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タワマン・共働きから、バリ島へ。わたしたちがむすこを「Green School Bali」に通わせる決め手にしたのは、子どもの「ぼく、絶対この学校にいく!」でした。

むすこが3歳のある日、わたしはある小学校に、3年後の入学申請を出します。その学校は、バリ島の「Green School Bali(以下、グリーンスクール)」。サステナビリティ(持続可能性)をテーマに掲げ、地球の未来をになうリーダーを育てているインターナショナルスクールです。

「Green School Bali」を知らない方に

グリーンスクールの掲げる3つの行動基準はいたってシンプル。「地域に根ざす」「環境保護を優先する」「孫が自分の行動でどのような暮らしになるかを想像する」。これらの行動基準は、校舎や教育環境、カリキュラムのベースとなっています。

校舎は、バリにたくさん生えている竹を使い、地元の大工さんによって建てられました。生徒の約20%は地元インドネシア人の奨学生。通学のためのお金は、基金や校内にあるリサイクルセンターの売り上げでまかなわれています。

地元の竹をつかって建てられたグリーンスクールの校舎

電気は太陽光発電と渦を使った水力発電でつくられ、通学バスは校内でつくられたバイオ燃料で走っています。これは、浄化作用もあるヴォルテックス水力発電のようす。

授業は、事前に出された課題についてのディスカッションやプレゼンテーションがメイン。毎年、何十個ものプロジェクトが生徒主導でスタートします。教師はもちろんのこと、地域の人や保護者やボランティア、そしてプロジェクトをサポートする専門家たち。そういったたくさんの大人が、生徒と関わりながらプロジェクトを進めていきます。

課題レポートを使ったディスカッション中心の授業

生徒が立ち上げ、州の新しい法律をつくるまでに広まったプロジェクト「Bye Bye Plastic bags」

今回は、わたしたち家族が「グリーンスクール」にいこう! と決めたころを自分なりに振りかえってみたいと思います。

子育ての軸が定まるまで

長男が2歳のとき、わたしたちは都内に住み、大手企業につとめる共働き夫婦でした。平日は嵐のようにあわただしい毎日。残業もあり、保育園に迎えにいったらむすこが最後のひとり、なんてことも日常茶飯事でした。

保育園からの帰り道は、貴重なおやこの時間。むすこが歩きたいと言えば土砂降りの雨のなかでも歩いて帰り、虫を採りたいと言えば暗くなってきても、むすこの道くさに付き合います。

一緒にいる時間くらいは、「好奇心」と「自然」をおもいっきり楽しんでほしい。その一心で、子どもの「やりたい」につきそう毎日でした。

このころ、仕事でずっと広告や不動産を扱ってきたわたしは、あることに嫌気がさし始めます。

・新築物件のほうが売れるから、まだ使える一軒家を壊して新しい家を建てよう
・抗菌の商品を開発したので、抗菌がいかに大切かをPRしよう

売ることを優先した結果、自然を壊してしまっているサービスが世の中にはたくさんある。そして、そういうサービスを広告をつかって買ってもらう行為こそ、持続可能ではないのでは? そんな気づきをきっかけにして、「子どもが大きくなったら、サステナブルなものを生みだす人であってほしい」と、はっきりと思うようになりました。

子どもが、目の前のものに抱く「なぜ?」や「面白い」を大事にできる環境を。
そして、「自然」と触れ合う機会を。
わたしたちが大事にしたい子育ての軸が定まっていきました。

受験に感じた違和感、浮き上がってきた「海外移住」という選択肢

さて、むすこが3歳を過ぎたころから、夫婦のあいだで小学校の話題がでるようになります。パートナーもわたしも小学校での受験経験者。小学校から私学に通わせることは、身近な選択肢のひとつでした。

ところが、なかなか受験に踏み切れないまま月日が過ぎていきます。

ただでさえ少ない家族の時間。6歳足らずの子どもが、遊びたいのをがまんして獲得する未来は、わたしたち家族にとって本当に「価値があるもの」なのだろうか? 本当は、今すぐにでも外で走り回りたいであろうむすこに、「今は両ひざをそろえて30分座る時間なんだよ」と教えることは、本当にわたしたちが「教えたいこと」なのだろうか?

