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窮地は一発逆転のチャンス! 大阪ガスの「SDフォーラム」から学ぶ、持続可能な社会をつくる総力戦のチームワークとは

突然ですが、なぞなぞです。
遠いようで近く、近いようで遠いもの、なーんだ?

大多数の人々にとって、その答えの1つに“持続可能な社会”が当てはまるのではないでしょうか。一見豊かに感じられる日本でも7人中1人の子どもが貧困問題を抱え、またゴミのリサイクル率はわずか20%で、約20年後にはゴミの埋め立て場は満杯になると言われています。(厚生労働省環境省の調査結果より)

遠い未来の話ではなく、国連サミットで警鐘を鳴らされるほど危機的な状況は間近に迫り、日常に密接した事柄ながら他人ごととして捉えられがちなのが、持続可能な社会です。

そんな中、多様性が尊重される社会をつくろうと、SD(ソーシャルデザイン)を合言葉に掲げ、社会貢献活動を意欲的に行っている企業が大阪ガスです。先日、Daigasグループの社員が一堂に会する、第5回「SDフォーラム」が開催されました。

このフォーラムは、Daigasグループの社会貢献活動に関して理解を深める1部と、社外のNPOの先進事例を学ぶ2部で構成されています。「さっきのなぞなぞ、私に当てはまるかも……」という方は、ぜひ以下のレポートをご覧ください。

毎年開催されているSDフォーラム。今年は約240名が来場し、ネット中継で参加する方々もいらっしゃいました。

受付には、なんと人型ロボットPepperくん。障がい者就労支援として遠隔操作されているというから驚きです。

パソコンのリユースで
障がい者就労支援とIT支援

第1部「Daigasグループの社会貢献活動紹介」のトップバッターは、Daigasグループの情報システム会社である株式会社オージス総研で社会貢献活動推進室に所属する高岡奈津美さん。テーマは「はじまるくんパソコン寄贈プログラム」です。

オージス総研では、協賛企業・団体などから使用済みパソコンを回収し、障がい者就労支援として福祉作業所に再生作業を依頼し、IT支援として福祉施設やNPOなどにリユース・パソコンを寄贈しています。2019年11月現在、Daigasグループの12社2団体が協賛企業としてこの活動を支援し、119施設に140台のリユース・パソコンを寄贈。すでに今後の増加も決定しているそうです。

高岡さん 今年で10周年を迎え、累計寄贈台数は3,000台を突破しました。ですが、オージス総研が受ける年間1万台の使用済みパソコンのうち、はじまるくんパソコンとして寄贈に至るのは5%程度しかなく、まだまだ寄付金に余裕がないのが現状です。障がい者の方々の社会参加を進めるため、これからも協賛企業を拡大したいと思っています。

「使用済みパソコンの提供や再生を介し、多くの人々が社会貢献に参加できる場を増やしたい」と高岡さんは語ります。

スポーツを通じて
多様性に応じた地域貢献

続いては、Daigasグループ主催のスポーツ活動に携わる2組の社員です。「Daigasグループのスポーツ×社会貢献」というテーマの1組目として、地域に根差した運動・陸上クラブ「NOBY T&F CLUB」に携わる柏原忠明さんのプレゼンがはじまりました。

柏原さん 「NOBY T&F CLUB」は、当社従業員でありオリンピックのメダリストである朝原宣治を主宰とし、2010年4月に設立しました。対象は小学生から大人まで、現在の最高齢は83歳です。オリンピック経験者や実業団の優勝者がコーチを務め、専門的な陸上トレーニングだけでなく、基礎体力を養う運動プログラムやマナー育成なども行っています。

スポーツを介して地域がより元気になるよう、大学と提携してプログラムの提供やコーチの派遣を行ったり、小・中学校の体育授業を受け持ったり、行政と共同で健康的な体づくりに向けた情報を発信したりしています。

