上の写真は韓国の、とあるディスコの様子。お洒落な雰囲気の会場でダンスを楽しむ方々が見えます。なんとも「インスタ映え」な写真ですが、実は奥に見えるのはおじいちゃんやおばあちゃんたちなのです!
この写真が撮影された「Colatec」と呼ばれる韓国のディスコでは、驚くことに平日は約1,000人、週末には約2,000人ものお年寄りの方々がやって来るのだとか。そしてダンスパートナーを見つけて踊ったり、友だちと話したりと、思い思いの時間を過ごします。韓国には、このような「Colatec」と呼ばれる施設が、なんと1,000箇所以上あるのだとか。
BCCのインタビューに応じた、利用者の女性のひとりは
このクラブは私にとって薬のようなものよ。 だって、私の身体は健康なんだから。そして顔は若々しいもの!
と笑いながら話します。
「Cola(コーラ)」と「Tec(ディスコという意味)」から名付けられた「Colatec」は、1990年代後半に若者向けのダンスホールとして登場しました。提供される飲み物はアルコールが禁止され、コーラなどの炭酸飲料が主。ところが、インターネットやカラオケなどに若者が集まるようになり、ターゲット層を変更しました。それが、高齢者でした。
なぜ、高齢者なのか? それは韓国ではかなり高齢化が進んでいるからです。実は2018年に高齢社会(人口の14%以上が高齢者の社会)に突入しました。高齢者の人口比率が7%以上の「高齢化社会」になってから、14%以上の「高齢社会」になるまでにかかった年数(倍加年数)はわずか18年。欧米はゆっくりで、比較的早いと言われるイギリスやドイツでもそれぞれ46年、40年程度です。(出典元:内閣府)
韓国といえばK-POPが日本の若い世代でも大人気であることもあり、私は若者が多いイメージでした。実際は、劇的に高齢化が進み、様々な問題が生じているのです。
ひとつは、高齢者の相対的貧困率の高さ。OECDのデータによると2014年時点の高齢者の貧困率は42.7%でOECDの中で最も高く、平均の10.6%よりも約4倍多い。(出典元:ニッセイ基礎研究所)
次に、高齢者の自殺率。60歳以上の自殺数が、2000年の10万人あたり35人から、2010年には10万人あたり82人に増加。OECD平均の22人よりもはるかに多いのです。(出典元:Treehugger)
そして、認知症患者数の増加。韓国・聯合ニュースによると、保健福祉部のデータから、韓国の認知症患者数が2014年の41万6300人から16年は54万7700人、18年は71万2400人と右肩上がりに増加していることが分かりました。(引用元:Record China)
このような状況で、高齢者の余暇活動は富裕層の特権とされ、高齢者の半数は退職に対して不安を残します。韓国保健社会問題研究所の研究者であるHwang Nam Hui氏は
この世代はすべての人生を仕事、仕事、そして仕事に費やし、余暇はエリートの特権とみなされています。非常に多くの人が、退職後リラックスして楽しむために苦労し、困惑することさえあります。
と話します。
つまり、高齢者は退職をしても貧困で余暇活動ができない。そして、自殺をしてしまう人がたくさんいる、という状況にあるのです。そんな中、「Colatec」はまさに救世主でした。
入場料はなんと1,000ウォン(約100円)という安さ! ドリンクの一番人気はコーラではなく2,000ウォン(約200円)の「ウィル」と呼ばれるプロバイオティクスのヨーグルトドリンク。
営業時間は場所によって異なりますが、大抵は日中です。Kukilgwan Palaceという場所の「Colatec」のオーナーであるLee氏は「(お年寄りが集まるには)夜は疲れすぎている」と言います。また、備え付け薬箱には血糖値の急激な低下など様々な緊急事態に対応する薬が用意されているなど、救済対応も充実。
New Hyundai Coreという場所の「Colatec」には、ダンスインストラクターがいて、一人でいる方にダンスパートナーを紹介するだけではなく、高齢者の詐欺などが行われていないかにも目を光らせます。
高齢者にとって「Colatec」はどんな場所なのでしょうか? New Hyundai Coreの「Colatec」を利用するひとり、85歳のKim In-gil(以下、キムさん)は、
週4日、約2時間ダンスをすることで自殺念慮(死にたい気持ち)を取り除くことができます。
と話します。
キムさんは、1997年から1998年のアジア金融危機で失敗したビジネスに関連する苦痛な記憶に悩まされていました。しかし、
音楽とパートナーがいれば、他のすべての考えを頭から外すことができます。
と続けます。
また、別の利用者に関して、
最初は歩くことすらできない人もいますが、しばらくここに来た後、彼らが杖を捨てて走り回るのを見ました。
と言います。
彼女たちにとって、「Colatec」は遊び場であり、薬のようなもの、もしくは薬以上の効果をもたらすものになっているのかもしれません。
今回「Colatec」やその利用者が教えてくれたことは、身体を動かし、熱中し、楽しむことが、私たちの健康にとって、人生にとって、どれだけ大切かということ。
日本は2007年に「超高齢社会(人口の21%以上が高齢者の社会)」を迎え、2019年9月15日現在、28.4%と過去最高。これは、高齢者人口の割合が世界で最も高い状態です。(出典元: 総務省統計局)
医療、介護、雇用、健康寿命、つながりの希薄化、孤独死など様々な課題があり、対策がなされようとしています。私たちも「どうすれば高齢者も楽しめる社会をつくれるのか?」 という視点を大切にしたいですね。
[Via Treehugger, The STRAITSTIMES, REUTERS, BBC, 中央日報]
(Text: 田中絃正)
(編集: スズキコウタ)