「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」というコンセプトで、仲間とともに「Backpackers’Japan(バックパッカーズジャパン、以下BJ)」を立ち上げ、数多くの人気ホステルを運営してきた本間貴裕さん。2020年7月、BJの代表を退任し、新たに「人と自然の共生」をテーマにしたビジネスをスタートすることを発表しました。
今回は、そんな本間さんと以前から親しい付き合いがある、グリーンズのビジネスアドバイザー・小野裕之との対談をお届けします。新ビジネスを立ち上げた経緯にはじまり、自然環境保護と経済の両立についての話にまで視野を広げ、ざっくばらんとした雰囲気ながらお互いの深い洞察と鋭い視点が際立つ内容となりました。
長文ではありますが、ぜひ最後まで存分にお楽しみください。
株式会社SANUファウンダー・ブランドディレクター
福島県会津若松市出身。 2010年「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」を理念に掲げ、ゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業。同年、東京・入谷に古民家を改装した「ゲストハウスtoco.」をオープン。その後仲間とともに「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」「K5」など6軒の宿をプロデュース、運営する。2019年代表を退任、新たに人と自然が共生する社会の実現を目指して作られたライフスタイルブランドとして福島弦さんと共にSANUを設立。サーフィンとスノーボードがライフワーク。
Instagram: https://www.instagram.com/hilo_homma/
Backpackers’Japan代表として駆け抜けた20代から
社会への視野を広げる30代へ
小野 本間くんには、たしかBJの創業3〜4期目の頃にも取材の打診をしましたよね。
本間さん その頃は取材を断ってたんですよね。
小野 取材を受けてる場合じゃなかった?
本間さん そう。情報として消費されて廃れてしまうのが怖くて。メディアに出ると僕らが思い描いていた空間と離れてしまうと思っていたのもあります。
小野 BJに来る人は、お客さんという立場じゃなくて、世界観を共有する仲間を求めてる感じがしますね。
本間さん 僕らはもともと、「お客さま」って言葉を使っていなくて。当時は特に「来てくれる人も含めて自分たちの一部」という考えが強くて、その人たちを大事にしたかった。
あと、取材を断っていたのは、見られ方を意識しすぎて、知らず知らずのうちに話を誇張したりウケのいいものに流れされてしまったりするのが怖かったのもあります。
でも近年、市場自体が厳しくなって、ゲストハウスも増えて流行るようになるなかで、自分たちの存在意義や信じるものを明確に発信していくことが大事なんじゃないかと思うように変化していきました。
「好きなことを好きなヤツらとやる」みたいな20代のフェーズが終わって、30代は社会にインパクトがあることや、世の中がもう少しよくなることを仕掛けようと考えていて。そうなるとやはり情報発信は大事だな、と。
最近は各宿ごとにコンセプトムービーを制作し、大切にしている世界観を表現する試みも CITAN MOVIE-“THE WAY WE WORK”
小野 認められるために必死に頑張るフェーズから、業界や社会全体のことにまで視野を広げて、「泊まることによって何を起こしたいのか?」とか、本間くんがこれから始めるSANUのような“まだない仕事をつくるための発信”をはじめたということですよね。
本間さん そうですね。
今取り組みたいのは
「人と自然との関係をもっと近づける」こと
小野 BJを創業した本間くんが卒業することに対して、周囲はどんな反応でしたか?
本間さん 止められたり反対されたりすると思いながら仲間に話したんですけど、「そうだよね、もっと早く言い出すかと思ってた」とか言われて。たぶん同じ事象が他の会社で起こるよりも、めちゃくちゃスムーズに進んだという感じですね。
自分と役員の関係性は今すごく健全だと思ってるんです。自分も新しいSANUの創業者だし、他の仲間も各会社の代表として対等な立場で話や情報交換ができるのは、むしろ心地がいい状況ですね。
小野 はじまったものを同じやり方で繰り返していくと、他のこともやるのは結構難しいですよね。
本間さん 会社自体のリノベーションを何回も重ねていくよりも、今回は完全に新築でつくろうという感じですね。自分の個人的な人生のステージや欲求にあわせてBJの文化を変えたら、今いるスタッフは合わなくなる。自分の都合で組織を変えるより自分が出ちゃったほうがいいよね、という思いもありました。
やりたいことは明確で、「あらゆる境界線を越えて人々が集える場所を」を理念に、人と人をつなぐことを生業に東京で10年やってきて、それは今でも魅力的ですけど、それだけでは足りないと感じるようになってきて。人と自然の関係性を考える分野で仕事をしたいと思うようになったんです。
本間さん 都市で生活する人間も、もっと強く自然とつながっていくほうがハッピーなんじゃないかと思うようになって、それが具体的に都市のつくり方やリゾートホテル、旅行業のあり方を変えることなのか答えは出ていない状況でしたけど、何かやりたい、と。
小野 もしかして10年後とかにまた「人とのつながりを」とか言い始めてるかも?
