創刊から14年。より多くの仲間と社会づくりをするために「いかしあうつながり宣言」をしました

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参加者全員が主役。地域で起業家をサポートする「いすみローカル起業フォーラム」で、お金が循環する、幸せの自給率が高いまちをつくる。

2020年2月1日。千葉県いすみ市の大原文化センターに集まった、いすみで起業する4人のプレゼンター、起業を応援する市役所や様々な団体、そしてプレゼンを聞く参加者。

一見普通の起業プレゼンですが、良く見ているとプレゼンする起業家よりも、プレゼンを聞いた参加者の方が長く話しています!

いすみでは、起業家同士がつながる「ローカル起業部」のメンバーが100名を超えたほか、市や様々な団体が起業を応援する仕組みが生まれています。

今日行われているのはそんな起業家を応援するイベントの一つ「いすみローカル起業フォーラム」です。イギリスのトットネスという人口8,000人の町での成功事例を元にしています。

イベントの事務局を務める、NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央は言います。

菜央 僕の願いとしては、ローカル起業家をみんなで応援して、人と人の豊かなつながりを基盤にした、幸せな経済圏づくりに取り組んでいきたい。その動きに参加して頂けたら嬉しいです。

参加者全員で起業家をサポートする「いすみローカル起業フォーラム」の模様をお届けします。

いすみで広がる「ローカル起業」応援の取り組み

今年で3年目、そして3回目の開催となる「いすみローカル起業フォーラム」は、千葉県いすみ市がNPO法人グリーンズに依頼して、共にいすみでの起業を応援する「いすみローカル起業プロジェクト」の取り組みの一つです。

ことの発端は2014年。民間の有識者らがつくる日本創成会議が「全国の市区町村の約半数が、将来人口流出・少子化が進み、消滅する可能性がある」と提言しました。

自分の住むいすみ市もその消滅可能性都市に入っていることを知った、NPO法人グリーンズの鈴木菜央。

自分にできることから始めようと、当時就農したばかりだった「つるかめ農園」の鶴渕さんと月に1回くらい会っては、困りごとの相談に乗ってみたところ、思いの外喜ばれたと言います。

ズラリと並んだ「いすみローカル起業部」の部員。左端でマイクを持っているのが、つるかめ農園の鶴渕さん。

菜央 2015年秋、イギリスのトットネスというまちで、まちの人々がボトムアップでローカル経済をつくる試みがあると聞き、取材に行きました。トットネスの活動でびっくりしたのが、まちの人々が起業家を応援している風景です。ローカルなお店を紹介するマップをつくったり、フォーラムを開いて起業家をみんなで応援したり。こういう活動を、日本でもできたらなぁ、と思いました。

そんなとき、ちょうど市が起業家を誘致する企画の募集を始めたので、トットネスを参考にしながら企画書を提出、採用されたのが、この「いすみローカル起業プロジェクト」です。

困りごとを相談し合える起業仲間も、今ではなんと115名となり、「いすみローカル起業部」という名前で活動しています。いすみ市の事業としては3年間を終えて2020年3月で終了しましたが、引き続き活動は続け、メンバーで協力していすみを盛り上げていきたいと考えています。

「いすみローカル起業プロジェクト」では、ほかにもいすみに興味を持ってくれる人を増やすための東京でのイベント。さらに一歩踏み込んで、いすみに2泊3日で滞在し、いすみへの移住と起業をプチ体験する「いすみローカル起業キャンプ」など、さまざまな取り組みをしています。

会場には起業部の部員によるブースも。写真はほうじ茶と苺のパウダーを使った「こまきち」のオーガニックわたあめ。

「町の家計簿」をつくることで、地域のお金の漏れ穴を確認する

午後は高野翔さんのゲスト講演から始まりました。

JICA(国際協力機構)職員として、約20の開発途上国の国づくりを支援するほか、地元である福井県福井市でまちづくりの活動をしている、高野さん。「ローカル起業フォーラム」発祥の地であるイギリスのトットネスで、新しい経済学を学んだそうです。

その経済学とは「どうすればローカルに経済を取り戻せるか」というもの。

まずやるべきことは、まちのみんなで「まちの家計簿」をつくることだと話します。

高野さん 「エコノミー(経済)」の元々の意味は『家の運営管理』。そのために一番大事なのは、シンプルですが家計簿をつけること。家庭でも『月にどれ位のお金を何に使っているか』を書いてみてはじめて、ここの支出減らせるかな、違うところから買った方がいいかな、とか、妻と相談することができます。

