人と自然と文化がちょうどいい距離感にある地域に住みたい。そう思ったことはありませんか?
ノートパソコンを片手に森に出かけて、ひと仕事。疲れたら森林浴をして、山の幸をいただく。まちを歩けば、歴史情緒あふれる風景と地元の人の生活が、自然と共存している。
そんな暮らしができるまちが、愛媛県の中山間地域にあります。「町並み・村並み・山並みが共存するまち」がキャッチコピーの内子町(うちこちょう)です。
内子町は愛媛県のほぼ中央部に位置し、県都・松山市から車で1時間ほど。温暖な気候に育まれた自然と豊かな農作物、優しく温厚な人が多い、人口およそ1.6万人のまちです。
小さなまちですが、今「新しい風」が「地元の土」を耕し、新たな内子町をつくっており、他地域からも一目を置かれる地域となっています。
「新しい風」を吹き入れた先輩協力隊に続けと、現役の地域おこし協力隊員4名の活動中。そして今回、小さくてもキラリと光るまちづくりを発展させるため、人と自然と文化に触れる暮らしを自ら実践しながら、「観光」の領域でその魅力を届ける役割を担う、2名の仲間を募集しています。
そんな内子町の地域おこし協力隊の仕事について知るために、今回「グリーンズ求人」は内子町を訪ねました。
人と自然と文化の距離感が心地よいまち、内子町
内子町は2005年に、旧内子町、旧五十崎町、旧小田町の3町が合併して誕生しました。まちの中央部を一級河川・肱川の支流である小田川が流れ、中心部は、江戸時代から明治時代にかけて繁栄した歴史的な町並みや、歌舞伎や文楽にも使用する木造芝居小屋「内子座」が保存されています。
また、棚田百選に選ばれた棚田や、木造屋根付橋や水車小屋など、美しい農村風景も残っています。さらに、標高1,300m級の四国山系には、広大なブナ林を有する小田深山国有林があるなど、自然環境にも恵まれた風光明媚なまちです。
伝統的な町並みが残る観光地として、国内外から多くの方が訪れている内子町ですが、今、町並みだけではなく、「村並み、山並みが美しい持続的に発展するまち」づくりにも取り組んでいます。
そんな内子町の立ち位置や魅力について、産業振興課農村支援センターの山本佳恵名さん、一般社団法人内子町観光協会の事務局長・仙台晃久さん、地域おこし協力隊の武田惇奨さんに伺いました。
山本さん 歴史的な「町並み」と、昔ながらの暮らしが営まれている「村並み」、自然豊かな「山並み」がちょうどいい距離感で共存しているのが内子町です。
仙台さん 日本的なものが手付かずのままたくさん残っていると言う点で、内子町の持つコンテンツは非常に伸びしろがあると考えています。そういう意味で、「町並み・村並み・山並みが美しい持続的に発展するまち」をつくる仕事は非常にやりがいがあるんじゃないかなと思っています。
また、四国全体にお遍路の文化が根付いていて、特に南予地方(愛媛県の南部)に住む人の気性が穏やかであるということは、観光にとって、ホスピタリティの側面で非常に重要なことなだと思っています。
福岡県から移住した武田さんにも、山本さんや仙台さんが言う「ちょうどいい距離感」について聞いてみました。
武田さん 僕は小さい頃から内子町の渓谷にキャンプに連れて行ってもらった印象が強くて、逆にこの町並みを知りませんでした。協力隊として移住したときもその景色は変わることなく、今でも楽しませてもらっています。
人との距離感という点では、特に林業関係の人たちとの接点は多く、いい人たちが多いなという印象です。松山や福岡に住んでいた時よりも人との距離はぐっと近くなりましたが、近すぎるわけでもないし、挨拶をちゃんとできる間柄があるのがすごく気に入っています。
武田さん あと、ネットと人とのいい距離感もつくれます。電波が入る森の中でパソコンを使ったことがあるんですけど、できる作業は都会と一緒。だけど、ちょっと歩けば電波がなくなるので、集中したいときは電波が届かないところへ場所を変えることもできますしね。
内子町ならではのローカルライフの魅力を、観光で伝える
内子町と言えば、伝統的な町並みが残る観光地として知られていますが、山本さんは「それだけではなく、農村や林業など、もっと幅広い魅力を観光コンテンツとして提案できる体制をつくりたい」と言います。
山本さん 今は観光バスで来て内子の町並みを見て、お土産を購入して帰るという、従来型の観光がメインなんです。そこを変えたくて、滞在時間を伸ばそうと取り組んでいます。今までの観光客の平均滞在時間は1時間ちょっとなんですが、滞在時間を延ばさないと、やっぱり観光客の消費額が少なくなりますし、交流もできないですしね。
仙台さん たとえば里山などの田舎に行って、内子町の暮らしを体験する。今はそういった、着地型の観光を求めている人が多いですし、観光だけでなく地域の産品を購入もしていただくことができれば、内子産の農作物のブランディングにもつながっていくはずです。
