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ママたちが自然体で支え合い、心地よいコミュニティを育む。奈良県生駒市の「いこママまるしぇ」から回り出すグッドサイクル

あなたは身近に、心地よいコミュニティはありますか?

高度経済成長期以降の都市化したライフスタイルは、ゆっくりと地域のコミュニティを希薄にしていきました。加えてSNSやスマートフォンの普及により、私たちは直接会わなくても世界中の人々とつながれるようになりました。

そんな中、奈良県生駒市で2014年4月から始まったマルシェ「いこママまるしぇ」は、同じ地域に住むママたちを中心にした心地よい関わりをつくり、たくさんの人の“うれしい”や“支え合い”の循環を起こしています。

今回は、そんなグッドサイクルなコミュニティを生み出す「いこママまるしぇ」のお話をお届けします。

変化し続けるマルシェ

「いこママまるしぇ」は毎月第3木曜日の10時から14時、近鉄生駒駅前にある商業施設「ベルテラスいこま」の広場「ベルステージ」で開催され、2020年の5月で実に70回目を迎えます。

この日用意された12のブースには、ハンドメイドの商品やマッサージ、カラーボトル診断、耳つぼジュエリー、手形アートなどのお店が並び、子ども服の交換会や絵本の読み聞かせが行われたり、キッズスペースがあったりと子連れのお母さんが来やすい企画が展開されていました。

子育て世代だけでなく、年配の女性やたまたま通りかかったおじさんがお店の人と話したり、出店者さん同士の交流があったり。多世代が自由に行き来する、ゆるやかな時間が流れていました。

実行委員長の佐村さえこさんに、「いこママまるしぇ」の目的を尋ねると、「う〜ん、難しい!」と苦笑いしながらこう話します。

佐村さん 結婚や出産で仕事はやめてしまったけれど、技術や得意なことが活かせるママの活躍の場をつくりたかったというのがひとつ。もうひとつは、子育てで大変なママが気軽に遊びに来れる居場所をつくりたかったんです。

ママって、「子どものために」といった理由がないと家を出にくいものなんです。だから、ついつい家に引きこもりがちになっちゃう。そんなママたちに、「明日マルシェがあるから今日をがんばろう!」って楽しみにしてもらえるような場でありたいって思ってます。

運営を手伝うボランティアスタッフも、まちのお母さんたち。一方、出店者はお母さんに限定していません。「独身の女性でも、おっちゃんでもOK。そこはゆるいんです」と佐村さん。当初は「ママによるママのためのマルシェを」という考え方でしたが、続けていくうちに、「ママを楽しませてあげたいな」「うちの店を知ってほしいな」で十分だと思うようになっていったそう。

佐村さん 得意も年代も性別も、いろんな人が混ざっちゃった方が、穴を埋めやすいというか、与え合えるものが増えるなって。その方がみんなうれしいって気がついたときに、「出店者はママ限定にしなくていいやん」って、ふと思ったんです。

出会いが善意や学びをつなぐ

会場の「ベルステージ」は、老若男女問わずたくさんの人々が行き交う駅前の公共空間。だから、イベントを知らない人もやってきます。

シニア世代が家に保管してある子ども服やおもちゃを持ってきてくれたり、「老眼が進んで縫い物ができなくなったから」と、生地や毛糸、貝ボタンなどを紙袋いっぱいに持ってきてくれたりもするのだそう。

それをボランティアや出店者で分け合う姿を見るのが、佐村さんはとてもうれしいと話します。

佐村さん 好きで買った生地って捨てられないじゃないですか? でも、私は縫い物できへんと。娘も縫わへんと。で、なんか駅前のイベントで縫い物してる人たちがおると。「じゃあ使ってもらおう」って持ってきてくれた生地に「えー!いいんですか!?」って目を輝かせてママたちが群がって、持ち帰って、翌月それが新たな商品になっていたりするんですよ。

そこに、そのおばあちゃんがまたやってきて、商品として売られているのを見て、うれしそうにしてるんです。この循環、めちゃめちゃよくないですか?(笑)