そして、まちの家計簿をつくるための根幹になるのは「漏れバケツ理論」という考え方です。

高野さん お金そのものは食べられません。使って、交換できて、まちをめぐってはじめて効力を持ちます。

ではお金をバケツに入った水だと考えてみて下さい。バケツリレーのように、水がまちを回り続けている間、お金の効力が発揮されます。でもバケツに穴が空いてたらどうでしょう? 水がドンドン町の外に漏れて行ってしまいます。

今の状態は空いた穴の大きさがわからないまま、必死でバケツを隣の人に回してるんじゃないか。その漏れ穴をみんなで確認して小さくすることが、地域経済において非常に大事なんじゃないかという考え方です。

ある地域にお金が入った時、そのお金がずっと地域内を回り続ければ、地域内の経済は循環して良くなり、地域の多くの人が潤います。

ですが、そのお金がすぐに地域の外、例えば近郊の都市や海外に資本がある大企業に出て行ってしまう場合、地域内の経済への寄与は小さく、いくらお金が入っても地域にはほとんど何も残らない状況になってしまいます。

漏れ穴が小さい(80%ずつ地域内に残る)場合と漏れ穴が大きい(20%しか地域内に残らない)場合では、繰り返すと24,400円と12,400円という大きな経済効果の差が出る

まちの家計簿をつくることで「どの分野でどれだけのお金がまちの外に出ているか」を知ることが、「ローカルに経済を取り戻す」第一歩となります。

美味しい地元のものを食べることが地域経済を強くする

イギリスのトットネスも元々は大企業や工場を誘致することで、経済発展を目指していました。

しかし誘致した企業・工場の閉鎖が続き、経済が疲弊してしまった苦い経験から、まちの家計簿をつくり、「まちの経済の健全度を自分達で把握したい」という想いが生まれたと言います。

この時ポイントとなったのは、市民・起業家・まちづくり団体等の多様なプレイヤーと、市役所・市議会等の行政が、共同で家計簿をつくったことでした。そのお陰で、町の家計簿の数字は、いつでもみんなが立ち戻ることができる共通言語となったのです。

漏れ穴の大きさをみんなで共有することで、次は漏れ穴を小さくするアクションを起こすことができます。

例えば農業の場合、トットネスの地域内に残るお金は支出の27%で約11億円。地域外に漏れているお金は73%で約31億円もあるということがわかりました。

また、市民がどの野菜や加工品が地元産かも、どんな生産者がいるのかも知らないことがわかったそうです。

そこで地元の美味しい作物と生産者が集まる「ローカルフードフェスティバル」というイベントが生まれました。

高野さん ボランティアの方に、「このフェスティバル何でやってるんですか?」と聞くと、「美味しい地元のものを食べることが、地域経済を強くするのよ」と答えてくれました。

これは世界中で共通する、シンプルだけど、とても大事なこと。それがトットネスでは、まちの家計簿をつくったことで、共通言語になっている。地元のものを食べたほうが美味しいし、体にいいし、地球にもやさしい。

このように様々な分野で漏れ穴を小さくする動きが始まったトットネス。その中で素晴らしい取り組みの一つとして知られているのが、本日いすみでも行われている「ローカル起業フォーラム」なのです。

当日のお昼ご飯も地元のもの。写真は起業部の「おにぎり工房かっつぁん」のいすみ米を使ったおにぎり。

地域みんなで起業をサポートする「ローカル起業フォーラム」

今回の「いすみローカル起業フォーラム」では、4人のいすみで起業する登壇者がプレゼンします。

普通のプレゼン大会と違うのは、このフォーラムでは登壇者と同じく、プレゼンを聞く一人ひとりが主役だということ。

まずは「応援シート」という紙が参加者全員に配られ、そこには自分の「名前と連絡先」、「応援したい起業家」、そしてその起業家に「自分はどんなサポートができるか」を書いて、後で登壇者に渡せるようになっています。

時間配分も登壇者のプレゼンは大体5分以内ですが、プレゼン後の参加者みんなでどんなサポートができるかを話す時間の方が、倍くらい長く取られています。

お金等の有形のサポートだけではなく(この日は市の事業なので、お金のやり取りはできないとのことでしたが)、「エクセルが得意だから手伝うよ」とか、「肩揉むよ」といった無形のサポートも大歓迎です。