また、地球規模で温暖化や異常気象が起こっている中で、自然と人々の営みがどう共存するのかというのは全世界的なテーマになっていますが、「町並み・村並み・山並み」が共存する内子町は、今世界的に求められているひとつの答えになる可能性があります。
仙台さん 内子町では、人と自然と文化が共存する暮らしが、何百年も続いてきたんです。だから、大きく言えば「町並み・村並み・山並みと生きるローカルライフ」みたいなものが、「新しい内子町」の独自性になってくる可能性があるんじゃないかと思っているんです。
今回地域おこし協力隊で仲間を募集するのは、従来型の観光から「町並み・村並み・山並み」と共存する内子町のローカルライフを体験できる観光へと、内子町の観光を進化させることができる存在を求めているからです。
仙台さん 内子町の情報を世界に発信していくことで、世界中からもっと観光客が訪れる可能性もあるんじゃないかなと。そのためには、国内外のお客さんのニーズを理解していたり、市場に出した時の内子町の商品価値を客観的に見れる方がいると、すごくいいなと思っています。
地域おこし協力隊だからできることは、内子町の魅力を外に伝えることだけではありません。現在、内子町では各エリアごとにまちづくりが行われており、そうした「点」としての取り組みをつなげて「線」へ、さらには「面」へとしていくことも、新たな仲間に期待されています。
山本さん 活動している方が高齢化していく中で、やっぱりマンパワーが不足気味で、そういったところで新しい力が必要なんですよね。これから、点を線につなぐ作業をしっかり取り組んでいくことで、「新しい内子町」のまちづくりができるんじゃないかと思っています。
想像力をはたらかせたアクティビティ開発と情報発信
今回内子町で募集する地域おこし協力隊は2人。「観光マネージャー」と、「農村部活性化活動支援担当」です。どちらも観光の領域で内子町を盛り上げるという点では共通していますが、それぞれどのような活動が想定されているのでしょう。
まずは、観光マネージャーについて。この役割を担う方は、内子町全体の観光を盛り上げることがミッションです。具体的には、内子町観光協会の組織運営のサポートや、地域資源の発掘、着地型旅行商品のコンテンツ作成・販売、そしてガイドの養成があります。内子町に眠っている観光資源を掘り起こし、光を当て、誘客につなげていくのが観光マネージャーです。
仙台さん 特に、今のトレンドを考えながら「こういう潜在的な需要があるんじゃないか」という仮説を立てて、推論していくことが重要な業務になると思います。
次に、「農村部活性化活動支援担当」について。内子町は、町並みだけでなく、村並み、山並みの魅力を多くの人に体感してもらうことを目的に、農泊推進事業に取り組んでいます。この事業を推進していくため発足した地域協議会のメンバーとして、農村部の魅力の発信や農泊事業に取り組むのが「農村部活性化活動支援担当」です。
山本さん 農村部の魅力の発信という点では、ガイドとして地域を観光客の方と回っていただくことを想定しています。もちろん、地元の人からも協力を得ながら進めていくことが必要です。できれば、活動中に見つけた資源を観光コンテンツとして商品化していくこともやっていただきたいですね。あとは、予約サイトの運営管理や農泊などの体験プログラムの情報発信を担ってほしいなと。なので、ブログを書いたり、写真や動画を撮ったりすることも多くあると思います。
協力隊は、内子町を一緒につくるパートナー
今回募集する地域おこし協力隊の役割は、内子町の「町並み・村並み・山並み」の魅力を多くの方に伝えることだともいえます。そのためには、協力隊員自身が「町並み・村並み・山並み」に触れる暮らしを実践し、心から好きになることが欠かせません。では、内子町での協力隊の暮らしや働き方がどんなものなのか、現在協力隊として活動する2人に聞いてみましょう。
2017年4月から地域おこし協力隊として内子町に移住した武田惇奨さんは、 前職で広告代理店に勤務していたときに「林業にインパクトを与えられる人になりたい」と使命感を抱き、内子町の地域おこし協力隊に応募しました。
現在は内子町で、林業イベント「ワンツーツリーフォレスト!」の開催や、木育×プログラミング教育を組み合わせた「MOCKUPプログラミング教室」(「2019年度グッドデザイン賞」を受賞)の事業を行い、山と都市を結ぶ役割を果たしています。
あと半年で地域おこし協力隊を退任される武田さん。「あっという間でした」と語る表情には、一瞬の曇りもなく、清々しく充実した暮らしぶりが見えてきました。
