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みんながゼロイチで考えるようになると社会がよくなる。あらゆる「つくる」を開放する家具のデジタルファブリケーションサービス「EMARF」って?

greenz.jpの読者の中には「DIYが好き・興味がある」という人も多いのではないかと思います。自分の手で暮らしをつくるって楽しいですよね。でも、実際つくるとなると時間がかかるし、材料の調達も大変だし、うまくできるかどうかわからないので、なかなか実行には移せないのではないでしょうか。

そんな人にぴったりな、家具をつくる能力をすべての人に開放する「EMARF(エマーフ)」というサービスがローンチしました。

EMARFは、簡単に言うとホームページ上にリストアップされた家具の中から気に入ったものを選び、カスタマイズして注文すると、その家具をつくることができるというサービスです。簡単すぎてわからないと思いますが、要は誰でも自分の好きな家具をつくれるということです。

そして、このEMARFは単に誰でも家具がつくれるだけではなく、ものづくりに関わるあらゆることを開放し、民主化する第一歩となるサービスなのです。EMARFとはどのような発想でつくられたもので、EMARFによって社会がどう変わるのか、EMARFを開発したVUILD(ヴィルド)の代表・秋吉浩気さんに話を聞きました。

秋吉浩気(あきよし・こうき)
建築家 / メタアーキテクト。VUILD株式会社代表取締役CEO。芝浦工業大学にて建築設計を専攻、慶應義塾大学SFCにてデジタルファブリケーションを専攻。

つくりたいを解き放つ「EMARF」とは

EMARFは簡単にいうと、ホームページ上で家具をカスタマイズしてオーダーできるプラットフォームです。サイトを覗くと、(まだ数は少ないですが)椅子や棚、机などの家具が表示され、気に入ったデザインを選ぶことができ、サイズや材質などをカスタマイズできます。

ちょうどいいサイズに調整したり、棚板をつけたり、自由に変えることができます

最大のポイントは、オーダーした家具は設計図がデジタルデータ化され、各工房にある「shopbot」という加工機で切り出されるというところ。組み立てまで工房にお願いして発送してもらってもいいし、工房に出向いて自ら組み立てる作業に参加することもできるのです。もちろん、全国のどの工房にお願いするかも選ぶことができます。

このようなサービスにはどんな思いが込められているのでしょうか。

EMARF自体は一見するとオーダーメイド家具ECに見えるんですが、あくまで家具づくりをすべての人に開放するサービスです。ちょうど良いサイズの家具がなくて困っていてもDIYには踏み込めないような人でもつくれてしまう、そんなサービスを目指しました。

そして、EMARFの経験を入り口にして「つくる」ことに興味を持ってほしいと言います。

「つくるのって大変だ」というイメージがあると思うんですが、実際にEMARFを使ってみて大変ではないとわかれば、違ったものを自分の手でつくってみたいという動機が湧き上がってくると思うんです。そうやって「つくりたいという思いを解き放つこと」ができれば、そこから自分たちの暮らしをつくりたいという発想にもつながるのではないでしょうか。

秋吉さんがやりたかったのは、簡単に家具をオーダーできるシステムをつくることではなく、「つくりたい」という気持ちをみんなに持ってもらうこと、そのための手段としてEMARFというサービスを設計したのです。

しかし、秋吉さんにとって「つくる」ということがなぜそんなにも重要なのでしょうか。

その答えは「そのほうがいい社会になると思っている」からだと話を聞いて思いました。秋吉さんのやってきたことやりたいことを聞いてみると、つながりが見えてきます。

設計を開放するためにEMARFをつくった

秋吉さんが、EMARFを運営するVUILD株式会社を起こしたのは2017年。EMARFでも使われる木材のデジタル加工機「shopbot」の販売と、設計システムの開発、家具や建築などの設計を行う会社としてスタートしました。

そもそも秋吉さんは大学で建築とデジタルファブリケーションを学び、デジタル技術を使って木工や建築を一般ユーザー向けに開放していくことを目指すようになります。なぜ木だったのでしょうか。