最初のプレゼンは狩猟体験や、グランピング、そして日本初のキョン(シカ科ホエジカ属に分類されるシカの一種)の革を使うワークショップを提供する「Hunt+(ハント・プラス)」を立ち上げた石川雄揮さん

特に狩猟体験には強い思い入れがありました。

石川さん 僕は過去にジャーナリストとして、戦場や貧困、自殺等、極限的な場に身を置いていました。人間とは何か、命とは何か、生きるとは何か、そんなことをいつも考えてるすごく面倒な人間だった。

ジャーナリストとして、いくつもの「死」を見て来た石川さんですが、初めて参加した狩猟体験で、これから自分の糧となる一匹の鹿の「命」と向き合ったことで、救われた気がしたと言います。

石川さん 瀕死の鹿がこう言いました。「生きるとは何かなんておこがましい。人間の体は何万の動植物でできているんだ。それだけでお前達の命は重い。ただ懸命に生きろ」

狩猟を通して、そんな本質的な体験を共有したいのだと言います。プレゼンの最後には参加者へのお願いごとがありました。

石川さん 市内の中学生を対象に無料で狩猟体験をやります。車でないと来られない場所なので、近隣の中学生に声をかけて連れてきてあげてほしいんです。

プレゼンに対して、早速参加者から声が上がりました。

参加者A 今、ボーイスカウトのリーダーをやっているので、そこで体験をやっていただけたら嬉しいです。

参加者B 旅行業を始動するので、旅行免許が必要なツアーで、一緒にコラボできたらと思います。

参加者C 僕もイラクやアフガニスタンを取材してドキュメンタリーをつくっていました。狩猟体験こんなことやりますって、映像で見せた方が早いと思うんですよ。僕の方で撮影・編集をやらせてもらえたらと思いますんで、ぜひ!

石川さん ただ、今、うち予算が全然・・・。

参加者C いやいや、そこは短く、短~くやれば(笑)

次のプレゼンは「自分はローカル起業部に入ってなかったら起業してない」という松永康一朗さん

以前は「起業は夢のまた夢というか、特殊な人がやるもんだと思っていた」松永さん。ローカル起業部に入ることで、「みんな悩む所は一緒なんだな。自信がないのは当たり前なんだ」と思えるようになったそうです。

そして、地域おこし協力隊を経て、「まつながデザイン一級建築士事務所」を開業しました。

松永さん ありがたいことに起業してすぐ、協力隊でご縁があった方から、アパートとカフェの新築案件をいただきました。

アパートに求められたのは素早い提案力、ローコストかつ最短の工期です。ポイントは床に無垢材のフローリングを使ったことです。10年経ったあたりで研磨すると新品同様になります。

続いてカフェです。更なるローコストとスピードが求められました。そこで施主と私、半分DIYでやりました。

松永さんのとても人当たりの良さそうな人柄からか、プレゼンの中で度々ローコストを求められる場面が登場し、会場が和みます。
プレゼン後にも、仕事の依頼や一緒に働かせてほしいという声がたくさん集まりました。

参加者D 短大の2年生で建築を学んでて、就職先が決まってなくて、来年1年間手伝わせて下さい!

松永さん 実は時間の関係で言えなかったんですが、短期間なんですけど、スタッフ募集しております!

次の登壇者、金属造形作家の池田ひなこさんは、移住した家のトラブルで困っていたところを、いすみの不動産会社「外房の家」の社長さんにサポートしてもらったと言います。

池田ひなこさんの作品「手品師のトランク」。一枚の板から加工してこの形にしました。製作期間は約3ヶ月。

池田さん 「外房の家」さんのホームページを見て、すごくいいなと思って、酔った勢いで電話をかけて・・・お家のことを色々相談しました。

私の作品を見てもらって、社長さんから、「活動を応援したいので、ぜひ工房付きのお家を建てましょう」と提案して頂いたんです。


そこで4月から「金属造形工房ひなハウス」という教室を開きます。この「ひなハウス」というのは社長さんがつけて下さった名前で、ひなどりが巣立つという意味がこめられています。

池田さんはプレゼンが苦手で、この日も実は手が震えていたと言いますが、その人柄やものづくりに対する想いに惹かれた外房の家の社長さんから、「工房がある賃貸住宅」というとても力強いサポートをしてもらったようです。

