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小さな地域から秋田県全域へ。秋田ソーシャルデザインの学校卒業生・小玉舞子さんの「豊川ボンドフェス」が地域に与えたインパクトとは。

2018年に始まった秋田ソーシャルデザインの学校。2020年の発表会は新型ウィルス感染防止のために中止になってしまいましたが、昨年からの一期生10名に加え、今年加わった二期生10名が地域を元気にするプロジェクトを立案しました。

開講の目的は秋田各地に「地域づくりリーダー」を育成すること。2年でその目的を達成することは流石に難しいですが、受講生たちによって小さな種は蒔かれつつあるようです。

というわけで、今回は、一期生で2019年7月、潟上市でイベント「豊川ボンドフェス」を開催した小玉舞子さんに話を聞き、秋田ソーシャルデザインの学校から何が生まれようとしているのか探って来ました。

子どもがどんどん減っていく秋田で自分にできることとは

小玉さんは潟上市豊川地区に暮らす3人の子どものお母さん、少子高齢化が進む中で以前から問題意識を抱えていたといいます。

出発点は自分の子どもたちの未来への危機感です。私の暮らすこの地域は、すごく自然豊かで子育てにはとてもいい環境だと思うんですが、反面少子高齢化は着実に進んでいます。小学校も保育園も廃校になり、どんどん子どもの声が聞こえなくなる場所で「子どもたちは何を感じるのか」「自分の住んでいる土地に未来を感じるのか」という思いがありました。

その上で、子どものために何ができるか、大人は何を示せるかという疑問を抱えていたんです。

そんなときに見つけたのが秋田ソーシャルデザインの学校でした。

地域の課題を地域で解決する考え方がいいなと思いました。それがこんな何もない場所でも可能なのか試してみたかったんです。

小玉さんにとっての地域の課題とは少子化であり、ゴールは「子どもたちが自分の住んでいる土地に未来を感じられる」こと。そのために何をしたらいいのかの探求が始まります。

最初はお母さん同士、子ども同士が学び会える学校を考えたんですが、それが地域の未来につながるか答えが私には見つかりませんでした。そこから、自分のやりたいことと、「地域のため」という社会性の間で揺れて、学校に行くたびに考えが変わりました。

当初私は、地域づくりは「地域に暮らす人たちみんなが幸せであること」が大事で「自分のエゴではだめ」と考えていました。やりたくなかったりできないかもしれないことでも、「地域のため」にやろうとしてしまっていました。でも、実行できなければなんの意味もないので、やっぱり自分のやりたいことをやろうと思い直す。そうすると今度はまた「エゴではだめ」と考えてしまう。それを繰り返していたんです。

「地域のため」とはいったいどんなことなのか、その答えのない問を解く道筋を求めて小玉さんはさまよっていたのかもしれません。小玉さんはそれを「ブレ」と表現し、「自分に軸がなくて良くない」と考えていたそうですが、ブレるということは人の考えを吸収して前に進んでいるということでもあります。実際にあるきっかけで小玉さんはゴールへの道筋を見つけます。

すごく覚えているのが小野さん(スクールでファシリテーターを務めたグリーンズビジネスアドバイザーの小野裕之)に「それって小玉さんがやって楽しいの?」って聞かれたことです。そのときに原点に戻ろうと思いました。

私の原点は子どもがここに住んでて楽しいとか面白いと思える瞬間をつくること、そこはブレずに行こうと決めたんです。そうしたら、自分の子どもが楽しければお友だちもきっと楽しいだろうし、それが広がっていったら結果的に地域の楽しさや賑わいにつながるかもしれないと考えることができて、ゴールが見えたんです。

「地域のため」と自分がやりたいことは地続き

小玉さんが気づいたのは、自分のやりたいことと地域のためになることは背反しているのではなく連続しているということ。たしかにそう考えれば自分のやりたいことを起点にして地域のために動くことができそうです。

自分が本当に見たい未来を先に決めてその達成のためにどう地域を巻き込むかを考えるようにしたら、ポンポンとアイデアが出てきました。先にほしい未来をつくって、じゃあどういうアクションをしたらこの未来に辿り着けるかと考えたら迷いがなくなったし、その方が楽しかったんです。

自分がほしい未来にたどり着くためには、自分が楽しいのが一番。それで周りが楽しそうだと興味を持ってくれたらいい。だから地域に「こうなってほしい」などと求めなくなりました。

地域には、今のまででいいと思う人もいれば不満があるけど受け入れてる人もいるし、変えなきゃと思う人もいる。そういう色んな人がいるのが地域なので、私はこう思うから変わってほしいと求めるのは違うと感じています。

それぞれが地域のためを思ってそれぞれのやり方で活動する。それをお互い尊重できるような関係づくりが大事なんです。

地域づくりははじめから地域にとってのゴールを定めてそれに向かっていくことではなく、ひとりひとりが自分がほしい未来に向かって進んでそれぞれのやり方で活動し、それが合わさることが重要。そんな考えに小玉さんはたどり着いたのです。

