CPR [the Civil Registration System]
CPRとは、デンマーク語でDet Centrale Personregister(デ・セントラーレ・パソンレギスタ、通称はシーピーエア)の略で、市民登録システムのことである。日本でいうところの、マイナンバー制度だ。
デンマークの登録ナンバーは1968年の市民登録法によって導入され、デンマークで生まれた人は出産をサポートした担当助産師さんが登録してくれる。また、デンマークで3ヶ月以上(EU、EEA、スイスからは6ヶ月)働く人もCPRナンバーを申請しなければならない。
登録内容は社会保障番号、氏名、住所、婚姻状況、出生登録地、市民権、親族、権限、職業、国教会の所属関係、参政権、所属自治体、死亡などの情報など多岐にわたる。
この内容は常にアップデートされ、CPR登録内容へのアクセスは、CPR法によって、公共機関や一部民間企業などにも条件付きで許可されている。
はっきり言って、デンマークではCPRナンバーがないと何も始まらない。
まず、行政サービス、特に福祉や医療に関してはCPRなしでは受け付けてももらえないし、賃貸物件の契約、銀行口座の開設、就職、起業、融資を受けるとき、電力会社やガス会社を変更するときにも、そしてデンマークでは合法であるカジノなどギャンブルに参加するときもCPRナンバーを申告する必要がある。
日常生活では、行政サービスや、医療サービスを受けるときがもっとも頻繁にCPRナンバーを利用する機会だろう。
例えば、かかりつけ医に連絡するときは、電話でもオンラインでもまずCPRナンバーを聞かれるし、実際に診療所に行ってもまずは(日本の健康保険証のような)健康カードを読み込んで受付しなくてはならないが、これにはCPRナンバーが必ず登録されている。また近い将来、健康カード自体も現在のプラスチック製からデジタル化される予定だ。
行政サービスを受けるときも同様で、ほとんどがオンラインで済ませられるようにIT化が進み、行政とメールのやりとりをする際にもCPRナンバーが必須となる。
デンマークのCPRと日本のマイナンバー
個人情報に対する取り組みを考える
そもそも、デンマークでの国民登録制度は1924年に始まったのだが、その理由が第一次世界大戦後の配給制度の管理を徹底するため、信頼のおける人口登録を確立する必要があったこと。そして、地方自治体の業務が拡大して、財政管理上、税務処理や歳入管理の必要に迫られたことにある。
だが、小さな自治体などはこの業務が困難なところも出てきたため、中央政府で国民登録を専門に扱う機関をつくることになり、今に至る。現在は社会・内務省内に管理事務所がある。
古くから特有の戸籍制度が続いている日本では、2015年よりマイナンバー制度が導入された。しかし、マイナンバーカードの普及率は2020年1月現在で15%弱とあまり広がりを見せていない。内閣府の2018年10月の世論調査から見えるのは、個人情報漏洩のリスクへの懸念と、日常生活との紐付けが必要性を感じるほどではないことなどが普及へのハードルとなっているようだ。
日本で大きく遅れをとっているIT・デジタル社会化の大きなカギのひとつは、マイナンバー制度の普及であろう。
でも、そのためには個人情報がしっかり守られると確信できる制度設計が必要で、その運用者への信頼度の高さ、ひいてはそれを活用する国や行政と国民の間での信頼関係が構築されていることが不可欠。また、こうしたマイナンバー制度が社会インフラのひとつとして国民と国双方にメリットが実感でき、それが正しく理解されることも重要である。
デンマークでも、常に個人情報漏洩のリスクや懸念はあるものの、それが現れたときにできる限りの透明性を持って対応策を講じている。
まずは法律でCPRに登録された個人情報へのアクセスについて、誰がどのような条件で可能かどうかを明文化していること。CPRに登録されている個人情報の項目、国や行政・民間企業の誰が自分の情報にアクセス権があるか、その理由を閲覧できるようになっている。異議申し立ても可能であるし、何らかの事情で住所や個人情報を秘密にしておく必要がある場合、その措置を取ることももちろん可能だ。
多くのオンライン申請などでは、nemID(Easy ID)という、国民ひとりひとりに発行される1回限定のID番号、もしくは、携帯電話などで個人のみが1度だけ使用可能な認証システムをCPRナンバーと2段階認証にして、不正使用を防ぐ仕組みもある。
また、メディアも個人情報漏洩については官民分野双方に目を光らせており、不審な動きがあればすぐに報道して政府に確認を求めている。
日本でも、まずは国と国民との信頼関係をより良い形で築くことから始めなければいけないのかもしれない。
上でも述べたが、デンマークでは、CPRを利用することの社会的メリットと個人的メリットの理解を重視し、社会への浸透をあらゆる媒体を使って図りながら、国民もある程度納得した上で利用できる素地をつくる努力をしている。
高福祉高負担社会であるデンマークでは、国民から確実に税金を徴収し、それを公正に分配することが国の最重要課題のひとつで、運用負担を軽くしながら社会インフラを整えていくことが大切であるし、国民にとっては、CPRを利用することによってオンライン化が進み、忙しい日々の暮らしの中で役所などに実際に足を運んだり、無駄な待ち時間や紙の書類づくりを省くことができるのは大きなメリットである。
双方のニーズが合致し、インセンティブ(動機づけ)ができてこそ、普及の足がかりになるのではないだろうか。そう考えると個人的には、買い物ポイント還元などは、本来の目的や目指すところからは少し外れているような気がするがどうだろう?
– INFORMATION –
ニールセン北村朋子 presents デンマークから学ぶ「いまを生きる手習い塾」
幸せの国・デンマークから学び、自分の心や社会と向き合い、大切にしたい暮らしや人生を考える。コロナウイルス感染症の拡大により、立ち止まることを余儀なくされた私たち。目まぐるしい日々では気づけなかった違和感や見て見ぬフリをしてしまっていた事実ともまっすぐと向き合う時間も増えてきました。
『NEW NORMAL』と呼ばれる新しい生活を考えるこの時代において、わたしはいつ涙するほど感動し、どんな時に心をぐっと動かされ、何を失いたくないのでしょうか。
どのような働き方や暮らし方を実現し、どのように生きていきたいのか。今だからこそ、わたしの心のうちなる想いに出会い、社会の痛みや苦しみに向き合い、改めて心や人生を考えられるのではないでしょうか。
未来に向かって歩き始めるために立ち止まり、呼吸し、整える。意思を持つ仲間たちと「共に立ち止まる学びの場」を提供します。