本間さん 人のつながりには何かのハブが必要で、それはときどきビールでもあるし、音楽、空間だったりする。そのハブを今回は自然に置くイメージ。人と自然をつなげると、そこで人と人もつながっていくはずなんですよね。だから大きく路線を変えたというよりは、人と人のつながりに自然を加えたという感じですね。
自分のしたい暮らし方をビジネスとして成立させる
小野 このコロナの状況で、観光やインバウンドという打撃も大きいマーケットでビジネスをしてきたわけですけど、新サービスをリリースする際、世界全体の変化は影響ありましたか?
本間さん SANUに関していえば、めちゃくちゃありましたね。
今の状況はもちろん大変な事態だと認識はしていますが、疾病のパンデミックは今までも多く起こっていましたし、その後旅行業が世界からなくなったかというと絶対そんなことなくて。旅行への欲求は知的探究心に基づく人の根源的なものだから、なくなることはないと思います。
本間さん ただ問題は、ダメージを受ける期間がどのくらい長くなるか。BJではビジネス戦略としてキャッシュを溜め込んで持久戦に持ち込むことができるのですが、SANUはもともとホテル事業として展開予定だったところを投資的には一度サスペンドしました。
新しく興したばかりで何もないSANUで、観光業が回復するまで待つのか、というと答えはNOで。コンセプトに沿った代替案があればホテルにこだわる必要はないと考えて「セカンドホーム」という概念のSANUを7月15日にリリースしました。
これからの時代、遠くに行く消費としての旅行ではなく、近くの自然に繰り返し行くライフスタイルがより必要とされるし、自分たちの世界観も表現できる。SANUの行き先やコンセプトは変わってないけど、コロナの影響で道筋を変えたということだと思います。
小野 今の本間くんを見ると素直な解決策だと思うのですが、20代の頃の世界中を飛び回るのが信条みたいな頃なら「気にせず行こうぜ」とか言ってるような…。
本間さん 言ってたかも!(笑)
でもね、僕は福島出身なんですが、この10年東京でやってきて「自然のなかでの新しい世界を見たい」というポジティブな感情もありつつ、人混みや都市というものにちょっと疲れたっていう思いもあって。落ち着いた馴染みのある自然に繰り返し通うことは、自分が求めているライフスタイルでもあるんです。この事業モデルにたどり着くまでにはすごく考えましたが、最終的にそこに至ったのはスムーズな流れでした。
価値観を共にする仲間と仕事をすれば、
人間関係をより深められる
小野 SANUの共同経営者の福島さんとはどうやって知り合ったんですか?
本間さん 福島弦とは、5年前にハワイで行われた友達の結婚式で初めて顔を合わせて、会って5秒後ぐらいに「一緒に仕事しようぜ」ってオファーしたんです。弦は「そもそもお前誰だよ?」みたいな状況から始まりました。
その後も数年誘い続けて、一時期は他の仕事と掛け持ちでBJの役員としても一緒にやっていて。そこから新しい会社に挑戦するとなったときに、「一緒にやるなら肩を並べて仕事したい」と言われました。対等な立場で会社を興したいという彼からのオファーだったんですよね。それもBJの代表退任を決めた理由のひとつでした。
小野 彼と最初会ったときに何がピンと来てたんですか?
本間さん なんとなく、なんですよね。どこがいいか一言でまとめるなら「人がいい」。いつもそうなんですが、カラッとして言葉がまっすぐで嘘つかない、そうした性格の仲間を見つけると一緒に仕事したいって思う。ピンとくる人はめちゃくちゃ限られてますが、福島弦はそのひとりでした。
小野 人を探して声かけするのは、本間くんの得意な仕事なのかもしれないですね。
本間さん そうですね。ビジネス交流会のような場所は全く興味がないんですけど、日常生活のなかでそういう人に出会ったらちゃんと一緒に仕事をするところまでいきたいな、という思いを強く持ってます。
小野 友人関係にとどまらず、一緒に仕事をするっていうのはどうして?