アスファルトを地域の誇りに

自分がやりたいこと、やるべきことを見つけた小玉さんは具体的なアクションへと移ります。

地区の子どもたちにも喜んでもらえて、もっと広い地区の人にも来てもらえるものと考えたときに、子どもが自分の地区を誇れるようになる自慢できるものがあるといいと思ったんです。それで豊川油田があることをはじめて知りました。

調べると、豊川油田のアスファルトは縄文時代からの長い歴史があり、日本初のアスファルト舗装に使われているなど、子どもに自慢したい気持ちになったんです。あなたの住んでるところはなにもないかもしれないけど、こんなすごいところだったんだよと。それで豊川油田にまつわるイベントにしようと。

最初は、油田のすごさを子どもたちに知ってもらおうと思ったんですが、途中で「答え」を押し付けるのもどうかなと思いはじめて。この場所に価値があるかどうかを決めるのは子どもたち自身のはずだから、こういうところがあるんだよってところまで教えて、あとは子どもたちに任せるほうがいいんじゃないかって。それで、豊川油田ってところがあるんだよっていうことを知ってもらうことを目的に企画しようと思いました。

豊川油田の廃墟と化した遺構。

そのために大事なのは「答えを用意しないこと」だと言います。

まず楽しそうな催しがあって、それで来た人が「なんでここでこんなことやってるんだろう」って考えてもらえるようなイベントがいいと思って、じゃあなんだと考えると、豊川油田はアスファルトの日本有数の産出地で、アスファルトは縄文時代に接着剤として使われていた。じゃあ、ある意味接着剤のルーツだし、接着剤のイベントをやったら面白いんじゃないかと思ったんです。

接着剤を使うなら親子で体験できるイベントができそうだと思って調べたら、接着剤で絵を描く現代アートの作家さんがいると知って、子どもにとって本物のアーティストの方に教わるってインパクトが強烈でずっと残るので、接着剤で絵を描く体験ができたらいいなと思って。アーティストの冨永ボンドさんに連絡したら来たいと言ってくださったので、それで行こうと決めました。

豊川油田は天然アスファルトが自然湧出しているという全国的にも珍しい場所。アスファルトは舗装に使われることは知られていますが、熱すると解けて冷やすと固まることから縄文時代は接着剤として使われていました。東北地方ではアスファルトで補修された縄文土器や土偶、アスファルトで接着した跡の残る矢じりなどが多数出土しています。

そんな歴史もあって小玉さんは豊川を「接着剤の聖地」と命名、昨年3月の秋田ソーシャルデザインの学校の発表会で企画発表を行い、実現に向けて動き始めます。

行政には行政の役割がある

会場は少子化の象徴である元小学校に決めますが、イベントの実現はそう簡単ではなかったようです。

イベント会場が市の公共施設で、貸し出しを始めたばかりだったので、なおさら難しかったのかもしれないですが、地域のためという私の思いを理解していただくのには時間がかかりました。役所の担当者だけでなく、教育委員会や市長にも会いに行って話を聞いてもらいました。一市民が発案した企画を行政の施設を使ってやるというのは容易なことではないのはわかりました。

ただ今回やってみて、行政も地域に対する思いがあり、役割が違うだけだと感じました。違いを認めた上で一致点を見つけることが大事なんです。私自身が行政には行政の役割があると理解した上で、行政の包容力を求めるための努力は必要かなと。

個人が地域で活動をするときに行政が壁になる可能性はあります。その場合にもそれぞれの役割があることを理解することが大事だと言うのです。苦労したからこそ言える言葉だと思いますが、そこに至るのはやはり大変そうです。

ただ、苦労した甲斐あってイベントは大成功に終わったそう。

ただ絵を描くだけじゃなくて、いろんな出店があるお祭りみたいな楽しい空間にして、家族でなるべく長い時間楽しめるっていう内容にしました。親は子どもの新しい部分を発見できて、子どもは親とコミュニケーションを取って、それが思い出に残るような、親子が一緒に来て楽しかったねって帰れる場所をつくるのにはこだわりました。

目標1000人で、実際には1500人くらいに来ていただけました。新聞に載ったおかげで地域外の人の参加を多く、賑わいをつくることができました。

イベントのワークショップの様子。

イベントを経験して、そこからどんなことを学び、今後はどう地域に関わっていこうと考えているのでしょうか。

イベントとしては大成功でしたが、個人的には課題が残りました。たくさんの人に来ていただいて喜んでいただけてすごく良かったと思うんですが、地元の方とか地域の方の反応があまり感じられなかったですし、一回大きなイベントをやってそれが地域にどういう影響があったのかまだ見えてこないので、地域づくりという意味ではまだ成功か失敗かわからないというのが正直なところです。

