今の若者には元気がない、地方にはそもそも若者がいない、などといわれることがあります。確かに過疎化・高齢化が進んでいる地域が多く、若者が減っているのは事実でしょう。でも本当に、若者は元気ではなくなってしまったのでしょうか?
私は「今も昔も元気な若者もいれば元気のない若者もいるし、若者は、いる場所にはいるのに大人たちから見えていないだけなのではないか?」と思います。実際、あちこちの地方で若者の面白い取り組みが行われ、それによって地域が元気づくということもたくさん起きています。大事なのは、そういう若者を支え、可視化していくことだと思うのです。
若者を支援する制度は各地にありますが、秋田県では、最大400万円の補助金を出して若者がやりたいことを応援しようという、その名も「若者チャレンジ応援事業」が始まりました。最大で20人程に200~400万円の支援をするというのですから、かなり大規模な事業です。
募集の内容を簡単に説明すると、対象者は「”原則”秋田県内在住の18歳以上40歳未満の個人または団体(高校生及び企業を除く)」、対象事業は「若者ならではの斬新なアイデアを生かした、地域の元気を創出する戦略的な取り組み」、補助期間は「最長3年」で、補助限度額は200万円(単年度の限度額は100万円)、補助率は4分の3となっています。(ただし、選考委員会が特に認める場合は、補助率10分の10(つまり100%)、補助限度額は400万円)
補助対象となるのは、「秋田で活躍するために必要なスキルアップのための研修費や海外留学にかかる経費(渡航費、家賃など)、試作や試行イベントの開催に必要な経費など」と、対象者同様にかなり範囲が広くなっています。
また、重要なのは、研修費や海外留学などの費用を支援してもらえるのに加え、最長3年間、専門家によるアドバイスを受けられること。つまり、この事業の主眼は、面白いアイデアを持つ若者を3年間育てて秋田に新たな事業をつくろうということなのです。補助金なので収支計画書なども求められますが、何よりも大事なのはアイデア。選考委員会を唸らせる若者のアイデアを、とにかく望んでいるのです。
今回の事業は知事の肝いりで始まった、と聞き、どのような思いが込められているのか、まずは佐竹敬久(さたけ・のりひさ)秋田県知事に話を聞きました。
若者が楽しんでくれれば、秋田は面白くなる
そもそもなぜ、佐竹知事はこの事業を推進することにしたのでしょうか。
佐竹知事 知事というのは真面目で固くて、いつも模範的というイメージがあるかもしれませんが、私はまったく違って、遊び人でサボりやです。今の世界は管理社会で、どちらかというとあれがダメこれがダメといわれることが多いですよね。それじゃあ肩がこるし、そこから自由な発想は出てこないと思っています。
だからまず思うのは、若い人に楽しんでもらいたい、ということ。それに、社会の進歩というのも、実は単純に楽しいことをしようというところから始まると思っています。楽しいことをしよう、世の中を賑わせよう、びっくりさせようという「遊び心」に、「前を向く気持ち」が加わったときに生まれる特別なもの。スティーブ・ジョブズなんかを見てもそうですよね。
それは地域についても同じです。地域を楽しくすることによって、その地域にプライドを持ちはじめ、地域が活性化するんです。若い人が始めれば、お年寄りも動いて、地域はまとまっていく。秋田ではその実例が少ないんだと思います。
地方に行って話を聞くとみんな「なーんもない」とかいうでしょ。本当はそんなことなくて、面白いことはたくさんあるはずなんです。「若者チャレンジ応援事業」では、若い人にそのことに気づいてもらって、なんとか具体化してもらうことが目的です。地域活性化が向こう側に見えるような、そんな楽しい「遊び」を見つけてほしいと思います。
若者が楽しむことで地域を面白くするのはわかりましたが、今までも様々な地域振興策が取られてきたと思います。今回の事業はそれらと何が違うのでしょうか。