また、出店者には、「求められることを知る機会になっていると思う」と言葉を続けます。

佐村さん つくったものが売れるかなんて、売ってみなきゃわからないですよね。今はスマホのアプリを使えば商品を気軽に売れるけど、ネットで出品して売れないのと、マルシェに出店して売れないのでは、結果は同じでも全然違います。

目の前でお客さんが手に取ってくれたとか、「違う色はないんですか?」と聞かれるとか、たとえ売り上げがゼロだったとしても、お客さんが何を求めているのか知ることができる。出店を悩んでいる人がいたら、「そこを目的にしたらいいんじゃない?」とアドバイスしています。

「いこママまるしぇ」を始めた2014年は、ちょうど「ベルテラス生駒」がオープンする年でした。「ベルステージ」の使い方を考えるワークショップを市役所が開催したところ、参加者から「マルシェがあったらいい」という声が上がり、開催経験のあった佐村さんに声がかかったのだそう。

佐村さん 知り合いから「ベルテラスでマルシェをやってほしい」って連絡をもらったのがきっかけなんです。そこから6年、本当にいろいろありましたし、市役所の方とも何度も喧嘩しましたけど、それでもずっと応援してもらって、ありがたいなと思います。

楽しみ、踏み出す、生駒のママたち

「いこママまるしぇ」を通じて佐村さんと出会い、関わり続ける人たちにもお話を伺いました。

「sweet bird」の屋号で活動する、ハンドメイド作家の橋本知子さんは、第一回目の「いこママまるしぇ」から出店している最古参の一人で、実行委員にも名を連ね、運営スタッフとしても活躍しています。

子ども用水筒の肩紐カバーが橋本さんの看板商品

「マルシェに関わるようになってからは、どこに行っても知ってる人に会うんです」と笑顔で話してくれる橋本さんですが、二人のお子さんが幼い頃はとにかく必死だったそう。だからこそ、マルシェにやってくる子連れのお母さんが困っていたり、しんどそうにしていたら声をかけて、話し相手になったり、自分の経験を伝えたりしているといいます。

お客さんや出店者とつながっていくにつれ、橋本さんへの「こんなものをつくってほしい」「こんな色でつくれますか?」といったオーダーも増えています。

橋本さん お商売を大きくしていきたい気持ちはあまりないけれど、これからもママさんや子どもから求められるものをつくっていきたいです。

「cocoron」の屋号で活動するもりたみやこさんは、手編みで小物などをつくる作家さんです。もりたさんも四人の子どもの子育てをしながら初回からマルシェに参加し、販売したり、手編みワークショップをしたり、ときには運営のボランティアスタッフとして関わってきました。

ネットショップでの販売経験もありますが、マルシェでは「つながりが広がっていくこと、買ってもらった後のことがわかるようになった」と話します。ブローチを買ってくれたお客さんが、翌月それを身につけて来てくれたり、「孫にプレゼントしたい」というご年配の方の商品を一緒に選んだりすることもあったそう。

もりたさん これからも、自分が楽しみながら活動できるペースで、ものづくりや、ゆったり楽しんでもらえる編み物教室をやっていきたいなと思っています。かぎ針一本と毛糸があればいろんな物が編めるので、興味がある方はぜひ編み物しにいらしてください(笑)

内山喜実子さんは、幼稚園教諭として働くお母さん。現在は育休中で、この春から復職する予定です。育児に悩んだ時期に出会った「キッズコーチング」という子育ての考え方に感銘を受け、わずかな空き時間を使って「キッズコーチングマスターアドバイザー」の資格を取得しました。

「自分が救われたこの知恵を他のママにも伝えたい」

そう思っていた内山さんは、「子どもの気質診断」という内容でマルシェに出店するようになります。

内山さん 佐村さんに出会ったときに「子育て支援がしたい」と伝えたら、「なんでもやれることあるよ」って受け入れてくださったんです。その後も無料講習会をさせてもらって、とてもありがたかったです。もうすぐ復職するんですが、落ち着いたら休みの日にでも、私にできることをさせてもらいたいと思ってます。