今後も続けるつもりですが、感じた課題を踏まえて、やり方を考えていきたいです。イベント以外の方法もあるだろうし、豊川油田以外の財産があるかもしれない。自分の子どもたちに楽しんでもらいたいという軸は保ちつつ、何かしら地域に貢献するという側面も求めていきたい。継続することに意味があるとは思うんですが、どういう形で続けていけばいいのかは模索していきたいです。

自分のやりたいことから始めたことが実際地域にどういう影響を与えたのか、それが見えてきてから続け方を考えたいということのようです。「子どもが楽しいと思える瞬間をつくる」という原点からブレずに地域と関わる方法は見つかったのでしょうか。

今回の経験で、地域の一員として自分にもできることがあるかもしれないという可能性に気づきました。まったく違う人がいてもそれを受け入れてくれるのが地域で、自分が好きなことやって地域に貢献できるのであれば、そういう人がたくさんいることで自然と地域は栄えるんじゃないかと思うようになったんです。私は私の考えとやり方で地域に貢献したいと思うようになりました。

そういう発想を持てるようになったのも、スクールで自分と違う人の意見をたくさんもらえたからだと思っています。そういう意味で私は参加してよかったと思っています。

ただ、私はまず家族があってそこから地域と結びつけてやるという視点を持つことができたので、地域といってもスタートは狭い範囲でいいことに気づけましたが、受講生の中には「もっと大きな地域を変えなきゃ」と思ってしまう人が多いようには感じました。それで難しく感じてしまう人も多かったんじゃないでしょうか。

地域づくりってゴールがわからないので難しいことも多いですが、私は自分自身が一番楽しく続けられる方法を探していきたいと思っています。

「地域づくり」というとどうしても市町村単位とか、狭くても地区というある程度の広さを持ったエリアのことを考えてしまいがちです。でも、もっと狭い地域に目を向けて、そこで自分ができることをやる、そこから地域づくりが始まるんだ、ということを小玉さんの話から強く感じました。

人間が2人いればそこには社会ができるというくらい、小さな集団も社会の形。地域づくりの出発点としてソーシャルデザインを学ぶとは、つまり小さな集団からのはじめ方を学ぶことなのかもしれません。

秋田県だけでなく全国に蒔かれた種

2年間で秋田ソーシャルデザインの学校を受講したのは20人、その中には小玉さん以外にも実際のアクションを起こしている人、まさにおこそうとしている人が何人もいます。

例えば、秋田出身で、現在は神奈川県在住の長澤愛美さんは首都圏の人が「いいな」と気軽に感じる秋田の暮らしを知ることができる空間づくりを目指し活動中。2019年度にすでに東京で「\秋田に行ってみたくなる/暮らしbar」を開催。この活動を今後も続けていくとともに、オンラインでも秋田の魅力を発信し、Instagram連動型の写真展の実施も目指しています。

小玉さん、長澤さんと同じ一期生で、鹿角市在住の坂本寿美子さんは、今は”閑古鳥が鳴いている”鹿角市毛馬内の商店街を活性化させるためマルシェの開催を企画しています。気軽にブレストできる空間「醸 on Bar」を開催しながら、今年6月に実行委員会を発足させ、8月には実験的なマルシェの開催を目指す予定です。

二期生で、北秋田市でゲストハウスを運営する織山英行さんは、マタギ文化を取り入れたサウナ小屋の設置を計画。観光客と地域のサウナ愛好家が交流できるサードプレイスとして8月11日のグランドオープンを目指します。

ほかの受講生のお名前と活動地域、活動内容をご紹介します。

1期
佐藤洋光さん(秋田市) 「CoCoホ〜ム」
川村忠寛さん(八峰町) 「放置柿を活用したエナジーバーの開発」
佐藤正和さん(羽後町) 「地元高校生の『やりたい!』を叶えるための『みらいクリエイティ部』の実施」
山本博輝さん(横手市) 「じゅうもんじファンミーティング」
2期
佐藤存さん(潟上市) 「カラフルウオーターガンフェスティバル」
櫻井梢さん(秋田市) 「中高生が将来に関する悩みや希望を語り合えるネットワークづくり」
齋藤小夜里さん(由利本荘市) 「県民歌令和バージョン制作プロジェクト」
花下哲さん(能代市) 「能代美食倶楽部」
太田賢さん(由利本荘市) 「ゲレンデミーティング}
熊谷涼さん(秋田市) 「communal house」
佐々木美郷さん(秋田市) 「衰退する地域、消えゆくインフラを救え!消滅危機の街から始まる旅人の朝。 朝ごはん商店街」
新井真知子さん(にかほ市) 「仁賀保高原 星空とクラシック」

リストを見ると、ソーシャルデザインの種はすでに秋田県全域に蒔かれていることがわかります。秋田県はかなり広く、北部と南部では文化も異なり、それぞれの魅力があり、県全体が変わるにはかなり時間がかかりそうですが、小さな地域から少しずつ広がっていくことで全体を少しずつ変わっていくのだろうと思います。

小さなことからコツコツと地域を良くしていこうとしている皆さんの活動を応援していきたいです。

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