武田さん 地域おこし協力隊になってよかったことは、まず、基本給があるってことですね。そのおかげで、前職の退職金を他の投資に使えたりもしました。あとは、内子町の地域おこし協力隊の先輩方の活動実績があったので、「協力隊=いい人」みたいなイメージの中で活動できたのはよかったです。先輩協力隊が結果を残してきたことで、チャレンジを応援してくださる地元の方も多くて。
あとは、これは特に伝えておきたいんですが、内子町役場の方々は、本当に地域おこし協力隊員に寄り添ってくれて、兼業をできるようにしてくださったり、個人事業主になっても協力隊が続けられるように制度を整備してくださいました。動きやすくなったのは役場のみなさんのサポートもあると思います。
逆に大変だったことは、小さなコミュニティであるため、どんなことをするにも地域の方の目にとまるので、「あいつ何やってるんだ」と思われないように気をつけていくことですね。今はそれほど気にならなくなっていますが。
次に、2019年2月から地域おこし協力隊として内子町に移住した水谷円香さんにお話を聞きました。水谷さんは、瀬戸内海に面する県を中心に移住地を探していたそう。今ひとつ決め手がないところに、内子町の町並みや里山、面倒見や人柄のいい地元の人々に出会い、移住を決意しました。
現在は御祓地区活性化コーディネーターとして、廃校になった旧御祓小学校を使ってコミュニティカフェを月2回、地元の方と一緒に営業しています。水谷さんが加わったことで、地区外からも人が集まるようになったり、メニューも地元産の食材を使った「季節の定食」を出せるようになったとか。
そんな水谷さんに、内子町での働き方や暮らしについて聞くと、自身が都市圏で暮らしていた時よりも「生きる力がレベルアップした」と意気揚々と語ってくれました。
水谷さん 地元の人たちが、何か変えたいけど自分が先頭に立ってはできないと思っていることに対して、私から「こういう風にしませんか」と提案して、みなさんと一緒に実行していくのは心がけていることです。私自身何かスキルを持っているわけではないので、あえて力を借りて、みなさんと一緒にやっているような感じですね。
また、武田さんが言うように地域おこし協力隊に対するイメージがいい、ということは感じました。「協力隊は地域のために何かしてくれる人だ」というイメージが地域の方にあるので、いろいろな物や情報を持ってきてくださるんです。苦労したことは、そんなに思い浮かばないので、ありませんね。
地域おこし協力隊のお二人が口を揃えるのが、隊員の活動を裏で支える「役場のサポート」が充実しているということ。内子町役場の協力隊受け入れ担当者は、どのような思いで協力隊を支えているのでしょう。担当の室岡康平さんは次のように語ります。
室岡さん 協力隊としていらっしゃるみなさんは思いが強くて、かつ突破力があるので、「一緒に地域をつくっていくパートナー」みたいな感覚は持っています。むしろ自分たち役場の職員が追いついてない部分も多くて恥ずかしいところもあります。でも、「誰がまちをつくるんだ」という点では、自分たちもつくるし、協力隊もつくるから「一緒に」という感覚があるんですよね。
最後に、内子町役場の3人、地域おこし協力隊の2人から、どんな方に仲間になってほしいのか聞いてみました。
山本さん 内子町を好きでいてくれる方が一番だと思いますね。人に勧めるときにも、自分が好きじゃないものを勧めるっていうのはなかなか難しいと思うので、一緒に活動していく中で内子を好きになってもらって、内子の魅力を一緒に発信していける方に仲間になってもらえたら嬉しいです。
水谷さん そうですね。それに、他の地域と内子町を結んでくれるような方が来たら、いろいろ活動の可能性が広がりそうです。
武田さん あとは、正直である人、言い訳しない人ですね。小さな田舎なので、本音を隠していたり、周囲に言い訳ばかりしていると暮らしていくのが難しい。正直であれば、すごく生きやすい場所であることは間違いないと思います。
室岡さん 私はシンプルに、地元の声を聴くことができ、それを踏まえて自分で行動に移せる人に来てほしいです。主張もするけど、やっぱり寄り添うっていうのがすごく大事だと思っています。
仙台さん 自分で行動に移せるというのは大事ですね。協力隊の任期を終えた後の独立の視野に入れながら、受け身ではなく自ら活動していける方に仲間になってほしいです。
山間に囲まれた小さな田舎での生活は、すべてが満たされるわけではありませんが、それ以上に、ここでしか得られない、人と自然と文化とがちょうどいい距離感にある暮らしや、働き方があります。
そんな、「町並み・村並み・山並みと生きるローカルライフ」の魅力が地域を超え、国境を越えて多くの方に伝わり、10年後も50年後も、100年後も残っていく…内子町で始まったそんな挑戦の鍵を握るのは、これから新たに仲間になる2人なのかもしれません。
(写真: 水本誠時)