「大学の授業って、難しい話を聞くだけで面白くないなぁ」
「単位をすぐにくれる簡単な授業がいいなぁ」
あなたは大学生のとき、こういうことを考えていませんでしたか?
今回ご紹介するのは、カリフォルニア大学バークレー校が開講した「Hacking for Local」というクラス。学生たちが、「Lean Startup」という新規事業立ち上げのメソッドを使って、地元の住民が抱える社会問題に取り組むクラスなのです!
「Lean Startup」とは、2011年にアントレプレナーのEric Riesさんによって提唱されたメソッド。詳細は書籍『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』にまとめられています。
短期間で新しいビジネスモデルをつくり、急激に自分たちの市場価値を高めるスタートアップ。そのためには、できるだけ時間や手間をかけずに「仮説構築→実験→学び→意思決定」のサイクルを回さなくてはいけません。また、スタートアップが一番避けなければいけないのは、「必要とされていないもの」をつくってしまうこと。そのため、「Lean Startup」ではユーザーや関係者との対話が重視されます。
「Hacking for Local」のクラスでは、まず学生たちは5つのグループに分かれます。そして、市議会議員やNPO団体が提示したローカルな問題の中から、自分たちが取り組むものを選択。そのあと、14週間かけて打開策を探ります。
授業中、講義の時間はほとんどありません。学生によるプレゼンテーションとディスカッションがメイン。現場を見にいったり関係者にインタビューをしたりするフィールドワークは、すべて授業以外の時間にやらなくてはいけません。
法学と社会政策学の博士課程の学生、Rafael Grillo Avila(以下、ラファエルさん)は、クラスをこう振り返っています。
ラファエルさん 授業中のプレゼンテーションやインタビュー分析で話し合った結果を、次の週までに実証しなければならないので、手抜きは一切できませんでした。学生が地域社会に対して説明責任を負う、という点で、他の授業とは明らかに違いました。
では、学生が実際に取り組んだ問題についてみてみましょう。開発学科の大学院生、Lucas Duffy(以下、ルーカスさん)のグループは、バークレーのベイサイドエリアに手頃な価格帯の住宅が不足している、という社会問題に取り組みました。
最初、ルーカスさんたちは、「庭にタイニーハウスを置かせてもらい、安く貸す」というアイデアを考えます。しかし、彼らが何十人もの関係者にインタビューをしたところ、「庭につくった家を見ず知らずの人には貸さない」という仮説がみえてきました。
そこでルーカスさんたちは、タイニーハウスのアイデアは本質的ではないとジャッジ。そして、この問題のもっとも深刻な課題は、「家を買える人が、買えない人の気持ちに共感できていないこと」だと考え、ベイエリアに住むホームレスの人たちの人生を伝える「Slipping through the Cracks(見過ごしてしまっていること)」という名前のポッドキャストを提案しました。
この問題を提示した団体は、このルーカスさんたちの提案を「とても魅力的」と評価。授業は終わりましたが、Duffyさんは卒業前までにこのポッドキャストのアイデアをブラッシュアップする予定でいます。
ルーカスさんは授業をこう振り返っています。
ルーカスさん 僕たちのプロジェクトの最大の強みは、心を開いてくれた住民の方たちと実際に会話をすることに時間をたくさん費やした、ということです。
私が通った大学には、こんなに実践的な授業はありませんでした。なので、この授業を受ける学生たちが羨ましい限りです。そして、さらに驚くべきなのは、いいアイデアはサービスとしてローンチができること。「Hacking for Local」のシラバスにはこう書いてあります。
官公庁、NPO団体などの関連組織、または投資家が、学生の考えたソリューションの試作品のさらなる改良と開発のために、学生チームに追加の資金を提供することがあります。
大学の授業で社会問題を解決でき、街の人から「ありがとう」と言ってもらえるなんて、夢のようですね。
この機会に、あなたも自分の住んでいる街でたくさん会話をしてみませんか? 何気ない話から、「この街をもっとこうしたい!」というアイデアが浮かんでくるかもしれません。
[Via Hacking4Local, Fast Company, The Mercury News, THE LEAN STARTUP]
(Text: 會田貴美子)