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バラバラが丈夫なひとつになる。木製パレットのアップサイクルで、家具とつながりを生み出す、「SIL」宮尾隆弘さん。

運送や倉庫での製品保管などで重宝されている木製パレット。年間約4,500万枚が生産されているとされますが、それらは幾度も使用される中で汚れ、傷つきやがては活用されることなく、廃棄されています。

年間約90万トンに上ると推定される廃木製パレットは、これまでチップ化や燃料化、エネルギー回収を伴う焼却などでリサイクルされてきましたが、パレットを味のある木材としてアップサイクルし、新たな命を吹き込む事業が和歌山県有田川町で進行しています。

SIL(エスアイエル)の代表を務める宮尾隆弘(みやお・たかひろ)さん。有田川町出身の41歳です。地元の高校を卒業後、大阪での勤務を経て、Uターン後は長らく福祉職に就いていたという宮尾さん。そんな宮尾さんが木製パレットのアップサイクル業を立ちあげるに至ったのは、捨てられていくものに新たな命を吹き込みたいという想いがきっかけになったといいます。

SIL代表の宮尾隆弘さん

青果市場や運送会社、米穀店などで勤務する何人もの知人から木製パレットの処分に困っており、処分もそのほとんどが焼却されていると聞き、率直にもったいないなと感じました。

木材加工や家具づくりの経験がなく、県内に同業の方もいませんでしたが、捨てられていくものに自分が手を加えることで、また誰かに大事に使ってもらえるものにできればと思い、大阪の同業の方から話を聞き、2018年にSILを立ちあげました。

使われなくなったものに新たな命を吹き込む

同社では処分に困っていた事業者から木製パレットを引き取り、地元の鉄工所と協働で自社開発した専用のバールを用いて解体し、一つ一つの木材の大きさや傷、汚れといった個性を見極めて選別。サビや変形など手作業で抜くことが難しい釘を専用の機械で抜き、成形、圧着、研磨などを施し、独特の味と風合いで人気を集めるオーダーメイド家具や展示用什器、キャンプ用品へと生まれ変わらせ、自社や協力店舗で販売しています。

引き取った木製パレット

また、立ち上げの際には廃業すると聞いた建具店から処分されてしまう予定であった木材加工機械を譲り受け、近所の使われなくなった農業用倉庫を借りて工場にするなど、ここにも“使われなくなったものに新たな命を吹き込む”という宮尾さんの考えが生きています。

SIL外観

このような同社のアップサイクルの技術は、廃棄予定のものを加工し、価値ある製品として再利用するという点や環境負荷の低減に資する取組であることが評価され、2019年7月、和歌山県が中小企業の優れた技術・製品を登録する産業表彰制度「1社1元気技術」に選ばれるなど、外部からも評価を受けています。

登録証を授与される宮尾さん(右)

アップサイクルをきっかけに新たなつながりも

2019年8月には、瀬戸内国際芸術祭の開催地として知られる香川県の直島において、主に着物を紬糸などへとアップサイクルする事業を手がける株式会社リクラが開催したイベント「KIMONO YARN ×」にアップサイクル事業者のコラボとして、自社の展示用什器を提供しブース出展も行うなど、県内外を問わず自社に留まらない新たな広がりも多くなってきているそうです。

「KIMONO YARN×」でのSILブース

また、地元でも親しまれ、カフェやベーカリーをはじめとする飲食店の什器の引き合いやキャンプ用品の注文があるほか、地域で長年続く秋祭りの祭囃子の太鼓台や同町で開催されたイベント「ベーネみかんフェスタ」の出展者用組み立てブースも製作するなど、同社の製品が活躍しています。

また、和歌山県や和歌山大学等による実行委員会が開催した「おもしろ環境まつり2019」へもブース出展を行い、アップサイクル事業の展示・説明を通じて環境活動の普及啓発にも貢献されました。

同社がアップサイクルで製作した組み立てブースレンタルも行っている

木製パレットを使った製品のよさは、新建材には出せない味を出せることと複数の材を組み合わせられるところだと思います。世の中にはまだまだ捨てなくてもよいものが山ほどあると思うんです。そういったものの中からも、自分の力で拾えるものがあれば、新たな命を吹き込んで、誰かに喜ばれる存在にできればいいなと思っています。

笑って楽しみながらいいつながり、いい作品を

屋号のSILはSMILE is LIFEの頭文字をとったもの。この仕事を通して笑って、楽しみながらいい作品、いいつながりをつくっていきたいという宮尾さんの想いが宿っています。

家具づくりの中でもとりわけ好きなのが、様々な種類の大きさもバラバラな木材からベンチなどひとつのものを作りあげたときなんです。ひとつひとつの材は小さく弱かったとしても、圧着し、寄り添うことで、強く丈夫なひとつのものになります。

これって一人ではなく、いろんな人が協力して物事を成し遂げる人と人のつながりに似ていると思うんです。この仕事を通していいつながりをたくさんいただくことができています。次は自分もそういったつながりをつくれる存在になれればと思っています。

宮尾さんこだわりの多数の材を組み合わせベンチ

有田川町といえば再生可能エネルギーの導入やごみ資源化の徹底により各方面から評価を受ける「エコのまち」として、注目を集めています。また、米・オレゴン州ポートランド市を手本にした「住民主体のまちづくり」に取り組むまちとしても知られています。

以前紹介したエコなみかん農家の松本祐典さんなど、「エコ」と「まちづくり」をキーワードに活躍する人々が多くなってきているなか、アップサイクルというエコな点、事業を通して人と人とのつながりをつくっていくというまちづくりにも通じる点を併せ持つ宮尾さんの活躍でますます有田川町がおもしろくなっていく様子が想像されました。

(Text: 上野山友之)

上野山友之

上野山友之

2015年有田川町役場入庁。環境衛生課にて再生可能エネルギー事業ならびに気候変動対策事業に携わったのち、現在は和歌山県庁企業振興課へ出向中。経済性とまちのイメージを両立した持続可能なまちづくりを目指す。

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