「地域貢献とトップアスリートの育成に努めます」と話す、近畿圏部・地域活力創造チームの柏原さん。

2組目は、社会人野球の第45回日本選手権大会で念願の初優勝を飾ったばかりの、硬式野球部コーチの藤本和隆さんと投手の猿渡眞之さん。ユニフォーム姿の2人が登場すると、会場から祝福の拍手がワァッと湧きました。優勝という偉業もさることながら、練習の合間を縫って、社会貢献活動も積極的に行っているのです。

初優勝はSDフォーラム開催の約1週間前のことだったので、選手も社員の方々も興奮冷めやらぬまま!会場の入り口には大きな優勝旗が広げられていました。

藤本さん グラウンドやキャンプ先の周辺地域の清掃活動に加え、2013年4月からは「ハートボールプロジェクト」を実施しています。福祉作業所の就労支援としてボールの修繕を1球50〜200円ほどで依頼し、西宮市内の高校球児に贈るという、環境にも配慮した取り組みです。寄贈数は現在2000球以上となりました。さらに、折れてしまったバットを素材としたペン立てやマッサージ棒をつくるなど、製品の幅も広げています。

「最近では高校から福祉作業所に直接依頼するなど、関係性が発展しています」と解説する、近畿圏部・ソーシャルデザイン室の藤本さん。

会場の入り口に飾られた、ハートボールプロジェクトのボールで生まれたリサイクル・ボール。

猿渡さん 地域の子どもたちに野球を教える「プチ野球道場」という活動にも取り組んでいます。20〜30名の生徒に対して8名の野球経験者が、個々の特性に合わせた多彩な指導メニューで広く深く質の高い指導をしています。また、座学の時間も設け、野球の技術だけでなく日頃の生活を含め、子どもたちの悩みや今後について気軽に話せる時間をつくるようにしています。

「マウンドより緊張しますね」と言って会場を笑わせる、リビング事業部・計画部・人材開発センターの猿渡さん。

“エネルギー屋”の大阪ガスが
ソーシャルデザインに励む理由

プレゼンのバッターを交代し、続いて大阪ガス・近畿圏部ソーシャルデザイン室の山納洋さんより「Daigasグループのソーシャルデザイン活動」が発表されました。「住みたい・住みよいまちづくりへの貢献」というミッションのもと、行政・市民・NPOなどと多彩なパートナーシップを築きながら展開する活動を紹介したうえで、山納さんはこう締めくくります。

山納さん 2050年を迎える頃、“エネルギー屋”である我々は、持続可能な社会に対して非常に大きな課題を背負うことになるかと思われます。エネルギーに限らず、より深刻化した課題が各地に山積しているかもしれない。その時、我々に何ができるのか。課題解決の礎をどこに見つけるのか。

来る日に備え、課題と価値を見据えて、パートナーと協働できる力を付けていきたい。そのために、我々はソーシャルデザインチームを核としてグループ全体に方向性を示しながら、持続可能な社会に向けて、共創活動により一層励みたいと思っています。

「社会を持続させるには、これまで以上のことをする必要があります」と、真剣な表情で参加者に語りかける山納さん。

鬼気迫る山納さんのプレゼンに参加者の心はグッと引き込まれ、顔つきも変わっていきました。

ピンチをチャンスに変える
チーム戦にある自分の役割

第1部の最後にフォーラムの基調講演として登壇したのは、一般社団法人ダイバーシティ研究所・代表理事の田村太郎さん。Daigasグループの社会貢献活動に理解の深い田村さんの講演テーマは「DaigasグループとSDGs」です。

「SDGsって何?」という方もきっと多いですよね。SDGsとは、2030年までの実現を目指し国連サミットで採択された「持続可能な国際社会共通の目標(Sustainable Development Goals)」のこと。人類が「やるやる」と言って逃げてきた宿題を全て盛り込んだような内容で、人権と環境の多様性に配慮ある社会づくりに向けた17のゴールと169のターゲットが設定されています。

気象変動・エネルギー・ジェンダーなど、17のゴールが置かれたSDGs(環境省のホームページより)

