2020年のオリンピックを前に、ここ数年、日本各地で外国人を目にする機会がぐっと増えました。訪日外国人観光客の数は2017年が2,869万人で5年連続増加しています。(出典元:日本政府観光局)
一方で日本に居住する外国人の数も、2018年3月時点で256万人と増加傾向。(出典元:法務省)
そんな外国人のみなさんにとって、母国語が通じない環境で生活をする日々は、刺激にあふれる反面、それまで不自由なくできていたことができなくなるなど、今までの「当たり前」が通用しない場面に遭遇して、戸惑うこともきっと多いはずです。
でも、そんなときにたったひとりでも、地域社会と“外国人”である自分をつないでくれる存在と出会えたら、苦労はあっても暮らしはずっと豊かなものになるのではないでしょうか。
東京・雑司が谷で国際交流シェアハウス「雑司が谷 Neighborhood House」を運営するgreenz peopleの竹内智則さんは、日本に暮らす外国人のみなさんと地域の人々の間に自らが立って、楽しいひとときをともに過ごすことで、ボーダーがなくなる社会を目指しています。今回は竹内さんに外国人が暮らしやすい環境づくりやシェアハウスの運営についてお話を伺いました。
1991年静岡県生まれ。Urban Meetup Tokyo代表。国際交流ハウス「雑司が谷 Neighborhood House」、英語学習の土台をマンツーマンでつくる「あなたの英語コーチ」を運営する他、国際交流イベントや、外国人観光客向けの自転車ツアーを主催。雑司が谷を拠点に、日本に暮らす外国人と地域社会をつなぐ場づくりを行う。
雑司が谷のまちと日本に住む外国人をつなぐ
国際交流シェアハウス
池袋からほど近いアクセスの良さがありながら、都電荒川線が走り下町風情あふれる雑司が谷のまち。駅から5分ほどの弦巻通り商店会の路地を曲がったところに、一軒家の国際交流シェアハウス「雑司が谷 Neighborhood House」があります。
しばらく空き家だったという2階建ての物件をリフォームして、2017年7月にオープン。現在は、竹内さんを含め日本人3人、外国人2人が一緒に暮らしています。
普段はそれぞれに仕事や学業で忙しく過ごしているものの、ときどき夕飯を一緒につくって食べたり、リビングでスポーツ観戦をしたりと、一軒家ならではのアットホームな雰囲気を楽しんでいるのだとか。休みの日にはキャンプや旅行に行くこともあるとのことです。
また、ここに住むのは5人だけですが、他にもこのシェアハウスを拠点に、地域の人たちを交えた国際交流バーベキューや、雑司が谷を巡る自転車ツアーなど、雑司が谷のまちに暮らす人たちと外国人が気軽に楽しく交流できるような場づくりを積極的に仕掛けています。
不定期で開催している国際交流バーベキューには、シェアハウスの住人の他、東京に住む外国人や国際交流に興味のある日本人、さらには、ご近所さんも顔を出して、毎回30人くらいの集まりになるのだそう。
また、竹内さんが自らガイドする自転車ツアーは、雑司が谷のまちを自転車で散策した後に、商店街のお店で買い物をして、シェアハウスに戻って一緒に和食をつくるというコースになっています。これまでに70組以上の外国人観光客が参加し、とても評判が良いとのことです。
それまでほとんど日本人と交流をしたことがなかった外国人が、商店街のお祭りに一緒に参加したり、自転車ツアーでいつも立ち寄る魚屋さんが、だんだん海外のお客さんにも慣れてきて歓迎してくれたり。「雑司が谷 Neighborhood House」が輪の中心になって、外からのフレッシュな空気と雑司が谷の昔ながらの雰囲気がほどよく調和し、新しいかたちの地域交流がはじまっています。
東京から、徳島の田舎まちへ。
アメリカ人との暮らしが世界を広げてくれた。
そもそも、竹内さんが異文化や国際交流に興味をもつようになったのは、約3年半前、2015年のこと。地域おこし協力隊として徳島県に住んでいた頃のアメリカ人との出会いがきっかけでした。
高校を卒業後、竹内さんはミュージシャンを目指して上京。音楽の仕事に就きますが、23歳のときに怪我をして音楽から離れることに。以前からまちづくりに興味があったこともあり、地域おこし協力隊のなかでも「サテライトオフィスづくり」という仕事内容に惹かれ、徳島県海陽町を選びました。
しかし、協力隊の仕事が様々な事情でうまく回らなかった上に、田舎ののんびりした生活になかなか慣れなかったそう。そんなある日、オフィスの隣にアメリカ人が引っ越してきたのです。
サーフィンが好きで、波を求めてふらりとそのまちに住み着いたのは、webデザイナーをしているアメリカ人のマットさん。彼は日本語がまったく話せないので、竹内さんがWi-Fiを貸してあげたり、水道やガス会社とのやりとりを手伝ってあげたりするうちに少しずつ交流が始まりました。そのうち、同じまちに住んでいた他のアメリカ人も加わり、数人でよく一緒に過ごすように。
トランプに大統領が変わるかもしれないとか、イギリスがEUを脱退するとか。ニュースの話もアメリカのカルチャーも、僕にとってものすごく新しい世界で、刺激的でおもしろかった。
週1回は飲みに行って、一緒にサーフィンをしたり、九州1周旅行をしたり、まちのお祭りや阿波おどりの大会にも参加して、一緒に太鼓をたたいたことも。そして、この頃から、地域の人たちとの交流が楽しくなってきたといいます。