本間さん 自分のなかではその両者は一緒なんですよね。BJ創業時は「友達同士で仕事するな」って本当にたくさんの人から言われたんですけど、仕事が絡まない友人という関係性では、お互い何かあったときに必死になって助け合うとか、一緒に心から喜ぶみたいな関係性にはなり得ないと思うんです。好きなヤツと仕事したほうが絶対いいのに、という思いは今もずっとありますね。
小野 昔は仕事と遊びの垣根がすごく高くて、そこを混ぜるのは仕事ができないっていうレッテルを貼られがちだった。今はそれが逆転して、仕事だけやってないで「もうちょっと遊びの要素入れない?」みたいな。
本間さん そう思います。でも昔は「学生団体じゃないんだぞ」とか言われましたね。
自分の感情を注視し、一生懸命生きる
小野 SANUの福島さんとは今のところ会社の単位が小さいから雑務も含めてやっているということだけど、今後は今までにない業務にチャレンジしたいですか?
本間 そこは組むチームのなかで柔軟にやってみたいですね。チームによって自分の適正なポジションも変わっていくはずで、どうしたら自分が一番活きるのかは見ていきたい。それによって自分の新しい得意分野の発見ができたらすごくうれしいことなので。
小野 本間くんの立場って、ある意味ビジョンを語る「口だけ」って言われても仕方ないところまで振り切るのもありな気もするんだけど。
本間さん ただその「口だけ」が魅力的じゃなきゃダメですよね。やっぱりビジョンの先にある「光を見る」ところがないと、言い出しっぺの意味がなくなっちゃう。
小野 魅力的な発信のためのインプットや出会いはどういう行動から?
本間さん 抽象的な表現ですけど「一生懸命生きる」みたいなところしか意識してないです。本を読む数もすごく少ないし、講演会や視察もまったく行かない。能動的な情報収集をしていないです。ただ、否が応でも自然に入ってくる情報のなかで、自分が何か感じたときにスルーせずに「なんで今気持ちいいのか?」「どうしてそれが不快なのか?」という問いや理由の探索を大事にしています。
リーダーシップを発揮するために工夫して発信していくというよりは、もう少し自然に生きていくなかで「いいな」と思ったことを、ちゃんと事業として具現化して、「違うな」と思ったことを変えていく。それが日常をちゃんと一生懸命生きることだと僕は考えています。
自分のなかでは、生活のなかできちんと対峙していくことの先にデザインや事業や会社もあるんですよね。でもそのためには、やっぱり自分の日常生活のなかに気づける気持ちや時間の余裕を持っておくことが大切です。仕事仲間との出会いも、そういう余裕のなかから生まれてくるので。
小野 気づきや違和感は、アウトプットもセットで思いつくんですか?
本間さん 何かの情報が入ったときにTwitterで瞬時に気の利いた発信をするようなことは、結構苦手なんですよ。それよりはもっと概念的な「自然ともっと関わっていきたいな」みたいな感覚を、時間をかけて言葉にして、腹落ちさせて、しかも事業化させるっていうところまでもっていく。そういうアウトプットまでには5年くらいの時間はかかるんです。
小野 なるほど。じゃあ今回のテーマ以外も事業としてやるかもしれない?
本間さん 興味ある分野は、教育や組織論ですね。例えば、「友達という関係を維持しながらお互いにリスペクトしつつちゃんと意見を言えるチームってどうつくればいいか?」とか。
僕は最高のチームをつくるには子どもの頃に学校でどんな対話がなされ、どう自然を学ぶのかがすごく大事だと思っていて。教育分野はSANUを引退した次にやろうと、自分のなかで今感じている違和感はずっと温め続けていますね。
スピードとクオリティ、
どちらも妥協せず中庸を目指す東洋的な経営のあり方
小野 今本間くんは35歳、SANUは定年くらいまではやるという意識なんですね?
本間さん 事業規模として少なくとも20〜25年はやらないと、社会に対してインパクトを出せない気がするんです。物理的に空間を拡げていく事業だから、いくら急いでも限界がある。もちろんAirbnbのようなITを駆使した広がり方もあり得るんですけど、もう少し自分のなかでは空間に対して思いを込めていきたい。
そうすると例えば1年に100店舗やっても20年で2,000店舗。その数は世界規模で考えたらちょっとした点でしかない。なので、ビジョンとしては「ヒルトンくらいのものを20年でつくる」という目標で走ってます。
小野 ヒルトンって何拠点あるのかな?