佐竹知事 企業誘致や地場産業の振興は行ってきましたが、それはあくまで企業・産業の話で、住んでいる人がこれからの時代に何かしたいと思ったときにサポートするものではありません。でも、そういう人たちがいなければ秋田はどんどんつまらなくなっていってしまうでしょう。
小さなまちおこし的な施策も色々あって、それはそれで意味があるものですが、今回は県全域やある程度広域の地域を盛り上げるようなものにしたいと思って、けっこう大きな金額にしました。成功例ができれば広がっていくので、まずは成功例をつくること、そこに主眼をおいています。そのため、対象の条件もあまり縛らずに、まずは動こうと呼びかけています。
ただ支援するだけではなく、エントリーすることでスキルを高める自己研鑽の場も提供します。採択されたら、支援金の他に専門家のアドバイスを受けることもできるようにしました。成長しながら本当に一生懸命やったなら失敗してしまってもいいと思うんです。これがうまくいかなかったとわかれば、いい経験にもなるし、教訓はその人に残ります。さらに、その人だけでなく、次にチャレンジする人にとっても学ぶ機会になるはずです。
また、行政にとっても成長するチャンスになるかもしれません。何かを実現しようというときに法律や条例でがんじがらめっていうのがよくあります。例えばこの場所でこれはしてもいいけどそれはだめ、みたいな。しかし、まずはやってみることで効果が得られることであれば、そのルールの方を変えるほうがいいし、そこまで考えています。行政も新しいことにチャレンジしていかないといけませんから。
佐竹知事は、若者が恐れずに挑戦して成長していくこと自体が秋田を面白くすると考えているようです。では、知事がイメージする面白いチャレンジやその担い手とはどのような人なのでしょう。
佐竹知事 ふたつのことをイメージしています。ICTやAIを使って、無から有を生みだせる時代ですから、先進的なものを若い人らしい視点で考え出してほしいというのが一つ。一方で逆に、泥臭いものがあるといい。この管理社会ではむしろ泥臭さに少しホッとするでしょ。いつもの背広を脱いで拘束を解かれるとホッとしませんか?どろんこ触るとスッキリする、みたいに。
私なんかは暑い日に上半身裸でビール飲んで熱いホルモンを食べるなんてのが一番の幸せ。これも背広着てかしこまって仕事していることから解放される喜びですよ。東京ではそういうことないかもしれないけど、秋田で農村部なんかに行くと、今でも縁側でおじいさんがほとんど裸みたいな格好でお酒を飲んでて、前を通ると「おー、飲んでけよ」なんて言われる。
そういう生活って楽しいでしょ。その楽しい原風景に、新しい刺激を加えるような、そんな事業が生まれてほしいですね。地域がもっと楽しくなって、稼げるようにもなるはずです。
お祭りのたびに「この地域にこんなに若い人がいたのか」ってくらい人が集まります。楽しいところには人が集まるんだから、空間容量が大きい田舎の特性を生かして、どんどん楽しいことを考えてほしいんです。結果的にその成果が秋田に及ぶという前提があれば、アクションを起こすのはどこの人でもありえることです。
とにかく楽しいことを考えて、秋田を大きくワァーッと盛り上げてほしいんですね。
知事の思いはとにかく、秋田で楽しんで、地域を盛り上げてくれる若者が増えてくれること。その土地に住む若者たちが暮らしを楽しむことなしに地域が盛り上がることなどない、という考えです。
とはいえただ面白ければ400万円もらえるわけではありません。それなりに厳しい審査があり、採択者は厳選されます。前期の募集では28件の応募があり、採択は3件のみでした。
後期の募集も行われている今、どのようなアイデアが求められているのか、秋田県あきた未来創造部地域づくり推進課の藤木正博さんと、運営を行う株式会社kedamaの武田昌大さんに話を聞きました。
どんなことを提案したらいいのか?