みんなの声から始まった新たな挑戦

約6年間、たくさんの人たちと協力しながらマルシェを開催し続けてきた佐村さん。その原動力となる体験は、自身の子育ての中にありました。

佐村さんは熊本県の出身。結婚して生駒に来た頃は、当然地域に友人は一人もおらず、ひたすら我が子と向き合う日々。「結構しんどかった」と、当時を振り返って笑います。

佐村さん そんなときに助けてくれたのは、新たに知り合うママ友だったんです。一人二人と友達が増えていくに連れて、気持ちが楽になっていきました。もちろん支援センターもあるし、お稽古ごともあるけれど、ママ同士が知り合うきっかけなんていくつあってもいいじゃないですか? マルシェもそのひとつになれたらいいなぁと思って続けています。

しかしある日、思いも寄らない声が届きます。それは、「得意なことがあるママはいいよね」「『いこママまるしぇ』は決まったメンバーで運営されていて、手伝う余地がないよね」というものでした。

佐村さん どこかで、一部のママたちをシャットアウトしていたんじゃないかって。「間口ここにありますって言わなきゃ!」と思いました。

“いつも開いている間口”をつくるため、佐村さんは「手伝いたい」という意思のあるママを募集し、マルシェのスタッフなど、それぞれが自発的に地域と関わるしくみをつくります。やがて、集ったり、何かを一緒に生み出したりする場の必要性を感じるようになったといいます。

そしてチャレンジしたのが、手作り市「こま市」の主催者である丸山尚子さんとタッグを組んだ、ママたちの新たなきっかけになる拠点づくり。

物件の改装資金はクラウドファンディングで募り、見事163人から1,581,000円の寄付を集めることに成功。それを元手に、2019年10月1日、地域の誰もがくつろぎながら食事や講座、飲み会や物品販売など、様々に交流ができる空間が誕生しました。それが、シェアキッチン&コミュニティスペース「グッドネイバーズ」です。

さらに、佐村さんと丸山さんは、この場所と、それぞれが持つ知見とネットワークを活かして、ママの小さな仕事を生み出す「ママワーククリエイト事業」をスタートさせました。

佐村さん つくることが得意な人、写真を撮るのが好きな人、パソコン入力が得意な人、SNSのフォロワーがやたら多い人、昔営業をやってた人など、いろんな人の“これができます”を持ち寄って、みんなで仕事したらいいやんってことなんです。その小さな組織の事務局を「グッドネイバーズ」が担っていきたいです。

最後に、「いこママまるしぇ」や「グッドネイバーズ」といった取り組みを続けていった先で、どんな未来がほしいのか聞いてみると、佐村さんらしいこんな答えが返ってきました。

佐村さん 生駒に引っ越してきた人が、まず市役所に行くみたいに、「グッドネイバーズ」を訪ねてきてくれるようになってほしいです。あの病院がいいらしいとか、あそこのお店がおいしいとか、役場とか不動産屋さんでは教えてもらえないまちの生の情報が手に入る場所になりたい。「なんかわかんないけど、とにかく困ったらあそこに行けばいいらしいよ」みたいな、「変な窓口」になりたいです(笑)

「いこママまるしぇ」は、飛び抜けてお洒落なイベントではありません。何万人も訪れて、たくさんのお金を生み出すイベントでもありません。一見すれば、素朴で地味だと思えるかもしれません。

でも、近寄って見ると、そこにはその瞬間、心が安らぐお母さんの姿があります。世代を超えて思いやる人々の姿があります。出会いを糧に次に踏み出す一歩があります。それは、まちの未来を長い目で見たときに、お金や評価指標では換算できないグッドサイクルが回り出す瞬間でもあるのです。

(イベント写真: 稲垣明依)
(インタビュー写真: 都甲ユウタ)

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