硬式野球部の使用済みバットを用いて製作された「DaigasグループSDGsバッジ」。参加者全員に配布されました。

田村さん 日本は世界で最も激しく人口が減少し高齢化する国です。たった20年間で若者は3割減り、高齢者は2倍になっています。世界の人々が今一番知りたいのは「この危機的状況を日本企業はどう対処するのか」です。だけど、その答えを持ち合わせた日本企業はゼロに等しい。考え方を変えれば、これはチャンスです。Daigasグループがそこを率先していこうじゃないですか。

「ただ、1人や1社でできることには限界があります」と田村さんは続けます。だからこそ、複数の利害関係者が責任を分かち合う“マルチ・ステークホルダー・エンゲージメント”が鍵となり、チーム戦の中で一人ひとりがどう関わっていくかが極めて重要になるのだと。

田村さん ぜひSDGsの17のゴールから、気になること・好きなこと・得意なことを重ね合わせ、どれか1つを選んでみてください。そして、そのゴールにおける現在の課題・将来の脅威・本来あるべき姿を考えてみてください。そうすればきっと、自分は今何をすべきかが見えてくるはずです。

“他人ごと”として捉えがちなテーマでも、田村さんの話術に掛かれば、思考回路は“自分ごと”に選手交代!

子どもの心の拠りどころ
一緒に幸せになるために

第2部のテーマは「社会がわかる!社会とつながる 〜子ども食堂・ワークライフバランス向上・災害救援〜」です。Daigasグループが学ぶべき社外のソーシャルデザイン活動として3組のNPOが紹介されました。モデレーターは、子育て支援と障がい者雇用を目的に大阪市立中央図書館の地下食堂「GIVE&GIFT」を運営し、NPO法人チュラキューブの代表理事である中川悠さんです。

日頃から各NPOと関わりのある中川さん。それぞれの活動の意義を導入として伝え、マイクをつないでいきます。

1組目のプレゼンターは、NPO法人西淀川子どもセンター理事の西川日奈子さんです。子どもへの暴力防止に努める「CAP(Child Assault Prevention)」のスペシャリストで当時保護司としても活動に従事していたことから、地元で虐待や非行などの防止と見守りのために、2007年から西淀川子どもセンターを運営しています。

センターでは、虐待・貧困・いじめなど家庭環境や学校環境に不安を抱える子どもたちが気軽に相談できる“人”と“場”づくりを目的に、孤食になりがちな子どもたちと一緒に調理して食事を摂る「いっしょにごはん!食べナイト?」や、読み書きを教える「てらこや活動」などを実施しています。

西川さん 子どもたちの願いはシンプルです。「一緒に幸せになりたい」と思っています。“一緒に”があるから、時に辛くて悲しくて苦しい思いをします。でも“一緒に”が外せないから回復力も強いんです。自主性を大切にしながら、この“一緒に”をしっかりサポートしたいと私たちは思っています。

西川さんは最後に「生きる・守られる・育つ・参加する、この4つが子どもの権利です」と条約を紹介してくれました。

働き方改革にもつながる
プロボノという支援の手段

2組目のプレゼンターは、認定NPO法人サービスグラント関西事務局の堀久仁子さん。サービスグラントは、職業上の知識やスキルを活用したボランティア活動を希望する「プロボノワーカー」と、ボランティアの受け入れ先をつなぐ中間支援団体です。2005年の設立以来、ワーカー登録者数は右肩上がり。関西だけでも現在1165名が登録しているといいます。

堀さん 時間・お金・情報の不足などから、ボランティア活動に参加したいのに参加できない人が日本にはたくさんいらっしゃいます。そこで、ボランティアの受け入れ先と相談し具体的な成果物を決める、ボランティアする側の活動時間を明確にし、チームを組むことで1人あたりの負担感を減らし、初めての方でも楽しく参加できる体制を整えています。

プロボノで得た経験は、ライフシフトのきっかけや、育児休業中の子育てママが職場復帰に向けた自信を取り戻すきっかけ、定年後の生き方を考えるきっかけなどにもなっています。今後も一人ひとりが参加しやすい活動の土台をつくり、ボランティアを必要とする団体をもっと応援したいと思います。