日本の国土の3分の2は森林で、木材加工と木工の技術がずっと文化の基盤にありました。加えて、少し前までは、自分たちで森を育てそこから材料を調達して、自分たちに必要な住環境は自分たちでつくるという循環型の社会でした。その枠組を取り戻すために、今のデジタルファブリケーションの技術が使えると思ったんです。

木の文化に根ざした循環型の社会、それが秋吉さんがめざす「いい社会」の一つのようです。たしかに日本の風土を考えると、森林資源を活用した循環型の社会が実現すれば暮らしやすい社会になるだろうと予想できます。そして、そのために必要なのはshopbotを使って誰でも建築家や大工になれる社会を実現することだと考えます。

今までは「こんな暮らしをつくりたい」と思っても、実現する手段は家具職人や建築家に依頼するか、自分たちでめちゃくちゃ頑張ってDIYするかしかありませんでした。そこでshopbotを使えば、もっと簡単にできると思ったんです。

shopbotの導入には500万円程が必要で、3Dプリンタの数万円と比べるとかなり高く見えますが、これまで木材加工の機械を導入するには数千万円かかっていたのと比べるとかなり安いですし、なによりも専門的な技術も必要ありません。

shopbotを使って制作したスツール

そんな思いからVUILD社を立ち上げます。

ただ、1年あまりやってきて思ったのは、shopbotを使ったとしても出力するまでの過程は簡単ではないということでした。デザインしたものをshopbotで出力するためには、CADを使って設計図をつくらなければならないし、そのためには構造計算なども必要になってきます。それを解決するには、工房の人にCADを覚えてもらうか、デザイナーを雇わなければなりませんでした。

そこで、誰がやっても品質が担保できる仕組みをつくろうと思ったんです。ベースのデザインを用意して、お客さん自身がスペックを設定すれば、自動的に設計図ができてデータがshopbotに送られる。そうすればデザイナーは必要ありません。

そうして生まれたのがEMARFでした。EMARFによって「つくる」ことの一部が、私たちユーザーに開放されていくのです。

秋吉さんが考えていたのはそれだけではありません。さまざまな「つくる」をもっと多角的に開放していくことが必要だと考えました。

デザインを開放する

EMARFでは、ユーザーがデザインテンプレートの中から気に入ったデザインを選ぶ仕組みですが、このデザインテンプレートを誰でも投稿できるのも特徴の一つです。

EMARFがAPIを提供するので、デザイナーはそれを使ってデザインをしてEMARFに投稿することができます。ユーザーが気に入ればそれを選択してカスタマイズして発注ができ、デザイナーにはロイヤリティが入ります。

これまでデザイナーの多くは、メーカーにデザインを卸すような有名デザイナーを除いて、オーダーメイドでの一品生産を行ってきました。でも、本当はできる限り多くの人にデザインを届けて、世の中にコミットしたいという思いが少なからずあるんです。EMARFを使えば、それが可能になるかもしれません。EMARFはデザインのオープンプラットフォームでもあるんです。

shopbotで制作した移動式デスク。これほしい!

秋吉さんによれば、基礎を学んでいれば学生でも投稿できるような仕組みを提供する予定とのこと。スマートフォンのアプリを開発して公開することができるように、家具デザインもやり方さえ覚えれば誰でも公開できるようになるのです。

そして、これはデザイナーの欲求を満たすものであるとともに、これからの働き方、暮らし方の提案でもあるといいます。

デザインする力さえあれば、テンプレート投稿しまくって何か一個でも当たれば暮らせるというような、新しい自由な働き方や暮らし方が生まれてきたらいいなと思っています。

この「つくる」を開放して新しい働き方や暮らし方をつくるというのは秋吉さんが一貫して目指していることで、それはほかの「つくるの開放」にも当てはまります。

生産を開放する

EMARFをユーザー側ではなく産業の側から見た時、ひとつ面白いのはshopbotを導入すれば誰でも工房を開くことができるという点です。言い換えると、shopbotというツールによって生産が開放されるのです。実際に、これまでshopbotを導入した工房のほとんどは今までその作業を担ってきた工務店ではないといいます。

VUILDで今まで約35台のshopbotを販売したんですが、ほとんどが製材所や林業関係者、それと自治体でした。中でも多いのは、林業関係の二代目や三代目で、一度都会に出てから地元に戻って継いだような人たちです。

