この世界をまもるために、勇者となって、おそろしい魔術師をたおす冒険に出る。
誰でも一度はきっと、そんな心おどる冒険の主人公になるのをあこがれたことがあるのでは?
もしかしたら、幼いころに抱いた、そんな願いが叶うかもしれません。
「Therapy Quest」は、冒険の物語。
しかし、ふつうの冒険とはちょっと違います。
それは、わたしの心というはてしない場所をめぐる大冒険。
物語を通して、こころの問題と向きあい、解決するためのスキルをたのしく学ぶことができるんです!
この物語を書いたのはJanina Scarlet(以下、ジャニナさん)。ウクライナ出身で、アメリカで暮らしている臨床心理学者のジャニナさんは、ゲームやポップカルチャーを深く愛する“オタク”でもあります。
マーベルコミックスの『the X-Men』に影響を受けたジャニナさんは、不安、鬱病、PTSDの患者を助けるために、ロールプレイングゲームのように冒険をすることを通して、回復のプロセスをまなぶことができる療法を開発しました。
私は、患者さんが精神的な健康状態を理解するのを助ける対話型の治療法を身に着けたかったんです。心の問題を抱えたとき、彼らは精神的健康について、恥や汚名を経験することがあります。けれど、物語のキャラクターを悩ませている問題についての理解を深めていくことで、自分たちの経験について話し合うための準備ができていくかもしれません。
そんなジャニナさんの想いをのせた「Therapy Quest」は、ロールプレイングゲームのように、楽しみながら学べる工夫がぎゅっと詰まっています。
文章は、2人称で書かれていて、まるで私たちに語り掛けているかのよう。物語は、アドベンチャーブックと言われる、選んだ選択肢によってストーリーが変化していく方式で書かれています。
読みすすめていくと、ミッションが出てきて、選んだ答えでポイントが与えられたり、減らされたりして、マインドフルネスなど、効果的な健康のスキルをわくわくしながら身につけることができるのです。50ポイント集まれば、最後のミッション、魔術師と戦うことができます。
彼らが彼ら自身の旅のヒーロー
ジャニナさんはまた、何かを深く愛するファンのコミュニティに属することが、私たちの精神に安全をもたらすとの信念を持っています。ジャニナさんは、10代の頃トラウマを経験して、その後コミックのスーパーヒーローに深い影響を受けました。そしてそれを取り入れた心理療法を確立させたのです。
同じものを愛するファンのコミュニティは、人々がより深いレベルで結びつき、つながり続けるための安全性を持っているかもしれません。そのことを念頭に置いて、私は人々が彼らの選択と学んだスキルについて話すことができる本を作成したいと思いました。それは彼らが彼ら自身の旅のヒーローだということです。
WHOによると、世界のうつ病患者数は3億人を上回っています。国内では、厚生労働省の「患者調査」によると、平成26年に医療機関を受診したうつ病・躁うつ病の患者数は112万人です。うつ病は決して他人事ではないのかもしれません。
実は、この記事を書いている私もそのひとり。向精神薬を服用していた時は、よせてはかえす波をどうにか乗りこえるような日々のなかで、今まで普通にできたことができないことがとても苦しくて、自信をすっかり失くしてしまっていました。「誰もが自分自身の人生の旅のヒーローだ」というジャニナさんの言葉は、今聞いても、胸の奥に熱いものがこみあげてくるのを感じます。
人生にはきっといいときもわるいときもあります。
楽しいときも、苦しいときも、その瞬間を味わいながら、乗り越えていく冒険のヒーローだと自分を信じることができたら、毎日を生きるささやかな、大きな力になるのかもしれませんね。
あなたもヒーローになって、自分の心という果てしない冒険へ旅立ってみませんか?
[Via hellogiggles.com, littlebrown, alliant international university, Superhero Therapy, 厚生労働省]
(Text: 荒田詩乃)
(編集: スズキコウタ)