県がやっている以上、地域振興を目的とした補助金であり、考える側もどうしたら地域が盛り上がるかをまず考えると思います。しかし、藤木さんも武田さんも、大事なのは自分を出発点にすることだといいます。
藤木さん アイデアを練る際には、ご自身がどういうことをしてきて何ができるか、何がしたいかをまず考えてほしいです。応募される方は、秋田で暮らすなり仕事をするなり、何らかの活動をしてきていると思うので、その中で問題点や課題点を見出して、それを解決するためのアイデアを考えてもらうといいでしょう。
秋田出身の武田さんは、東京で働きながら秋田の農家集団「トラ男」を立ち上げました。その経験から武田さんはこう話します。
武田さん 秋田で何かしたいと思った大きなきっかけは、ずっと自分が遊んでいた地元の商店街がシャッター街になってしまったショックです。その衝撃で「なんとかしなきゃ」という思いが生まれました。といっても一瞬で気持ちが決まったわけではなく、とにかく何かしなきゃと感じて、東京で行われる秋田関連のイベントに参加しまくって、自分だったら何ができるだろうかと考えるようになりました。
東京で秋田の農産物を売るファーマーズマーケットに参加して、秋田の強みであるはずの”農業の弱み”はなんだろうと考えて、とりあえず話を聞いてみようと思ったんです。とりあえずから始めてみたら楽しくて、知らないことがわかり始め、気がついたら3ヶ月で100人ほどの農業関係者から話を聞いていました。そうしたら「秋田の」農業をなんとかしないじゃなくて、「僕たちの」農業をなんとかしたい、に気持ちが変わっていたんです。社会的な課題が自分の課題に変わった感じですね。
この、「秋田の」という主語が「自分たちの」に変わるステップがすごく重要で、これがないとアイデアも熱量も生まれてきません。「自分たちのこれを解決したい」というラインまでアイデアをもっていくことが大切だと思います。
出発点は、解決すべき「自分ごと」を見つけること。そのためには、武田さんのように自分の関心のあることについてリサーチしたり、なぜそれが問題だと思うのかを見つめ直すといったステップが不可欠なようです。
そして、事業として成り立つためには、地域にとって意味のあるものにもならなければいけません。そのためにはどうしたらいいのでしょうか。
武田さん 大事なのは、自分とは別の視点もあることです。ずっと地元にいると対比するものがなくて気づかないこともあると思うので、秋田出身で県外に住んでいたり、Iターンで秋田に来ていたりというような、秋田と秋田以外の両方の視点や考え方のことです。
藤木さん 確かに、一度県外に出た人や県外の人と何らかの取り組みを進めている人は一歩進んでいることも多いかもしれませんが、ずっと秋田にいる人でも、ご自身の日々の生活の中で見つけた課題点を大事にしていただいて、自分の視点を深堀りして、ヒアリングやリサーチなど、アイデアが生まれてくる可能性はあると思います。ただ、一人で閉じこもって考えるよりは、友達や知り合いを交えて話すほうが広がりが得られるのかなと思います。
自分を出発点にして深堀りし、そこに別の視点を加える。難しいようでいて、実は当たり前のことを二人は言っているのかもしれません。この補助金事業にエントリーしようと思ったら、自らのニーズと社会の関係を考えて、理想の姿に必要なものは何かと考えることが暮らしを良くするのでしょう。
目指すのは育てることだから、まずはエントリー推奨
「アイデア」を重視する理由は、この事業が3年という年月をかけて、はじめのアイデアからどうやって事業として成長させていくかの過程に価値をおいているからです。それが、採択者(=チャレンジャー)は、留学や修行の費用が得られるだけではなく、メンターやアドバイザーから個別にサポートを受けられることです。
武田さん 各チャレンジャーは、メンターと月1回はオンラインでミーティングをして、進捗を確認しながら事業のアドバイスをもらったり、そのとき必要なアドバイザーを紹介してもらえます。
アドバイザーは、事業分野に応じた、ビジネスモデルや資金調達、コミュニティマネジメントなどに詳しい実践者に加え、飲食・音楽・観光・ものづくり・不動産などの専門家を候補者としてリストアップしています。前期の募集では、審査員をハバタクの丑田俊輔さん、カヤックの佐藤純一さん、VUILDの井上達哉さん、numabooksの内沼晋太郎さん、Rebuilding Center JAPANの白石達史さんといった第一線で活躍する方々に務めていただきましたが、メンターやアドバイザーにもこういった方々をアサインする予定です。
アドバイザーにはチャレンジャーに直接アドバイスするほか、3ヶ月に1回程度行う全体ミーティングで話をしてもらうことも考えています。ポイントは、メンターとアドバイザーが連携しながら各チャレンジャーの特性やニーズに合わせたオーダーメイドの支援体制をつくること。その中で状況に応じて、留学や修行する先を紹介することも検討中です。もしも、足りないものが”金とコネとノウハウ”なのであれば、補助金でそのお金を補い、アドバイザーによる支援がコネとノウハウをサポートする仕組みです。