製材所や材木店はこれまでは工務店やメーカーに材料を流すことしかできませんでしたが、住宅着工数も減っていて、市場は着実にシュリンクしていくと思います。そんな中でも、shopbotを導入すれば直接エンドユーザーとつながり、別の商流をつくることできます。

しかも、EMARFでは材料原価費の値付けはそれぞれの工房が行います。製材所など川上に近い工房は、良質の材を安い価格で出すことができるので、材料をどこかから仕入れなければいけない工務店より価格の面で有利になります。これによって良質な材にきちんと付加価値をつけて直接ユーザーに届けることができるようになるんです。

EMARFは生産手段を開放することで、林業の六次産業化を小さいながらも実現しようとしているのだと思います。秋吉さんは「とはいえ、BtoCの小ロットのモデルなので量はしれているし、産業構造を変えるところまでは直ぐには行かないと思う」といいますが、個々の従事者にとっては大きな変化になるはずです。

ただ、ここで疑問が。EMARFが普及していくことで生産が開放されていったら、工務店の仕事が奪われることにはならないのでしょうか?

作家主義からの開放

秋吉さんは、この問題に対して、自身の経験に触れながら、こう言います。

僕自身建築家でもあるんですが、建築家(アーキテクト)の仕事に対してEMARFの活動は「メタアーキテクト」と呼んでいます。作家的にゼロから全てを支配してつくるのではなくて、一般の人がやることをプロフェッショナルの立場からサポートするあり方をそう言っているんです。規模が大きくなるにつれて素人だけでは難しくなるので、そのような立場のプロが必要になってくるんです。

だから、家具職人さんも、メタ職人として一般の人がつくるのをサポートすることできちんと対価を払われるようなビジネスモデルがあり得ると思っています。単純に仕事を奪われると考えるのではなく、職業が再定義されてアップデートされると考えたほうが楽しいし、広がりますよね。

作家文化にはいい面もありますが、ほとんどの人はその恩恵を受けていないので、メタ化して社会全体に訴求していくことも必要だし、やっていかなきゃいけない時代になってる。しかもそれができる技術が目の前にあるんです。

EMARFで自分がデザインした家具の材料が自動で切り出されるにしても、それを組み立てるにはそれなりの技術が要ります。そこをサポートするのが職人であり、そこにはそれぞれの職人の経験とクリエイティビティが反映されるはずです。結果的に職人もクリエイティブな作業に集中することができるのです。これが秋吉さんが「メタ化」という言葉で言おうとしていることなのではないでしょうか。

秋吉さんは、このクリエイティブな部分に集中することを重視し、EMARFにもその思いを込めていると言います。

ものをつくる行為で大事なのは、どれだけ自分が考えていることを投影してこだわれるかだと思うんです。どれだけ自分と対話できるか。だから、考える部分、言い換えればクリエイティブな部分以外は思い切って削ぎ落としてしまおうというのがEMARFの発想です。

そして、「より多くの人がクリエイティブに集中することで社会は良くなっていくはず」というのです。

もっとクリエイティブに

次にEMARFがやろうとしていることの一つは、ユーザーがスケッチを描いたらそれがある程度形になってインタラクティブにデザインしていけるような機能です。

僕らの理想はみんながゼロから考えることです。EMARFはその入口としてある種の型を提供していて、型を使ってつくってみることで少し感覚をつかみ、ゼロからつくるところへと進んでいってほしいんです。みんながゼロイチで考えるようになれば、社会も勝手にどんどんいい方に動いていくようになると思うから。スケッチはEMARFとゼロイチの間のステップになると思っています。

VUILD社内の様子。EMARFの工房の一つでもある。

みんながゼロイチで考えるようになると社会がよくなる」とは、どういうことなのでしょうか。秋吉さんはこんなことも言います。

例えば家族でダイニングテーブルをつくろうとしたとします。その時、EMARFを使えばデザインの段階からみんなで話し合って、最終的には自分たちで組み立てて、仕上げて、毎日使うことになります。その過程で家族の関係性もつくられていくと思うんです。