その工房で、どんな金属加工にもチャレンジでき、ものづくりを通して交流できる教室をやりたいと言う、池田さん。プレゼンを聞いた家具職人の方からは思わぬ依頼がありました。

家具職人 家具に使う金物を今はホームセンターで買ったり、カタログで選ぶしかないんですけど、オリジナルでつくったりとかって・・・。

池田さん できます。

参加者F ほんとですか! 相談させて下さい。

まさに地域の漏れ穴を小さくする展開に会場からも思わず拍手が上がりました。

最後にプレゼンするのは町田優美さん

いすみのカレーパーティーで食べたサラダの野菜がすごく美味しくて、思わずいすみに移住。その農家さんに弟子入りしてしまったと言います。

町田さん 独立して、今は自分の畑、「サミー畑」という名前で、農薬、化学肥料、動物性たい肥を使わずに野菜を育てています。その野菜をどうやって販売しようと考えた時に、CSAという、地域で支えあう農業をしたいと思いました。

CSA(地域支援型農業)とは、地域の会員が一定の会費を払うなどして、地域で農家さんを支える仕組みです。

町田さん 週1回、とれた野菜を受け取り場所の家に持って行って、集まった会員でシェアするというやり方を北海道の農場で体験しました。野菜を分け分けしながら、「これ、こうやって料理すると美味しいのよ」とレシピの交換をしたり、時には農場で作業を手伝ったり。

会員の方々が「ここ、私たちの畑なのよ」って意識を持ってらして、それがすごい素敵で。私もこのやり方をしたいと思いました。

サミー畑はまだ会員制にはなっておらず、今はトライアル期間中。毎週Facebookでイベントをつくり、参加者で野菜を分け合っているそうです。

地域で農業を支えるという、正にローカル起業フォーラムのテーマに沿ったプレゼンに「ぜひ受け取り場所になりたいので、会員を集めたいです。」という頼もしい声や、「商店街のおばあちゃんたちと話してると、近所のスーパーがなくなって、買い物難民になって、仕方なくコンビニで買っている」という 情報も集まりました。

ほかにも「働いていると決まった時間に取りに行くのが難しい。一日置いてもらえるとか、置き方を工夫すれば私も参加できる」など、毎日食べる野菜のことだけに、みんなで協力や工夫をすることで、誰もが参加できそうな可能性を感じました。

「漏れ穴」を「生き甲斐」に変えて、地域の幸せの自給率を上げる

登壇者の4人は、特段プレゼンが得意だった訳ではないと思います。ただ4人共「本当にやりたいことで起業する」という想いが伝わって来て、参加者も何かその想いに応えたいと、自分ができるサポートを出し合っていました。会場で想いが循環する、その温かい光景に思わず感動してしまいました。

高野さん 「働く」って、経済学の言葉では「労働」なんですね。経済学においては「労働=コスト」でしかない。

いかに労働を減らして、利益を最大にするかというのが、従来の経済学の考え方です。

でも働くことから、人の喜びとか、自分らしさを切り離してしまったら、幸せな社会は描けないんじゃないかと思っています。

JICA職員の高野さんは講演の最後に、今、イギリスで「生き甲斐」という言葉が注目されていると教えてくれました。

写真: 佐々木大輔

高野さん 「世界が求めること」、「稼げること」、「得意なこと」、「好きなこと」が全て重なる部分が「生き甲斐」。この言葉をイギリスで聞いて、私は勇気をもらったんですね。

今「世界が求めること」、「稼げること」が日本の地方にいっぱい転がっている。漏れ穴がたくさんある状況だと思います。漏れ穴はチャンスだと思って下さい。漏れ穴に自分の「得意なこと」、「好きなこと」を重ねて、「生き甲斐」にすることで、漏れ穴を小さくしてもらいたいと思います。

それはローカル経済を強くすることだし、経済の自給率を越えて、人の幸せの自給率が高い地域を生み出すことだと思っています。

プレゼンが終わった後も、登壇者の4人の周りには、応援シートを手渡しする人の輪ができていました。

「ローカル起業フォーラム」はこうやって、地域みんなで「漏れ穴」を「生き甲斐」に変えて行く取り組みなのかもしれません。

ローカルな起業を応援する。
まちの家計簿をつくる。
自分にできることから、あなたも町の「幸せの自給率」を上げてみませんか。

(Text: 佐々木大輔)
(撮影: 山本尚明)