考えれば考えるほど、「わたしたちがやってきた受験という行為は、わたしたち夫婦の子育てにはしっくりこない」という違和感を見過ごすことができなくなってきます。

そんなある日、パートナーがLINEで「こんな学校があるよ」と「グリーンスクール」の記事を送ってきました。

「サステナブル」というテーマ。科目を選べる単位制の授業。実践をベースにしたアクティブラーニング。入学試験はなし。壁のない校舎。

記事を読んだ瞬間に、頭の中でモヤモヤとしていたものが、サーっと一気に晴れていく感覚をおぼえました。

わたしたちの教えたいもの、目指したい未来がここにあるかもしれない。
がんばる価値があるかもしれない。
そしてなにより、むすこが前のめりになって授業に参加している姿が、ありありと想像できたのです。

「グリーンスクール」の授業では、知識だけでなく実践も重視されています

いいね、ここ。うちの子に合うかもしれないね。

パートナーが起業する予定だったということもあり、わたしは定年までその当時働いていた会社を勤めあげる気まんまんでした。なので、海外にいくなんて選択肢は心の片隅にもありません。

でも、パートナーに返信したあの日、「バリ島移住」という選択肢が、わたしたちの未来にポッと浮き上がってきたのです。

むすこの気持ちに耳をかたむける

親がいくらこうあってほしいと願っても、子どもの人生、子どもの学校です。むすこが行きたい! と思わないと、なにも始まりません。

まず、学校のホームページやFacebookをいっしょに見て、むすこの反応をうかがいます。

ねーねー、こんな学校どう? 行ってみたい?

うん、行ってみたい!

選りすぐられたであろう、授業や校舎の写真。そりゃそう言うよね、と思いながらも、ふたりで学校の写真を見ながら、ワーキャーと盛り上がります。そして、この会話をした日の夜に、わたしが3年後の入学手続きを終わらせることになるなんて、彼は知るよしもありません。

入学申請は終わったものの、日が経つごとにわたしの不安はつのるばかり。

日本語の通じない学校に通うことを、ちゃんと受け入れることができるのだろうか?
バリ島の気候や衛生状態はあうのだろうか?
はたして、グリーンスクールは本当にむすこにベストな学校なんだろうか?
むすこが「行きたくない」と一言でもいったら、いつでも入学申請をキャンセルする覚悟でした。

そして、入学を申請してから2年後。本当にいくかどうかを決めるために、2泊3日の「Green Camp(以下、グリーンキャンプ)」に参加をします。

「グリーンキャンプ」とは、「グリーンスクール」に併設されているアクティビティ施設です。竹でできていて、もちろんコンポストトイレ。子どもたちはココナッツの木に登ったり、泥相撲をしたり、夜に昆虫や動物を探したり。グリーンスクールならではの自然体験を専門スタッフの指導のもと経験することができます。

カカオの歴史を学び、カカオマスからチョコレートをつくるアクティビティ

むすこは当時、英語をまったく話せませんでした。それにもかかわらず、他のメンバーときゃっきゃとはしゃいだり、スタッフとおいかけっこをしたり。純粋にアクティビティを楽しむ、むすこの姿に、ひとまず胸をなでおろします。

そしてラッキーなことに、キャンプのアクティビティのひとつであるスクールツアーで、むすこは「グリーンスクール」の生徒たちと自由に校庭で遊ぶことができました。背丈くらいある大きなタイヤを転がしたり、木に吊るされたブランコにぶらさがったり。

これはむすこにとって、自分の居場所を見つける楽しい時間になったようです。今でも「グリーンスクールの場所のなかでいちばん好きなのはどこ?」と聞くと、むすこは「ブランコとタイヤ」と答えるのですから。

学校のいたるところに廃材でつくられた遊び場があります。

ひそかに心配していたのが、食べるものについて。グリーンスクールの給食はビーガン食。そしてインドネシアの料理はちょっとスパイシー。お肉や魚をつかわないごはんを、むすこは食べてくれるのだろうか?

そんな心配をよそに、グリーンキャンプでは、むすこもわたしも学校の農園でとれた野菜に完全ノックアウトでした。「おいしい、おいしい」と、グリーンキャンプのごはんをもりもり食べてくれました。

キャンプが終わり、ホテルに向かう車のなか。わたしは意を決して、むすこに聞きます。

学校、どうする?

そして、むすこが一言。

ぼく、絶対この学校にいく!

目をキラキラさせながら、くちをきゅっとつむるむすこ。

その顔をみて、わたしはむすこの手をぎゅっと握りました。心が決まった瞬間でした。

彼を信じて、飛び込んでみよう。「グリーンスクール」にいこう!

すべてはこどもの表情に

むすこは、そのとき、バリ島がどんな島なのか、日本とどれくらい離れているか、なんてぜんぜん知らなかったでしょう。それでも、5歳の彼は、彼なりに情報を集めて、彼なりに判断をしたのだと思います。

大学の進学実績は?
日本語はどうするの?
他にもいい学校あるんじゃないの?

大人は、ついついそんなことを考えてしまうかもしれません。

でも、頭でっかちで、そのうえ欲深い大人が出した答えよりも、子どもが出した答えのほうがより本質に近いのではないでしょうか。

この日以来、わたしは子育てで迷うことがあったら、むすこの表情をみることにしています。いい顔をしていたらそれでオッケー。不安そうだったら立ち止まる。すべては子どもの表情に宿っている気がするのです。

(編集: スズキコウタ)

– NEXT ACTION –

ちょっと難しいかな、と感じることでも、子どものことは子どもに聞いてみよう。そして、子どもの表情や言葉を信じてみよう。

[via greenschool HP, YouTube]