

それからは、すずかん先生の授業に助手として出るために、毎週授業のある木曜日の午後に有休を使いました。まわりからはもう明らかにあやしいんですよね。それぐらい必死にすずかん 先生に食らいついていました。そうしてしばらくしてから、彼から「そろそろじゃない?」って。

YOSH 会社を辞めるのが、ってことですね(笑)

笠井さん はい。すずかんみたいに、教えていくような人になったほうがいいんじゃないかと 。僕はずっと会社員をすると思ってたので、全く予想だにしてなかったですけど、「何か事業計画を考えます」と。

それで生まれたのが、NPO法人ソーシャルプロデューサーズ(※)という団体で、自分が本当にやりたいコトに気付き、やりがいがある日々を歩み始めるためのスクールを始めました。いまで5年目くらいですかね。

(※)ソーシャルプロデューサーズ: 社会変化や問題に対応できる「問題発見力」「問題設定力」を備えた新しい社会的価値を創っていく人を「ソーシャルプロデューサー」と名づけ、そのような人材育成を通して現代社会が抱える問題解決に寄与することを目指すNPO。笠井さんが理事長を務める

講師として活躍する笠井さん

YOSH それは、どんなカリキュラムなんですか?

笠井さん 基本的にはリベラルアーツを大切にしています。最近だとアート思考、デザイン思考みたいなこととか、歴史とか。いかに学ぶことが楽しいのかを体験してもらうことを一番重要視してます。

たとえばアート思考を教えるときに、最初にマルセル・デュシャンの『泉』という作品を見せます。世界的に評価された作品だけれども、小便器を横に倒してサインしただけのもの。それがなぜかピカソよりも評価されてしまう、これは一体なんでしょうかを考えてもらうんです。アートには答えがないので、皆さんが考えたものが全部正解なんですよっていうことを伝えて、みんなにモヤモヤしてもらう。

現代教育は、問題を出したら答えを与える、そういう仕組みでできちゃっていて、常に正解があることに慣れてますよね。正解があるはずとか、正解がわからないとすごく苦痛とか。そうじゃなくて、モヤモヤしたり、何なんだろうこれはって考えること自体が楽しいということを体験してほしいんです。

そうしているうちに、いろんな人と話して、いろんな視点がいっぱい出てきて、「あ、こうやって見るんだ」みたいな視点の交換がものすごく自由に行われるんです。すると、人と一緒に学ぶことの意味や効果をすごく短い時間で実体験できるんですよね。しかも誰の考えも全て間違いじゃない、自分の考えも一つの視点なんだというところに立てる。これを僕は「頭の柔軟体操」と呼んでいて、そういう経験に重きを置いたリベラルアーツを教えています。

グリーンズの学校ならではの出会いをさらに地方へと広げたい

YOSH そんなしげしげが、グリーンズの学校でCOのクラスをすることになったのは、どういう経緯だったんですか。

笠井さん COJのワークショップには、NPO系の人たちをお誘いする枠があって、そこに正ちゃん(植原正太郎)をお誘いしたんですよ。そしたら「めちゃめちゃよい」と言ってくれて、これはぜひグリーンズでもやりたいと。そこから始まりました。

これまでのクラスの様子

YOSH グリーンズでCOを教えて嬉しかったこととか、印象に残っていることはありますか?

笠井さん 例えば、NHKの職員の人で「クラスを受けて取材の方法が変わった」と言ってくれた人がいました。ストーリーを聞き出すことがすごく大事なんだと気づいてくださったんですよね。震災後の福島など、悲しみやいろんな感情をたくさん持ってる人たちに取材するので、そういう人たちと向き合う方法がわかるようになったっていうふうにおっしゃっていたのが印象的でしたね。

また、障害者の職業訓練のための施設で働くスタッフの方は、COのコーチングや関係構築の方法を使って、その人のことがよりわかるようになったし、どういう職業に就けばいいのかわかるようになってきたとおっしゃっていました。

YOSH 本質的な変化ですよね、そういうのって。

笠井さん そうですね。まさにビジネス的な側面じゃない、感情や心とか人間性みたいなところにフォーカスした変化だなって思います。

YOSH 再びグリーンズの学校で始まるCOのクラスは、「地域の未来をつくる」というキーワードが入っていますが、それはどういう思いからですか?

笠井さん それには2つあります。1つめはオンラインでの開催なので、場所という制限で参加できなかった人とも会えるからです。それで、地方の人の力になれることに特化してみたいと思いました。

もう一つは、社会で起きている事例や活動を知ったり、本を読んだりすると、いまは「都市じゃないな」という、僕の中で確信めいたものがあるからです。何か変化を起こすには地方のほうが可能性が非常に高いんじゃないかなと。

コロナはあるけれども、人と人が顔を合わせないまま何かが進むことは基本的にありえない。地方は、人と人が顔を合わせる必然があるというか、それが前提になっていたりもしますよね。意思決定プロセスも、都市だと変化させにくいし、利権も強くなっていく。もちろん地方も場所によっては、ザ・利権みたいなのもあるんですけど、それを越えられる場所が都市より見つけやすいんじゃないかな。いまは活性化を望む地方はたくさんあるので、変化を受け入れやすい土壌が整ってるんだろうなとも思うから、その中で変化を起こしたい人たちの力になりたいと思っています。

YOSH こうして、一緒にクラスを準備しているわけですが、グリーンズの学校で授業をする意義やメリットはなんだと思いますか?

