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お金に頼らない。無農薬栽培。天ぷらカー。パーマカルチャーに、自分らしく暮らしやすい生活を見つけた松本祐典さんが今取り組むのは、多くの人々が理想の生活を手にする手助け。

ごみの資源化と自然エネルギー導入を軸としたエコなまちづくりに取り組む和歌山県有田川町。地球にやさしいのはもちろんのこと、経済性も兼ね備えていることから、新エネ大賞や低炭素杯2019での環境大臣賞金賞の受賞など、エコのまちとして注目を集めています。

そんな有田川町には行政や自治会だけではなく、“エコ”をキーワードとして活躍する住民や事業者が増えており、中でも和歌山県から表彰を受けたというエコ農家がいると聞き、お話を伺いました。

特産の有田みかんや梅を栽培する「虹のネ農園」代表の松本祐典(まつもと・ゆうすけ)さん。隣町の有田市出身の35歳です。松本さんはワーキングホリデーを利用してニュージーランドとオーストラリアで海外生活を経験し、とりわけオーストラリアで出会った「パーマカルチャー」に影響を受け、お金だけに頼らない暮らしをしたいと自らも持続可能な暮らしを実践することを決意したそうです。

虹のネ農園・代表の松本祐典さん

パーマカルチャーをどのようにして実践していくかを考えたときに、実家がみかん農家で自分自身も農業が嫌いではないことを思い起こし、帰国後は地元のみかん農園で修行を積みました。そして「虹のネ農園」を立ち上げて独立し、気に入った古民家を見つけたこともあって、理想の暮らしを実現させようと有田川町へ移住しました。

理想とする持続可能な暮らしの実現

松本さんの経営する「虹のネ農園」は、環境負荷の少ない無農薬栽培で有田みかんや梅を栽培しており、ジュースなどの加工品も含めてネット販売を中心に全国から注文を受けています。また、和歌山県内外問わずイベントにも積極的に出店するなど、消費者との直接的な関わりも大事にされ、多くのファンから愛されています。

梅の収穫作業を行う松本さん

そして当初の想いのとおり、日常生活の中でも環境に優しい取組を次々と実践されています。例えば、地方ではなくてはならない存在である車もその対象です。松本さんの乗るディーゼル車は本来の軽油だけではなく、食用油の廃油でも走れるように調整されているいわゆる「天ぷらカー」です。燃料として使う廃油は飲食店や私立保育所に提供してもらったものを松本さん自らろ過・精製しているというから驚きです。

この天ぷらカーだと日頃の利用からエコなのはもちろん、災害が起きてガソリンスタンドで給油ができなくなってしまっても、家庭にあるサラダ油を注入すれば、近距離ならば十分に走ることができます。妻の実家の埼玉県から和歌山県まで、サラダ油で帰ってきたこともありますよ(笑)

天ぷらカーの内部。ディーゼル車本来の軽油と廃食油で走ることのできるハイブリッド仕様。

さらに自然エネルギーの導入にも力を注ぎ、太陽の光を利用して給湯を行う「太陽熱ボイラー」を和歌山県で初めて設置しています。この設備は管を流れる水に太陽の光を集中的に当てることによって水温を上げる仕組みで、燃料や電気を必要としないので、東日本大震災の際にも給湯手段として活躍したものだそうです。

和歌山県では初導入の太陽熱ボイラー。中央の管に光を集めて水を温める。

ほかにも、有田川町の無償貸与制度を活用してコンポスト容器を導入し、家庭からでる生ゴミは堆肥として活用しているなど、松本さんの「パーマカルチャー」を実践する取組は挙げればキリがありません。

そして、これらの取組が「持続可能なライフスタイルのモデルである」として評価を受け、和歌山県から「わかやま環境賞」を授与されるに至ったという訳です。

第18回わかやま環境賞表彰式

多くの人が理想な暮らしを実現できるように

自らのライフスタイルに新たな試みを取り入れ続けている松本さんですが、仲間とともにまちづくりにも意欲的に参画しています。有田川町といえば米・オレゴン州ポートランド市と連携してまちづくりに取り組んでいることが知られていますが、それらを住民主体で担っているチーム「AGW」に松本さんも参加し、廃園になった保育所のリノベーションをはじめ様々な取り組みに尽力しています。

AGWメンバーとしてまちのPR活動も

さらに、ミカンの繁忙期に収穫作業を行う季節労働者いわゆる「みかんバイト」が全国から、和歌山県にやってくることに着目し「みかんギャザリング」と銘打って交流イベントを開催し始めました。

これまではバイトに行く農家が違えば全く交流がなかったので、農家の枠を越えてみかんバイトの方たちが交流できるようにしたかったんです。今年で4年目になりますが、みかんギャザリングがあるから有田へみかんバイトに来たという方も出てきています。

ミカン収穫期の定番となりつつある「みかんギャザリング」

しかも、昨年度からはミカンの収穫時期が過ぎてからもシェアハウスで共同生活をしながら有田川町への移住を目指す「移住研修制度」も始めています。

それぞれの人に、自分らしく暮らしやすい生活のスタイルがあると思います。私にとってそれは、持続可能でエコな暮らしだったのですが、多くの人が自分の理想とする暮らしを実現できるようになればいいですね。それを後押しできればと思い、移住研修制度も始めました。また、山村地域の魅力再発見や活性化につながればと「おむすびフェスタ」というイベントも開催していますよ。

おむすびフェスタは一昨年、今年とこれまでに2度開催されており、地域のブランド米である「しみず米」と和歌山県産食材を使ったおむすびの中から来場者の投票で「紀州最高おむすび」を決める「おむすび選手権」を中心としたイベントです。今年の優勝おむすびは町内のカフェでメニュー化されており、イベントで完結してしまうのではなく、その後も地域で愛され、地域をPRするものを生み出しています。

毎回多くの人で賑わうおむすびフェスタ

多様なかたちでまちのキーパーソンとして活躍する松本さん。その笑顔から充実した暮らしの満足感が垣間見えるとともに、今後はどういった取組を展開されるのだろうと楽しみな気持ちになりました。

(Text: 上野山友之)

上野山友之

上野山友之

2015年有田川町役場入庁。環境衛生課にて再生可能エネルギー事業ならびに気候変動対策事業に携わったのち、現在は和歌山県庁企業振興課へ出向中。経済性とまちのイメージを両立した持続可能なまちづくりを目指す。

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