僕が出会った外国人と一緒に暮らして感じたのは、自分の人生のプライオリティをしっかり理解していて、きちんとそれに従って動くこと。そこがすごくいいなと思いました。
外国人は外国人だけで固まっているけど、だれか中間に立つ人がひとりいると交流がはじまって、みんながハッピーになるんです。
徳島での経験は、いま、シェアハウスを営む竹内さんの原点とも言えるもの。たとえば当時、アメリカ人の友人がFacebookでバーベキューの告知をすると、徳島県中から30人くらいもの英語の先生が集まってきたことがありました。その時に、それぞれがふだんは孤立した生活を送っていて、日本の社会にあまり馴染めていないという現実を痛感したのです。
職場に行って英語を教えて、帰るだけの生活で、あまり地域を楽しむことには慣れていないみたいでした。なので、バーベキューはすごく盛りあがってよかったです。その頃には僕が農家さんや漁師さんともつながりがあったので、農家さんが野菜を持ってきてくれて、バーベキューにも参加してくれました。「何でこんなに外国人がいるんだ?」って驚いていましたね(笑)
こうして、マットさんとの出会いをきっかけに、ようやく暮らしが楽しくなってきた一方で、仕事には満足していなかった竹内さん。「このまま徳島に居続けても次のステップがない」と感じて、東京に引き上げることに決めました。ちょうどその頃、たまたま弟さんが東京でインターナショナルな交流会を開催しており、毎週20人くらいが集まっていたのです。
「徳島での経験をいかしつつ、弟がやっている国際交流イベントを、何かビジネスにできないか?」と考えた竹内さん。まちづくりに詳しい方々にも相談をして、たどり着いたのが国際交流シェアハウスでした。
物件探しが難航するなど、小さなハプニングもありましたが、2017年7月1日、ついに「雑司ヶ谷Neighborhood House」はオープンしました。
オープン後は、弟さんが企画していた国際交流イベントを、シェアハウスで続けることに。主に、竹内さんがイベントの企画やデザイン全般を担当し、弟さんは「あなたの英語コーチ」という英語学習のコーチングスクールを担当。ふたりともシェアハウスに住みながら、国際交流を軸に、サービスを少しずつ広げていきました。
ギアを切り替えて、新たなステージへ。
そして、シェアハウスのオープンから約1年がたった今年の6月。「雑司ヶ谷Neighborhood House」をともにはじめた弟さんがオーストラリアへ旅立ちました。ふたりではじめた事業がひとり体制となり、新たな転機を迎えています。
竹内さんがgreenz peopleになったのも、ちょうどその頃でした。地域創生やまちづくりを勉強していたため、以前からgreenz.jpの読者だったそうですが、在日外国人向けの新たなビジネスをはじめたいと考え、もう少しコミュニティを広げようとgreenz peopleに入会したのだそう。実際に、グリーンズのイベントで企画のプレゼンをされたこともあるのです。
弟がいなくなったタイミングから、色々模索しはじめました。弟がいた頃とは、ギアを切り替えましたね。ひとりで続けていくにはどうしたらいいか。でも、やっぱりひとりでやっていてもおもしろくないので、何か一緒にやる人が欲しいなと思っています。
現在は、バーベキューをいったんお休みしていますが、自転車ツアーに加え、弟さんが主に担当していた英語のコーチングスクールを引き継ぎ、力を注いでいます。11月末には英語学習の本『英語文法日記 英語を思い通り紡ぐための実践書』を出版しました。
じつは僕、商業高校だったので、英語は中学までしか勉強してないんです。それでも、こうやって外国人と交流しながら、それなりにコミュニケーションが取れるというのはどういうことなんだろう?というのを本にまとめてみました。
自らの実体験をもとに、一般的な参考書とはひと味もふた味も違う、竹内さん独自の英語習得法を書き上げました。英語に関しては、同じシェアハウスに住むシンガポール出身のテートさんが監修したそうです。
竹内さんの狼煙は?
本づくりがいったん落ち着いたら、次は英語のコーチングを一緒に手伝いたいと言ってくれている友人と、事業を拡大するプランを立てる予定です。
ときに苦労や困難があっても頭をすぐに切り替えて、自分にできることを見つけては動き、人生をおもしろい方向にもっていく。そんな生き方をしている竹内さんに、最後に、この連載で恒例の質問「どんな狼煙をあげたいですか?」と問いかけてみました。
外国人と日本人がつながる場所をもっとつくり続けていきたい。これは、長いスパンの人生の目標です。そして、できれば僕だけじゃなくて、他の人がそういうポジショニングができるようになってくれたら嬉しいですね、暖簾分けのように。
「雑司ヶ谷Neighborhood House」に遊びに行きたい、イベントに参加してみたいという方、国際交流シェアハウスをやってみたいという方をはじめ、竹内さんの生き方や考え方にピンときた方はぜひ連絡してみてください。
竹内さんがアメリカ人との出会いから人生が大きく動いたように、小さなきっかけさえあれば、様々なボーダーは思っているよりもずっと、簡単に越えられてしまうものなのかもしれません。
tomo@urbanmeetup.tokyo
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