ちなみに、僕にとってグリーンズの学校は、「こんなのもあるんだ」という感じで、これからの時代に必要な学びの場がラインナップされている、人通りの多い商店街でありたいと思っているんです。だから、すでに学びの場をつくってる人にはブランチを出店してみてほしいし、学びの場づくりをしたことがない人には、僕らが相談に乗って一緒にお試しのポップアップショップをつくったりしたい。

笠井さん なるほど。僕にとっては”待ち合わせ場所”のような気がしていますね。”いかしあうつながり”という思想や価値観が共有されている世界で、そこにいる人たちがみんな待ち合わせをしている。そこで出会える人達はすごく魅力的だと思うから、また交流したり、交差したりしたい。

YOSH なるほど、待ち合わせ場所。

笠井さん 僕たちが団体として主催しているワークショップとは、どこか参加者の層が違うんです。COJ主催の方は、純粋に興味があるから学びに来ましたという感じで、グリーンズの学校では、すでに価値観を共感している状態で来てくれる感じがします。

YOSH なるほど、そもそもグリーンズを読んでいただいている時点で、いろんなことについて思いを巡らせているから、かもしれませんね。やりやすさだけじゃない手ごたえというか、共鳴する感じというか。たぶん単純に興味があるだけだと、先生と生徒みたいな縦の関係だけになりそうなのが、グリーンズの学校だと受講生も講師も一緒に探究しているみたいな、そういうのがあるのかな。

笠井さん さらに、グリーンズの学校のCOのクラスは全6回とじっくりやれるから、コミュニティになりやすいというのもあると思います。

これまでのクラスの様子

未来の子どもたちが嫉妬するほどの智の体験を

YOSH 最後に、グリーンズの学校がこうなったらいいな、という話もできたらと思っています。僕がいま考えているのは”講師コミュニティ”をつくること。そこで、大学でいうファカルティ・デベロップメントのように、学びの場のつくり方をそのものをみんなで学び合えるようにして、講師の皆さんにとっても、グリーンズの学校に関わっているとワクワクするみたいな、そういう状況をつくっていきたいと思っているんです。

笠井さん 講師の人の学び合いみたいなのはいいですね。『武士道 』の新渡戸稲造 は、谷崎潤一郎とか柳田國男を呼んで自分のサロンをつくってるんです。正岡子規も子規庵に夏目漱石を呼んだりとか。超一流同士って、グルになってるんです(笑) パリでも、ピカソとかデュシャンが集うサロンがあって、そこから岡本太郎とかが出る。一流達は一流のネットワークに入って、そこで対話してきた歴史がある。そりゃ智の巨人になっていくわって思うんですけど。

今はなかなか智に触れる歓びみたいなものを感じにくくなっちゃっていますよね。特に資本主義が過ぎてるから、何かを学んだところで「それ、お金になるの?」 みたいな捉え方をしがちで、興ざめしちゃう。だから、今こそ、講師陣のサロン的なものがあったらいいなと思いました。

YOSH うん、それはピンと来ますね。それぞれが深めていることをわかりやすくしようとしすぎず、そのまま出す。それぞれ誤解がありながらも揉んでいくと、新しい気付きが得られて、それを次につながっていく。僕でいうと「空海の真言密教の金剛界曼荼羅の十六大菩薩が」みたいなところから始まって、よくわからないけど面白そうみたいな、完全に内容がぶっ飛んでていいような場所(笑)

笠井さん そうそう。飛びまくる智の体験みたいのが、みんなの体験としてもっとあったほうがいいんだろうなって思います。

YOSH 飛びまくる智の体験、やりましょう。グリーンズの学校はいま、COとは別に、「コミュニティの教室」とか「場づくりの教室」とか、似たようなテーマのものがあるけれど、当たり前だけど、それぞれ大切にしていることが違う。その違いをお互いにガチで話す、みたいなことができたらいいなあ。

笠井さん それ、めっちゃおもしろい(笑)

のちにユネスコになる世界新教育連盟では、ユングとかアドラーとかモンテッソーリとか、タゴールとかジョン・デューイとか、教育に関連するような人達が集まって会議が行われていたんですよね。そのメンツの名前を聞いただけで、もう嫉妬するんですよね(笑) めっちゃ会いたいし、そのメンバーの対話を一言一句聞きたいぞみたいな。悔しいというか、嫉妬なんですよね(笑)

YOSH 時空を超えた嫉妬(笑)

笠井さん そうそう。そういうのをまさにできたらいいな。今日もこうやってYOSHと話す場をもらえたからこそたどり着けた気づきですね。

YOSH 僕も、京都精華大学からグリーンズに戻ってきて、外に出て留学できた5年間がちょうど終わるんだけど、やっぱりグリーンズはそういうワクワクすることをいろいろ試せる場なんだよなあって改めて思いました。この場所の力、ここにいる意味も含めて、いろんなものを受け取った気がします。今日はありがとうございました。

(インタビューここまで)

 

いま住んでいる地域をさらに豊かにしたい、地域に住む人たちと力を合わせて新しい動きをつくりたい。そう思ってはいるものの、なかなか周りの協力が得られない、という思いをしている方も多いのではないでしょうか。

「地域の未来をつくるコミュニティ・オーガナイジングの教室」は、コミュニティの力で社会の仕組みを変えていく手法=コミュニティ・オーガナイジングの基本を学びながら、そこで得た学びを地域づくりにいかしていく実践的なクラスです。

– INFORMATION –

地域の未来をつくる
コミュニティ・オーガナイジングの教室
第9期2021年9月18日開講