本間さん わかんない(笑)(※)ヒルトングループ: 世界で最も規模が大きく最も早い成長を遂げているホスピタリティ企業のひとつで118ヵ国、世界各地に約6,100 軒のホテルやリゾートを持つ
ただ、ヒルトンのように「みんな知ってる」くらいの認知を取っていかないと人の生活様式を変えるのは難しいと思っていて。
小野 不動産も観光も、IT界隈のような急激な速さの成長を妄信している感じはありますよね。「ゆっくり成長させるのってそんなにダメですか?」っていう。
本間さん AirbnbやWeWorkの例で急激な発展の難しさも証明されましたからね。それはそれで負荷がかかる。お金をかければスピードは出せるけど、最初からあのスピードでスタートさせてしまうとどうしてもクオリティが落ちてしまうので、その2つの中庸を狙っていますね。
圧倒的なリーダーシップじゃなくて和を狙う。お互いがリスペクトしあって、破壊的拡大ではなく、ちゃんと共存的拡大をする。西洋の圧倒的なスピードと経済力重視なやり方に対して、僕らの「仲間の和」というか、東洋のよさをちゃんと出していく。そういう事業があってもいいし、そうした企業がリーダーシップを取れたら、いい世界になるんじゃないかなと思うんですよね。
小野 圧倒的なスピードで世界的シェアを取るわかりやすいアプローチと同じくらい、ゆっくり確実なアプローチが市民権を得られるといいですよね。ただ、時間がかかることはひとりの人間が生きてる間に証明されなくて、「それはただの思想で、実際は違う」と言われがちだったりもする。
本間さん それはもう西洋医学と東洋医学と同じですよね。新型コロナに関しても「免疫高めようぜ」より、「ワクチン開発しよう」っていう方がわかりやすい。でも自分としては、「世の中がよくなっていくことをどれくらい長期のスパンで考えられるか」という想像力が大事だと思っているんです。それを事業でも表現したい。
例えばSANUで関わる建築では、最終的には「建てれば建てるほど、森と海が豊かになっていく」というのを狙いたい。初期投資の額は大きくなるし建築自体も面倒くさくなったりするけど、やっぱりそのほうが大事なんですよ。向こう見ずに開発した先に、森が廃れ、海が汚れ、結果的にリゾートとしての機能を失っていくということが、過去の例を見ても既に起きていて。それでは持続可能性はないし、魅力もなくなっていく。
小野 その東洋的なアプローチは、福島さんも共感するところなんですか?
本間さん 彼とは起業から半年くらいずっとこういう話ばかりをしていて。最初から譲り合いじゃなくて、お互い引っ張り合うという約束をして起業しているんですね。
彼は、やっぱりビジネスとして拡大しないと社会はよくならないと常に言っていて、僕はクオリティが高くなかったらそもそも広がっても社会がよくならないという立場。そのなかで妥協せずにお互いが納得するまでプロダクトを高めて、右斜め上の解決策をつくり出すことが、僕ら2人が会社をはじめた意味だと思っています。
文化をつくるために、信じるものを時間をかけて拡大していく
小野 クオリティ重視だとスピードが落ちるのは仕方がない、と明確に本間くんが主張するのはどうしてですか? お金があれば両立するというスタンスもあるのかな、と。
本間さん うーん、でもやっぱり時間がかかるものだと思う。
いいものはなんというか、熱量があるんですよね。熱量の先に複雑性があって、複雑性の先にシンプリシティがある。例えばiPhoneは単純でシンプルだけど、見れば見るほどその背景がすごく文化的だし複雑なもので。ストーリーや文化を紡ぎ出すのは事業モデルではなくてやっぱり人で、人が文化をつくるときって、すごく時間がかかるはずなんです。
反対意見も犠牲もあって、いろいろなコミュニケーションがあるなかで文化になっていく。例えば上手そうな絵をつくることはコンピューターでもできるんですけど、その絵の背景にある描き手の思いや人生が滲み出て初めてアートになる。
本間さん 事業も同じで、ストーリーがないと薄っぺらなものになってしまう。早く育った木はすぐ枯れるけど時間をかけて成長した森は持続するように、それはもう世界のルールなんじゃないかと思うんです。
とはいえ、思いが強い人たちが集まれば、ある程度スピードも出せるはず。エンジンはでかいしスピードもあるけど、荷物もある程度載りますっていうクルマをつくることはできるはずなんで、そこを目指したいですね。
小野 SANUのモデルにしている事業はあるんですか?