家族も小さな社会ですから、「つくる」ことで社会が形づくられていくとも言えると思います。

家族みんなでクリエイティブな活動をすることでよりよい関係性が築かれる。たしかにそれはそうかも知れません、しかしそこから大きな「社会」がよくなるにはまだ飛躍があるように思います。

EMARFが対象にしているのは家族や同僚のような小さな社会ですが、VUILDでは、共有地をどうつくっていくかの実験もしています。

例えば、京王電鉄と笹塚駅の広場にベンチをつくりました。材料は多摩地域の材で、町内会の人たちに設計に参加してもらって、制作には近所の子どもたちに参加してもらいました。自分たちの公共空間を自分たちでつくるという発想です。

子どもたちとワークショップでベンチを制作

他にバス停のデザインもしましたし、こういった公共建築のデータもEMARF的にシェアできるようにしていきたいと思っています。そういったデータが蓄積されて、わたしたちそれぞれが身近な関係性と実現力をつくっていけば、もう少し大きな社会でも家庭と同じことが実現できるのではないでしょうか。

身近な関係性から、地域へと少しずつ関係性を広げていくことで、社会全体へ拡大していく。それが秋吉さんの思い描いているクリエイティブな社会改革なのだとわかりました。

地域経済とデジタル技術

このような考え方で動いている自然な帰結として、秋吉さんの目は地方へと向きます。今取り組んでいる一つが、家をつくるプロジェクトだそう。

EMARFとは少し違う文脈で、富山県南砺市で地域の大径木と加工機を使って建築をつくるプロジェクトをやっています。山の中の集落で、もう一世帯しか住んでいないんですが、その人たちと地元の木を使って総デジタル木組みで家をつくろうとしています。

その近くにshopbotを導入してくれた建築業者さんがいて、製材する機械も持っているので、近くで伐採した木を加工して、現地の大工さんと相談しながら設計して、デジタルデータにしてパーツを切り出して組み立てる計画です。

計画中の家のモデル

できた家は、一棟貸しの民泊のような形で宿泊者を泊める予定で、このやり方に地方ならではの新しい開発の可能性を感じてるのだそうです。

土地は限りなくゼロ円ですし、確認申請(建設工事の前にすべき法的審査)もいらないし、材料は地元で調達できるので限りなく低いコストで開発ができてしまうんです。地方都市においてハウスメーカーがやる開発とは全く違う「マイクロ開発」みたいなものがデジタル技術で実現できる。人の流動性が高い今の時代にあった開発の仕方だと思っています。

さらに、地域の伝統を残すことにもつながるとか。

今回取り組んでいる南砺市は合掌造りがある地域で、つくる家も合掌造りをモデルにしています。土地独特の形式が各地にありますが、土地風土に合う形でできているものなので、今のデジタル技術を使うことでその土地の文化を次の時代に受け継いでいくことができたらいいですね。

EMARFは地方の良質の木材を現地で加工してユーザーに届けることができるプラットフォームなので、地方に新たな産業を生み出す仕組みでもあります。材料であれ、文化であれ、その土地々々で育まれてきたものを活かした経済圏が各地域にできることも、秋吉さんの目指していることなのかもしれません。

都市と地方の非対称性をなんとかしたいと思っています。そのためには、工房から製品を送る時に地域の人たちが入って来て、そこは地域通貨でやり取りするとか。あるいはアドレスホッパー的な人が各地域でクリエイティブな仕事をすることで、分離されてしまっている地方と都市をつなぐとか。贈与経済的な地域の経済とグローバルな資本主義経済の間でバランスを取れるような手段を提供したいです。

EMARFもまだ始まったばかりでこれからどうなっていくのか楽しみですが、秋吉さんはその先の社会のあり方まで考えてEMARFを設計していました。たくさんの人が開放された「つくる」を経験して、自分たちの暮らしや社会をつくっていける未来が本当にやってきてほしいですね。

とりあえずは、EMARFに面白いデザインが増えていくのを待ち、ピンとくるものがあったらぜひつくってみたいです。

(撮影: 廣川慶明)

[sponsored by VUILD株式会社]

– INFORMATION –

https://readyfor.jp/projects/marebitonoie

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