「プロボノで仲良くなった皆で飲み会をする“ウラボノ”もあるんですよ」と堀さん。サークル感覚で参加できそうですね。

ボランティア活動は
自分の家族の未来を救う

そして3組目のプレゼンターは、NPO法人災害救援レスキューアシスト代表理事の中島武志さんです。東日本大震災以降、全国各地の被災地に駆け付け、経験値が必要とされる「ボランティアコーディネーター」として現場を指揮。平時は、要配慮者への防災教育や講演会も実施しています。

まるで昨日の晩御飯について話すような、ごく普通の口調で「僕は2回、自殺を試みました」と話を切り出す中島さん。「だけど生き延びた。そして今は人を助ける仕事をしています。いらない人なんていないんです」。そんな力強い言葉から中島さんのプレゼンははじまりました。

クローバーのロゴマークが描かれた緑のバンダナが、中島さんのトレードマークです。

中島さん ボランティア活動は自主的に行うものだから、僕はみなさんに「行ってください」とは言いません。ただ被災後、一番の心配ごとは家族に会えないことです。安否が確認できないと、眠れないし食事だって喉を通らない。なので、まずは自分の家族を守るところから考えてみてください。

被災したらどういう状況になるかを事前に知っておくことで、将来自分や自分の家族が被災した時の行動を想定することができます。だから、「行ってとは言わない」って言葉に相反しますが、みなさん自身や家族のためにもボランティア活動は体験してほしいと思っています。

利他と利己の重要な結びつきをわかりやすく表現する中島さんの言葉が、参加者の心を打ちます。

いつからじゃなくて今から
他人ごとじゃなくて自分ごとに

最後に、第2部のプレゼンター3名から、ネクストアクションにつながる窓口が紹介されました。

西淀川子どもセンター・西川さん
どんな形でもご寄付はありがたいですし、励ましの言葉だけでもありがたいです。料理が好きな人は、月に1度、外部の方を招いて調理をご協力いただく「ボランティアシェフ」にぜひご登録ください。貧困というレッテルで切り分けず、みんなでパートナーシップを組んでいきましょう。

サービスグラント・堀さん
毎月第3水曜の夜と、時々土日の朝に、社会貢献活動を希望する人たちが集える場を開いています。そこでプロボノワーカーに関する説明もしているので、ぜひその会からお越しください。また、私たちのサイトからプロボノワーカーとして登録するとお知らせも随時流れてくるのでぜひ。

災害救援レスキューアシスト・中島さん
被災地に折り鶴を送ることはできませんが、ダンボールで作成した「アシスト瓦」には、応援のメッセージを添えて送ることができます。先日テレビでも取り上げられ、5000枚以上のアシスト瓦が台風15号の被災地に届きました。興味がある方はサイトでつくり方をご確認ください。

こうして、約2時間半の第5回SDフォーラムは幕を閉じました。

早速、写真を撮って情報を保存している方もいました。まずは信頼できる情報の収集。これが大事な一歩です。一人ひとりの進むべき道が定まったかのように、SDフォーラム終了後の会場は前向きな雰囲気に包まれていました。

遠いようで近く、近いようで遠い、持続可能な社会。
いつかじゃなくて今から、他人ごとじゃなくて自分ごとに、ぜひ変えていきましょう。

なぞなぞの答えを覆す鍵となるのは、一人ひとりが明確な思いを持ったうえで、組織や分野の垣根を越えて共同し合う、総力戦のチームワークです。硬式野球部の優勝という輝かしい功績にあやかって表現するならば、私たちが今すべきことは「一発逆転のソーシャルデザイン」と言えるのではないでしょうか。

持続不可能な社会に陥りつつある現状は、苦しい局面にある試合と同じです。バッターだけでなくランナーやベンチ、それぞれの役割がこれまでに増して重要になります。1球1球のボールを見極め、サインを送り合いながら、勝利というゴールを目指すこと。

今こそチーム総力戦で、ホームランを目指そうではありませんか?
(写真: 黒岩正和