このように3年間を掛けて事業を育てる計画であるため、募集に際しては「アイデア」重視です。ただ面白ければ何でもいいわけではなく、応募の段階で、ある程度の事業性を見通していること。前期の募集ではこの事業性が不足している応募が多かったそうで、どんな事業性が求められるのか聞いてみました。
武田さん 基本的には事業として赤字にならずに継続できるということですね。
藤木さん 最低限、月商がどれくらいあれば自分たちがご飯を食べていけるのかは考えてほしいです。
武田さん 難しいのは、事業性を考えすぎると面白くなくなってしまうということ。少なすぎても困るんですが、現実的に真面目に考えて毎月の売上が4万円のビジネスを構想してもビジネスとして面白くはなりにくいんです。
むしろ大きな目標をぶち上げて、それに見合った事業性とはどのようなものかを考えるといいです。僕も、100万人の村をつくる!と言って「シェアビレッジ」(武田さんが秋田県五城目町で立ち上げた古民家をベースとした仮想の村)を立ち上げて、そのためにはどうしたらいいかを考えるなかで色んなアイデアが出てきました。これがもしも、「古民家を改修して月10人が3000円で泊まってくれるように」とはじめたんじゃ、ありきたりのものしかできなかったと思うんです。
藤木さん 同じアイデアでも、売り方やデザイン次第で事業性をもつこともできると思うんです。競合や既存のサービスを徹底的にリサーチして分析して、これなら売れると自信をもっていえるかどうか。
要はバランスということなのかもしれません。事業性は必要だけれど、その前にアイデアとして面白くないといけないし、事業性を持つために面白くないのは本末転倒です。
そこで後期の募集では、応募する前から相談に応じる機会をつくり、アイデアのブラッシュアップや事業性をどうやって設定するかについてアドバイスを受けてから応募ができるようになりました。
藤木さん 後期の募集では応募の前に説明会や相談会をして、できるだけ形にしてから応募してもらえるようにしました。それ以外でも、われわれは相談窓口として門戸を開いて一緒にブラッシュアップしていきましょうという姿勢でいますので、どんなものだったらエントリーできるかというところからでも相談してほしいです。
もちろん審査員とは違うので具体的に面白い提案ができるわけではないですが、前期の審査会ではこんな話があったよというのは提示できると思いますし、場合によっては武田さんたちとのミーティング時に、こんな相談がきてますけど…と助言を求めることもできるかもしれません。まずは気軽に相談してほしいです。
とても親切に感じますが、その理由は、この事業がアイデアを持つ若者を支援して地域を面白くすることでありながらも、採択されたチャレンジャーだけではなく応募の入り口に立ったすべての挑戦者を応援したいと考えているから。
武田さん 書類審査で不採用になった人にも、もっとこうするといいという提案は全応募者にするので、それらを参考にしてまた県や国の外に出たり、自分自身で成長する材料にしてほしい。「若者チャレンジ応援事業」は今年度以降も続くので、また来年チャレンジしてくれれば嬉しいです。
藤木さん 知事も話しておりますが、失敗したとしても無駄ではありません。応募書類を書くだけでも自問自答して頭の中を整理できますし、さらに審査員の意見や感想を受ければ、もっとブラッシュアップできます。それに、採択者には年度末に報告会で取り組みの状況を説明してもらうので、それを元にまたできそうなことを考え直したり、必要な協力者をイメージしてもらえたらいいと思います。
本事業の事前説明会は、これまで北秋田市、秋田市、東京で開催、さらに今後、湯沢市と秋田市でも開催されるとのことですので、少しでも興味をもった方はぜひ参加してみてください。
秋田で暮らす人にとって貴重な機会になるのはもちろん、都会でチャレンジしようとしている人も、この機会に秋田に行こうかと考えてしまうほど大きな「若者チャレンジ応援事業」。
応募するときには、秋田を自分ごとにする行動が必要ですが、そうやって都会と地方の若者が交わることで面白いことは生まれてくるのだと思います。県がお金を出して「挑戦しては?」と言ってくれてるんですから、ここはひとつ、思いっきり遊んでやろうじゃありませんか!
– INFORMATION –
【湯沢会場】
日時: 9月13日(金)18:00~21:00
会場: 湯沢市広域交流センター
住所: 秋田県湯沢市字沖鶴69-5
【秋田会場】
日時: 9月16日(月、祝)13:00~17:00
日時: 秋田市旭北地区コミュニティセンター
住所: 秋田市大町4丁目4-15
申込みはウェブサイトから
https://akitafund.com/
(*)「若者チャレンジ応援事業」の募集期間は2019年7月16日(火)~9月20日(金)です。