本間さん PatagoniaやNIKEの話題はよく上がってます。やっぱりNIKEみたいになりたいねってずっと言っていて。
小野 それって限りなく再現性が低そうだよね。そのブランドができた時代に必然性があるというか。
本間さん そう。NIKEもたぶん最初は「あいつらなんで道路走ってんだ」みたいなところから始まったと思うので、そこはやっぱり時間ですよね。もちろんファイナンスやブランディングの勉強はできるけれど、本質的な自分たちが信じるものを、コツコツとやり続けるしか手はなくて。
小野 世の中の事業のほとんどがクオリティよりもスピードを追求型で、しかもスピードが出た頃にはファウンダーは別の事業をやっていたり、別の人がドライバーになっていて、どんどん陳腐化を早めている。
今はその戦い方が是とされすぎているので、時間とクオリティの両方を重視する東洋的なアプローチの成功が証明されるとおもしろいですね。
本間さん そうですね。
新しい資本の考え方を牽引していく存在に
本間さん ただ、僕らより若い世代はおそらく違う方向に行くと思っているんですよね。先日、Patagonia元日本支社長の辻井さんと話したんですが、今アメリカのZ世代と呼ばれる若い人たちの興味は、会社経営やビジネス規模の拡大じゃなくて「自分のまちの裏にあるため池を美しく戻すにはどうしたらいいのか」といったところにあると言われていて。
つまり、今まで「資本」という単語は、お金や会社、ビジネスをイメージしていたけど、本当の資本とは人間が持っている財産という意味で、裏のため池や隣にある山だという認識。確かに僕らはそこから食を得て生活をしているから、本質的にはそのほうが大事なはずで。
僕らは資本主義のなかに生きてるから、世界が完全にそっちにシフトすることはないと思うんですけど、その方向にちょっと寄ることは十分にあり得る。それはおそらくこの先20年で目にする世界の変化だと思うんですよね。だからこそ、自分たちがその変化の先頭にいたいし、加速するような存在でありたいです。
小野 おそらく、そのときに中庸であることは大事ですよね。大きくてみっともないものか、小さくて一点モノみたいな感じで社会に存在するか、の極論ではなく。
本間さん 環境保護と経済の問題も構造は同じで、「環境保護しましょう、経済はダメだ」と言う人と、「環境保護じゃなくて経済の発展こそが大切」と言ってる人、どっちもある意味正しいことを言っていて。
経済の発展があるからこそ貧困が減り、赤ちゃんの死亡率が減ったのもこの100年の資本主義のおかげだから、そこは絶対感謝しなきゃいけないのに「資本主義クソくらえ」って言ってしまうと、やっぱりバトルが起こる。ただ、その真ん中のバランスを取る中庸っていう考え方はわかりづらいんですよね…。
小野 経営面から考えると、わかりやすさは共感者を増やしやすい。中庸っていう考え方は、ある程度学ばないとたどり着かないんだよね。でもいつかそこも可視化されるはずで、その部分の企業価値の評価軸がもう少しできてきたらいいのにね。
本間さん すごくそう思いますね。例えばBS(貸借対照表)とかPL(損益計算書)に、環境資本みたいなのを組み込むようなことも大事だと思う。
小野 数値化のプロフェッショナルによって、経営と環境の中庸の部分のわかりやすい基準がつくられるといいのかもしれないですね。中庸の世界観をもう少し誰もが学べる状態にしておけると、次も続きやすい。
本間さん 大事なことだし、わかりやすい情報として発信していくことはできる気がしますね。
2人の対談、いかがでしたか?
Backpackers’Japanは、若者が利用する外国人用の安宿というイメージでしかなかったゲストハウス・ホステルという存在を「多様な大人が集うカルチャー」に押し上げた第一人者でもあります。20代から新しい文化を生み出し続けてきた本間さんの次なる壮大なチャレンジに、取材者としても興奮を抑えきれない時間となりました。
「建てるほどに環境保護になる建築」がどんな風にできるのか、SANUの今後が本当に楽しみです。
(撮影: 霜田直人)